ハンターが飛び込んだ先がダンジョンなのは間違っているだろうか? 作:あんこう鍋
この間久々にモンハンのXX起動しました。そしてセーブがブッ飛んでいました。
っというわけで、気持ち悪いぐらいにピョンピョンしてきます。
4月24日 改修しました。
リリルカ・アーデは自分の人生に絶望していた。
この世に生を受けたときから、決まっていたレールは歪な物で、非力な少女が直すには酷な物であった。
頼れるものもなく。彼女が唯一できる事は“灰を被って”姿を変えること、“生き残るため”だけの人生が『リリルカ・アーデの今までの人生』だ。灰を被った少女はその身一つで生きるのにはそれなりの工夫が必要だった。
“灰被りの魔法”で姿を変えていても所詮は魔法、いつかは解けてしまう・・・・・・永遠に続く安息などなく、彼女にとっての現実は必ずやってくる。
鈍い音と共に壁に叩きつけられる。その衝撃で肺から空気が漏れ蹴られた腹部が熱い痛みを発する。いつもの『現実』事だ、リリルカは必死になって“逃げようと行動する”。このような表通りから死角になる裏路地に助けが来る事などまずありえない、例え誰かが見かけたとしても、かかわり合いに成りたくないとばかりに目を逸らしと避けていくだろう。
周りを囲むのは、《冒険者》と呼ばれる【オラリオ】には珍しくもない者達である。リリルカは自分を痛めつける屑に、少しでも興味を引かせるようにゆっくりと動く。
すると、その態度が気に入らなかったのか、再度蹴られ、仰向けに転がる、今度こそ動けないように見せる事が必要である。
リリルカを囲んでいるのはいずれも獣人であった。下卑た笑みを浮かべながらその中の一人が痛みで動けないようにみえるリリルカの身体をまさぐりだす。
生理的な嫌悪感がリリルカの心に怖気を帯びて襲った。だが、実の所この行為については理由を知っているので必要以上に不安に思う事もない。しばらくして用が済んだのかリリルカの眼前に、中身の無くなった財布を叩きつけられ、主犯のカヌゥと言う男が酒の匂いを漂わせながら問いかける。
「アーデ。お前これだけじゃねぇだろ?」
「これで・・・・・・全部ですよ・・・・・・この間も、持っていったばっかりじゃないですか・・・・・・」
嘘だ。もう半分以上は別のところに隠してある。しかし、隠しすぎると疑われるので、敢えて多めに所持しそれを守る為の行動取る。最低限の暴力を受けることを前提に行う。こうしないと何時まで経っても終わらない。
いつか”魔法使いと出会うこと”を夢見て、今は“灰をかぶり続けるしかない”。しかし、今日は虫の居所でも悪かったのか。同じ【ファミリア】の構成員でもある男達は舌打ちを打つと、その後も嬲るように加減を加えた暴行をりリルカに行い続ける。
断続的に続く、痛みに涙が溢れそうになるが。コレがアイツラを増長させる原因になると理解してからリリルカが涙を流すことはなかった。利用価値があれば命までは取られる事もない。逆に言えば命以外は取られるという事だ。
だからこそ上手く生きた。幸いにもリリルカは頭の出来が良かっし物覚えも悪くない。それの代償なのだろうか? リリルカには決定的なほどに“力”がなかった。
種族が弱かったのもある。ステイタスが弱かったのもある。言い訳や理由は数多くある。だが、大きな要因は、きっと彼女はその在り方に対して優しすぎた。賢すぎた。
そして、最大の不幸が希望を失いきれないその心が、『リリルカ・アーデ』という個人を歪にしてしまったのだろう。
だから、弱い彼女は今日も、オラリオの裏路地で同じ【ファミリア】の・・・・・・力が強い存在に搾取されている。
その行動は強者が弱者から簡単に奪っていく行動であり。【ステイタス】の低いLv1の小人族などは明らかな弱者でしかない。
そして、例え殴られようと時期に飽きれば終わる。それだけの事だ。
過去からずっと続いている。暴力行為が彼女の思考を犯していく。“異常”が“普通”になるほどの日常。だが、それは突然の終焉を迎える。
それは、“茶色の何か”であった。認識をする前にリリルカの意識は強制的に途切れる。
路地の向こうから小さな人影が走ってくるのが最後に映り、その後に同じ【ファミリア】の構成員の悲鳴が聞こえた気がしたが、今の彼女にそれを確認する術はなかった。
――――――――――――――
パイ・ルフィルは憤慨していた。
とは言えど初めから怒っていたわけではない。
久々のゆっくりした時間を観光に使おうと飛び出した先。ヴェルフの工房を離れ、【オラリオ】の街を散策していた。
《バベル》から北東の方角に位置する。ヴェルフの工房から装備の技法を見て、学習するのに必死になっている三人を放っておいて都市の地図を片手に観光を決意して飛び出したのはいいものの。いくら地図があるとは言え。土地勘がそのものがあるわけでもない。そこに気づいた私は、取り敢えず周りを見渡す事にした。
先程出てきた《バベル》が中央にあるのでアレを目印にすればいい最低でもスタート位置には戻れる。そう、あのデカくて、長くて、太い物を目印にすれば・・・・・・だ。深い意味はない。そのバベルを中心とする【オラリオ】の街は外壁から中心にかけて建物の高さが低くなっており、逆に周りを囲むようにそびえ立つ外壁の方の建物は比較的高い傾向がある。
なにしろパイ・ルフィルと言う少女は方向音痴なのだ。その彼女に取ってこういうわかりやすい作りはありがたい事であろう、問題は方角ぐらいだが・・・・・・まぁどうにかなるだろう。パイは考える事をやめた。
