ハンターが飛び込んだ先がダンジョンなのは間違っているだろうか? 作:あんこう鍋
文面的に色々指摘していただいたので、作者の都合で書き直しました。
見ていただいた上にご指摘してもらえるのは、とても嬉しいものです。
これからもよろしくお願いします。
4月24日足りない説明などを追加しました。
ヴェルフ・クロッゾは困惑していた。
現在目の前で露骨に落ち込んでいる冒険者の姿の前で、今の状況に至った経緯を、“何故こうなったのか”を思いだそうとする。
彼の日常は思うように上がらない【ステイタス】に望まない魔剣の制作依頼、仲間からの嫉妬と【ファミリア】の中で孤立している実状。
“鍛冶師”としての努力が認められない苛立ちが、作品に出てしまう事が更なる苛立ちを生んでしまう悪循環に陥っていた。
友と呼べる数少ない者達からの言葉ですらも、認めたくない気持ちを心に持ちながら前へと足掻くためにヴェルフはいつものように『ダンジョン』に向かっていた。
(あいつらは『俺』を見てはいない、見ているのは『クロッゾ』でしかねぇ・・・・・・クソっ! なんでだ! 鍛冶師は己の腕を鍛え客の要望に答えていくのが仕事であり、喜びのはずだ! 俺以外にも【魔剣】を打てる奴もいるだろう・・・・・・なんで、鍛冶師として生きたいだけなのに・・・・・・。しかし、それには【ランクアップ】をしないと・・・・・・せめて、『鍛冶』のアビリティをとらねえとな)
ヴェルフは【ヘファイストス・ファミリア】所属の鍛冶師である。【ヘファイストス・ファミリア】とは【オラリオ】にいくつか存在する鍛冶系の【ファミリア】の一つで高級武具ブランドで有名でもある。
そこに所属する、ヴェルフもまた鍛冶師であるが今だに【ファミリア】の名を背負える程の実力のない、団員でしかない。その理由の一つが発展アビリティと呼ばれる【経験】を積む事で発現する。
専門的な物が多く【ランクアップ】時に取得可能な物であるので、特に鍛冶師達は幾つもの発展アビリティの中から『鍛冶』の取得を狙っている。ヴェルフもその中の一人である。
【ランクアップ】を行う過程として、【ステイタス】を上げる為には格上の【経験値】が必要である。しかし、格上と戦うということは同時に負傷や普通に死ぬ危険性も孕んでいる。その為に。冒険者は徒党を組んで生存率を上げるのだ。
ヴェルフ・クロッゾにはその徒党を組める仲間がいなかった。
同じ【ファミリア】であろうと。同じ家族であろうと。彼の持っている『特殊性』が彼の持っている『血筋』が。ヴェルフの在り方の邪魔をしていた。
溜まる鬱憤を晴らすために潜った迷宮の第七層で、狩りを行おうと思っていると目の前で他の冒険者が新米殺しと呼ばれる。【キラーアント】を相手に戦闘をしている所を目撃する。
獲物を食らおうと、その強靭な顎で噛み付こうと突撃するキラーアントは冒険者へと突撃する。
だが、冒険者は鋭く跳躍すると文字通り飛び上がりつつ、回転を加えた斬撃でキラーアントの腹を上空からの体制から一線――見事に切り裂いたのだ。
これにはヴェルフも驚く。それを見た時はその冒険者の動きもそうだが、キラーアントの硬い装甲を切り裂いた、レイピア状の剣の切れ味に鍛冶師として、ヴェルフは驚愕した。
本来は『突く』事におもむきを置いている細身の刀身では、刀や剣のような切る動作に向いてはいない。
キラーアントを切り裂き瀕死にさせた冒険者は、少しの間警戒して動きを止めていた。そして、危険はないと判断したのか一歩、キラ―アントに近づいてゆく。
止めを指すのだろうと思っていると、その冒険者は信じられない行動にさらに、ヴェルフは驚愕する事になる。
『キラーアント』。ダンジョンの七層から出現するモンスターで“新米殺し”の異名を持つ昆虫系のモンスターだ。特徴の一つは瀕死の状態になると、仲間を呼ぶ習性がある。
