ハンターが飛び込んだ先がダンジョンなのは間違っているだろうか? 作:あんこう鍋
ステイタスの欄で色んな方々から意見をいただいて、少し文章の変更がありましたが《スキル》意外は0からのスタートにしました。ちょこちょこ変更してすいません。
社会と人とは切っては切れない関係である。
多数の人間性を抱えれば共感もあれば反発も生まれる。共感が集まれば裏面こそあるだろうが、人が集まり協力する事で集団ができる。
集団や群れは個人ではできなかった事もできるようになったり、もしくはできなくなる事もあるだろうが、利点の方が大きい場合が多い。
【ファミリア】などもその理から外れる事無く、大手になればその影響力も比例して大きくなる。
では、個人とは全く利点が存在しないのか? それは時と場合によるだろう。例えば『個人で動くことが多い職についている』場合、その真価を発揮するのだ。
ここは『青の薬舗』。その店舗の販売所に、三人の男女が居る。その中で一番背丈の低い女性の手で開かれた手紙を二人の男女が左右から挟むように眺めている。
それは手紙では有るがただの手紙ではない。これは『依頼書』である。
それを見つめる女性。パイ・ルフィルはものすごく弛緩した表情でその手紙を読んでいた。
後ろから眺めている二人の犬人族の女性ナァーザ。エリスイスと男神・ミアハもその内容に頬を緩ませていた。ミアハに関しては感動して涙すら流している。
三人の【ミアハ・ファミリア】の中で異色の『ハンター』であるパイの下に届いた手紙・・・・・・その内容は以下の通りである。
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■ 依頼主:母親想いの娘 ■
■【依頼内容】 ■
■『 最近お母さんの調子が悪そうな ■
■ の、大丈夫だって言ってるけど歩 ■
■ く姿もフラフラしてるし、貧乏だ ■
■ からどんなお薬がいいかもわから ■
■ ないの。おねがいします。わたし ■
■ のお母さんを元気にするお手伝い ■
■ をしてくれませんか? 』■
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『』の部分が書かれた手紙とその娘の家の場所を記した簡単な地図。そして細かい小銭を集めたであろう100ヴァリスにも満たない金銭も同封されていた。
その余りにも純粋な心と願いに、そろそろ心の汚れを自覚し始めている冒険者とハンターの二人は、“ほっこり”しながら「あ~この娘いい子だぁ~」などと癒されていた。
なぜ、この様な手紙がパイの手元にあるかといえば、それは彼女が始めたビジネスという名の「生活の一部」の宣伝の結果である。
『依頼を受けて、その依頼をしっかりとこなすのがハンターである』これは彼女パイ・ルフィル達、ハンターの常識であり良識である。
故に手袋とかスリッパを作りたいとなどと言って。怒ると金色の体毛に覆われる巨大な猿と戦わせられるとかいう『依頼』が来たらどれだけやりたくなくとも、実力があればやらざるを得ない。
この手紙の主の爪の垢を煎じてからあの第三王女に飲ませてやりたい物だ。本気でパイはそう思っていた。
それはさておき、この依頼に関しては不透明な部分が多い。
《ハンターズギルド》では「何を集めればいいのか」とか「何を狩猟すればいいのか」も含めて【クエスト】が発注されていたのでその有り難みを再認識する。
「オラリオでもこんなに純粋な子がいるんだ・・・・・・」
「この様な無垢な子を放っては置けんっ。ナァーザ、確かポーションの予備はあったな!」
「ミアハさん!? だから商品をそのまま持って行っちゃ駄目だっていったかな! とりあえずこの地図の場所に行ってみるかな。ミアハさんは……うん、ナァーザさん一緒に行こ」
「……パイは賢い。一緒に行こう」
「……実に解せないのだがパイ、ナァーザよ。なぜだ? 私が行くと"問題”があるのか?」
「この数日でミアハさんの生態は良くわかったから、その対応かな?」
「私の生態? ううむ……? とりあえず、行ってくるといい。私はその間に製薬でもしておこう」
動く天然ジゴロであるミアハなど連れていけばどうなるか・・・・・・依頼人の性別を考えれば人選的にも良くないミアハは留守番させる事を短い会話の中で決定させた眷属二人は、青の薬舗を出て地図が記す場所へと向かうことにする。
パイが【ミアハ・ファミリア】に入団して手始めに始めたのは『便利屋』であった。【オラリオ】に来たのはいいが、ブッ飛んだ《スキル》ととあるパイの奇行によって、ミアハの胃の壁に穴を開けかけていた。
