switcher!! 作:ちろ
「今日は俺のライブへようこそー!!エヴィバディセイヘイ!!」
プロヒーロープレゼント・マイクの声に、バッと両腕を上げて「ようこそー!!」と叫ぼうとしたその時、違和感に気づく。周りが誰も腕を上げていないし、そもそも若干引いている。腕を上げてレスポンスしようとしたのは俺だけで、明らかに浮いていることに気づいた。周りからの冷たい視線が突き刺さる。恥ずかしい!
しかし、これは俺がいつもの調子で挑めているという証拠。気にしない。俺は世界一切り替えが早い男。
「こいつはシヴィー!!受験生のリスナー!」
そりゃそうだろ。みんな天下の雄英に入りたくてここにきているんだ、緊張しないわけがない。そんな状態でレスポンスできる人間がどこにいる。俺すら周りの視線にやられてできなかったんだ。うわ、俺プレッシャーに弱くない?
そんなことはない。現に俺は全く堪えておらず、余裕ですらある。
「実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!!アーユーレディ!?」
実技試験の内容をざっくりいうと、こうだ。
持ち込み自由な10分間の模擬市街地演習を行い、そこで攻略難易度によってそれぞれ1、2、3のポイントを割り振られた仮想敵を行動不能にし、ポイントを稼ぐ。そして各会場に1体0ポイントの仮想敵がおり、そいつは大暴れするお邪魔虫らしい。0ポイントなら別に取りに行かなくてもいいだろう。
「俺からは以上だ!最後に我がリスナーへ我が校“校訓”をプレゼントしよう!!かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者』と!!
「かっちょいい……」
あまりのカッコよさに声が出てしまった。かっこいいではなくかっちょいいと言ってしまう程かっこよかった。更に向こうへ。乗り越えていくヒーローのためにある言葉だ、俺に相応しい。
ヒーローはどこのヒーロー科でもなれる。だが、最高の経験をするためには雄英に入るしかない。最高峰の仲間に囲まれて成長することで最高のヒーローに近づくってものだろう。
「っし!」
俺は一発気合いを入れて会場へと向かった。
会場は本当に街に見えた。所狭しと並び立つビル群は受験生を見降ろしているようにも見える。事実俺は敷地内にこんなものをポンポン作る雄英の財力に見降ろされていた。母さんが見たらどう思うことだろうか。きっと「私たちの未来を守ってくれる子たちですもの。それぐらいしないと」と理解ある態度をとるに違いない。流石俺の母親、世界一理解のある女。
受験生の様子は様々だ。余裕ぶっている者、気を落ち着かせている者、落ち着くどころかガチガチになっている者。ただ、ほとんどの受験生は個性にあった装備をしている。準備は万端ということか。俺何も用意してないのに。まぁ、俺の個性は装備があるとむしろ動きにくくなって邪魔になるのだが。
視界の端では、先ほどの説明の時にメガネの子に注意されていたもじゃ毛の子がまたも注意されている光景が映っている。受験生と言ってもその個性は様々なのだろう。あ、これは能力的な個性って意味じゃなくてね。
ただ、どれだけみっともない姿を晒していてもその人の個性はわからない。とんでもなく強い個性かもしれないし、個性が強くなくても気持ちはめちゃくちゃヒーローなのかもしれない。気持ちじゃどうにもならないのが辛いところだが、そこは仕方ない。俺は世界一切り替えが早い男。
ともあれ、同じ受験生であろうと合格すれば俺の学友も当然。俺は心の中でもじゃ毛にエールを送った。死んで骨になる前に俺がどうにかして助けるから安心して暴れてくれ、と。
一番最悪なのがもじゃ毛が受かって俺が落ちるということだが、俺が受からないということはないので「ハイスタート!!」それはない。
今何て言った?
「どうした!?実戦じゃカウントなんざねえんだよ!!走れ走れぇ!!」
「確かに!」
何人かの呆けている受験生を置いて、俺は個性を使って走り出した。
個性は『スイッチ』。あらゆるモードにスイッチし、そのモードに合わせた力を発揮する。今の俺は、
「スイッチ。モード『speed』!」
モード『speed』。このモードになった俺は世界一速くなる。その代わりに通常よりも力がなくなり、また耐久力も激減する。スピード特化の危ない暴走野郎ってとこさ。ダセェ。
「標的捕捉、ぶっ殺す!」
「物騒だなオイ!」
目の前に現れたのは確か1ポイントの仮想敵。速いが脆い。ただいざ目の前にしてみると結構デカい。対抗手段がなければ足が竦むことだろう。しかし俺には対抗手段がある。
「スイッチ。モード『power』!」
モード『power』。このモードになった俺は世界一力が強くなる。その代わりにめちゃくちゃ移動が遅くなる。このようにモード『speed』からスイッチしなければ使い物にならない。
ただ、その破壊力はまさに世界一!
