switcher!!   作:ちろ

10 / 13
第10話 人間砲弾

 山岳ゾーン。岩場の上に立っても戦闘音は聞こえない。

 

「これくる必要なかったか?」

 

「できればいい意味でだといいけど」

 

 どこに敵がいるかわからないので周りを警戒しつつ慎重に歩く。戦闘音が聞こえないのは全員倒したからか、それとも倒されたからか。倒されたというのは信じたくないが、ない話ではない。いくら敵がチンピラ同然でも不運が重なってやられることもありえる。考えたくなくても可能性として心にとめておかなければならないだろう。

 

「猿夫」

 

「うん」

 

 音を立てないように歩いていると人の姿が見えた。向こう側から身を隠すために岩の陰に隠れ、様子を窺う。

 

「電気と、響香ちゃんと、百ちゃんか」

 

「上鳴は敵に捕まってるおまけつきだ」

 

 俺たちの視線の先には敵に捕まっている電気とそのせいで動けないでいる響香ちゃんと百ちゃんがいた。周りには多くの敵が倒れているため、なんらかの方法で全員を倒したと油断したときに電気が捕らえられたといったところだろう。幸い敵の背後に俺たちはいる。感知タイプでなければ一気に詰めて倒せるのだが。

 

「どうやって助けるか。敵のところにたどり着く前にバレたらマズいよな」

 

「うん。少しでも違和感を持たれて上鳴に手を出されたらアウトだ」

 

 モード『speed』を使ったとする。アレは世界一速いが、足音が消えるわけではない。相手の個性が何かわからない以上、できるだけバレないようにしなくてはならない。となると。

 

「猿夫、尻尾に乗せてくれね?」

 

「尻尾?どうするんだ?」

 

「人間砲弾さ。スイッチ。モード『jump』」

 

 モード『jump』にスイッチし、猿夫の尻尾に乗る。こうすれば足音もなく敵のところへ行ける。更に着いた時には敵を倒せているというすばらしい作戦だ。有能が過ぎる。

 

「じゃあ、行くぞっ」

 

 気合いの声とともに、一振り。そのタイミングに合わせて俺は猿夫の尻尾を蹴った。

 

「っ!!」

 

 尻尾の威力とジャンプの勢いが合わさり、もの凄い速さで敵の下へ飛んで行く。俺は顔の前で腕を交差させ、着弾の構えをとった。

 

「そっちへ行く、決して動くなよ」

 

 敵の声が小さくだがはっきり聞こえる。見れば、もう目と鼻の先。あまりに速かったため直撃に備える体勢も満足にとれず、俺は無様に敵と衝突した。

 

「ぐふぉおあ!?」

 

「助太刀っ!」

 

 俺は敵の背中と衝突し宙に放り出された。敵の様子を見ると地面に倒れ、ピクリとも動かない。よし、倒すことはできたらしい。もしかしたら骨がぽっきりいってるかもしれない。

 

「スイッチ。モード『hard』!」

 

 このままでは岩に激突して体がぐちゃぐちゃになるのでモード『hard』にスイッチする。ほとんどガチの砲弾になった俺は岩に激突して岩を粉々に破壊した。壊れた岩が俺に乗っかってこなかったことが唯一の救いである。モード『hard』の時は動けないから、岩をどかすこともできず、解除すると普通に潰されるからだ。今思うと結構な博打だったのでは?

 

「えっ、あ、須一!?」

 

「無事だぜー響香ちゃん。そっちは?」

 

 モードを解除すると、戸惑いがちな響香ちゃんの声が聞こえたので軽く答えておく。そりゃいきなりクラスメイトが飛んできて敵を弾き飛ばし、そのまま岩を粉々にしたら誰だって困惑するよね。実際にやった俺もあまり記憶がないくらいだから。

 

「こっちも無事!あんがとね。何やったかわかんないけど」

 

「俺は砲弾と化したんだ。あと腕がまったく動かん」

 

「無事じゃなくない?」

 

 命があったら無事なんだ。そういうことにしておこう。

 

「ありがとうございます、須一さん。あなたがいなければどうなっていたことか」

 

「いやいや。礼なら猿夫にも言ってくれ。さっきのはアイツの協力があってこそだ」

 

「須一一人でもなんとかなってたと思うけどね」

 

 そう言って謙遜するが、実際前に跳ぶことが得意ではない俺にとって猿夫のサポートは大分ありがたかった。あの距離を自分の力だけで跳ぶのは無理だったし、俺一人で隠密行動の上敵を倒すのは無理だっただろう。

 

「んなことないって。めちゃくちゃ助かった。……んで、あのおもしろおもちゃは?」

 

「ウェ、ウェ~イ」

 

 敵の個性にやられてしまったのかと疑ってしまうほどヘロヘロになった電気が、奇怪な動きで「ウェ~イ」と言い続けている。W数が許容オーバーすると脳がショートしてアホになると本人が言っていたが、まさかここまでとは。めちゃくちゃな弱点じゃないか。

 

「ウェ~イ」

 

「あ?まぁそうだな。そこは許容上限を上げるしかないだろ」

 

「会話できてる……」

 

「心を読むモードですか?」

 

「知能指数が一緒だから?」

 

 俺が電気と普通に会話すると、猿夫に驚かれ百ちゃんに変な勘違いをされ、響香ちゃんにバカにされた。確かに俺は頭がよくないが、この状態の電気と一緒にしてほしくはない。ただなんとなく言っていることがわかった風を装って適当に答えただけだ。

 

「心を読むモードでもないし、適当に答えただけだ。んで、これからどうする?俺としてはセントラル広場に戻るのがいいと思うけど」

 

「他のゾーンへの加勢は?」

 