このままバカ正直に冒険者登録すれば、この自由な子の事だ、確実に何かしらする。そして、確実に暇を持て余した神々の玩具になる。かといえ、このままでは虚偽の申告として受け取られるのも癪でもある。ミアハという神は余りにも真面目であり、女性相手以外では空気が読めた。三人で話し合った結果――しばらくの間、パイには他の仕事をして貰う事に落ち着いた。
そこで、パイ本人からの希望もあって中立的な立場での『便利屋』を開始したのであった。
しかし、ひとえに『便利屋』と言えど、こういうのは顧客があってのものである。もとよりこの場所での伝手の少ないパイと言う個人では不利な状態からのスタートだ。知人は何人かいるが、まずは自分でどれだけできるか? それを確かめる意味でもあった。
彼女はまずは顔を覚えてもらう行動に出た。街に繰り出して細かい会話や商店のさりげない手伝い等等。
朗らかな人柄のパイの存在は【オラリオ】に徐々に広がってゆく。そして、そこからさりげなく『なんでも手伝う、便利屋と言う商売をしようと思う』と匂わせてゆくのだ。
乱暴な印象のある『冒険者』に頼みづらいが、何事も頼みごとを聞いてくれる人柄を見せていたパイの活動が実ったのか、活動から一ヶ月もしない内に今回の『依頼』が来たという訳である。
「地図だとこの辺かな?」
「そうだね・・・・・・んっ、パイ。あの子に聞いてみよう」
近くまで来てみるとかなり入り組んだ区域であった為に迷ってしまった。二人は近くにいた獣人の少女を見つけ、同じ獣人のナァーザが話しかける。
「ごめんね、ちょっと道を訪ねたいんだけど・・・・・・いいかな?」
声を掛けるまで俯いていた少女は、その腰まで伸びた黒髪を揺らし見上げる。そしてナァーザから見せられた地図を見ると「これ、わたしが依頼したの」と言葉短めに告げる。
「ありゃ、まさかの依頼人だったのかな。こんにちは、私が『便利屋』のパイ・ルフィル。『ハンター』だよ。君がこの依頼をくれた人・・・・・・でいいのかな?」
「うん・・・・・・お姉さん達がお手伝いしてくれるの?」
「・・・・・・こっちの白いお姉さんが主にだけどね。私はナァーザ。これでも薬師だよ。それよりも、お母さんの調子が悪いって書いてあったけど・・・・・・」
まさかの依頼人であった少女に『依頼』と『状況』の確認を取るパイとナァーザに「薬師さんもいるの!? お願いお母さんを診てください」と言うと二人の袖を掴んで引っ張っていき近くの一軒家にたどり着く。
「お母さんーただいまー」
そういって家の中へと消える少女を見送り、顔を見合わせるパイとナァーザ。流石にそのまま家の中に不法侵入する訳にも行かずに玄関先で待機していると、しばらくして足音と共に先程の少女と、少女の母親らしい今だ若いが不健康そうな顔色の女性が姿を見せる。
「あの・・・・・・貴女方は?」
「突然の訪問してごめんかな。私はハンターのパイ。『便利屋』をしているかな。隣の犬人族はナァーザさんで【ミアハ・ファミリア】で薬師をしている人だよ。本題にはいるけど、今回はお子さんからの『依頼』できたかな。」
「えっと・・・・・・依頼ですか? あのどういう・・・・・・」
「お子さんから貴女の体調を心配して、元気にするお手伝いを依頼された。見たところ顔色も悪い余計なお世話かもしれないけど・・・・・・」
突然訪問してきた見知らぬ二人組の女性に、怪訝そうな表情を浮かべていた少女の母親であったが説明を聞いて驚いたように娘を見る。娘も親に黙って行動した事に対して若干の後ろめたさがあるのか、少し耳を垂らしている。
「そうだったのですか・・・・・・でも・・・・・・うちはそんなに豊かな訳でもありませんし」
「ああ、大丈夫かな。お代は依頼人から貰ってるし、それにね・・・・・・」
そう言って少女の母親に近づき耳元でささやく「正直『便利屋』の名前を売りたいって話もあるんで受けてもらえたら嬉しいかな」っと本音を言うと、パイの言い分を理解したのか苦笑しながらも承諾してくれた。
そして、家の中にお邪魔してからナァーザと共に少女の母親の状態を診察してみた結果――「疲労困憊を含めた貧血」である事もわかった。
「うん、これならオススメの物があるかな・・・・・・ジャジャーン!《ハンターズギルド》公認の『元気ドリンコ』だ!」
『元気ドリンコ』。ドリンクではなくドリンコであるのがミソである。スタミナを少量回復させる事のできるアイテムで飲みやすい小瓶に入っている。ハンター達からはこれ二本でこんがりと焼いた肉と同じぐらいスタミナが回復する、不思議な液体として人気の品である。
むしろ、一般人の感覚からすれば、肉を貪った瞬間から即座にスタミナに変換する『ハンター』の身体能力も異常であり、不思議なのだが・・・・・・。
パイも【大陸】で多忙な時期など寝る前によくお世話になっていた物だ。次の寝起きでの身体の調子が全然違うのだ。などと、社畜に栄養ドリンクみたいな扱いだが効果は絶大である。