「パゥワァァアアア!!」
右腕の一振りとともに1ポイント仮想敵を木っ端微塵に破壊し、決めポーズ。この瞬間俺は世界一カッコよくなる。そんなポーズを決めている俺の視界に、後ろから仮想敵に襲われている受験生の姿が!
「こりゃいかん!スイッチ。モード『speed』!」
ごつごつの体になるモード『power』からスリムになって元からカッコいい俺がもっとカッコよくなってしまうモード『speed』にスイッチし、すぐさま駆け付ける。一瞬でたどり着いた俺はすぐさまモード『power』にスイッチし、
「パゥワァァアアア!!」
「えっ、何!?」
仮想敵を粉砕した。流石俺、世界一切り替えが早い男。
「危なかったな!俺がいなきゃめちょんめちょんだったぞ!」
「めちょんめちょん!?あの、ありがとうございます!」
「気にすんな!お前も頑張れよ、未来のヒーロー!」
そして俺は世界一切り替えが早い男なので、モード『speed』になり次の仮想敵を壊しに行く。背後から「あのポーズとる意味はなんなんだろう……」という声が聞こえたが、カッコいいからに決まっている。このロマンがわからないとは、まだまだだな、もじゃ毛。
索敵、破壊、ポーズ。索敵、破壊、ポーズと繰り返していたら、いつの間にか結構時間が経っていた。そしてスイッチのし過ぎによる体への負担が結構やばい。途中から仮想敵が集まっていればモード『power』で移動し破壊していたが、あのモードはめちゃくちゃ遅いのでどうしてもモード『speed』にスイッチしなければならなかった。この負担がなければ最強の個性なのに、惜しいぜ。
「45ポイント!」
しかしやはり俺の個性は最強の個性だと持ち前の世界一切り替えが早い切り替えで思考を切り替えていると、メガネの子がポイント数を口にしながら仮想敵を壊していた。そういえばポイントカウントするの忘れてたなぁとぼんやり考えつつ、メガネの子が俺の世界一速いはずのモード『speed』より速いのではないかと考え始める。あと切り替え切り替えうるせぇと心の中で自分に文句を言った。
「まぁ世界一速くなればいいだけのことか!」
俺は世界一切り替えが早い男。今は劣っていたとしてもいずれ越えて見せる。あれだ、Plus Ultra ってやつ。
「スゥピィィイイドォォオオ!!」
そして速さを見せつけるかのように街を走り回る。どうだ、俺は世界一、いや今のところ世界二速いだろう?あ、隣にもじゃ毛。こんにちは。どう?俺世界一速くない?
そう声をかけようとした瞬間、地響きとともに巨大な何かが現れた。
「でか」
あまりの驚きに平坦な調子で二文字の言葉を発してしまった。あんなの倒せるの?いや、そもそも倒さなくていいんだっけ。0ポイントですものね。よし逃げよう。隣のもじゃ毛もめちゃくちゃビビってるし、抱えて逃げよう。さぁ行こうぜもじゃ毛。ところで君何ポイント?と聞こう、
「いったぁ……」
とした、その時。逃げようとしてこけてしまったのか、倒れている女の子の声が耳に届いた。このままではあのドデカ0ポイント仮想敵に踏みつぶされてしまうかもしれない。じゃあどうしよう。あのデカいのをモード『power』でぶっとばす。いや、できなくはないかもしれないが負担がひどくなる。なら女の子を抱えて逃げる。それはいいが、このもじゃ毛は?流石に二人抱えて逃げられるほどモード『speed』は頑丈じゃない。かといって普通のモードで二人抱えて逃げられるか。まぁやるしかないか。
「お?」
そこでふともじゃ毛の顔を見ると、何かイカした目をしていた。ふむ。
「もじゃ毛。アレ倒せるの?」
「もじゃっ、いや、あの」
声をかけるともじゃ毛はしばらくもごもごした後、再びイカした目で俺を見て、
「うん」
と頷いた。
「よっしゃ!ならやったれ!あの女の子は俺に任せろ!」
「う、うん!」
「女の子に触れなかったからって後で文句言うなよ!」
「言わないよ!」
ったく、シャイボーイめ。なんかめちゃくちゃ跳んだし。アレほんとに人間か?なんであんなのあったのにビビってたの?