実際に『広い街であるだろう』とは考えていたパイだが。実際に歩いてみると『迷宮都市』の街の広大さが伺える。大まかに八つの放射線状に別れたメインストリートとそれぞれの区間に特徴のような物がある事をその目と、耳と、足などの感覚でだがおぼろげに見えてくる。
【北】の関連は工業系統の施設が多く。装飾品や鍛冶関連の施設に飽きてきたので、パイは行き先を【西】の方角に変えて散策を開始した。露天を冷やかしたり平和な町並みを眺めたりしながら、ふとした興味で路地裏へと入ってしまった。その結果――勿論迷った。なにしろ、彼女は方向音痴なのだ(震え声)。
そして、パイは目撃する。一人の子供に大人が寄ってたかって暴行を行っている・・・・・・その光景、複数の男性に暴力を振るわれている少女と言う図を目撃する事となる。
ソレを見たときの感覚を一言で表すならば、気持ちのいいものではない。であった。暴行現場を目撃してしまうと言った現状に至る経緯はさておき、路地裏に近づく事もなければ関わることもなかった、つまりは椿の忠告を無視した結果である。
きっと、彼女には、この様な事態を想定していただろうし。パイが被害者になる可能性もあったと言う意味合いをもつ『忠告』だったことは明らかだ。
とはいえど、か弱い一般人であるならともかく、パイは『ハンター』である。ハンターである以上は非情にならざるを得ない状況というのは多少はある物だ。
弱き者を助けるにしても、状況の判断が難しい状態で安易な考えで行動するほど彼女は幼くなはなかった。
判断するための情報と、自分の足場を天秤にかける勇気。それを冷静に考える事のできる安定した精神力が、今までの『パイ・ルフィル』の狩人としての生存するための術であり、獲物を追い詰めるための狩人の術でもあったし、それが今までの生存に繋がっている事が自身の自信に繋がっている。
とはいえ・・・・・・では、パイ・ルフィルは非道な存在なのか? 答えは否であるー。むしろ、こういう事には喜々として突っ込むだろう。
簡単に言えば。パイ・ルフィルと言う人間は生き賢い人間ではあるが。我慢強い人間ではない。彼女の思考は瞬時に状況を把握し、自らの状態を把握し、現状の状況を理解した。
そして・・・・・・最臭兵器【こやし玉】を使用することで、命にかかわらなくて、実にスマートに現状を解決する方法を導き出し、なんの躊躇もなく実行した。
その結果――
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ! くっ! くせぇぇぇぇ!」
「おい馬鹿! こっちくんな! うえぇ・・・・・・うっぷ・・・・・・」
「ヒィ!? うっ・・・・・・おえぇぇぇぇ・・・・・・ゲロロロ・・・・・・」
爆散する臭気と付着した【アレ】に、たまらず悲鳴と嘔吐きを抑えきれずに嘔吐するケモ耳共。使った本人でさえも少し鼻を抑えている。少なくとも閉鎖的な空間で使った事が無かった事に今になって気がつく。パイは思った。これは中々に・・・・・・むせる。
目の前に居てた誰得なケモ耳オッサン共が悲鳴と嘔吐を繰り返す阿鼻叫喚な現場。お手製の【桃毛獣《ババコンガ》】のフンから調合した【こやし玉】の威力に少しだけ恐怖してしまった。これはまずい。大型モンスターに拘束された時など使うのを躊躇してしまうかも知れない。
それはともかく、静かな路地に突如発生する激臭。ひどいカホリが立ち込めた。なんて近所迷惑なんだろうか。これは人が恐怖するカホリだ。それも『大型のモンスターでさえも匂いで逃げ出す』程のカホリだ。
鼻の良さそうな獣にはちょうどいいだろう。パイ自身もあのカホリの中で口につけるものを使うのを躊躇ってしまう。慣れている者でもコレなのだ。
よく見たら、少女も若干の引きつった口元から涎を垂らしながら、白目を向いて倒れている。
・・・・・・おそらく、暴行のショックで気を失ったのだろう。きっとそうだ。その明らかに一般的に見せられない状態の少女を置いて逃げ出す訳にもいかず。
パイはケモミミ共は無視し、少女を抱き抱え直ぐに昔からの伝統の卵運搬スタイルの間抜けな走り方で裏路地から逃げ出した。
そして、誰もいなくなった路地裏ではその後、数時間の間鼻を摘ままずにはいられない激臭が漂う魔空間となったのだった。
ちなみにその数分後、ある美少女の従業員が多くて料理の旨いで有名な料理屋から、ドワーフの女将の怒声が響いたのはそこの隣人と従業員しか知らないのであった。
――――――――――――――
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「ん・・・・・・ここは?」
目が覚めると、そこはメインストリートでした。なんて下らない事を考えながらリリルカはその瞳を開ける。見慣れた場所である事が『ココ』が西のメインストリートである事を認識できた。
とは言えど、自分は先程カヌゥに散々蹴られていたはず・・・・・・その割に痛みのない身体を不思議に思っていると、誰かが覗き込んでくるのが見えた。逆光で顔は見えないが髪の長さから女性である事は伺える。
「あっ、目が覚めたかな? こんにちは、お嬢ちゃん。痛みはないかな?」
「えっ? あっ、こんにちは・・・・・・」
声をかけてきた女性は覗き込んでいた顔を上げると、そこには灰色がかった髪と神秘的な紫の瞳をもつ少女が居た。痛みのない体に先程の出来事が夢だったのではないだろううか? そう思えるような状況だ。
リリルカはその時、懐に忍ばせていた財布の感触が無い事にあれが現実であったと再認識する。そして、目の前の『冒険者』が『ポーション』を使用した治療を行ったのだと“理解した”。