そんな瀕死の状態で仲間を呼んでいるであろう、キラーアントに止めを指すことなく、剣を収めたのだ。
正気の沙汰とは思えない行動をとる冒険者に向かって、瞬時にヴェルフはその冒険者へと駆けた。
こんな近くで他のモンスターを呼び出されるなんて、馬鹿げた真似を見過ごせるほど彼の精神のは余裕もなく、剣を収めた間抜けな冒険者の姿に今まで溜めた昏い鬱憤が爆発した。
「バカ野郎! 瀕死のキラーアントを放っておいて武器をしまうんじゃねぇ」
乱暴な言葉と共に、まともに動けないキラーアントの首を太刀で切断する事に成功したものの油断は出来なかった。
もしかしたら既に他のキラーアントが近づいている可能性もある。冒険者としてのマナー違反なのは理解しているが、手早く魔石を取り出し警戒する。
灰になるキラーアントに目もくれず周りを警戒する。しばらくしても何かがこちらに接近する気配も音もしなかった、ヴェルフは深く息を吐いて警戒のレベルを下げる事にした。
「赤毛のハンターさん。いきなり出てきて何するかな、って、あれ? なんで、モンスターが灰になってるのかな?」
ヴェルフの目の前の冒険者が安堵の表情からすぐに少し怒ったよう表情をしたと思えば、眉をひそめながら声をかけるが、とたんに目を丸くして驚いている。ヴェルフは心の中で表情がコロコロと変わる奴だ。っと思っていた。
しかし、落ち着いて見てみれば目の前の冒険者の、実に奇抜な格好をしている事にヴェルフは気づく。
装備が・・・・・・実に独創的である。頭部には猫人を模倣したような猫の耳のヘアバンドと、胴と腕は蝶のような鮮やかな・・・・・・目立つ装飾を付けられた鎧。足元は見えないが腰に付けられたのも。若干の動きづらさが見てわかるような、スリットのある厚めのロングスカートタイプ・・・・・・。
少なくとも、ヴェルフであれば防具に求める実用性とは掛け離れた、変な感性に困惑すると同時に気づく。
「俺が今まで、“こんな目立つ《冒険者》の情報を今まで知らなかった”」事にだ。すると、その《冒険者》が不安そうな表情で近づいてきた。頭部の猫耳と背丈の低さから、非常に保護欲がそそられるが・・・・・・って違う。ヴェルフは気を取り直してから、取り敢えず話を聞いてみる事にする。
「あのー私はバルバレのハンターでパイっていうかな。貴方はどこのハンターなのかな? そこのモンスターも初めて見たんだけど・・・・・・あと、なんでモンスターが灰になったのかな?」
この冒険者はパイというらしい。どうやら新米のようでこの階層には初めて来たのだろう。しかし、そこまで考えたとき新たな疑問がヴェルフの中で浮かんだ。今、この冒険者はこう言ったのだ。“なぜ、モンスターが灰になるのか?”と、確かに目の間の冒険者はそう言った。
「何言ってるんだ? モンスターの倒したら灰になるのは常識だろう? まさか、そこまで無知な新人がここまで来たのか・・・・・・? っと、すまん。俺の名前はヴェルフ・・・・・・俺は鍛冶師で冒険者だが・・・・・・ハンターってのはなんなんだ?」
訳がわからなかっので疑問をそのまま尋ねる。すると、そのパイと名乗った冒険者は顔色を青くさせて力尽きたように地面に手と膝を付け頭を下げる。余計にわからない状況になってしまった。
ヴェルフは頭を抱えて嘆息をつく。鬱憤を晴らす為にダンジョンに潜ったら訳のわからない女性に出会ったのは間違いがどこかにあったのだろうか? などと考えながら。
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パイ・フィオルは困っていた。
あの後。ヴェルフと名乗った青年と共に『ダンジョン』と呼ばれる洞窟を上がっていき外へと・・・・・・驚いたことにあそこは地下であったのだ。地上で浴びる瞼に眩しい太陽の光に安堵しながらも、渓流での一件で自分の知らない土地に来たのは理解した。それが予想外に厄介な世界だったのもこれまでの間に鍛冶師の青年説明を受けていた。
