ハンターが飛び込んだ先がダンジョンなのは間違っているだろうか?   作:あんこう鍋

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ようやく、主人公がオラリオに戻ってきました。
そして続々とおかしくなっていく神々・・・・・・オラリオはどうなっていくんでしょうかねぇ?


『落ち着いた頃に目立たずに戻る。そのつもりだったかな?』

パイ・ルフィルは異様に上機嫌であった。

 

 燦々と輝く太陽の下【オラリオ】の街の日常は動き出す。『冒険者』相手の商売もあるのでオラリオの朝は早いとは言えど、仕込みから始まる夜明けからは数刻は経過しており、昼時には少しばかり早い、所謂かきいれ時前の休憩時だとする時間帯だ。外を歩く人も疎らではある。そんな中で叫ぶ物の影があった。

 

「オラリオよ! 私は帰ってきたー!」

 

 人々の視線が大声の主に向く。そこに居たのは子供だろうか? 身長は低く小人族《パルゥム》のようにも見える。しかし《冒険者》っぽくない容姿と村娘の格好がよく似合うので、子供がはしゃいでいるのだろうと結論付け興味を失い人々は元の生活へと戻っていく。

 

 子供の正体――それは、言わずと知れた。かつてこの【オラリオ】で『妖怪フン投げ』の名を(実に不名誉だが)欲しいがままにしていたパイ・ルフィルである。

 

 ベルと別れてから、一ケ月の差を開けて戻ってきた久々の【オラリオ】である。

 

 約一年ぶりのオラリオは変わらずで、かつてのやりすぎて、雲隠れせざるを得なかった一週間の惨劇などなかったかのようだ。

 

 久々の帰還に心躍る彼女だが。その背後に巨大な影が生まれた事に気づいていなかった。そして――

 

「そしてぇ・・・・・・突然の拉致!? だれかな!? この筋肉な猪人《ボアズ》さんは、少なくとも貴方みたいな人は友人にいないかな? 現在進行形で俵のように背負われて・・・・・・バベルに入ったー。そしてエレベーターに乗ったー・・・・・・そろそろ降ろしてくれないかな?」

 

「悪いが。主からの命令でな。運が悪かったと思って諦めてくれ。俺だって子供を誘拐したなどと思われたくはない。」

 

「誰が、幼女体型のチビッ子だって? 私の身体を離した瞬間――かつて、オラリオを恐怖に陥れた【モノ】が火を噴くことになるかな?」

 

「・・・・・・その“モノ”が何かは判らんが、俺が悪かった。許してくれ」

 

 ――まさかのオラリオに入ってから数分で拉致されてしまった、パイ。目にも止まらぬ実に鮮やかな犯行だ。

 

 首根っこを掴まれたと思った瞬間には地上から飛び上がり、建物の屋根の上を音もなく走り抜け、一直線に《バベル》のエレベーターまで連れ込まれた。

 

 ちなみに先程のセリフはその間、拉致されてエレベーターに乗るまでの間なのだ。

 

 例えパイの声が一般人に聞こえていたとしても断片的なものしか聞こえなかったであろう。

 

 パニックは一瞬だけで、速度に比べて安全を考慮されていると気づいてからは若干の投げやり気味な気持ちに浸される。

 

 彼女には耐性があったのだ。毎回騒ぎに巻き込む“温泉大好きな女先輩ハンター”の奇行に巻き込まれた結果としてだが・・・・・・。

 

 そもそも、あの先輩ハンターは・・・・・・(以下略)

 

 ――閑話休題――

 

 あれから。エレベーターはかなりの高さまで上り、目的地へとたどり着く。

 

 パイはまるで物みたいな扱いで俵のように抱えられたままのそこにある部屋にあるベッドに下ろされる。そこで、拘束は解かれたものの、別の意味でピンチであるとやっとここで気づく。

 

 パイ自身は己の体格・・・・・・所謂“幼児体型”に近いと自負している。しかも、童顔ではある。どちらかといえば中性的な顔立ちは見るものでも、少女のようにも、少年のようにも見える。故に、自分がそのような対象になるとは考えていなかった。

 

 しかし、どうだろうか。【目につかずに拉致されて】【誰もいないであろう部屋のベッドに下ろされる】もう。身の危険しか感じない状況に非常にやばい。っと背筋が凍るのを自覚した。

