switcher!!   作:ちろ

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第12話 第一種目、障害物競走

 雄英体育祭、本番当日!

 

「ついにきましたね。俺が一番になる日が」

 

「未来永劫こねぇよ。そんな日」

 

 体育祭当日、控室で一回戦が行われようとしていた。未来永劫こない?許さんぞこいつ。

 

「まーまー言わせておいてやるよ。数時間後には俺が表彰台で一番高い位置にいて、勝己はよくて二番」

 

「カス」

 

「あの、もうちょっと構ってくれね?」

 

 いつもの調子のいい罵倒が飛んでこなかったので肩を叩いても、勝己は完全に無視を決め込んでいる。体育祭前だから集中したいのかな?こいつはいつでも俺が一番だと余裕ぶちかますタイプだと思ってたが、意外に集中するタイプなのか。邪魔すると後が怖いので、ここは引いておこう。

 

 いやしかし、柄にもなく緊張してくる。今までの行事は特に将来も何も関係なかったからのびのびとやれたが、この体育祭は将来が決まると言っても過言ではない。多くのプロヒーローが見に来て、生徒一人一人に注目する。特に今年はUSJの襲撃があったから、1年ステージの見学も多いことだろう。つまり、これはチャンス。

 

 緊張して自分の実力を発揮できないのはもったいない、つまらない。全力で楽しんで優勝しよう。そうしよう。

 

「みんな!入場だ!」

 

 委員長である天哉が入場の時間がきたことを教えてくれた。真面目な人がいるとこういう行事ごとで遅れることがなくなるからものすごくありがたい。人の話は基本的に聞いているが、時々聞き漏らしてしまうことがあるからどうしても甘えてしまう。

 

 クラス全員で入場ゲートに向かう。一歩一歩歩くごとに沸きあがってくる高揚感。緊張してるって言ったが、アレ嘘だ。俺は今世界一ワクワクしている。

 

『雄英体育祭!ヒーローの卵たちが我こそはとしのぎを削る年に一度の大バトル!』

 

 プレゼント・マイクの声が聞こえてくる。あの人お祭りにめちゃくちゃ向いてるよな。実況にうってつけすぎる。会場を沸かせることなんて朝飯前だろう。入試の時は別として。

 

『どうせテメーらアレだろ!?こいつらだろ!?敵の襲撃を受けたにもかかわらず、鋼の精神でそれを乗り越えた期待の新星!!ヒーロー科!!1年!!A組だろぉお!?』

 

「めっちゃ持ち上げてんじゃん!」

 

「嬉しそうにしてんなー、須一」

 

 抑えきれないワクワクが顔に出てしまっていたのか、電気に呆れられながら言われてしまった。見ると、少し強張った表情をしている。普段何も考えていないようなアホ面をしているくせに、緊張はするらしい。

 

「いやさ、やっぱワクワクすんのよ。こんなデカい場所で一番になれたらって思うと」

 

「緊張とかしねぇの?」

 

「しねぇってことはないけど、やっぱりワクワクが勝つ。圧倒的に」

 

「……そっか!だよな!」

 

 俺の言葉を受け、電気はいきなり元気になって俺の背中を叩いてきた。なんのこっちゃ。

 

 選手全員の入場が終わり、ミッドナイトが朝礼台に上がった。18禁なのにもかかわらずなぜ高校で教師をやっているのだろうか。健全な男子としてはありがたいのだが、保護者から苦情がこないか心配である。

 

「選手宣誓!選手代表、爆豪勝己!!」

 

「俺じゃない……?」

 

「お前入試一位通過じゃないだろ」

 

 勝己の背中を見ながら俺が選手代表でないことに呆けていると、鋭児郎が信じられない事実を告げてきた。いや、知ってたけど。あいつが一位だってことが何かの間違いで、実は俺が一位でしたってなってると思って。それはない?あ、そう。

 

「せんせー」

 

 勝己はポケットに手を突っ込んだまま、やる気なさそうに宣誓を始めた。こういうときくらいきちっとしない?しないのが勝己らしいといえばらしいのだが、俺ならもっと選手代表らしく宣誓ができるというか、今から俺に代わらない?