 猿夫の言葉に俺はドーム型になっているUSJの天上に空いた穴を指した。

 

「あんなことできんのオールマイトくらいだろ。だからもう大丈夫だ」

 

「うわ、ホントだ。いつの間にあんなの空いてたんだろ」

 

「目の前の敵に夢中で気づきませんでしたわ……」

 

 俺が指した天井の穴を見て、目を丸くする二人。電気は相変わらずちょこちょことアホしているのでもう無視することにした。

 

「よし、じゃあセントラル広場に向かおう。もしかしたらオールマイト以外の先生も助けに来てくれてるかもしれないし」

 

「正直俺もう戦えないくらい腕ぷらんぷらんだから、きてくれてるとすごくありがたい」

 

 まだ回復の兆しを見せない俺の腕を気遣ってか、俺を間に挟んでの索敵陣形を組んでセントラル広場に向かうことになった。隣にいるアホはいつ元に戻るのだろうかと考え、徐々に戻ってきた腕を使って電気を小突いてみた。叩けば直るわけではないらしい。

 

「気を緩めないように」

 

「はい」

 

 電気と遊んでいると百ちゃんから注意を受けてしまった。電気と顔を合わせて「じゃれてただけなのにねー?」と言うと、もう一度睨まれた。護送される犯人ってこういう気持ちなのかと考えながら大人しく歩いていると、セントラル広場が見えてきた。

 

「お、みんないんじゃん!」

 

「戻ってる」

 

 ちょうどいいタイミングでアホから戻った電気がみんなの姿を見て我先にと駆け出した。脳がショートしていたはずなのに元気なやつである。俺はやっと普通に動かせるくらいには腕の感覚が戻ってきたところなのに。

 

「わ、五人一緒だ!みんな無事?」

 

「無事!俺たちが最後なのか」

 

「ザコ」

 

「あぁん!?」

 

 俺たちを見て話しかけてくれた透ちゃんにピースして答えると、憎たらしい勝己からの憎たらしいセリフが聞こえてきた。敵に襲われても勝己は平常運転らしい。平常がこれて、なんてやつだ。

 

「誰がザコだ誰が!」

 

「最後にきたことがその証拠だろ。あんな三下どもに手こずったのか?」

 

「俺たちのところにいた敵がクスリ使ってきやがったから他の人が心配だったんですー!俺はあらゆる可能性を見据えてるんでね!」

 

「クスリ?」

 

 敵から回収した注射器を出して勝己にキレていると、足元から声がした。この雄英において足元から声がしたら誰がいるかなんてわかりきっている。

 

「校長先生」

 

「そのクスリって個性をパワーアップさせるやつかい?」

 

 ネズミなのか犬なのか熊なのかはわからないが、とりあえず動物。それが雄英高校の校長である。目上の人なのでできる限り目線を低くするためにしゃがみこんで「はい」と答えると、校長は俺の足をぽんぽんと叩いた。

 

「お手柄だったね。でも、君たちはヒーローの卵であると同時に僕たちの生徒なんだ。正義感はいいけど、無理はしないようにね」

 

「心得ています。これ、渡しておいた方がいいですかね?」

 

「君が警察に渡した方がスムーズに話が進むだろう。持っておいていいけど、渡すときには呼んでね」

 

「わかりました」

 

 それだけ言って、校長は去っていった。それを確認して立ち上がると、勝ち誇った表情で勝己を見る。

 

「何が言いてぇんだ!」

 

「いや?まぁよかったんじゃないか?俺はみんなを助けに行って、勝己はセントラル広場の主犯格を潰しに行った。お互いの行動がわかっていたかのような動きじゃん。別に手柄がどうとかっていう話はしてないけど、俺はクスリ持ってる敵も倒したし?」

 

「自慢してぇのが見え見えなんだよ!そんなもんはできて当然くらいに思っときゃいいんだ!」

 

「それもそうか」

 

 なるほど。学生の身でありながらもクスリを持っている敵を倒して確保するのはヒーローの卵として当然のこと。そう思えって堂々としておけば余裕が見え、更なる自信もついていく。いちいち手柄のことを口にするのはダサいということか。一理ある。

 

「すまん、俺が間違ってた。確かに俺の方が勝己より強いけど、手柄を振りかざすのは違うよな」

 

「おい、前半もちげぇ!俺のが強いわ!」

 

「いーや俺の方が強いね!何て言ったって名前に一が二つも入ってる!これは俺が一番であるという証拠!」

 

「なら俺は名前に勝が入ってるから俺の勝ちだろが!」

 

「子どもみてぇ」

 

 敵を倒したばかりだというのにいつも通り喧嘩していると、鋭児郎にバカにされた気がした。子どもみたいって悪口かどうかわからないところがある。子ども心があるって素晴らしいことだと思ってるし。俺は。多分鋭児郎はバカにしたつもりで言ったんだろうけど。

 

「そんなにどっちが強いかって揉めるなら、じゃんけんでもすりゃいいんじゃね?」

 

「誰がんなことするか!」

 

 鋭児郎の後ろから電気がひょっこりと顔を出して一つ案を出してくる。勝己はお気に召さなかったみたいだが、じゃんけんか。ここで一つ勝敗がつくならいいかもしれない。よし、ここは。

 

「あれ?勝己さん負けるのが怖いんですか?まぁ俺は何においても勝ってるからなぁ。そりゃ負けるとわかってる勝負はやらないか」

 

「し倒したるわ!先に三勝したほうが勝ちだぞ!」

 

「よっしゃきた!」

 

「やっぱ子どもみてぇ」

 

 わかりやすい挑発に乗ってきた勝己を倒すべく、勢いよく腕を振り下ろした。ちなみに負けた。悔しい!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。