そうでもなければ誰が好き好んで、あの様な状態の人間を助けて、治療まで行うというのか。
しかし、それならば相応の態度というものがある。
「あの。もしかして、冒険者様がリリを助けてくれてのですか? ありがとうございます! リリは、リリルカ・アーデと申します」
「これは、ご丁寧に。私はパイ・ルフィルだよ。まぁ、助けてたというか・・・・・・気絶させてから拉致したってのが正しいかな? いやー、ごめんね。リリルカさん。まさか君まで気絶するなんて思ってなかったかな。」
今、こいつなんて言った? リリルカはパイと名乗った少女の言葉。「気絶させて、拉致?」なにやら不穏なワードが聞こえたがあえて無視することにする。
しかし、同時に疑問を覚える。なぜだろうか、どうも暴行を受けてからの記憶が曖昧だ・・・・・・。
思い出そうとしながらも目の前の微笑んでいるパイを見つめるリリルカ。その視線にパイは小首を傾げる。そんな彼女の仕草にリリルカの嫌いなタイプの甘ちゃんであろうと思った瞬間、リリルカの中で色々と記憶が蘇る。
「カヌゥ・・・・・・殴られる・・・・・・痛み・・・・・・茶色の玉、げき・・・・・・臭・・・・・・うっ!! 痛い! 頭と鼻の奥が痛い! 主に鼻が痛い!!」
色々と思い出した記憶を心が拒絶する。鼻の奥がツン・・・・・・なんて生易しく思えるほどの痛みが、先程の心身共に慣れた暴力とは違う類のものだ。もはや劇物の領域のナニかにリリルカは震える。隣のパイがなにやら小声で「やっぱり、覚えてたかぁ・・・・・・」と呟くのが聞こえた。
リリルカ自身は暴力に関しては耐性があるので今回のトラウマは暴力2に対して【正体不明のナニか】が8の割合だ。しかもソレを投げたであろう人物は隣にいる。なんてこったい。リリルカは即座に退避を選択した。
「リリルカ。大丈夫もう暴力を振るってくる人はいないよ」
優しく語りかけるパイにリリルカは「違う! そうじゃない!」とツッコム。相手に怪しまれないように明るく接するが内心はひどく焦っていた。というか一刻も早くこの場から立ち去りたい気持ちで一杯である具体的に言えば――
(ははは、早くこの人と離れたい! なんでかわかりませんが、記憶を失う前に明らかなに危険なモノをこの人は投げてきました! そんなものを所持している人が普通なはずがない。この場合は直ぐに退散が一番正解のはずです!)
――っとなる。しかし、隣に居る恐怖の対象はそんな事を毛ほどにも思っていないのか、優しげな瞳で見つめるのみであった。
「ん、どうしたかな? まぁ気にしないでいいかな、自分のやりたい事をしただけだし・・・・・・それにさ。リリルカさんも一刻も早くここから離れたいよね?」
パイが気楽に放った言葉が、リリルカの心を鷲掴みにした。一瞬、心の臓が変な鼓動を行ったのがリリルカにはわかった。そして、その相手の言葉の意図を考える。自分の先程の言葉や表情になにか不備があっただろうか。
強者を不快にさせる態度があったのか? 自身の交渉術に自信がならば、“それ以外の要因?”リリルカはその瞬間から軽度のパニックに陥った。
彼女は、その私生活の理由から人には言えないような事も少なからず手を出してきた過去がある。それを咎めるような想いも薄くなって久しい。だが、罪悪感も全くないといえば嘘にもなる。
そんな、中途半端な倫理観の中で生きていた彼女にとって、居心地の悪さはもはや友達ともいえる間柄だ。冷や汗が流れ喉が渇く。
「ど、どうしてですか? リリは冒険者様がいないと何もできないサポーターですよ? そんな、まるで逃げるみたいな・・・・・・」
それは、まるでココから逃げ出したい理由を知ってるかのような。“リリルカ・アーデが今までやってきたことを”知っているかのような言葉に纏まらない思考だけが空回りする。
勿論、全然事情の知らない、パイからすれば、本当に不思議で仕方がなかった。「あんな事があったんだし、すぐ休みたいよねー」程度の気持ちで話しかけると、突然目の前のリリルカの表情が固まり顔色も悪くなってきたのだ。むしろ、りリルカの口からでた《サポーター》と呼ばれる単語の方に意識が向かった。
『ハンター』にとってのサポーターと言えば数多く思い出すが、筆頭で言えばやはりオトモだろう。年々知識を蓄え、どんどん活躍する彼らの活躍は凄まじいの一言につきる。
決して散る事のない兵士・・・・・・それがオトモである。罠は仕掛ける、笛を吹けば体力を回復してくれて爆弾を持たせれば勇猛果敢に敵へと特攻する。なにより可愛らしい。『筆頭オトモ』なんて時たま「アンニュイだにゃー」なんて言っても姿なんて最高だ!
まぁ本人はアンニュイの意味わかってないだろうけど。
もう。オトモアイルー居てたら『ハンター』要らなくない? ハンターならずニャンターなんて出現されたら流石にまずい。パイは願った。そんな未来が来ませんように・・・・・・っと。
話がひどくそれてしまったが、サポーターという言葉の通りだとすれば、それはなにかしらの、『サポート』をするという事だ。しかし、サポートと一言で言うが具体的には? 少なくともハンターの常識を当てはめる訳にもいかないのでパイは素直にりリルカに聞いてみる事にした。
「リリルカさんってサポーターって奴なんだ。えっと、聞きたいんだけどちなみに《冒険者》とどう違うの? もしかして、サポーターって冒険者に殴られたりする人とかじゃないよね?」
(殴られるのがサポーターの仕事ですって? ふざけないで、なんでそんな、当たり前のこと聞くんです? なんで、こんなに追い詰めるの?)