まず、この大陸では此方の言うところの“モンスター”という存在は居ない訳ではないが“向こう”よりもはるかに少ないという事。
そして、あの【キラーアント】というのが、こちらで言う所の『ジャギィ』程度のモンスターであったという事。実際に戦った身としたらそれ以下だというのがパイの感想であった。
何より問題なのが、こちらは向こうの大陸以上に素材の入手が難しいという事だろう。
「つまり。トビ子はココとは別の大陸とやらの。ハンターって職の狩人で、バカみたいに高い所から飛び込んだらダンジョンにいたと? いや・・・・・・流石に俺も、そんなこと簡単には信じられないぞ? まぁ俺から見ても異常に、ダンジョンのことを知ら無さ過ぎるとは思うが・・・・・・ちなみに、ふざけているわけじゃないよな?」
まさかの。呼び名がトビ子なのはヴェルフが、パイの戦いを見ていてその戦闘の印象からきたアダ名らしい。どうやら、パイ・ルフィルと言う少女はその名前からは逃れられないらしい・・・・・・泣ける現実である。
「そうだね。私も信じられないかな。私としても。ココは神様が地上に居てて。その神様の『神の恩恵』を受けてダンジョンに篭る冒険者が『魔石』っていうものを売ることで生活する。それで『ステイタス』を『経験値』で強化して言って強くなるって・・・・・・うん。ふざけているのかな?」
不機嫌なパイの言葉に苦笑いを浮かべるヴェルフ。彼としてはふざけているつもりはないし。この【オラリオ】では、むしろパイの言動の方がここではふざけていると取られかねない。
常識に関する認識の違いから、このまま別れると言う選択肢を選べない真面目な鍛冶師は、自分の判断だけでは現状の解決は困難と判断して、パイに一つの提案を持ちかける事にした。
「なぁ、知らない土地で気が張るのは仕方ないが、一度俺の【ファミリア】に来ないか? もしかしたら、ヘファイストス様ならなにかわかるかも知れない。行くところも今のところ無いんだろ?」
ヴェルフの提案に少し考えるように瞳を閉じるパイ。このまま個人で彷徨っていい結果が出るとは思えないし。目の前のヴェルフが悪人には思えない。パイは素直に助けを受けることにした。
「そうだね。よろしくね、ヴェルフ」
「おう、トビ子。よろしくな!」
明るく歯を見せた笑みに私の中で同期のハンターの事を思い出す。きっと彼は今頃心配しているだろう。いや、してないか? とにかく今は無事を伝える術すらない。
「ん・・・・・・トビ子、どうした置いてくぞ?」
ヴェルフの声に笑顔を浮かべる。どの道この場所からの帰還が安易ではない事が理解できているならば、それを考えるのは後でもいい。
重要なのは現状の把握であり情報を手に入れる事、コレが最重要課題だと割り切ると、パイはヴェルフの後を追いかける。
「遠いかと思ったけど直ぐなんだね」
というよりも出てきた場所が半分目的地でもあった・・・・・・。【摩天楼施設《バベル》】と呼ばれる巨大な塔の地下こそが、先程のパイとヴェルフが出会ったダンジョンだったのだ。そこからは歩いてヴェルフの後ろをトテトテと着いていってる所だ。
「俺の工房はココとは違うんだけどな・・・・・・っとこっちだ。この時間だとここに居ることも多いからな」
前方のヴェルフが何やら狭い上に何も無い・・・・・・それこそ入口しかない部屋に入っていく。それに習う形でパイも入るヴェルフがスイッチを操作すると、今しがた入ってきた入口が閉まる。
その時パイはふと、【大陸】の《ハンターズギルド》での飲み会での一幕を思い出す・・・・・・以前に酒に酔ったユクモ村のハンターに聞いた「男はオオカミなのよぉぉぉ!