それを二本、ポーチから取り出して少女の母親に手渡す。
「これ一本で・・・・・・取り敢えず三回分。一日の寝る前に飲んでみるといいかな、疲労回復と増血効果もあるから今より良くなるよ。今の状態で飲みすぎたら逆に身体に負担がかかっちゃうから。ゆっくり慣らしていく意味で少しずつ飲んでね」
あとは、三日後にまた様子を見に来るかなーっと告げてパイたちは少女の家を後にする。そして、三日後に再度(個人で来たものの迷ったため)ナァーザと共に少女の家を尋ねると、そこには明らかに血色の良くなった少女の母親の姿があった。
「あら、こんにちは。パイさん、ナァーザさんも・・・・・・この間は、疑ってごめんなさいね。それに娘にも心配かけちゃって」
「いいって、いいって。むしろ初めての依頼も無事に完遂できてよかったかな! どうかな。私の仕事ぶりは。お母さんを元気にできたでしょ?」
「うん! ありがとうお姉ちゃん! ハンターってすごいんだね!」
少女の羨望の眼差しにポージングで答えるパイ。そんな『ハンター』に苦笑を浮かべるナァーザと少女の母親であった。そして、その一件以来、噂も広がり【オラリオ】全土、それこそ一般人から【ファミリア】まで幅広い客層を得ることに成功したのである、その一部がこれである。
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■ 依頼主:多忙な女主人 ■
■【依頼内容】 ■
■『お前さんが例の『便利屋』かい? ■
■ なんでもするって聞いてるけどね ■
■ 接客とか得意かい? 少し大きな ■
■ 宴会が入っちまって人手が足りな ■
■ いのさ。どうだい? 腕に自信が ■
■ あるのならウチの店で臨時のウェ ■
■ イトレスをしてみないかい? 』■
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そういって、とある『豊穣の女主人』で接客をしながらも元キッチンアイルーであった相棒に鍛え上げられた腕前を披露したりしたら、案外好評で時折手伝いをしている・・・・・・。
またあるときは。
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■ 依頼主:眠たげな犬人族の女性 ■
■【依頼内容】 ■
■『定期的に借金の催促と嫌味を言い ■
■ にくる【ファミリア】の主神とそ ■
■ の付属品を【こやし玉】で撃退し ■
■ て欲しい。 ■
■ やってくれたら特別に報酬を出す ■
■ 同じ【ファミリア】の仲間。 ■
■ やってくれるよね? 』■
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身内に甘くしない。というか私念が丸出しの内容であったので流石にこれは丁重にお断りした珍しい例である。
他にはこんなものも。
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■ 依頼主:赤毛の道化師 ■
■【依頼内容】 ■
■『アンタが例の便利屋か?ウチはあ ■
■ る【ファミリア】の主神や最近ウ ■
■ チの団長が心身共に疲労がすごく ■
■ てなー。一年前の例の奴のせいや ■
■ けど・・・・・・とにかく、なんか元気 ■
■ になるもん持ってるらしいやん? ■
■ ちょっと、譲ってくれへん?』 ■
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今だ記憶に新しいエンブレムと原因を作った覚えのあるパイは【栄養剤】と【元気ドリンコ】をそっと納品した。後にとある【ファミリア】の団長はアラフォーのテンションとは思えないほどハッスルしていたそうだ。よほどのストレスを感じていたのであろう。
等等、色々な依頼がパイの下に舞い込んできていた。そして、今回はその中である少女の出会いがあった依頼の話をしよう。
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■ 依頼主:表情の薄い金髪の女剣士 ■
■【依頼内容】 ■
■『最近『ステイタス』の上がりが弱 ■
■ い・・・・・・。【ファミリア】の関係 ■
■ で剣を師事できる環境がない。 ■
■ 【ファミリア】じゃなくて『ハン ■
■ ター』なら問題ないはずだよね? ■
■ 次の遠征までに少しでも強くなり ■
■ たい。お願いできる?』 ■
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そんな依頼にパイは怪訝そうに眉を顰める。何だこりゃ? 依頼としては謎だらけである。取り敢えず剣術を師事できる環境といえば、お得意様の【タケミカヅチ・ファミリア】だろうか、パイはそこによく戦闘訓練の依頼で行くことが多い。