実際本気で“知らないので”聞いただけのパイの質問であったのだが、そんな事情を知らないのはリリルカとて同じことであった。無神経な質問に彼女の昏い感情が湧き上がってくるのを自覚した。リリルカもこの時、平常な状態で無かった事もあり。彼女にしては珍しく考えるよりも口が出た。
「あんなのはサポーターの仕事じゃない!リリだって好きで――」
「好きで・・・・・・なにかな?」
やってしまった――リリルカは血の気が下がるのを自覚しながらも目の前のパイを睨みつける。完全な八つ当たりである。
それを受け止めたパイも、無表情に近い表情になっていた、理由は簡単で明らかに「選択」を間違えた事を自覚し呆然としていたからである。パイは思った。「いくら何でも、暴力振るわれるのが仕事な訳ないじゃんかな・・・・・・」っと。
りリルカの眼前には、先程の微笑んでいる甘ちゃんな女性も、危険物を持っている人間でも、そのどちらでもない。決定的に違う。戦う者の顔がそこにはあった。油断せず、必要以外の感情を全て切り取ったような。一種の効率化を果たしたような。そんな印象を纏った戦士がそこにはいた。リリルカとは違う人種である。
呆然となる事で、いままで隠していた気配が漏れているパイは、偶然にも威を伝えるには十分な説得力を纏う結果となった。なんとか、思考で言葉を紡ぐがこれがりリルカをさらに追い込んでしまった事をパイ自身は気づいていなかった。
勘違いが、勘違いを生んでいる状況が続く。もはや二人の間に先程の温和な雰囲気などない。あるのは張り詰めた空気だけであった。(主にリリルカのだが)
りリルカの中でひしひしと絶望がその足音を立ててくる。目の前の人物からは逃げられない。誤魔化せない。それが理解できた。リリルカは唐突に訪れた破滅の香りと死を孕んだ狂気が彼女の中で残っていた自制心を侵食していく。
ああ、もういいか――リリルカはその瞬間、諦めた。自棄になったとも言う。今までの濁った思いがまるで火山の噴火のように溢れ出るのを止めることなく叫んだ。
「リリは・・・・・・好きで・・・・・・すきで・・・・・・好きで、あんな場所にいるんじゃない!! 貴女みたいな強い冒険者には分からないですよね、搾取される弱者の気持ちなんて! 明日食べるものを、食べれないかもしれない不安も、当たり前に続かない日々も、居場所でさえもいつだって奪われるかもって不安で眠れない夜も! 冒険者ってだけで・・・・・・冒険者ってだけで当たり前のように居てられる奴らの傍で、その時の稼ぎがもらえるかって、惨めな気持ちで待ち続ける気持ちなんて。貴女にわからないんでしょう!」
慟哭――そう呼ぶに相応しい、リリルカの叫び。ひどく理不尽な行為だと理解している。目の前の彼女はなんの関係もない。むしろ暴行をされているところを救われた形の恩人だ。
情けなさでリリルカ泣きそうになる。そんな資格などないと、最低の行為だと、りリルカの心にある良心が彼女の責め立てる。
シン――っと、静まり返る大通りで何人かが、こちらを不安そうな眼差しで眺めている。《冒険者》同士の喧嘩など一般人からすれば厄介事では済まされないぐらいの被害になるかもしれないのだ。不安になるのは当たり前だ。
そして、目の前の女性の目に映る心の変化を悟る。“ああ。やっと、楽になれる”。リリルカは最後に自分に正直になれた事を噛み締めながら瞳を閉じ――
「いや、ないわぁ・・・・・・君・・・・・・どんだけ辛い人生おくってたのかな」
――そう思った時期が私にもありました・・・・・・。
目の前の少女。リリルカの魂の叫びに正直ドン引きしてしまったパイは、ついつい真顔で対応していたが。ちくしょう・・・・・・内容が重すぎるかな・・・・・・予想以上の内容に私の表情は渋いモノとなっているだろう。それだけはパイにもわかっていた。
そして、この皆様の視線である。
泣きそう・・・・・・“リリルカさんの口から出た叫びはね、もうね。色々重いよ”と、それを叫んだ本人はといえば、胸の内を曝け出し安堵したのか、私の表情から何を勘違いしたのか目を閉じ”まるで処刑待つ囚人みたいに”諦めたように脱力してる。君は私をなんだと思っているのかな?
ああ、周りの視線は痛い。取り敢えずまずは彼女から更に事情を聞こう。その“リリルカさんがこれほど苦しむ原因となったもの”に対して“ちょっとオハナシ”しに行こう。そう考えまずは行動に移そう。取り敢えずこの場所から移動せねば・・・・・・っと、その前に。
「ごめんねリリルカさん。実は、私、パイ・ルフィルはね。冒険者ではなく【ハンター】なのです!!」
呆然と目を丸くするリリルカに手を差し伸べ、パイは取り敢えず修正だけはしておくのであった。
――――――――――――――
リリルカ・アーデは呆気にとられていた。
数刻前には死を覚悟し。感情を爆発させ爽やかな気持ちで逝けると思っていたのだが。現在【ソーマ・ファミリア】のホームは凄惨な有様になっていた。
時折ピクピクと痙攣している構成員が壁から尻を突き出した状態でいてたり、壁にめり込んでいたりしている。
そして、現在眼前では冒険者・・・・・・じゃない。『ハンター』のパイが主神のソーマを足で踏みつけながら。【ソーマ・ファミリア】の団長である。ザニス・ルストラをタコ殴りにしている光景が写っている。
メガネの細面だった名残は無く。殴られ腫れた顔はもはや原型がない。どうしようもないクズではあるし、コイツのせいでファミリアの立場が悪くなっていく構成員も多々いることから決して同情はできない。まぁ、とにかく目の前の光景は刺激的なものである事は確かだ。
「なにコレ? りり・・・・・・わかんない」
私は思考を放棄し始めた脳内を落ち着かせて思い出す。
事の始まりは、あの【西】のメインストリートでの出来事から。パイ様の「私! ハンターです!」発言のあとの事。場所を移動して落ち着いたリリルカとパイは少し死角になっている喫茶店で休んでいた。
それから。改めてリリルカは自分のこれまでの事をパイに洗いざらい説明した。
所属している【ファミリア】の事。
【神酒《ソーマ》】の事。
自分が生き残るため、《冒険者》の二世として、望まぬファミリアからの脱退の為に盗みなどの犯罪に手を出した事。