私は女と見られてないけどねぇ・・・・・・テヘペロ!」という、セリフが何故か頭に浮かんだ。
パイが昔の事を思い出していると、急に部屋自体が動き出した。足場の不安定な所に立っているような不快感を感じ、思わず腰を落とし手を広げてバランスをとってしまう。それを見たヴェルフが“うっかりしてた”と呟き遅いながらも説明してくれた。
これはエレベーターという機械で原理を説明されたがよく理解でなかったが、噛み砕いてもらってやっと、“井戸の水を汲み出す滑車みたいなものらしい事がパイにも理解できた”つまり、今乗っている部屋はバケツな訳だ。バケツに運ばれる初めての体験にパイはちょっと感動しながらも目的地に着く。その理解の仕方にヴェルフは諦めたように溜息をついていた。
「ここが目的の場所だ。ヘファイストス様が居てるか聞いてみるか」
「ん? ここにいるのは珍しいな。ヴェル吉。主神殿を探しているならば、何時もの所だ。手前も会いに行く所だから一緒に行くか? っと。そちらのは、面妖な格好をしているが知り合いか?」
「げっ・・・・・・椿か、こいつはトビ子・・・・・・じゃなかった。パイだ」
「パイ・ルフィルだよ。初めまして椿さん。トビ子ってのはヴェルフの私の対してのあだ名かな」
「おお。コレは丁寧な対応を。失礼した。初めましてだ。手前の名は椿・ゴルブランド。この【ヘファイストス・ファミリア】の団長をやらせてもらっている」
椿・ゴルブランドと名乗った女性は長い黒髪と赤眼の左目を眼帯で隠している、長身の女性であった話し方もサバサバしており女っけはあまり感じないものの、パイにとっては実に不快な存在であった。主に胸部の装甲の厚さがだが。
「ぐぬぬ・・・・・・目の前の揺れる物をもいでやりたいかな! 割かし本気で!」
「ほぅ。手前としても邪魔な物だからな。分けれるなら受け取って欲しいものだ」
椿の余裕の対応にパイは泣いた。膝から崩れ落ち。手の平を地面につけて、『落ち込む』。そして、むせび泣いた。世の中にはどうしようも出来ない事があるのは理解していたが。目の前の“揺れる母性の塊”と呼べる理不尽を前に、胸を抑える・・・・・・掴めるモノすらない現実にさらに涙が溢れた。
「お前ら。男の前でなんつー会話してるんだ・・・・・・。椿も止めてやれよ。トビ子の奴、マジ泣きしてるぞ?」
若干引いた面持ちで。傍観を決めていたヴェルフだったが、突然泣き出したパイと――泣き出した無乳という名の“敗者”であるパイを不思議そうに眺めている・・・・・・無自覚にも勝者となった“巨乳”の椿。ついに、ヴェルフは居た堪れなくなりパイへと助け舟を出す。その言葉のお陰かパイは涙を拭いて立ち上がる。
「む。これは済まなかったな。そこまで落ち込むとは思っていなかった。では、行こうか。ついてこい。こっちだ」
神ヘファイストスの居る部屋とやらに着いたが、椿の用の方が先なので“すまんが、待っててくれ”の一言と共に部屋の中へと入ってゆく。ヴェルフとパイは外で待っていると、時間にして十分もしない内に椿が退室してきた。
「もういいのかな? 椿さん」
「ああ、手前の要件は済んだ。二人の事も軽く伝えておいた。入るといい」
「ありがとかな。椿さんは一部は好きじゃないけど。他はとてもいい人だね」
「その一部はどうすることもできんな。手前もお主のような気持ちのいい奴は好みだぞ。ではなパイ、ヴェル吉。また逢おう」
他愛のない会話と挨拶を済ませて椿と別れる。ヴェルフがドアを数回ノックしてから「入っていいわ」と言う返事と共に入室すると、そこには事務机の座る美しい赤髪と右目を眼帯で隠した男装をした女性と、絨毯の上でゴロゴロしている滅すべき者がいた。
「こんにちは。初めましてかな。私の名前はパイ・ルフィル。貴女が神ヘファイストスさんかな? 所でそこの居てる乳の化身をもいでもいいかな? 何処をとは言わないけど」
「ちょっと、待ってくれるかい!? ボクはいきなりそんな事言われることしたのかい!?」