 

「ただいま戻りました。フレイヤ様」

 

「お疲れ様。ありがとう。オッタル」

 

 第三者の声に向かって振り返る。その視線の先、パイの目の前に近づいていた人物の・・・・・・声の主の姿を見た瞬間パイは叫んだ。

 

「まっ、まさかの痴女がいた! まさかの展開かな! 筋肉さんと痴女に襲われちゃうのかな!?」

 

「初めまして・・・・・・って誰が痴女よ! オッタルにはなにもさせないわ。襲うのは私だけよ」

 

「そんな、変に露出が多い服きて痴女じゃないとかおかしいかな!? っと言うか、やっぱり痴女じゃん! しかも、なにそのおっぱい! 私へのあてつけかな!」

 

「痴女・・・・・・プッ」

 

「オッタル!? そこ笑うところかしら!? まぁ、いいわ・・・・・・ねぇ、貴女、私の所有物《モノ》になりなさい」

 

 そこに居たのは。銀髪の美しい娘であった。

 

 おそらく男性であるならば十中八九が見惚れるであろう完璧な容姿に、魅惑を含めた唇から漏れる吐息がパイの耳元に掛かる。

 

 大概の人ならばこうやって落としてきたのだろう。アスフィから聞いていた。“美の女神”からの《魅了》がパイに襲い掛かるが。

 

「だが、断る!」

 

「なん・・・・・・だと・・・・・・」

 

 あっけなく断られた事に。女神。フレイヤの表情が驚きに染まり近くでいたオッタルも驚いており、逆に断った本人であるパイも二人の対応に状況も忘れて困惑する。

 

 入口を守るように立つ。猪人と。ベッドで押し倒されかけてるパイと、押し倒そうとしている痴女神。

 

 状況は実に混沌を極めていたが。フレイヤがパイから離れることでお互いに余裕が生まれる。

 

「ところで、なんで私を拉致したのかな?」

 

 落ち着いた所で、パイが二人に質問する。

 

 もしかしたらまだ誰かが隠れている可能性もあるけど、よく見ても部屋にいるのは自分を含めて三人。

 

 しかも一人に関してはきっと手も足も出ない達人だ。

 

 下手に暴れるよりか、会話に持っていったほうが安全だろうと考えたパイ。そんなパイのその質問にハッ――っと我に返った、フレイヤが少しバツの悪そうな表情を浮かべる。

 

「ごめんなさいね。まさか“断られる”なんて考えてもなかったわ。《魅了》まで使ったのに・・・・・・ちょっと自信なくなっちゃったわ・・・・・・貴女を拉致してまでここに呼んだのは、貴女が欲しかったからよ?」

 

「ホシカッタ・・・・・・? 私、オンナノコだよ?」

 

「・・・・・・?? 勿論、知ってるわよ?」

 

「やっぱり、痴女じゃん! 襲いかかるならそこに、オッタルさんいるじゃん! 筋肉で大柄でオッタルさんのオッタルさんだったら。きっと痴女イヤさんも満足できるんじゃないかな!?」

「痴女イ・・・・・・ちょっと! 人を変なあだ名で呼ばないでよ!」

 

「・・・・・・ち・・・・・・じょ・・・・・・い! ブフゥ!? ゴホッ! ゴホッ!」

 

「「オッタル(さん)が、まさかの笑いで咳き込んだ!?」」

 

 オッタルが吹き出し、フレイヤが涙目になる。

 

 この事件後。オラリオの二大勢力の一つ【フレイヤ・ファミリア】の内情が少しづつアットホームな雰囲気になるのだが、それはもう少し後の話である。

 

「へぇ、フレイヤさんってこのオラリオで最強のファミリアの一つ。【フレイヤ・ファミリア】の主神様だったんだね。知らなかったといえ痴女イヤさんって言ってごめん」

 

 【フレイヤ・ファミリア】の主神とその団長である猪人のオッタルから、事情を説明されたパイ。要約すればパイがこのオラリオに迷い込んだ。一年と少し前の時から目をつけていたという。

 

 そういえばと記憶をたどれば。オラリオから逃げ出すときにであったローブ姿の女性。彼女がフレイヤだったのだろう。文字通り、また逢ったが。こんな、再開だとは思ってもいなかった。

 

