ハンターが飛び込んだ先がダンジョンなのは間違っているだろうか?   作:あんこう鍋

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やっと、ベル君を出せました。
彼のような純粋な子って何というか・・・・・・いぢめたくなりませんか?
あっ、はい自分ぐらいですよね・・・・・・。

誤字報告ありがとうございます。
思ってた以上にアラがあって本当に助かります。

ちょっと書き直しました。あと話が前編、後編になりました。


『白兎を鍛えてみるのは間違っているのかな?~肉体改造編~』

 ベル・クラネルは筋肉痛に苦しんでいた。

 

 何故なら筋肉痛とは筋肉に負担をかける事で損傷させる事で鍛えることができる。その代償がこの痛みであり詰まるところ。肉体を酷使した結果でしかない。

 

 少年と呼ぶに相応しい華奢な体つきの百人みれば8割は可愛いと評価するであろう、白兎のような容姿の少年。ベル・クラネル。彼がこのような状態になっているのには勿論理由がある。

 

 その理由とは、彼が『ある人物に弟子入りをした』結果、その初日での修行を終えた次の日であるというものだ。

 

 修行。はっきり言って無茶苦茶地味な上にきつい。ベル自身思い出せば、いっそ笑えても来る、笑うと腹筋が悲鳴を上げるので止めておくことになったがそれぐらい地味であった。

 

 これも、自ら望んだ結果であるのでベル自身は気にしていない。むしろ、そんな事はどうでもいいとさえ考えていた。

 

 これは少年のプライドであった。「たった一日で弱音が出てしまいそうになるのが、たまらなく悔しかった――強くなりたいな・・・・・・あの《英雄譚》に出てくる人たちみたいに・・・・・・。」

 

 その想いを胸にベルはかけなしの気合を入れて起き出すのであった。

 

 これはパイとヘルメス達がたどり着いた一軒家の客室。そこにはパイとベルと名乗った少年がいた。

 

 ヘルメス達はこの家の家主と会談があるらしく、のけものにされた者同士で話すのは自然な流れであった。

 

 特定の行動さえしなければ、「とても気のいい人」であるパイの人柄に人見知り気味な少年でもあるベルも直ぐに打ち解けていた。 

 

 なにより、会話の中身は殆どが『ハンター』の狩人譚である。これもベルにせがまれての事であるのと、昔の話ではあるがパイ自身の幼少期に現在の姉貴分に噺をせがんだ姿と重ねて見えたのもあった。

 

 手振り身振りとコロコロ変わる仕草も相まり不思議な臨場感のある話し手の・・・・・・ベルに取っては祖父から子守唄のように聞かされた英雄譚と同じくらい素晴らしい冒険譚に次第に惹かれ、引き込まれていった。

 

 【大陸】での常識は、この世界ではさぞや喜劇に聞こえるだろう。「絶命すると巨大な閃光を生み出す虫」や「武器を研ぐことのできる鱗を持つ魚」などの素材の話等等、語るたびにベルは面白いくらいに反応していった。

 

 そして、そこに僅かしかいない《モンスターハンター》と呼ばれる絶大な力を持つ、英雄が紡ぎ出す英雄譚の数々に少年のテンションは頂点へと登っていた。

 

 たった一人ではないが、彼は知らないだろうが、アイルーと呼ばれる亜人と共に強大なモンスターに立ち向かい狩猟していく。そんな『ハンター』達の物語。その知恵と武器、時には機転と道具を駆使して戦い強敵を打倒してゆく。

 

 そこには正しくベル・クラネルの求めている『英雄像』があった。しかし、そんなベルの心を知ってか知らずかパイは若干の苦笑を浮かべながら話しを締めくくる。

 

「とはいえ、そんな英雄的な人たちも他の『ハンター』とそこまで違うわけじゃないかな。ポッケっていう村を【崩竜《ウカムルバス》】から守ったハンターなんて。毎回会うたびに筋肉に着いて語りだす変人だしね」

 

「とても、親しみやすい方なんですね・・・・・・かっこいいなぁ」

 