【ファミリア】の秩序は崩壊していて、強者が弱者を搾取するのを、団長や幹部も容認している状況である事も。
吐き出して、スッキリした。リリルカの表情は涙の跡と泣き腫らした跡こそあるが生涯で一番晴れやかなものだった。きっとこれまでの人生の中でこういう機会もなく生きてきた彼女にとって今日の出来事は一生忘れられない物になるであろう。
最後まで話を聞き終えたパイは私の頭を優しく撫でる。リリルカにとっては殆ど受けることのない優しさ。それも、自分を隠すこともしていない相手からの物に、知らずに溢れた雫を、触れる事ない気遣いが乾いた心に痛いほど染みた。少しの間を開けて。今度こそいつもと違う『不器用な笑顔』で話すリリルカに、パイも「リリルカはその顔の方がいいかな!」と笑う。
「そうかぁ。リリ・・・・・・いや、リリルカさんの所ってひどいね。そこの神様ってなにやってるのかな?」
「ソーマ様は・・・・・・そうですね。畑でお酒の材料作っているか酒蔵でお酒作っているか」
「ふぅん? ここに来る前に【ヘファイストス・ファミリア】の主神様に会ったけどさ。【ファミリア】の団員の事すごく見てたし、考えてたけど。人も神もそれぞれ、個性があるんだね・・・・・・まぁ。そこのソーマさんって神については酒に関することしかない、変神ってことでいいのかな?」
「そうですね。もうリリも相当の間、逢っていませんし。そういう認識で正しいと思います」
「よーし、わかったかな。じゃあ、あれだ。個人的に腹もたったし。“狩るか”【ソーマファミリア】を」
「え!? 狩る?」
それから直ぐに行動を開始したパイは【東】にある酒蔵件、【ソーマ・ファミリア】に殴り込みをかけた。
【神酒】を飲む権利を買い取るために団員の多くが迷宮に降りている時間帯で、守りの手薄な状態といえど『神の恩恵』を受けた冒険者・・・・・・いくら、大多数がLv.1であってしても、ここまで一方的な蹂躙になるものなのか?
そう思わせるほどに、【ソーマ・ファミリア】の本拠は酷いことになっていた。
「貴様、何者かしらないが。【ソーマ・ファミリア】に堂々と攻め入るとはな! げふらぁ!?」
「あれ、リリルカ? お前がここにいるとはめずら・・・・・・ぐふぉ!?」
「あ!? パイ様、この人は比較的・・・・・・チャンドラさーん!?」
目に映る、構成員を全員拳で叩き伏せてゆくパイ。そして可哀想にも一人、半分無関係なというか、この【ファミリア】の良識人が吹っ飛ばされた。思わず叫んでしまったが。そんな事は関係ないとばかりに、パイの快進撃は止まる事なく突き進ん行く。
途中で先程、暴行と窃盗を受けた獣人のカヌゥ達が現れたが。姿を見せた瞬間に“茶色に染まった”。この世のものとは思えない断末魔を残して、ビクンッ! ビクン! と痙攣しながら倒れるカヌゥの姿を見て、私の背筋に氷の塊を当てられたかのようなに怖気が立ったのはここだけの話ということにして欲しい・・・・・・。
そして――
「アーデ!! 貴様・・・・・・このような事をしでかして、無事で住むとおもってないだろうな!」
ついに目的地に着いたがそこには二人の人物がいた。メガネを駆けた細面の男と、髪で目元を隠した少年。どちらかがソーマなのか、逢ったことのないパイには判別がつかないだろう。そう思って声をかけようとしたリリルカだが、それより先にパイが口を開く。
「リリ、どっちかな? あの気持ち悪くていやらしい感じのメガネと、気持ち悪い根暗そうな少年。どっちがソーマかな?」
「気持ち悪いメガネ!?」
「ね・・・・・・ねくら?」
その問いの例え方のひどさにあんまりだとは思ったが。リリルカ自身の生理的に無理担当の【ソーマ・ファミリア】団長のザニス・ルストラが怒りに任せて、剣を抜きパイに斬りかかる。
それを見て直ぐに気持ちを切り替え。「気持ちの悪い根暗です!」と告げると。パイは迷うことなく拳打をザニスに叩き込む。メガネが砕け散り、即座にザニスの胸ぐらを掴んんだと思ったら、ひたすら殴り続けるパイ。
さらに、逃げようと這いずりながらも動いたソーマを目ざとく見つけ踏みつける。正しく。これで現状に至るわけですね。ハイ、リリルカもよくわかりませんね。
そして聞くに耐えない鈍い打撃音がしばらく響くのであった。
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「ふむ。いい加減にしなよ? ソーマさん。貴方がちゃんとしないから団員さんたちが悪い方向にいっちゃうんじゃないかな?」
ようやく、殴り終わったのか道端のゴミの用に捨てられる団長。パイ様は紅く染まった拳を下げて、足元ソーマを見る。そのパイ様の眼光に身を竦ませるソーマだが、胆力があるのか、返事を返す。
「知らん・・・・・・下界の子は弱い。私は酒を作れればそれでいいんだ。なぜこの様なことをする?」
「おっけー、わかった。じゃあ今から、このモンスターのフンで作った【こやし玉】を酒ダルに順次投下するね!」
「んなぁ!? っや!! やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
すごく。いい笑顔で青筋を立てるパイは左のポーチから例の危険物【こやし玉】を取り出す。いったいいくつ詰め込んでいるのだろうか?
ソーマの慌てたような叫びに長年の溜飲が下がる思いを感じながらも《匂い的な意味での》危険がないぐらいに後退しておく。
あれは、今思えば気絶できたからこそ幸せだったのだと今ならそう思える。ここに来るまでに二回ほど投げていたが少し離れていても口元に布を当てていても感じる匂いに、リリルカは恐怖した。
そしてカヌゥ達に同情した。いくら糞みたいな奴らでも、糞をぶつけらる事までされることは・・・・・・いや、むしろ軽いですね。リリルカ精神の安定を取るために思考放棄している間に、ソーマが必死に此方に語りかけていた事に気づく。
「アーデと言ったな! 助けてくれ! この下界の子は本気だ。本気で酒蔵を潰す気だ! 頼む、こいつを止めてくれ、いや、お願いします!」
(あんなに必死なソーマ見たことないですねぇ。ザマァ!)