「もういいわ、私も焦っちゃって、手荒な真似しちゃったし。それで、他の【ファミリア】に入る前に、勧誘しちゃおうって思ってね」

 

「そのあとは、俺が行動に移した、と言う訳だ」

 

 実に迷惑な話である。

 

 疲れたようにため息を吐くパイに自然に近づいてくるフレイヤ。

 

 嫌な予感がビンビンしたので取り敢えずフレイヤから遠ざかるパイ。

 

 更に距離を詰めるフレイヤ。

 

 そんな主神の行動とその結果を知っているのかパイに向けて若干同情するような視線を向けるオッタル、哀れに思うなら行動で示してとパイはオッタルに向けて視線を送っても逸らされた。

 

 そして、ついに壁際にパイの背中が当たりこれ以上の後退ができないことを悟ると、目の前の頬を上気させながら近づく女神に話しかける。

 

「フレイヤさん? なっ・・・・・・なんで、近づいてくるのかな?」

 

「それはね。パイちゃんの顔をしっかり見る為よ?」

 

「どっ・・・・・・どうして、そんなに興奮してるのかな?」

 

「それはね。《魅了》までしたのに。普通にしてる娘に更に、興味が湧いたからよ?」

 

「どどどどっど、どうして私の上着のボタンをはずそうとしているのかな!?」

 

「それはね・・・・・・?」

 

「・・・・・・それは?」

 

「パイちゃんと今から。ニャンニャン(死語)する為よ!!」

 

「やっ、やめろ、こっち来ないでくれないかな! たぁぁすけてぇぇ!! オッタルさぁぁぁぁぁぁん!」

 

 暴走した主神と泣きながら助けを求めるパイの姿に、オッタルは諦めたように深い溜息をついた。そして、主神を止めるために行動するのであった。

 

「女の子同士でも。気持ちよければいいと思うのよ!」

 

「変態痴女イヤさんは、ちょっとは懲りて、黙るといいかな?」

 

「フレイヤ様。流石にあれは私でも弁護するのは難しいです」

 

「時には眷属からの辛辣な言葉というのも・・・・・・アリね」

 

 流石にというよりも、フレイヤさんの余りにも節操のない行動に、パイは常にオッタルの背後に隠れるスタンスを崩さない・・・・・・一応オッタルはフレイヤの味方のはずなのだが。

 

 そんなパイの態度と、なぜか壁にされるほどの信頼を受けている、オッタルに対して嫉妬と不満げに見つめるフレイヤは若干頬を膨らませてからの羨ましさと嫉妬の混じった視線対して、真顔のオッタル。

 

 そんなオッタルの背から顔だけ出して。胡散臭いものを見るような視線をフレイヤさんに向ける。パイだがその視線に気づいて、ドヤ顔を決めているフレイヤさんにイラっとしたので彼女は小さく舌打ちした。

 

「フレイヤさん。オラリオを離れてから色んな所を旅したんですけどね? そこで緑のアホな神様に出会ったんですよ」

 

「どうしたの急に・・・・・・あー、もしかして胡散臭い男神? ヘルメスとか名乗っていなかったかしら?」

 

 唐突に話題を変える私に、乗ってくるフレイヤの返答にパイは『うなずく』。緑とは神ヘルメスの事であるが、その情報だけで特定される彼に少しだけ同情しながらも続ける。

 

「そこで、オラリオとかの情報とかを聞いて来たんですけどね。ねぇ? さっき“女の子同士でも”って言ったよね?」

 

「・・・・・・ええ、言ったわ」

 

 話の主旨がよく分からず、そのまま聞き返すフレイヤ。パイは“それって、つまり。同性でもって意味で受け取ってもいいのかな? フレイヤさん”と確認するように尋ねる。

 

「えっ・・・・・・? ええ。そういう意味よ? とっ、所でその妙に余所余所しい敬語を止めて貰ってもいいかしら?」

 

「そう・・・・・・確か、オラリオに【アポロン・ファミリア】ってありましたよね?」

 

「あっ・・・・・・止めないのね・・・・・・アポロン? 確かにアポロンの【ファミリア】はあるわよ? でもそれが一体・・・・・・ハッ!?」

 

 そこまで、言って何かに気づいたのか。顔を青くさせるフレイヤ。

 