タケミカヅチは武芸の神とだけあってパイ自身も教わる事も多く、ほぼタダ同然の依頼料で受けている。形式上は、依頼人と雇われの関係だが最早【ファミリア】同士の付き合いまで発展している。それもタケミカヅチとミアハの仲が良かったことも大きな要因だった。
しかし、別に断る理由もなく記された時間と場所に赴く事にした。その指定された場所は東側の城壁の上であった。今だ朝日も顔を出さない時間帯。徐々に漆黒から、群青、深めの青へと変化していく空を見ながら目的の場所にたどり着いたパイを迎えたのは、金色の髪を風に波かせている美しい少女であった。
「おはよう。私はパイ・ルフィル・・・・・・貴女が依頼人かな?」
パイの言葉に対してコクりと頷く少女そして、その薄紅色の唇を開き言の葉を紡ぐ。
「私と・・・・・・戦って?」
「思った以上にやばい依頼だった!?」
まるで、偽りの依頼申し訳ありません。貴女にはここで果ててもらいます。みたいな展開であったか? パイの困惑の表情で自らの言葉が間違っていた事に気がついた少女も慌てていた。
慌てながら、えーと、その・・・・・・、あのーっと。どうにか言葉を探そうとして余計に混乱している少女に対して――嗚呼、ただのコミュ障か――っと冷静になるパイ。
「あーごめんかな、ちょっと、いきなりだったから驚いちゃっただけかな」
「私もごめんなさい・・・・・・言葉が足りなかった」
明らかにちょっとでは済まないのだが、そこは笑って許すのが『ハンター』である。改めて確認を取ると、少女は自らを『アイズ・ヴァレンシュタイン』と名乗った。所属は【ロキ・ファミリア】つくづくあの【ファミリア】とは縁があるようだ。
「それで、依頼の内容は剣の腕の上達・・・・・・だったかな? アイズって今のLv.は?」
「うん・・・・・・少しでも強くなりい・・・・・・Lv.5だよ・・・・・・」
「Lv.5!? それならここでも最高戦力に近いかな・・・・・・それでもさらに強さを求めるのかな?」
「強くならないと・・・・・・掴めないから」
アイズのそのセリフを口にした瞬間――彼女の目に映った感情を読み取ったパイは、危うい綱の上に立つような少女の生き方にパイは既視感を感じた。
「その依頼、受けるかな・・・・・・ちなみに、アイズはどういうように強くなりたいのかな?」
「どういう・・・・・・?」
そこで戸惑ってしまうアイズ。どうやらあまり頭の回転はよろしくないらしい。逆に回転が早くて妙なところに思考が行っているのか・・・・・・。とにかく、強さに対して明白な物が彼女の中に無いと言う事も理解できた。
「じゃあ、お互いに剣を合わせるのが一番かな・・・・・・」
パイの言葉に、無表情ながら喜色をその表情に浮かべる器用なアイズに苦笑いを浮かべる。
不思議なアイテムポーチから数本の木刀を取り出すパイにアイズは驚愕の表情を浮かべた。
「驚いた、それって魔道具なんだね」
「へぁ・・・・・・? ぬぁ、えっと・・・・・・これは、そう、【万能者】にね。でも珍しいものらしくね、コレしかないかな」
そのパイの言葉にあからさまにシュンとするアイズ。パイはアイテムポーチを見ながら胸をなで下ろす。このポーチがこの世界に置いてどれほど・・・・・・いや、向こうの大陸をいれても摩訶不思議な品物であるのを忘れていた。
何しろ『回復剤』や『閃光玉』とかならともかく『大ダル爆弾G』とか何処に置いてたの? と思えるものまで収納可能である、ハンターになれば支給されるダメージが殆どないのに、切れ味だけは異常な剥ぎ取り用ハンターナイフ同様、摩訶不思議がたくさんな世界である。
「まぁ。とにかくこの木刀でやり合おう。寸止めは・・・・・・無しの方がよさそうかな?」
お互いに獲物を構える。短めの二本の木刀と少し長めの一本の木刀。双剣使いのパイと細剣使いのアイズ。二人の激突は朝日の光が双方を照らした瞬間――動いた。
瞳が細まり引き絞られた矢が放たれたかの如く突撃してくるアイズの捻り込むような斬撃をパイは自ら姿勢を崩し不安定な状態から右手の木刀の腹でその斬撃をいなす。
軽い体重を利用し、アイズの重たい力の勢いを利用し、回転しながらも左の木刀で斬りかかる。
アイズも斬撃を放った姿勢と同時に放たれた攻撃に目を剥くが、その当たる位置が右の脇腹である事をいち早く察知すると、そのままの勢いで振り抜き――即座に身体をくの字に曲げる。チリッっと服に掠った音が嫌に耳に残る、このままでは防戦になる。そう考えたアイズは体制を立て直す為に軽くバックステップを踏んだその足で更に前に出る。
それを、着地をしたパイが迎え撃つ。流石はLv.5。パイの中で警鐘が鳴らされている目の前の少女は確かに強い。でも故に――脆い!