「え? 今の会話の何処にかっこいい要素あった?」

 

「だって。すごくお強いのにそれをひけらかす事なく居るのって・・・・・・こう、“強者”って感じがするじゃないですか!」

 

「ええっ? そっ、そうかな~~?」

 

 そんな会話で終わった物のベルの中にその憧れに対する素直な情熱がその熱上げていた、逃がす事のできない熱意。それを叶えてくれるかもしれない『ハンター』が目の前にいる。

 

「パイさん・・・・・・僕を『ハンター』にしてくれませんか! お願いします!」

 

 ベルは即座に弟子入りをお願いしパイを驚かせた。パイからすれば日常の話をしていたらいきなり頭を下げて弟子入りされたのだ。驚かない方が不思議である。

 

 しかし、「お願いします」と言われて「はい、分かりました」とは言えないので理由を尋ねると、ベルは気恥かしそうに語りだす。

 

「僕・・・・・・前にゴブリンに襲われちゃって。ボコボコにされちゃったんですけど、お爺ちゃんが助けてくれたんです・・・・・・でも、このまま弱いままなんて嫌なんです」

 

「それで、『ハンター』に? でも子供であるベルがモンスターに襲われて生き残ってるだけでもすごいと思うかな・・・・・・」

 

「・・・・・・になりたいんです」

 

「ん?」

 

「『英雄』になりたいんです。こんな弱っちい僕じゃ何を言ってるんだ、って思われても仕方ありません。それでも誰かを守って笑顔にできる。せめてそんな自分になりたいんです」

 

「・・・・・・はっきり言って。私の訓練ってぶっちゃけ地味できついよ?」

 

 パイは目の前の少年に最終確認をする。

 

「はい、覚悟の上です。お願いします!」

 

「はー、まぁいいかな・・・・・・その代わりどんだけ最長でも一年。弱音がひどくなったらそこでおしまい。そして家族に許しを貰うこと。それが条件だよ」

 

 パイの言葉にベルはみるみる顔の表情をを輝かせてゆく。ヘルメスとの会談を終えた祖父に即座に許可を得ようと駆け寄り、快く許しを得て喜びに飛び上がるのであった。

 

 

 そして、次の日。修行の一日目である。

 

 パイは一番の基本から。と語ったのは“基本的にハンターと一般人の身体能力の差は埋めるのは難しい”と言うものであった。初っ端からまさかの、弟子のやる気を潰す言葉にベルの頬が引きつる。このあと、別の意味でさらに頬が引き攣ることになる。

 

 しかし、これは基本として知らなければならないことでもある。そもそも『一般人』と『ハンターになれる素質のある人種』はその身体能力からして違う。

 

 恐ろしい、重量の武器と鎧を身にまとい走り回り。壁を登り。モンスターの戦闘ではその重たい一撃を受けて立ち上がる。他にももろもろ有るがハンターになる最低の条件を目の前の少年は“素質”からして持っていない。

 

 雲一つない・・・・・・とは言えないが晴れやかな晴天の下。ベル達が住む村から少し離れた場所に二つの影がある。

 

 一人は純朴そうな少年だ。白髪とルビーのような赤い目が特徴の兎を連想させる。今年で13際になるが年齢に比べて背丈も低く華奢な体型に加え、善人丸出しな表情が彼の人の良さを伺わせるような印象を他者に与える。

 

 爽やかな風と、暖かな陽気の中で今だ風には冷たさが残る。 春の訪れは少し先であるが、今より行われる訓練の事を思えば丁度いい気候であると言える。

 

 その風に揺られる少女は中々に色物であった。農村では珍しくない地味な色合いの服装のベルと比べると、若干のくすみのある白髪と水晶のような紫の瞳を持った少女。

 

 一見すると姉弟のような二人だが、少女は猫の耳を象ったようなヘアバンドと。蝶の羽をデザインしたような鎧・・・なのだろうか? 肩から袖にかけてアゲハ蝶を連想するような鮮やかな色彩の模様と、意味があるのか背中の部分には小さく綺麗な羽が生えている。