 主神の変化に戸惑うオッタル。そのオッタルの背から顔だけを出してパイはさらに続けて言う光を失った瞳で。

 

「まっ、待って。もしかしてよ? もしかして、パイちゃんの言いたいことって・・・・・・」

 

「そうだね。この場合は・・・・・・オッタルさんにしようか。神的には【アポ×オタ《アポロン責め×オッタル受け》】。これ以上は・・・・・・ね? 言わなくてもわかるんじゃないかな?」

 

「もう、許してぇ・・・・・・私が間違ってました・・・・・・ごめんなさい、オッタル・・・・・・」

 

「フレイヤ様!? なぜ謝られるのですか?」

 

 無表情にフレイヤを見るパイ。突然口元を抑えて泣き出すフレイヤ。そして、それをみてオロオロとするオッタル。

 

 まさか、目の前の少女と主神にの脳内で、現在進行形で自分がそりゃあもう、“凄い事”にされているとは、夢にも思わないオッタルであった。

 

 何故かこのまま放置していてはまずい気がする。っと野生の勘がこれ以上の詮索は危険であると直感で理解したオッタルが、無理やり話題を変えようとするが若干口下手な彼には困難を極め、全員が常時の状態に戻るまで数刻の時間を有するのであった。

 

 バベルでフレイヤとオッタルと友好を深め、パイが《バベル》から出てくると周りは夜の闇をまとい始める時間であった。遠くに夕焼けの茜の色は有るものの、じきに周りが闇に包まれるのが分かる。

 

 大分時間を食ってしまったと反省していると、大袋をもった男性が果実を落とす現場を見てしまう。丁度足元に転がってきたので拾ってからその男性に手渡す。男性は礼を言うとそれだけに留まらず懐から『ポーション』を取り出す。

 

「すまんな。手元が狂ってしまって・・・・・・そうだ、手を煩わせたお礼だ、これを渡しておこう」

 

 そう言って、『ポーション』を渡してくれる。実に太っ腹な人物だ。よくよく見れば、顔立ちも整っており何処か存在も不思議な感じがする。恐らくだが、この男性は神だろう。

 

「ありがとかな。おっと、私はパイって言うかな。所であなたは誰かな? 神様なのはわかるけど」

 

「ん? ああ、私か。私はミアハと言う。この先にある青の薬舗でポーションなどを販売している。【ミアハ・ファミリア】の主神でもあるが・・・・・・まぁ、零細ファミリアというものだ」

 

「え? それじゃあこのポーションも売り物じゃないのかな? それは受け取れないかな」

 

「ううむ・・・・・・しかしだな・・・・・・では、パイよ。うちでよかったら夕餉でもどうだ? 眷属も一人だがいる、同じ女性だから安心してくれ」

 

「そういうことなら、甘えさせてもらおうかな。よろしくねミアハさん」

 

 時間も遅いし、宿は後で取るとして。折角のご好意だ、ここで断るのも悪い気がしたのでパイは素直に好意に甘えることにした。

 

 しかし、そんな雰囲気など今は感じることができない。

 

 ホイホイと呼ばれてついて行った『青の薬舗』。確かにそこにはミアハの言う通り、一人の『眷属』が居た。彼女はナァーザ・エリスイスと名乗った犬人族の女性だ。

 

 ミアハの姿を見た時までは眠たげな表情だったのだが・・・・・・。

 

「ミアハ様・・・・・・この人は・・・・・・?」

 

「ああ、そこで食材を落としてしまった時に世話になった。パイという者だ。パイよ、こちらはナァーザ。此処の団長だ」

 

「よろしくね、ナァーザさん。パイ・ルフィルって言うかな」

 

「そう・・・・・・、私はナァーザ。よろしく」

 

 そこからは、夕飯を作ってくるというミアハと別れたのはいいが。とてつもなく居づらい。

 

 仕方なく。『青の薬舗』の店内を見渡してみるが・・・・・・ふむ。小さいながらも薬屋としての体裁は・・・・・・正直微妙な雰囲気だった。

 

 なにより、目の前にいる犬人族の怒気の篭った瞳・・・・・・なんだこれ? パイは思う。「私が何をしたというのだ?」っと。

 

 そして、始まる夕餉だが、目の前のナァーザからの視線は変わらず・・・・・・ちょっとだけ考え方を変えてみる

 

(ん~。今日初めて逢うはずだし、私個人として何かあるって感じじゃないかな? ミアハさんに問題があるならミアハさんの方に怒りが向くと思うし・・・・・・私が来た事・・・・・・いや、女性が来た事が原因かな?)