挨拶からの突然の暴力発言にドン引きの三人。ヴェルフに関しては目の前の床に転がりながら喚く人物をみてさらに引いてる。男装の麗人もチラリと。床の乳の化身に視線を向けるがすぐに此方に向き直る。その対応に“あっ、何時もの事なんですね?(察し)”となる。ヴェルフとパイ。
「そうね、初めまして。私が此処のファミリアの主神。ヘファイストスよ。それで、椿から軽くは聞いたけど、どうしたの? ヴェルフ?」
何事もなかったかのように柔らかな表情で語りかけてくるヘファイストスの対応に、この状況でこの様な対応ができるのはすごく人が出来ているのかと感心するパイの隣で、ヴェルフがここに来た理由を語っていき、パイが補足を付け加えてゆく。
ヴェルフとパイが語り終えると、ヘファイストスさんと流石に床に地べたに座った乳女も考え込むように思案顔を浮かべる。
「ねぇ。パイ。貴女がその【大陸】から来たのは間違いないようね。伝えるのが遅れてしまったけど、神は人間の嘘を見分けられるわ。貴女の話が、全て虚偽りのないものだってわかったわ。それでも、地上に危険なモンスターが蔓延る世界って・・・・・・。少なくともこの辺じゃ、【ハンター】っていう職業の話も聞かないわね」
「ヘファイストスに同感だよ。トビ子君は、一体どんな人外魔境で育ったんだい? あと僕の名前はヘスティアだ。これでも神様だから敬ってもいいんだぜ?」
「なるほど、神綱:ロリ巨乳目:ヒモニート科:駄女神属のヘスティアかな? 略して巨乳ニートって呼んでもいいかな? あと、トビ子っ言わないで欲しいかな? ニート乳神様?」
「辛辣すぎやしないかい!? しかもなんで神の言葉知ってるんだい!? もうそんな子はロリ無乳のチビ子で決定にしてやる!」
「ヘスティア? まるで生物図鑑みたいな説明になってる所に関しては突っ込まないのかしら?」
「いいよ、その喧嘩買ってやるかな! 今まで「小さい」とか「絶壁」とかは言われた事あるけど。「無乳」とは初めてかな! こんな乳はもいでやるぅぅぅ!」
どんどん熱が入ってゆく二人の凸凹ロリに疲れたような溜息を吐く、ヴェルフとヘファイストス。このままでは埒があかないと思ったのかヘファイストスは手の平でパン、パンと叩いて二人を落ち着かせる。
「とにかく、落ち着くまでのパイの世話はヴェルフ。貴方が見なさい。いいわね?」
「え、俺ですか? いや、しかし・・・・・・」
「最近、作品の造りが上手くいってないんでしょ? 主神の命令よ。少し頭を冷やしなさい。そういう時はゆっくりと考える時間も必要な事もあるわ」
「・・・・・・確かに、そうですね。分かりました。なぁ、トビ子。後でいいから、ちょっとその装備見せてくれないか? さっきから気になってな」
「あら、そう言われてみればそうね・・・・・・未知の大陸の技術か、じゃあ、仕事も一段落したら、私もヴェルフの工房に行くわ。椿も連れて行くけど大丈夫かしら?」
そのヘファイストスの言葉に、ヴェルフは一瞬考えるが少し掃除の時間さえ貰えればと条件をつけて承諾する。その後バベルを離れ北東へと向かう。明らかに【大陸】とは文化レベルが違う街並みを珍しそうに眺めるパイと、そこから離れすぎないようにたまに後ろを確認するヴェルフ。
何個かの質問に答えながらも歩いていくと景色も変化していき、鉄の音と鉄の香り漂う一角へとたどり着く。
どうやら、ここがヴェルフの工房のある場所らしい。掃除の為にと中にはいるヴェルフも待ちながら一人、外で待つ事となったパイ。だが、そんなに散らかってもなかったのだろう。そんなにも待つことなく入室の許可が降りる。
「案外、早かったかな・・・・・へぇ、工房ってこんな感じになってるんだね。こっちの工房とは全然違うかな?」
入って、階段を下りでみると、広くはないが。十分なスペースのある作業場に着く。作業台や火は灯っていない小さな炉がある。鍛冶師の道具でる槌なども、乱雑な用に見えるが自分の使いやすいように整理されている。鍛冶師の必需品である為きちんと、整備された状態で並べられている状態に鍛冶師として信用できる事が伺える。
こういう風景は向こうでもよく見ていたのでここが“信頼できる職人のいる”作業場だとはすぐわかった。