 

 袖には花の花開く前の花弁のようにユラユラと風に吹かれ揺れる姿は、確かに見る人が見れば情緒もあるかも知れない。それなのに腰に装着しているスカートは生地が厚めで、同じ昆虫で言うならばサナギのような“硬いもの”のイメージを出している。

 

 そして、何故か足には鉄製の具足がつけられている。

 

 はっきり言って。目立つしダサい。

 

 初めてその姿をみた、ベルは彼にしては珍しくちょっと引いた。

 

 彼の祖父に関しては「これは、神の感性じゃの。痛すぎるし属性もりすぎじゃね?」とつぶやくほどである。

 

 まさしく少女・・・・・・パイ『ハンター』としての装備を身にまとった姿は異形と呼ぶに相応しい格好であった。

 

「ベル。見てるといいかな。今から【双剣】のいくつかの型を見せるから」

 

 そんなイタイ系装備に身を包んだパイは背中から対になった剣を抜き放ち構える。

 

 青みがかった刀身と紅の光沢が映える刀身は武器というよりも。芸術品に近い美がそこにはある。

 

 そして、それを扱う彼女もまた、その剣を構えた瞬間に少女から狩人へと変化する。

 

 息を小さく吐きパイさ動く。左の剣を外側へと下から上へと斜めに払う。

 

 青の刀身が残像を走らせ、左の肘を曲げながら右脚を前に出して体重移動しながらも、右の紅刃を斜めから袈裟斬り気味に落とす。

 

 そのままの勢いを利用して、左に回転を加えながら両手の剣を同時に振り抜いてゆく―― 

 

 ――これは舞だ。力で振り回しているのでもなく武器に振り回されているのでもない。

 無駄な動作を極限にまでなくした動き、その美しさは敵を屠るための技である事すら忘れてしまう。

 

 洗礼された武芸は芸術の域に達すると何処かで読んだ気がするが現物はこれほどの美しさになるのか、その所作を見逃すまいとベルは瞬きも忘れて見る。

 

 パイは一連の斬撃の型を続け様にベルの前で演舞してゆくそして、徐々に剣を振る速度が上がって行く。

 

 最終的には、蒼と紅の剣の残像がまるで半透明なカーテンをそこに幻見させてゆく。

 白き髪が、服の裾が、スカートの布が、本来の動きの激しさをそのはためきで表現しているはずなのにまるで、一つの完成系であるかのように違和感なく顕在する。

 

 まるで妖精が舞うような幻想的なまでの光景にベルは自然に見惚れていった。

 

 すべての剣舞が終えて、パイが此方にに向き直る。彼女の目には何故か頬を赤らめているベルの姿が映った。小首を傾げると、ベルは慌てて顔を隠した。

 

「どうしたのかなベル?」

 

「へ? あっ、いえ。なんでもないです。パイさん」

 

「? まぁいいかな? じゃあ早速だけど、この剣を持ってみてくれるかな?」

 

 ベルは自らの頬に熱が篭るのを自覚しながら羞恥で赤くした顔で『オーダーレイピア』の刃の部分を持って柄の方を差し出された柄を握る。

 

 掴んだ瞬間、目の前にある武器の暴力的な、鋭利な刃物である剣を前に喉を鳴らす。ベルが柄をしっかりと掴んだことを確認すると刃の部分からパイが手を放す。

 

「――えっ!? おっ、重い・・・・・・! あっ!?」

 

 手が離された途端に予想外の重量に、ベルはバランスを崩し剣からつい手を離してしまい落としてしまった。

 

 ベルの手から剣が地面に落ち、鉄同士がぶつかり、高めの音が響く。情けない失態にベルの顔面にさらに血が集まるのが分かった。

 

 農具ぐらいしかまともに使ったことのない彼に、いきなり持たせるような物ではないではないのか? 