 

 そう思えば、何となくではあるが理解できる。とは言えどあくまで知識としてではあるが正直、パイ自身には覚えはないが。

 

(これは、あれかな。好きな異性の傍に自分以外の同性が居たら不機嫌になるやつかな?)

 

 恋っていいねぇ。そんな事を思うパイだが同時に、それが、勘違いから来る嫉妬ではなく。なおかつその嫉妬の対象が自分ではないならなお良かったのだが。

 

(なんで、私は今睨まれているのかな? 不思議だなぁ。本当に不思議だなぁ・・・・・・いや、分かってるかな。ミアハさん。ニコニコしてないで欲しいかな。きっと貴方が思っているような状況じゃないともうかな?)

 

「ミアハ様・・・・・・今度はどこから連れてきたんです?」

 

「ナァーザよ、人聞きの悪いことを言うな。私は人さらいの類いではないのだぞ?」

 

「どういうことかな? もしかしてアレかな・・・・・・ミアハさんって、天然さんなのかな?」

 

「はぁ・・・・・・ごめんなさい。パイ、ちょっとイライラしてて・・・・・・ううんゴメン、なんでもない」

 

 ようやく、視線から敵意はなくなったが、次いで出たのはこびり付いたような疲れを感じさせる表情であった、薬舗というには。余りにも店先にも品物が無いという状況は先程見て知っていた。

 

 なにより、ヘルメスからの情報では【オラリオ】で薬といえば【ディアンケヒト・ファミリア】が有名だと聞いているつまり、店舗に出す品すらも、満足に創れない現状が浮かび上がり。それは、経営上の危機を示していた。

 

「ナァーザさん・・・・・・踏み込んだ話題になっちゃうけど、もしかして、経営とか結構まずいのかな?」

 

「ナァーザ・・・・・・うむ、恥ずかしい所を見られてしまったな。先程もいったがウチは零細の【ファミリア】でな」

 

「ついでにいえば、毎回誰かさんがポーションを無償で配ってるのも大きい」

 

「ぐふぁ・・・・・・そ。それは」

 

「ああ、ホラ。やっぱりさっきも受け取らずに正解だったかな」

 

 パイの発言に鋭い視線をミアハさんに向けるナァーザ。きっと常習犯だったのだろう。本当に受け取らなくてよかったとパイは安堵の息を吐く。

 

 こっちに来てから。前の【大陸】でのノウハウで簡単な『ポーション』なら作れるようになったパイだが。実際は結構難しいものらしい。

 

 実際、此方に来て思ったのは、素材の違いだ。できるだけ向こうから持ってきた物を使わないようには心がけている。

 

 こちらで代用可能な物はできるだけ作れるようにはしているが、やはり向こうの物と比べると使い勝手は良くないし何より性能が弱い。

 

「やっぱり『ポーション』とかの『調合』って難しいのかな。私の『調合』じゃ、そこまでいいの創れないし・・・・・・」

 

 ボヤくように放った言葉。その瞬間妙に静かになった・・・・・・。というか空気が凍った。

 

 ナァーザが信じられない物を見るような目でこちらを見ているが、ミアハの方に視線を向ける

 

 ミアハが驚いた表情でパイを見ていたが、すぐにナァーザさんの方を向く。

 

 見つめ合う二人。そして、その二つの視線がパイの方に向き直り、その次の瞬間に――パイは目の前の二人に両肩を掴まれるのであった。

 

「「確保ぉぉぉぉぉ!!」」

 

「なんでなのかなぁ!?」

 

 きっと、また何かしらの選択を間違ったのだろう。パイはそれだけはよくわかったのだった。

 

 

――――――――――――――

 

 

 ナァーザ・エリスイスは疲れ果てていた。

 

 切り詰めるだけ切り詰めた生活費で、出来る限り品質を落とさずにポーションを創る。これがいかに難しいか、困難な事か。

 

 ミアハも協力してくれて、やっと何とか生産出来ていると言うだけの事、それでも微々たる物だ。

 

 最悪、薬師として最もしてはならぬ事、偽造も視野にちらりと映る。

 