「いやいや、そんなこと考えてる場合じゃない」
女の子を助けなければ。俺は世界一切り替えが早い男。
「よっしゃ、逃げよう」
ごめんねー、と言いながらお姫様抱っこをする。世界一カッコイイ俺にお姫様抱っこされてこの子もさぞかし喜んでいることだろう。お礼?いいさいいさ。それならあのシャイボーイに言ってあげてくれ。
「待って!あの人、着地はどうするん!?」
「あ。まぁあんなに跳んでしかもいつの間にかデカい仮想敵をぶち壊してるくらいだし、大丈夫なんじゃね?」
「っっっでえええええええ!!!?」
そうは見えない。めちゃくちゃ痛そうにしている。
「やべぇどうしよ!」
「私をあの人のとこまで投げれる!?私の個性は手で触れたものの重さをゼロにして、浮かすことができる!あの人に触れれば助けれんねん!」
なるほど、世界一重さがなくなるわけね。そりゃまた世界一の個性。しかし、俺には負けるね。
「わかった!しかし女の子を投げるような教育を受けてきてないもんでね!しっかり掴まってな!スイッチ。モード『jump』!」
モード『jump』。このモードになった俺は世界一跳べる。その代わりに足が「跳ぶこと」以外一切できなくなる。まさにモード『jump』!
「俺の個性はあらゆる分野で世界一になれる!ちゃんと触れよ!」
「触った!」
バチン、という痛そうな音が聞こえた。どうやらもじゃ毛より高く跳んでしまったようで、その途中で触ったらしい。もしかしたらめちゃくちゃ痛かったかも。ごめんねもじゃ毛。俺が世界一跳んでしまったばかりに。
「よし、じゃああとは君の重さをゼロにしてくれ」
「え、そのままやったら落ちてまうけど」
「大丈夫だ、信じろ!」
いい笑顔で言うと、女の子は「吐いてもうたらごめんな」と怖いことを言って自分に触れた。その怖さの真実を確かめる間もなく落下を始める。普通のやつならば大怪我するところだろう。普通のやつならば!
「スイッチ。モード『hard』!」
モード『hard』。このモードになった俺は世界一硬くなる。ただしこのモードになると一切動くことができなくなる。更に部分的な使用はできない。ただひたすらに硬くなるだけだ。
そして世界一硬くなった俺と、口元を抑えて「うぷっ」と不吉な声を漏らしている女の子は無事着地、着弾?した。地面が凹んでめちゃくちゃ背中が痛いが、俺は今世界一硬いので叫ぶことすらできない。このモード、骨は折れないし血もでないけど痛いものは痛いんだよね。
「っ、ふぅ。助かったぞ。降りてくれ」
「、ごめ」
「は?」
その瞬間、俺は世界一臭くなった。「世界一はひどない?」と元凶に文句を言われたが、うるせぇと一喝しておいた。
名前:
年齢:15
誕生日:4月8日
身長:世界一高い(と思い込んでいる)
体重:世界一ちょうどいい(と思い込んでいる)
好きなもの:切り替え、世界一のもの
個性:『スイッチ』
個性詳細
・あらゆるモードにスイッチし、そのモードに合わせた力を発揮するぞ!ただしすべてのモードにデメリットがあり、また切り替え過ぎると脳や体に負担がかかる!克服すれば世界一だ!頑張れ一成!
・モード『speed』
世界一速くなる(作中で世界二に転落)。代わりに力が弱くなり、耐久力も激減する。殴られるとめっちゃ痛い。見た目がスリムになる。
・モード『power』
世界一力が強くなる(と信じている)。代わりに移動が遅くなり、その様はまるでカメ。見た目がゴリゴリになる。
・モード『jump』
世界一跳べる(と自称している)。代わりに足が「跳ぶこと」以外一切できなくなり、移動する姿はまるでバッタ。すごく脚が長くなる。
・モード『hard』
世界一硬くなる(はず)。代わりに動くことができなくなる。部分的な使用はできず、全身を硬くすることしかできない。見た目がカチカチになる。