アイズが選択したのは突きであった。木刀を脇に抱え。全身をバネにして突き込む。その流星の如き一撃をパイは真正面から受けることは・・・・・・しなかった。旋風を起こしながら見事なまでに同じ速度同じ感覚で放たれた両手の木刀がまるで分かっていたかのようにアイズの突きのタイミングと重なる。
ベキッ・・・・・・!モノが壊れる特有の嫌な音がアイズの持つ木刀から発せられる。思わず動きが止まってしまった瞬間――アイズの視界の端にパイの木刀から放たれた斬撃が見えた。
部位破壊、よくモンスター相手にやっていたが。やろうと思えば武器でもできる。それがパイができる唯一の勝利方法であった。そして、呆然とするアイズの頭部へと寸止めで終わらせるとそう思っていたが、パイ自身が気がついていないが今の彼女は、“以前の彼女と同じではない”『神の恩恵』を受ける事で大幅に格上げされた彼女の身体能力を“いつもどおりに”使おうとした結果――
ゴンッ!? とても鈍い音が鳴った。
「あうっ・・・・・・!? きゅ~・・・・・・」
「ちょ!! えっ!?」
――寸止めを失敗させて思いっきりアイズ頭部を殴打してしまい。気を失ったアイズの前で冷や汗を流しながらパイは呆然とするしかなかったのだった。
――――――――――――――
アイズ・ヴァレンシュタイン は夢を見ていた。
これは子供の頃の夢だ。それがわかるのは今は居ない両親がいるからだ。そしていつだって“私の心に残る”あの言葉が聞こえるんだ。
アイズが自覚してなお淡い想いの中で漂っているとその言葉が耳に届く
「いつか・・・お前だけの英雄が見つかるといいな」
その言葉を聞くたびにこの後に起こる展開も読めてしまう。しかし気持ちを構える前に状況はアイズの想定外の方に向かう。
「たとえ! 英雄が居なくともぉ!!」
その高らかな・・・・・・明らかに状況をぶった切った、空気を読まない声にアイズが振り返ると、そこには大きな影があった。そして、それが何人かが集まってできた影であることもすぐにわかった。
そのシルエットが最も後方の二人を照らされることで露見する。二人はおそらく双子なのだろう「ドハハハハ!」や「バハハハハ!」などと良くわからない笑い声を上げているがアイズの中で彼等が強者である事が感覚で理解できた。
そして、次いでに姿を表したのは一番前で膝をついて両手を広げている大柄な男性とそのアイズから見て男性の右側の後ろで腕を天に突きだしている極東の格好の頭にかぶった笠が特徴的な女性。あと一人分のシルエットは黒いままだ。
「はっはっはっ! 驚いているようだな少女よ! 表情筋が動いているぞ!」
「ポッケの。それは世間一般では表情が引き吊るって言うらしいよ。さぁてお嬢ちゃん。良かったらお姉さんの胸に飛び込んできても良いんだよ~どう? どう?」
両手の指をワキワキと動かす女性にちょっと体ごと引くアイズの耳にーー遠くからにしては小さな声が届く。
「ちょっと、ヘルブラザーズさんも、ユクモの姉さんやポッケに兄さんも、貴方達は無駄にキャラが濃いんだからもうちょっと押さえた方が・・・・・・」
どうやら、少しは常識的な人物もいるようだ・・・・・・これが夢である事をすこし忘れつつもアイズは安堵の吐息を漏らす。
「「「「我らの団のは黙っていろ!! 我らは下手したらこれ以外に出番が無いかもしれんのだぞ!!」」」」
「うわぁ・・・・・メタい上に、自由すぎるよ・・・・・・トビ子ちゃんも毎回こんな人と付き合ってるのか・・・・・・大変だなぁ」
そこでやっと、その声の主を見つけたアイズがその人物へと近寄ると、そこにいたのは黒髪の穏やかそうな笑みを浮かべた青年だった。
重厚な鎧の上から肩にかけられたタスキには『本日は裏方です』と書かれている。そんな青年は近くに来たアイズにニコリと笑って「ごめんね。あの人たち自由だから・・・・・・」と謝ってくる。その謝罪にアイズも「大丈夫です・・・・・・」と返すと気になっていたことを目の前の青年に訪ねる。