 濁った思考が、堕ちようとする心に甘い誘惑を誘い掛けてくる。

 

 ああ、自らがこの位置について初めてナァーザは理解した。

 

 誰もが堕ちたくて堕ちる訳ではない。

 

 それは、堕ちるだけの。それだけの軌跡が、確かにあったのだ、ナァーザの時だってそうだ。

 

 きっかけは《冒険者》であれば、ありがちな物でしかない《モンスターに敗北をした》。

 

 全身を焼かれ。四肢を食い荒らされた。嵌まれる度に気が狂う程の恐怖がいまだに夢に見るほどだ。

 

 あの群がり《冒険者》から餌になる瞬間。きっとナァーザは人としての尊厳を失ったのだ。

 

 だから、未だにモンスターを見ると震えが止まらなくなる。

 

 勿論、失った物はそれだけではなかった、どうにか一命こそ取り留めたが『右腕』は戻らなかった。

 

 徐々に狂い始めてゆく歯車。その音を、失意の中でナァーザは確かに聞いていた。

 

 多額の借金。

 

 見切りをつけて、みるみる離れていく団員達を繋ぎ止める資格などその原因を作った自分には無い。

 

 制作費の無い場所に魅力などないだろう。その原因は今もナァーザの右肩から繋がっている。

 

 だから、彼女には見送るしかなかった。

 

 そのときの去っていった団員の顔はもう、思い出せない。

 

 あの時、咎を感じることしかできなかった自分ははどんな顔を彼等を見送ったのだろうか?

 

 残ったのは“薬を創るしかできない戦うことのできない冒険者”と神様。そしてその神からの大切な贈り物だけ。

 

 きっとナァーザ・エリスイスは、悲劇のヒロインなんて柄じゃあない。掴めるものは何だって掴む。

 

 それが、例え、綺麗なままで居られなくとも。それが後ろ指を刺されるような浅ましくとも。

 

 だから。どんなに生き醜い姿を見せようとも目の前の希望を逃せはしない。

 

「お願い、パイ、私達の【ファミリア】に入って!」

 

 どんなに醜くても、藻掻いて見せる。その意思だけは確かにあるのだから。

 

 静かになってしまった、青の薬舗でナァーザとミアハの握る服の擦れる、微かな音だけが耳に残る。

 

「・・・・・・えっと?」

 

 困ったような笑顔を浮かべるパイ。ここは、押し時だと思ったナァーザはは畳み掛けるように言葉を紡いでいく。

 

「週休二日。昇給有り。賞与も働きによって考える。アットホームな職場だよ!」

 

「ひえぇぇ!? こっ、困ります! 困りますかな! 店員さん! おさわりは厳禁かな!? 店員さんがこんなに強引なのはいかがなものかな!?」

 

「パイ! 貴女が店員になるんだよ!」

 

「な・・・・・・ナァーザよ? お主、女性がしてはならぬ顔をしておるぞ?」

 

「目の前の犬耳族の人。マジで怖いかなぁぁ!?」

 

「っく!? ここまで押してもダメなの・・・・・・こうなったらミアハ様用に作っておいた、あれで・・・・・・」

 

「「なにやら。不穏なワードが聞こえたぞ!? おい、何を使う気だ!?」」

 

「例え、修羅に堕ちようと、この手を離さないから・・・・・・ネ? ワタシタチノ【ファミリア】二ハイロ?」

 

「すごく怖いぃぃぃぃ!? さっきまでの怒った顔でも、眠たげな顔でもいいからいつものナァーザさんに戻って欲しいかな!?」

 

「おおおお、落ち着けナァーザよ。ホラ、手鏡だ! 今のお主の顔を見てみなさい!」

 

 目の前に出された鏡に映った自分の姿をナァーザが見てみるが。それは、“本当に私なのだろうか?”爛々と瞳を輝かせてパイの肩を掴む姿は、危機迫っており場合によっては逃がさないと言う意志が覗いている。

 

 人間、本気になれば人が変わるとも言うが、きっと今のナァーザはそういう状態なのだろう・・・・・・かと言え、流石にこれ以上はパイにとっても悪い印象しかないかと、ナァーザは深く深呼吸をして落ち着いた。 

 

「・・・・・・ふぅ。 ちょっとやりすぎた。ゴメン」

 