「トビ子の所の鍛冶か・・・・・・っと、早速だが装備を見せてくれるか・・・・・・? っとこの鉱石は邪魔だな直してくる」
装備を見せる・・・・・・つまり、こういうことか! パイは“いつものように”装備を見せる為に装備を外していく。
素材を直す為に背を向けていたヴェルフは気づくことなく、素材を置き場に直して振り返ると「なぁ!?」っと驚いたように声を上げた。
それもそのはず。ヴェルフの目の前には下着姿のパイが、は不思議そうにヴェルフを見ている。作業台には綺麗に置かれた彼女の装備が並べられていた。
「確かに装備を見せて欲しいとは言ったものの、脱ぐとは思っていなかった・・・・・・すまん、言葉が足りなかった」
「とはいえ」と苦笑いを浮かべるヴェルフの視線に、パイの憤慨一歩手前であった、言葉に出さず共視線で理解できる、女性らしさが全くと言って無い。
まるで幼い妹を見てるような表情のヴェルフに『キック』をしようか迷っていると・・・・・・ドアの開く音に振り返る。すると、そこにはヘファイストスと椿の姿があった。それと、二人はその目は冷め切っていた。
「ヴェル吉、邪魔するぞ・・・・・・ふむ。これは、後にした方がいいか?」
「・・・・・・なにしてるのよ? ヴェルフ」
運の悪いことに、入室してくる女性二人を見てヴェルフとパイは考えた。客観的な思考で考えた。その結果この状況は客観的にアウトじゃね? っと行き着いた。故にヴェルフはこの状況に最も効果的であろう言葉を、両手の手の平を突きつけて叫ぶ。
「違う! 俺は無実だ!!」
「知ってる? そう言うやましい心の人は皆、そう言うのよ?」
「・・・・・・ですよねー・・・・・・はぁー」
切り込まれた主神のお言葉にどうやら選択を間違えたらしいと、諦めたヴェルフは天井に視線を向けて大きな溜息を吐くのだった。
――――――――――――――
女三人寄れば姦しいという言葉が有るが、それは男女関係なく『趣味人』が集まっても姦しい物なのかもしれない。
パイはそんな事をボンヤリとしながらも思っていた。なぜ、そんな事を思うのか? その原因は先程からの目の前の三人の『鍛冶馬鹿』達のせいだろう。
「この武器はどうなっておるのだ? この硬度と切れ味なのに刀身の色彩といい。手前らの知らぬ技術が使われておるぐらいしか、手前には分からぬな」
「すげぇ、この服。まるで布のようなのに硬い。こんな素材今まで見たことがねぇ。具足に使われてる鉄の加工技術も恐ろしいぐらいに精巧だ。それに、この穴にはめ込まれた穴に付けられた珠も、これだけのものを作るにはどうすればいいかわからねぇ」
「総じて。高い技術と高品質の素材で作られているわね。デザインがちょっとアレだけど。コレだけの物を見せられたら。私達の常識から外れた世界。と言うのも頷けるわね」
上から椿。ヴェルフ。ヘファイストスの順に【大陸】で生産された、パイの装備を見ながらお互いの意見をぶつけ合っている。流石は鍛冶師なのか、こういう興味が尽きることもないのだろう。
しかし、「流石に下着姿は不味かろう」と椿から買って貰った服に袖を通してから早数時間。パイはそのへんの木箱に座りながらも足を振るしかしていない。説明も必要とされていないのでひたすら、論議に夢中な三人を眺めるだけと言うのも少々飽きてきていた。
「ねぇ、三人とも。その装備預けておくから。ちょっと外見てきてもいいかな?」
パイの言葉に三人は振り返ると各々が熱中しすぎた事を謝ると、パイの提案に頷く。ヴェルフが迷ったらいけないと親切に地図を渡してくれ、ヘファイストスがもしもの為にと、多少の路銀を渡してくれた。
椿も“行くなら路地裏は入らないほうがいい。”と忠告してくれたので、うなづいて返事する。
さて、パイは未知の【エリア】はオラリオの街を観光する為に工房を後にする。まずは、楽しもう。そう決めて地図を片手に駆け出すのだった。
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時系列的には原作一年半前ぐらいの出来事です。いろいろツッコミ所があると思いますがどうか、生暖かい視線で見てくれると幸いです。