 

 若干維持の悪さが出たが、だからこそ“少年に現状がはっきり分かる方法”として。あえて恥を与える事が目的であった。

 

 ベルの表情から情けなさで涙が出そうになっていた、というかちょっと出た。

 

「すいません・・・・・・大事な武器を落としてしまって・・・・・・」

 

 涙を目尻に貯めて謝るベルに対して、パイは微笑みを崩すことなく落ちた愛剣を拾う。軽々しく持ち上げる姿によりベルの表情に影が指す。

 

「これぐらいで潰れたりしないから、大丈夫かな? それよりベルはさ、ゆっくりでもいいからこの剣を持って、私と同じ動きができると思うかな?」

 

 パイの質問に対して、ベルは少し考えてから諦めたように首を横に振った。

 

 とてもじゃないがこんな重量物を降るうなんてできない。両手で一本を持ってゆっくりであるならば今のベルでもできるであろう。

 

 しかし、片手となると・・・・・・そんなこと自分にはできないとベルには思えた。

 

 その答えが浮かんだ瞬間――ベルはある事に気づき、そして顔を上げる。

 

 その僕の様子に満足げに頷くパイ。ベルは自身の考えが正解であったとわかったその時に“ハンターと一般人の違い”を理解する。

 

 少なくとも目の前のパイはベルと似たような身長で、体格もそれほど変わらないのだ。

 

 しかも噂に聞く【神の恩恵】も受けていないという。

 

 パイが何故、一番最初に”あんな事を言ったのか”一連の流れが、最初から理解させた方法としても納得がいった。

 

「だから、ベルには当分の間コレを睡眠時以外の時間、背負って生活してもらおうと思ってるんだ。こっちに来て出来た友達からの贈り物だから。大事にしてね?」

 

 そう言って差し出されたのは胴体に固定できるベルトと腰に固定されている。対になった二振りの剣である。

 

「まず、武器の重さに慣れること。そして、私の前でゆっくりと動作に慣れていく訓練。あとは調合とかかな」

 

「え? パイさん。それだけでいいんですか?」

 

 もっと、スパルタになると思っていたベルは思っていたよりも軽そうなトレーニングの内容に拍子抜けしたような表情を浮かべる。

 

 だが、ベルはこの時は気がついていなかった。この時点でかなりのスパルタであることを・・・・・・。

 

「うん、いいよ。まぁ明日には地獄を見ると思うけどね?」

 

 不穏な事を笑顔で言われ、ベルの表情は引きつる。一体明日からなにをさせられるのか? 不安を感じながらも言いつけ通りの訓練を開始する。

 

 気がついたのが訓練を始めて1時間ほどした頃だ・・・・・・。案外軽いと思っていたが、長時間身につけるとその辛さが良く分かる。

 

 徐々に背筋と腹筋が引き攣るような。妙な痙攣を感じた瞬間。同時に強烈な痛みがベルを襲う。

 

「いぎぃ!?」

 

 いままで感じたことのない“痛み”に体をよじろうとするが、激痛が更に酷くなるだけであった。困惑と焦りが、冷静さを失わせてゆくベルのその姿を数秒見ていたパイが動く。

 

 痛みから逃げようと動こうとするのを逆に止め無理やり直立させる。するとあれほど酷かった。痛みが引いてゆく。荒れた呼吸を戻しながらベルはパイに向かって視線を向ける。

 

「まぁ、慣れてないと痛いよね? 人間って慣れない筋肉を使い続けると痙攣して吊っちゃうんだ。これがすごく痛いんだよ。今のベルが体験したのがそれかな? こういうときは痛みの部分に引っ張られるのと反対に引っ張らないと痛みが引かないんだ。ちょっと楽になったかな?」

 

「ありがとうございます、はい。まだズキズキと痛いですけど、さっきより楽にはなりました。」

 

 そこで、ベルがふと思い出す。

 

 この痛みの原因を今も背負い続けている。それに確かパイはこう告げたはずだ。

 

 “睡眠時間以外はずっと背負う事”と、一時間前の自分を殴ってやりたくなる衝動がベルの中で浮かぶ。

 