「貴方達は何者ですか?」
「僕たちかい? そうだね・・・・・・僕たちは『ハンター』だよ」
「ハンター・・・・・・」
なるほど? アイズは自分の後ろで好き勝手している愉快な連中をチラリと見る・・・・・・あれがハンターか・・・・・・そんな、失望に近い念が浮かぶ。
「いや、あの人たちは・・・・・・ちょっとね、少しアレだから。えっとね、ハンターとは、自然との調和を守るもの。時に恵みを貰ったり。時に強大なモンスターを狩ることでお互いの狩猟域の調整をしたりしているそういう存在・・・・・・かな?」
「モンスターが・・・・・・怖くないんですか?」
アイズの言葉に少し、青年は少しの間考え、真剣な表情で頷く。
「怖いね。何だかんだで毎年多くの同胞もやられているし村に被害が出る場合もあるしね」
「モンスターが・・・・・・憎くないんですか?」
「いや・・・・・・それは――」
青年が何かを言う前に先程のハンター達がこちらに振り向き叫ぶ。
「「「「奴等は動く“素材”だ!! 問題ない」」」」
「・・・・・・」
「・・・・・・うん、全員がああいう訳じゃないよ?」
アイズの何処か責めるような視線に苦笑いを浮かべながらも、どうにか青年は気を取り直す。
「君はモンスターが憎いのかい?」
「・・・・・・」
黙りこむアイズに青年は微笑みを浮かべ言葉を続ける。
「きっと、君には君の人生があって、君の心は君だけのものだろう。だから、これだけは言わせてほしい。君の時間だけは、君に選んでほしい」
「・・・・・・どういう事?」
これはある子からの受け売りなんだけどね――そう言うと、青年は視線をハンター達へと向ける。アイズもそちらに振り向いたのを確認して語りかける。
「努力とか結果は求められれば、こなして行くのが当たり前。でもね、それを自分の想い以外に使いすぎてしまうと人はね、それが苦しくなってしまうんだ。だから、何処かで自分を許してあげれる、居心地のいい自分で居られる。そういう時間が必要なんだよ。まぁ、有り体に言えば“肩の力を抜け”ってやつだね。」
「でも・・・・・・それじゃ、届かない・・・・・・たどり着けない。自分を鍛えないと・・・・・・追い込まないと、先には進めない」
「そうだね・・・・・・君の言葉も正しいよ、昔は僕もそう思っていた・・・・・・昔の話になるけどね、駆け出しの時代に一緒に組んでいた子が居たんだけどね。その子がすごく狩りの上手い子でね。いつも一緒に行くたびに、ああいうように為りたい。って無理な事ばかりしていたよ」
アイズの瞳が見開き青年に向く。「意外かい? 誰だって初めから強くはないよ」そのアイズ視線に笑ってそう言葉を返す青年。
「とにかく、躍起になって行くうちに何処かキャラバン・・・・・・ああ、僕の仲間なんだけどね彼らとの距離感も自分の中で付けられなくなってきちゃってね・・・・・・そんな時にその同期の子に思いっきり殴り飛ばされたんだよ」
突然の話の展開に困惑するアイズ。青年も笑いながら「あの時は痛かったな」などと軽い口調で語る。
「えっと・・・・・・どうして殴られたんですか?」
少なくとも自分の【ファミリア】はそういう事はしない・・・・・・せいぜいフィンとリヴェリアの小言ぐらいだ・・・・・・。
「ああ、理由は簡単だったよ。確か“我らの団の今の目が気に入らないかな! 死んだ魚みたいな目をするんじゃないかな!”だったかな? いや、本当にそういう目をしていた訳じゃないよ? それでも、その後に鏡で見た自分の目を見て怖気がたったよ」
すごく、個人的な意味合いを含む理由に思わずドン引きしてしまったアイズだったが、次いで語られた青年に言葉に興味を持つ。無言を催促と受け取ったのか青年は話を続ける。
「そこにあったのは。感情の抜けた抜け殻みたいな男だったよ。努力を重ねて、結果を残して、自分を追い詰めて・・・・・・いつしか人の善意の言葉が届かなくなりかけていた・・・・・・そんな男がいたんだよ。そして、その瞬間にはそれまでに疲労が祟って倒れ込んでね。二日程寝込んでしまったよ。次に目を覚ましたのは、無理やり元気ドリンコをあの子から口に流し込まれた時だね。目覚めた僕の顔をじっと見て・・・・・・笑ってくれた」