おっといけない。ついつい本音がでてしまった。いつも気だるそうに畑を耕している姿しか見てなかったリリルカはため息をつきながらも危険物をちらつかせる『ハンター様』を止める為に声をかけるのだった。
――――――――――――――
「んで? 反省する気になったのかな?」
1・6倍ほどに晴れ上がった顔の元イケメン系クズ団長を部屋の端に放置し、パイとリリルカは対面で腰を摩りながら座るソーマと対峙していた。
あれだけの破壊活動をしてもやり足りなかったのか、若干不機嫌そうなパイは“いつでもやれるぞ?”と言いたげに【こやし玉】を手で弄んでいる。
リリルカとしてはものすごく危ないものをお手玉みたいにしながら横でいじらないで欲しいと言う気持ちでいっぱいだが、十二分に脅しの材料になっているのも確かなので一先ず放っておく。
「むぅ・・・・・・。すべて団長のザニスに任せていたというのは。確かに私の落ち度ではある・・・・・・か」
理不尽な暴力からの反省の強要というソーマからすれば、たまったもんじゃない現状に渋い顔になるのは当然の事だ。それでも、目の前の眷属の怒りも話を聞いておぼろげながら理解は出来たらしい。
そんな、ソーマの反省の意思を感じ取ったのだろうか、パイも危険物を弄る手を止めていままで疑問に思っていた事をソーマに尋ねる。
「ソーマさんって、お酒の神様なんだよね? そんなに人が飲んだらやばい酒ってわかってながらなんで造るのかな?」
「私には酒造りしかないからな。昔から友神にも“お前は酒以外本当に趣味がないな”と笑われていたよ・・・・・・それに、求めていたのかもしれない。私の造った物に酔うことのない子共というものを・・・・・・いつしか、期待もしなくなっていたがね」
答えたソーマの表情はどこか疲れきったような物であった。ソーマの独白に彼は彼なりの眷属に対して希望を抱いていたことを知った。
だからと言って、それがリリルカにとって許す理由にはならない。
「あんな物があるから、【神酒】なんてあるから。リリは生まれてからずっと惨めな思いをして、生きなければならなかったんですよ! すこしでもリリたちの事を見てくれていたなら。こんな事には・・・・・・」
「・・・・・・っ・・・・・・すまない・・・・・・済まなかった」
小さく――あまりにも小さい、謝罪の言葉――しかし、その痛みを堪えるようなの表情がソーマの心境を物語っていた。
「ふむ・・・・・・ねぇ。ソーマさん。さっきさ、【神酒】で酔うことがない子供がいたらって聞いたけどさ。いたらどうしたのかな?」
「そうだな、あの時はそれ以上の酒を作ろうとそう思い、さらに精を出していただろうな・・・・・・今はどうだろうか」
「ならさ、飲んでみるよ。その【神酒】ってやつを、それで、私が何もなかったらさ、『約束』をしてくれないかな?」
「・・・・・・約束?」
パイの提案を耳にした瞬間。リリルカは自分の耳を疑った。そしてその内容を理解した瞬間表情が強張り、顔色も悪くなるのを感じた。私もまた【神酒】に呑まれた一人である、あれの恐怖はよく理解できていた。
「ダメです! あれはそんな生易しいものじゃないんですよ! いくらパイ様が強くても・・・・・・」
「ありがとかな、リリルカ。でもね。きっとこのままじゃ変わらない。だから飲むよ。お願いできるかな? ソーマさん」
「・・・・・・いいのか・・・・・・? わかった。まっていろ」
立ち上がり、酒を取りにいくソーマを目で追いながらも、リリルカは隣のパイの服を掴む。そのリリルカを安心させる為に微笑みながら視線を向けるパイ。薄茶の瞳と紫の瞳が交差する・・・・・・。
――――――――――――――
パイ・ルフィルは少し後悔していた。
正直酒ぐらいで大げさなと思う部分も多い。しかし、目の前のリリルカの顔面蒼白かつ必死な形相に流石に、危機感を刺激されていた。
あれ? ひょっとしてかなりやばいものだった? こうなったらそれこそ後の祭りでしかない。どうやらモンスター相手には働く危機管理能力もお酒には反応しないらしい。
「どうしてですか! パイ様のお気持ちは嬉しいです。でも危険なんですよ。今からでも遅くありません! アレだけは飲まないでください」
「・・・・・・そんなにやばいやつなのかな?」
流石の【ハンター】的な意味で頑丈だと自負していても、ここまで止められると怖いものを感じ始める。一体何が出てくるんだろうか? もしかしたら、拷問に使えそうなぐらい臭いとか? 飲むと変態するとか? かつてクエストクリアの酒の席で全員が倒れるまで飲むとか良くやっていたが、これでもここまで怯える物ではないはずだ。パイは少し自分の言動を本気で後悔し始めた頃ソーマが酒瓶を持って帰ってきた。
そして。酒器に波波と酒瓶から液体を注ぎ、パイへと差し出す。
「・・・・・・見せてくれ。お前の・・・・・・地上の子供の可能性を・・・・・・」
生唾を飲み込みながら杯を受け取る。先程のリリルカの発言で慎重になったのかまずは軽く香りを楽しむ。とてつもなく芳醇な香りが鼻腔を通り抜ける。そのまま、躊躇することなく。一気に飲み干す・・・・・・。
僅かな期待を含んだ視線をおくるソーマと絶望をその顔に貼り付けるリリルカ。
永遠とも言える一瞬が過ぎ、パイは唇から杯が離す・・・・・・変化があるとすればそれは、とても不満げなパイの表情であった。
「・・・・・・!? パイ様。大丈夫ですか!」
「・・・・・・っ! なんともないのか?」
驚くリリルカとソーマ。二人の様子にパイは自分意思で確かに頷く。そして、強くソーマを睨めつけて断言する。
「ねぇ、ソーマさん。これさ、最早『毒』の領域の飲み物かな?」
――――――――――――――
ソーマは未知の感覚に震えた。
『毒』今ある最高の作品を飲んだ目の前の下界の子から告げられた。
その言葉にソーマは震えた、これは・・・・・・恐怖ではない? いままでの下界の子は何処か我を失い酒を求めるだけの存在へと変わり果ててしまった・・・・・・だが――
(この子供はなんと言った? 『毒』と言ったのか?【神酒】を?)