 これを“それだけで”で片付けた甘さをベルはこうして、“しっかり”と身にしみて痛感する事となる。

 

 初日の訓練終えてフラフラになりながらもなんとかベッドにたどり着いたのだが・・・・・・ベルの苦難はまだまだ続き――

 

 ――そして冒頭に戻る。

 

 全身が筋肉痛でまともに動くことができないほどだ、“なるほど、確かに地獄だ”と納得し、歯を食いしばりながらもどうにか起き出す。

 

 ベッドの横にある筋肉痛の原因の“ハンターの命”でもある武器を背負い。姿勢を正すとキッチンへと移動する。

 

 キッチンにはベルの祖父が椅子に座りながら、熱い茶を飲んでいた。

 

 ベルが“おはよう、お爺ちゃん”と声をかけると祖父も。“おはよう、ベル”と返してくれる。

 

 そして祖父は続けて暖かい眼差しでしみじみと語る。

 

「なんというか、起きたらキッチンで女の子が料理を作ってくれるってのは男の夢の一つだと。そう思わんか? ベルよ。しかし、これは違うんじゃよ・・・・・・」

 

 そこで。ベルは初めてキッチンにパイがいることに気がついた。

 

 邪魔にならない程度に軽く編んだ三つ編みが、動くたびにユラユラと揺れている。

 

 若干サイズが大きく余裕のあるエプロンと袖のまくった腕はなんというか、生活感がでていて現実的な良さがでている。

 

 この光景に祖父が言いたいことがよくわかる。

 

「ああ。おはよう。ベル。体の調子はどうかな? 多分、筋肉痛がひどいと思うけど」

 

 微笑みながら語りかけるその姿はなんというか・・・・・・こう、あれだ

 

「じいちゃん・・・・・・」

 

「ベルよ・・・・・・」

 

 僕たちはお互いに見つめ合う、きっとこの瞬間、男二人の認識は一緒になったはずだ。

 

「「これ、世話焼きの背伸びしてる妹だ! 決して若妻とかじゃない!!」」

 

「うん、それは私がチビって事かな? 二人とも本気で殴られたいのかな?」

 

 にぱーっと笑うパイに。“笑顔ってのは威嚇の意味があるんだと”目の前に突然現れた木製のおたまを視認した瞬間。二人のバカは床に沈んでいた。

 

 その日から彼女の身長などの話は基本的に禁句となったのは言うまでもないことだろう。

 

 

 それからも、訓練の日々であった。

 

 訓練事態はすごく地味である上に肉体的にきつく、目に見える成果がでないのが精神的な意味でもベルを追い込んでいった。

 

 それでも愚直なまでの前向きさで、重りをつけ続ける訓練を行い続けた。

 

 そして、そんな生活にも慣れてきた頃。

 

「ベル、あれから一ヶ月が経ったね。どう? だいぶ身体の方も慣れてきたと思うけど」

 

 初夏の頃。パイのその質問にベルはこの数日の事を思い返す。とにかく毎日のように疲れて寝る生活ではあったが、言われてみれば体が軽いような気がする。一ヶ月前の恥辱を味わったあの日のにような剣の重みを腕で支えられないなんて事もない。

 

「そうですね、全然違います。最近は筋肉痛になる回数も減ってきましたし。もうちょっと動いてみても大丈夫かもしれません」

 

「ベルは農業で使うような筋力はあっても、戦闘で使う筋肉が弱かったんだよ。だから慣れるまでと思ったけど、全然早い段階で慣れちゃったね。明日からは、体幹を支える以外の、筋力の増強と戦闘訓練も入れていくよー」

 

 その言葉に僕は思わずガッツポーズを取る。

 

 愚直なほどに地味な訓練を続けていた結果が、やっと現れた事に確かな喜びを感じていた。

 

「じゃあ、明日からこの木刀で殴り合いになるかな、あ、勿論装備は付けたまんまだからね」

 

「え・・・・・・?」

 

 前言撤回――どうやらここからが本当の地獄のようだ。

 