「・・・・・・どうして、その話を私に?」
うすうす青年の言いたい事には気がついていたが、アイズはそう聞かざるを得なかった、それは彼女なりの最後の抵抗だったのかもしれない。
「気を悪くしないで・・・・・・なんて言えないね。はっきり言って君の目はその時の僕と同じだ・・・・・・もう一度聞くよ“君はモンスターが『憎い』のかい?”」
その青年の問いにアイズは自らに問うた。“私は『モンスターが憎いのか』と”しかし、その答えはどうしても以前の彼女の答えに行きつかなかった。モンスターは倒すべき対象だ・・・・・・それは変わらない。でもそれは憎いから? 何処かで少女の中で狂っていた歯車が元の位置に戻ったかのような気がした――そうだ、自分は――
「気がついたみたいだね。その気持ちは大切にしてね・・・・・・きっと、君は今より強くなれる。それも、君一人の力ではない強さになれるさ」
「うん・・・・・・もしかしたら、私は諦めかけていたのかも・・・・・・ありがとうございます。『思い出せました』」
「そう、それなら良かった・・・・・・トビ子ちゃんみたいな方法を使わなくてよかったよ・・・・・・んっ!? トビ子ちゃん・・・・・・あ!?」
ひょっとして、最終的には殴り飛ばすことも考慮に入れていた? 青年の言葉にアイズは心の中で、“ナイス! 私、ナイス!”と喜んでいるが、青年の突然、何かを思い出したような反応にアイズは頭上に『?』マークを浮かべる。
「ちょちょちょ、みんな! 戻って指定の位置に戻って! 君も、悪いんだけど戻って!」
「ええっ・・・・・・?えっと、さっきの場所に戻ったらいいの?」
「そうそう、ってユクモの姉さんとポッケの兄さん! 場所が逆だから入れ替わって・・・・・・よし。えっと・・・・・・ごめんね、トビ子ちゃん・・・・・・」
そう言って青年が何かを操作すると最後のシルエットが明らかになる。その姿に全員が呆気に取られる。そこに居たのは半泣きでプルプルと震えている“今まで放置されていた”パイであった。
「「「「あっ・・・・・・忘れてた」」」」
ハンター達も本気で忘れていたのだろう。曲げた右肘を左手で押さえたようなポーズのまま自由な先輩たちによって出番を遅れさせられ、あまつさえも忘却の彼方に追い込まれていた『ハンター』の少女はその体全体で「泣くぞ! 本気で泣くぞ!」と無差別に訴えている。
「「「「「「・・・・・・」」」」」」
いくら何でも、これは流石に酷い。パイを除く全員が気まずそうに黙り込むハンター達の視線が青年に向く――そのあからさまに『どうにかしろよ、後輩』という理不尽な視線に青年は只管に冷や汗を流しながらも、諦めたように小さく息を吐いた・・・・・・そして――
「本番はいりまーす」
青年は考える事をやめた。
「「「「我ら! ハンター特選隊!!」」」」
「あんたら、酷いかな!! 流されないからね! 私、無かったことなんかにさせないかな!!」
その青年の合図に勢いでゴリ押ししようとノリで叫ぶ脳筋のハンター達の“四人”の声を上回る声音で叫ぶパイの怒声が響きパイVSハンター達の大乱闘が開始された。
実に酷い内容の“夢”だ。アイズは乾いた笑いをする。青年も同じく困ったように笑っていた。乱闘現場からはと言うと・・・・・・。
「バハハ・・・・・・げフゥ!?」
「くっ、黒鬼!大丈夫・・・・・・ぎゃあぁぁ!? 止めろ! トビ子! 【ソレ】はシャレ
にならんぞ!」
「トビ子ちゃん! 流石にお姉さんが悪かった! だから【ソレ】は仕舞ってぇ!?」
「いくら筋肉を鍛えていても【ソレ】は別格だ正気になるのだチビ子! あっ、間違えた。トビ子」
「チビ言うなぁ!!? みんなこれで、茶色に染まればいいかなぁ!」