この子共は違う。その評価そのものに・・・・・・そこに怒りは無い。むしろそう表現するだけの理由を聞きたかった。
「それは、どういうことだ?」
「うん。全てにおいて『美味い酒』なんだろうね。私もこんなの初めて飲んだかな? でも美味すぎて物足りないんだよね。完成された故に、面白くないお酒なんだよ。ソーマさんはさ、苦いお酒って飲んだことあるかな? こっちじゃ結構主流なんだけどね。まぁ、苦いってだけあって、美味しくはないんだろうけどさ。“仲間と苦楽を共にして乾杯する”酒の味は最高なんだよ。分かる? 人の中にある苦しさや。喜びなんて関係なく。酔わせるだけの酒はさ。もはや人には『毒』っていうしかないんじゃないかな?」
流れるように説明される。『ぐぅの音もでない』とはこういう事を言うのだろうか、ソーマはしばし考える。パイの言葉は正しく「目からウロコ」だ。
今までは、『酒』だけしか考えてこなかった。何かに合わせるとか、誰かと酒盃を分かち合う楽しみもまた酒の良さである。そんなことまで忘れていたとは・・・・・・。
「・・・・・・酔わせるだけの、酒・・・・・・か」
「それにね、なんとなく、覚えがある感覚なんだけど・・・・・・」
そう言って、パイは腰の右に括りつけてたポーチから何かの実を取り出す。それを二つ取り出し一つを口に放り込み飲み込む何故か、謎のポージングを取った。謎の行動とは別に本人は確信がいったのかもう一つをリリルカに渡す。
「あの・・・・・・パイ様? これはなんですか?」
「これは、【ウチケシの実】って言ってね。まぁいろいろと悪い効果を打ち消す実なんだよ。変なものじゃないから食べてみて欲しいかな?」
「説明を聞く限りはすごく、変な物なのですが・・・・・・では、いただきます」
ものすごく、怪しいと思いながらも【ウチケシの実】を飲み込む。すると、彼女の中で今まで「普通」だと思っていた物が、初めから無かったように視界と思考は透き通るように広がってゆく。【神酒】の幸福感とは違う感覚にリリルカの表情が驚きに染まり。周りを見渡し、何かを確かめるように頭を降る。
「これは・・・・・・?」
「!? どうしたんだ、アーデよ」
「ソーマさんのお酒を飲んだら中毒になるって話だったし、飲みすぎた時によくやる『酩酊』状態を直す時とかにね。私もやってる方法だったんだけど・・・・・・案外上手くいったかな?」
この下界の子はその様な知識もあるというのか・・・・・・ソーマは感心する。しかし、周りを見渡していたりリルカの視線がある一点に向けられた瞬間リリルカの様子がおかしいことに気がつく。
「・・・・・・? アーデ、どうし・・・・・・?」
リリルカの視線が【神酒】に向かった瞬間状況は一変する。突然リリルカの顔面が蒼白になり体がひどく震えだす。手だけが忙しなく動き。
近くにいたパイの服の裾を掴んだ瞬間恐ろしく感じるぐらいの力で抱きつくが何故か視線だけが【神酒】を離さない。
「リリルカさん・・・・・・っ!? ソーマさん! 直ぐに【神酒】を隠して! 早く!」
その様子に何かを気づいたパイは叫ぶようにソーマにに向かって急いで【神酒】を元の場所に戻すように指示する。
「・・・・・・!? わっ、わかった!」
ソーマも目の前の状況に一瞬だけ慌てたが。直ぐにパイの指示通りで【神酒】を元の位置に戻し急いで眷属のもとに戻る――
――そして、戻った先でが見たのは、震えながら恐怖に耐えている子供であった。その瞬間、『毒』と呼ばれた、その意味をソーマは悟った。
今、自分の目の前の眷属を“ここまで追い詰めた原因”の正体を、いままでそれを認めずに見なかった己の行いの意味を・・・・・・。
湧き上がる罪の念がソーマに降りかかる。そして、まるで“一人の人”のように、“酒の事しか頭になかった愚者”はその瞳から初めて後悔の涙を流すのであった。
――――――――――――――
パイ・ルフィルはリリルカと共にベッドに並んで寝ていた。
ここはリリルカが贔屓にしている宿屋の一室である。
時刻は夜であり、時折飲み屋からの歓声や怒声が聞こえてくるが、そんな程よい喧騒以外は静かな夜の部屋にパイとリリルカは居た。
あれから、後悔の念に押しつぶされそうなソーマと【神酒】と言うトラウマに震えるリリルカを落ち着かせ、ソーマにある『約束』を取り付けさせてから【ソーマ・ファミリア】のホームを出た。
その足で。ヴェルフの工房まで戻ったまでは良かったのだが。そこには数時間前と同じか・・・・・・いや、それ以上にハッスルしちゃった三人の鍛冶馬鹿の姿があった。
もう、諦めた。パイは疲れきった溜息を吐いて外に出ると、近くをたまたま歩いていた鍛冶師の女性に頼んで“外で泊まってくると”メモを書いてもらい工房の目立つところに置いてきた後、再度街の中を散策する事にした。
すると、中央の《バベル》の広場に先程別れたばかりのリリルカがぼうっとしている姿があった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
沈黙、お互いに目が合っているが声をかけることもない。リリルカからの意思の表示も見られない。パイ自身も、流石にリリルカがこの短時間で起こった事を纏める時間が必要であることは理解している。だから特に声をかけないというだけなのだが。