 次の日から、確かに戦闘訓練が追加されたのだが。ベルは自らががまだまだ井の中の蛙でしかないと再確認させられただけだった。

 

 開始してから3秒で気絶させられて。限りなく弱いベルのプライドは再度砕かれた。

 

 この一ヶ月の間に不思議には思っていたが何も言わなかった成果である、パイが作っていた木刀での模擬戦で殴打され気を失う。

 

 起きて、殴られ、気を失う。これがほかの訓練や休憩時間以外ずっと繰り返させられる。

 

 そして、地味に辛いのは『調合』の訓練だ。なんでも『ハンター』は各自で自分の道具を作るものらしい。

 

 そのほうが安上がりだという、勿論すべてがそうではないのも最初に説明を受けていた。

 

 とにかく、実践あるのみ、説明だけを受けてもちんぷんかんぷんなベルは大量の『もえないゴミ』を生成していく事となる。

 

 それから、三日かけて二分。七日かけて八分。二十日かけて二十五分と“気絶することなく戦える”時間を増やしてゆく。

 

 生傷が絶えることはないが。それでも食いついてくるベルに、パイも訓練の厳しさを上げていく。

 

 修行開始から四ケ月が過ぎると、戦闘時間が一時間を超えた。

 

 それも、この一ヶ月間は気絶することなく。二人の訓練用の木刀もその摩耗の都合から、八代目になっていた。

 

 武器を使った演舞の方も身体の体幹を崩さずに、振るような振り方が僕に適しているのがわかってきた。

 

 修行を開始して三ヶ月以上はすぎたが、ベルの体格はいまだ同年代と比べても小さい。筋力のみで振るのは体への負担が大きすぎると言う事で、筋力よりも体術を主軸に戦うスタイルを身体に覚えさせていった。

 

 修行も四ヶ月を超えると、少しずつ感覚がわかってきたのか、見違える程に『調合』の成功率が上がっていった。

 

 そして、武器の扱いもやっと慣れてきた所で、パイからある提案を受けることに。

 

「ベル。私は思うんだけどね。ベルは反射神経と反応速度が高いと思うんだ。そこで、これからは【ブシドー】のスタイルの練習をしようと思うんだけど、どうかな?」

 

「【ブシドー】って確か、相手の攻撃をギリギリまで引きつけて回避して、相手の攻撃後の隙に攻撃する。カウンター重視の戦い方でしたよね? たしか、パイさんの先輩にあたる方の戦い方だったと聞いた記憶があります」

 

「あれ? だいぶ前に教えたのにちゃんと覚えてくれてたんだね。うれしいな。うん、その通りだよ。ベルには合ってると思うかな?」

 

「うーん。ですが、今の戦い方が崩れちゃうのも怖いですし・・・・・・考えものですね」

 

「敵の攻撃をサッ、っと避けて斬撃を叩き込む! カッコイイと思うな」

 

「パイさん【ブシドー】の、ご教授おねがいいたします!」

 

( 僕ってすごくわかりやすい。だって「カッコイイ」って言われたら仕方ないじゃないか、浪漫? わかってるよ)

 

 そんな会話を挟みつつも、確実に戦い方を覚えていくベル。元々の戦いの素質があったのか、確実に力をつけてゆくベルに対し調子に乗って訓練を課してゆくパイ。

 

 時に、重石替わりに祖父を抱えて搬送する訓練や、崖を上り下りする訓練、多種にわたる『想定』を踏まえた修行の日々は続いていった。

 

 五ヶ月も過ぎると、基礎的な部分はかなり形になってきた。それをみていたパイは頃合だなと呟くと、ベルに次の修行の内容を告げた。

 

「ベル。明後日から『実戦』を交えた修行にしていくかな。もう十分戦えるとおもうかな」

 

「・・・・・・はぁ!?」

 

 少年の苦難はまだまだ続くのであった。




最近。MHXXの久々に起動しました。セーブがブッ飛んでいました。ヤッタネ。これから新鮮な気分で素材がとれるよ・・・・・・! ちくしょうー

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