 隣と前から「えっ・・・・・・ちょっと?」っと聞こえたような気がしたがここは無視する。

 

「所で、さっき聞き間違いじゃないならパイは薬を創れる・・・・・・の?」

 

「えっと、『調合』ならできる、とは言ったかな?」

 

 なにか不味い事を言ったのだろうか? そんな不安が滲み出している表情をみて、私の口元が三日月のように釣り上がるのが分かる。そんな表情をみてガタガタと震えるだす二人を前に私、ナァーザ・エリルイスは何処か狂気じみた笑みを浮かべるのであった。

 

 

――――――――――――――

 

 

 パイ・ルフィルは恐怖に震えていた。

 

 目の前で強い意思を持つ女性がいる。こう言えばいい意味で捉えられるだろうが、実際目の前にすれば恐怖しか湧き出ない。

 

 考えて欲しい。目の前に肩をものすごい力で押さえつけながら、三日月を連想するように開かれた口元と血走った瞳が目の前にある。

 

 これを好意的に解釈するなど例え『神様』であっても無理だろう。現にその隣にいる神様はドン引きしている。

 

 とにかく・・・・・・。このままではどんどん話が変な方向にいくだろう事は理解できた。だから、この『安全な方法』で解決しよう。

 

 パイはそっとアイテムポーチから【音爆弾】を取り出してその場で投げるのであった。

 

・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

「なんとなく事情は読めたかな・・・・・・その前に。二人には話しておかないといけない事があるかな」

 

 耳元で突然響いた高周波の音波に耳をやられて転がりまわる二人が落ち着き、青の薬舗の実情を聞いてからひと悶着あって――やっと落ち着いた頃。

 

 パイは平気だったか? 『ハンター』なんて常に大型モンスターからの咆哮を受けてる身だよ。流石に慣れている。

 

 しばし考えた結果。パイは先程の【ファミリア】の勧誘を受ける事にした。しかし、パイとてここで骨を埋める気もない。

 

 だから、二人にはパイの今現在の現状を知ってもらう必要がある。

 

 パイはココに来る経緯と、【大陸】で『ハンター』をしていたということ。なにより、いつかはそこに帰らなければならない事。

 

 だから。せめて経営を楽にする協力こそするけど、根本的解決はそちらにして貰う事。それらを加味し、無条件での脱退を条件に出した。

 

「確かに、パイの言い分は正しい・・・・・・ごめん、私が浅はかだった。それと、実は新商品の目処はついてるの。あとは材料の調達と試作だけ・・・・・・でも、そんな【大陸】なんて。信じられないよ」

 

「いや、先程から聞いているが、パイは嘘をついていない。ううむ・・・・・・しかし、その様な土地は聞いたこともない・・・・・・すまない。私の知識では検討もつかないような所から来たのだな。帰る為の方法など考えもつかないぞ」

 

 二人の言葉に特に思う所もない。各地を転々としているというヘルメスですらも、初耳だといった話だ。ある程度は覚悟はしている。

 

「それはともかく、今の条件でいいならここに入ろうとは思うかな・・・・・・ちなみに入るためには何をすればいいのかな?」

 

「ん? ああ、では、まずは服を脱いでくれ」

 

「すいません。今の話は無かったことに」

 

 自然にセクハラしてきた神から、身を離す為に直ぐに立ち上がり踵を返す。

 しかし、背後から鈍い音が響いたので、視線を向けると頭を抑える踞るミアハと、拳骨を落とした格好のナァーザの姿があった。

 

 痛みで動けない主神・・・・・・のはずである、ミアハを無視して此方に向かいながらも手を合わせて謝罪するナァーザ。

 

「ウチのミアハ様が失礼な事をした。この人、ちょっと考えが足りないところがあるから・・・・・・えっとパイは『神の恩恵』の事は知ってる」

 

 『神の恩恵』それは、神々が地上に住む人々――下界の子を眷属するための儀式。詳しいやり方についてはナァーザから説明を受けた。

 

 神の血を背に受ける事で『ステイタス』というものが発現され、『経験値』と呼ばれる経験の記憶によって。上昇していく。

 

 ぶっちゃけて、言えば強敵と戦い続ければいい訳だ。

 

 だから、先程のミアハの発言は、「神の恩恵を与えるには、直接背中の肌に血を落とさねばならないから服を脱いでくれ」が正解な訳だ。だから私は悪くない。と自らの行動を正当化するパイ。

 

 いくら、インナーになるのにそこまで躊躇のないようなハンターであるパイでも裸体になるのは躊躇する。え? 何その目。まだまだ【こやし玉】の貯蔵は十分なんだよ?