などと、壮絶な会話が聞こえてくる。
どうやら。あの場所に近づくのは危険そうだ。アイズは神々の言うところの【超法規的措置“別名『見なかったことにしよう!』”】を敢行する。グダグダな上にこんな展開に付き合い来れない。この短い間に少女は大人になったのだ。
そのとき――そんな喧騒とは違う方向から“懐かしさを感じる風”が吹いた。アイズが振り返ると、そこには笑みを浮かべる大切な人達が――【家族】がいた。
そうだ、帰ろう。そう思った瞬間――アイズの意識が何処かに浮上するような感覚を覚える、そろそろ夢が覚める。それを自覚した時アイズは青年に確かめたかったことを尋ねる。
「あの・・・・・・貴方は、その同期の人に笑ってもらって・・・・・・嬉しかったですか?」
「ん・・・・・・? いや、むしろそのあとの言葉の方が嬉しかったかな?」
アイズの質問に答える青年の言葉が気になり、聞くと、青年は答えた。“それはね・・・・・・”
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
――目が覚めた。パチリと瞼を開き、アイズは痛む頭を摩りつつ起き上がる。
「あっ、起きた・・・・・・ごめんかな、大丈夫?」
隣で心配そうに介抱していたパイが、目を覚ましたアイズを見て心底安心したように息をつく。
空の色を見る限り、そこまで時間も経っていないようだ、アイズがどれぐらい気絶していた? と聞くと十分ぐらいかな? とパイは返す。
「夢を・・・・・・見たの、トビ子の知り合いがたくさん出てくる夢」
「おい、ちょっと待つかな。どこでそのトビ子って名前を知ったのかな?」
パイにとっては、あまりに不名誉なあだ名を口にした少女に対して、アイズは夢の内容を説明し――それを耳にしたパイが戦慄する。
(あの人達、ついに時空をこえて空気の読めない行動を取り始めたかな・・・・・・こわいかな! すごく怖いかな!! そして我らの団のハンター! 君、全然“裏方”をできてないかな! なに、私が伝えたかった事伝えちゃってんのかな!? 主人公なのかな!? 君、主人公なのかな!? なにより、私の扱い雑すぎぃ! )
ぬぁ~っと頭を抱え込んでしまったパイに、アイズは吹き出し笑う。その笑顔を見たパイも笑みを強く浮かべる。
「アイズ・・・・・・やっと、“自然な表情になったかな”」
その言葉を耳にした瞬間――アイズの中で青年の最後のセリフを思い出す、そして、周りを見渡すと朝日に照らされてゆく【オラリオ】が見えた。その町並みが始まりだす光景に鼓動が跳ねる。
「そっか・・・・・・こんなにも綺麗な景色だったんだ」
「私達は『ハンター』だから、こういう光景はどの場所でもいいと思うかな」
「自然と調和する・・・・・・素晴らしいね、『ハンター』って」
そうでしょ、そうでしょと『うなづく』パイ。
(きっと、いつか迎えに行くよ・・・・・・だから、待ってて・・・・・・)
決意を胸にアイズは振り返る――さぁ、ハンターに鍛えてもらおう――っと視界に映るのは『うなづき』続けるパイの姿であった。
夢のとおり、自由人達な『ハンター』達の事を思い出しながらも青年の事を思い出し・・・・・・そこで、アイズは気がついた。
「あっ・・・・・・なんか親しみやすいと思ったら。あの人・・・・・・ラウルに似てるんだ・・・・・・」
【ロキ・ファミリア】の貧乏くじ担当の青年と夢に中の青年が重なる。きっと彼も何処かで苦労を重ねているのだろう・・・・・・。アイズはちょっと、夢の中の青年に同情したのだった・・・・・・。
『我らの団ハンター』が主人公してる・・・・・・これだから真面目くんは・・・・・・。
やっと、感想欄の返信ができました。当初からお声をかけていただいた方々には本当に返信が遅れて申し訳ありません。
色々なご指摘をそのまま適応できるほど器用ではないので、おぼつかない部分に苛立ちを持たれるかもしれませんが少しづつ本文で説明して、納得していただけたらなと思っています。