しかし、気になった事もあるのでそこだけは確認しておく。
「もしかして、【こやし玉】の臭い取れなかったかな?」
「真っ先に、そっちを心配するんでしたら使わないでくださいよ。パイ様」
「いや、だって傷つけずに無効化しようとしたら、あれがベストじゃないかな?」
「精神的な傷がすごく酷いんですよ! そうですね、こういうのは責任を取ってくれないといけないですよね?」
「ふぇぇ・・・・・・食べないで欲しいかな」
「食べませんよ! 人聞きの悪い事をいわないでください」
「冗談かな」
「ですよね。じゃあ夕飯でも付き合ってください」
そして、コレまでの愚痴を聞くためにりリルカの部屋に来ている。一種の女子会だろう。そして、リリルカが思った以上に脱いだら凄い事に気づき、心の中で血涙を流したのは今回は内緒の話だ。
日が暮れて、喧騒が遠ざかる。時間は深夜になり。初めは盛り上がっていた二人の会話も、自ずと少なくなってくる。
「・・・・・・パイ様。今日は、本当にありがとうございました・・・・・・」
ぽつりっと呟いた、りリルカの言葉は小さく。夜の闇に溶ける返事をするのも簡単だが。だが、パイは聞こえない振りをした。
そして、ふと昔の事を思い出す。
かつて、『ハンター』になるなんて思ってもいなかった頃。初めて『ハンター』としてのユクモのハンターの姉さんに出会った事。
凶悪な『雷狼竜《ジンオウガ》』が居てると言うのに、たかだか腕っ節の強いだけの愚かな子供は薬草を取りに【渓流】に村を抜け出して入った。勿論大人達は十分に注意していた。少女の身体能力はそれをくぐり抜けられるものであったと言うだけの事だった。
しかし、初めて見る大型のモンスターという存在とあの強大な姿と咆哮怯え潰れかけの廃屋の中に隠れるぐらいしか幼い子供にとっての自衛の手段は無かった。ジンオウガの息遣いすら伝わる距離で恐怖に耐えることの出来ずに、少女は廃墟を飛び出し駆け出すがジンオウガにとってそれは餌が飛び出したに過ぎない。
すぐに追いつかれ吹き飛ばされる。山の斜面へと転がる少女は追い詰められ必死に逃れようとするが、数歩分の距離が取れただけであったすると、急に雨が降りだし遠くの空で巨大な蛇のようなものが舞っているのが見えた。あるいは幻覚だったのか・・・・・・。目と鼻の先までゆっくりと近寄ってくる、ジンオウガの体毛から漏れ出した電が輝きを強くする。
“食われる”大人の注意を無視して来た事を後悔し、目を閉じた瞬間――肉の潰れる音でもなく骨が砕ける音でもない、風を切る音と食料を狩りに行くときによく耳にする音が――矢が突き刺さる音が響いた。
ジンオウガの肩に明らかに普通のサイズではない矢が刺さっていた。ジンオウガが振り向き。少女もそちらに顔だけを向ける。
そこには、強弓を構える数ヶ月前から村の専属になった暇な時などに遊び相手になってくれる女ハンターがいた。いつも馬鹿騒ぎと温泉を堪能している姿とは違う“少女が見た事のない『ハンター』”の姿があった。
ハンターとジンオウガ。狩人と雷狼竜の戦いは少女の目には神話のように映った。
雷光が轟き、閃光が舞う。弦が引き絞られ、射られた矢尻が閃光を反射し輝きを放つ。
そして、何十という攻防は紙一重で避けたジンオウガの爪の一撃から、狙ったように極限まで引き絞られた弓矢による眉間を打ち抜くことで終わった。
最後に輝きを強くした物の力を失い倒れるジンオウガを荒い呼吸を直しながらも弓を構えるハンターそして、確実に討伐できたことを確認すると少女に向かって、いつもの用に笑いかけるのであった。
ジンオウガ相手に幼い子供をである、少女を守りながら戦う彼女の姿は今も忘れることのできない大切な記憶だ。
自らも傷を負っているのにかすり傷を追った少女を先に治療してくれた。
あの優しいハンターはそのあと。親のいない震える・・・・・・私と一緒に寝てくれたっけ。
なんで、今はあんな感じになったのだろうか、かつては真面目な部分もあったユクモのハンターの昔の記憶を思い出しながらパイはクスリと笑う。
「そっか・・・・・・ちょっとは、近づけたかな・・・・・・」
「・・・・・・パイ様?」
「ごめん。なんでもないかな・・・・・・じゃあ、もう寝ようかな、おやすみ、リリルカ」
こうしてその日は静かに眠りにつく。朝にはリリルカは【ソーマ・ファミリア】のホームへと出かけて行きパイもヴェルフの工房へと戻る・・・・・・しかし、そこに広がる光景にパイの表情は引き攣ることになる。
「いい加減にするといいかな? どんだけ人の装備みたら気が済むのかな?」
徹夜で丸一日装備をいじり回しているバカ三人の姿に、ここ最近もっとも多く行っている【落ち込む】動作を行うのであった・・・・・・。
ついにでました。『こやし玉』まったくもって、ひどい話です。
最後にいい話みたいな展開になりましたが、ぶっちゃけこの主人公。かなりえぐいです。
しかし、大タル爆弾で仲間を吹き飛ばしてもその仲間に笑って許してくれるぐらいの『被害』ですんでいるような世界の住人ですからね。
『ハンター』は自他共におおらかな人種なんでしょう(褒め言葉ではない)
ではまたの機会で。