 

 下らない事を考えていたら、拳骨の痛みで呻きながらも、ミアハが立ちあがり、謝罪をしてくる。

 

「ぬうぅ・・・・・・いたた・・・・・・すまない。パイよ確かに異性に肌を晒すのを躊躇するのは当然だな。無論不埒な真似をしないし、ナァーザを監視に付けてもいいので『恩恵』の付与だけでも駄目か?」

 

「まぁ・・・・・・そこまで言うなら大丈夫かな、それでそれはどこでするのかな?」

 

「じゃあ、私のベッドを使って。部屋はこっち」

 

 ナァーザの案内で,部屋にたどり着くとまず女性二人が入り、パイは上の服を脱いでからベッドにうつ伏せの状態で横になる。

 

 ナァーザの合図で部屋に入ってくるミアハは『では、始めるぞ』と告げると。針で自らの指を突く。玉のように血が滲みそれはパイの背に落ちた。

 

 なんというか、思っていた以上に地味だ。こう、力が湧き上がるぅ? とか。そういうのを期待していたのだが・・・・・・。

 

 もう、服を着てもいいのかな? そう思いパイは視線をミアハに向けると。彼はものすごく複雑そうな表情をしていた。

 

 

――――――――――――――

 

 

 ミアハは困っていた。

 

 理由は目の前の新たな『眷属』の背に映った『ステイタス』だ。なるほど、確かにただの子ではない。先程の『ハンター』として【大陸】で強大なモンスターを相手していたらしい。

 

 ならば、この『ステイタス』は妥当な物なのだろう・・・・・・少なくとも、そう思うしかない。『ステイタス』はその子の今までの経験の記録である。

 

 それを、神が評価し数字化してゆく。どこぞの神は「育成ゲームなら俺に勝るものはいないぞー」などと言っていたが。そんな簡単な物ではないだろう。

 

 さて、現実逃避はここまでだ。私は念の為にこめかみを揉んでから再度、彼女の背を・・・・・・そこに浮かんだ『神聖文字』を見る。

 

パイ・ルフィル

 

Lv.1

 

 

力  :I 0

 

耐久 :※ ∴∉∮

 

器用 :I 0

 

敏捷 :I 0

 

魔力 :I 0

 

 

《スキル》

 

 

【狩人性活《ハンターライフ》】

 

 ・特定の行動での無意識の行動の発生《デメリット》

 ・装備によって特定の《スキル》が発動する。

 ・調合時特定の確率で『もえないゴミ』を生成する

 ・『ハンター』は四人までしかパーティーを組めない。《デメリット》

 ・特定の行動時。体力が回復する。

 

【狩人之心《ヒト狩リ行コウゼ》】

 

 ・モンスターとの戦闘時の【経験値】の取得上昇。

 ・パーティを組む事でステイタスの上昇。

 ・笛を吹くと体力を微量回復することが出来る。

 

 

【空戦乱舞《エリアル》】

 

 ・踏みつける対象がいれば高く飛ぶことができる。

 

【狩猟】

 

 ・ドロップアイテムをモンスター死亡時一定時間以内“剥ぎ取る”事ができる。

 

【調合】

 

 ・素材と素材を組み合わせることで別の物を作ることができる。

 

 ・一定の確率で【もえないゴミ】を生成する。

 

 

 うん。先ほどとまったく同じだ、ツッコミ所の多さに何故か笑みが浮かぶ。そしてその口からは吐息が漏れる。なんなのだ。このスキルの量は・・・・・・特に耐久とかバグっているじゃないか・・・・・・。

 

「取り敢えず、考えるのは後で、まずは書き記そう」

 

 そう言って手にした用紙に共通語で写しを作成してくのであった。

 




令和になりました。その日になった瞬間、座っていた椅子が破損しました。
朝になって近場のリサイクルショップでなかなかにいい感じの椅子を発見。
お値段300円に即決で購入しました。ありがとう、令和!(関係ない)
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