 

「俺が一位になる」

 

「調子乗んなよA組オラァ!!」

 

「一位になんのは俺だっつってんだろうがゴミが!!」

 

「この状況で一位になるって言うってどういう神経してんだ須一!」

 

 思わず飛び出そうとしたが鋭児郎に羽交い絞めにされて止められてしまう。どうか離してほしい。あのわからずやにわからせてやらねばならないんだ。あ、実際に俺が一位になればいいのか。そうすればあいつは一位になるって言うだけ言ってなれなかった恥ずかしいやつになる。俺もなれなかったときはそうなるけど。

 

「さーてそれじゃあ早速第一種目行きましょう!運命の第一種目!今年は……コレ!!」

 

 ミッドナイトが示した先には、障害物競走という文字。なるほど、障害物競走。体力を使いそうな競技は後々のことを考えると体力的に大体不利なのだが、やはり不利な競技がきてしまったようだ。ここは何とかスイッチを多用せず行かなければならない。

 

「計11クラスでの総当たりレースよ!コースはこのスタジアムの外周約4キロメートル!コースさえ守れば何をしたってかまわないわ!」

 

 4キロなら問題ない。スイッチを多用しなければ十分体力は残る。注意すべきは何をしたってかまわないというルール。これは妨害行為も全然オッケーという意味だろう。俺の個性は全体的な妨害には向いていないので、妨害は考えずただただゴールすることを考えた方がいいかもしれない。

 

「さぁ行くわよ。よーい、スタート!!」

 

「スイッチ。モード『speed』!」

 

 スタートの合図と同時に前にいた人を踏みつけ、人の肩を足場にしながら前に進む。めちゃくちゃバランスがとりにくいが、狭いスタートゲートを最速で切り抜けるにはこれしかない。

 

「って、風!?」

 

 スタートゲートを通ったところで、風に背中を押された。こんなところでこんな強風は起こらないはず。なら、誰かの個性?

 

「すごいな、アンタ!世界一って言うだけはある!」

 

「イナサ!」

 

 後ろを見ると、すぐそこまでイナサが迫っていた。少し後ろには焦凍がおり、後ろにいる選手を凍らせている。危なかった。スタートが遅れてれば俺もああなっていたかもしれない。

 

「ただ、負けないっス!一番になんのは俺っスから!」

 

「んだと!?俺だ!」

 

「俺っス!というか、前!」

 

「あ?」

 

 隣にきたイナサと言いあっていると、突然前を向けと言われた。罠かもしれないがこいつはいいやつなので素直に前を向くと、

 

『さぁ初めの障害物!第一関門、ロボ・インフェルノ!』

 

「入試のときの仮想敵!」

 

「入試?」

 

「ほら、実技でやっただろ!……ん?さてはイナサ、推薦組か!?」

 

「推薦一位っス!」

 

「一位だからって勝った気でいんじゃねぇぞちくしょう!スイッチ。モード『jump』!」

 

 捨て台詞を残し、モード『jump』になってゼロポイント仮想敵の上に着地する。地上は仮想敵がいすぎてダメだ。いけるかもしれんが確実に怪我する。

 

「姿がコロコロ変わるな!個性複数持ちっスか?」

 

「はぁん!?」

 

 モード『jump』でロボ群を跳び抜けようとしたその時、下からイナサが上がってきた。風に関する個性だとはわかっていたが、こいつ空も飛べるのか?推薦一位は伊達じゃないということか。

 

「俺の個性は色んなモードがあって、そのモードに合わせた力を発揮する!今の俺は世界一跳ぶ男!」

 

「世界一か!すごいな!」

 

 褒めてくれたイナサに「ありがとう!」と返し、ゼロポイント仮想敵からゼロポイント仮想敵に跳び移って、最後のゼロポイント仮想敵を駆け下りてロボ・インフェルノを抜けた。地上に降りるとイナサは目に見える範囲ではあるが、結構前に行ってしまっている。

 

「待てやコラ!」

 

「スリムになった!面白いな!」

 

 モード『speed』にスイッチしてイナサを追う。最高速は俺の方があるらしい。風を操って飛べるとはいえ、繊細なコントロールが必要なのだろう。イナサがもっと個性を伸ばせば、俺ですら追いつけなくなるかもしれない。その頃には俺も個性を伸ばし、もっと速くなっているに決まっているが。

 

「んで、第二関門……マジかよ!」

 

『第二関門、ザ・フォール!』

 

 第二関門は超危険な綱渡り。足場から足場へと綱が渡っており、少しでもバランスを崩せば真っ逆さま。あれ落ちても平気だよね?死なないよね?

 

「じゃあお先!」

 

「クソッ、乗せてけ!」

 

 空を飛べるイナサは綱渡りなど知ったことかと、第二関門を越えていく。流石にこれをモード『jump』だけで越えていくのはきつそうだ。助走をつけなければ足場から足場へ移れないだろう。となれば、

 

「スイッチ。モード『speed』!」

 

 モード『speed』にスイッチし、踏み込みのタイミングで、

 

「スイッチ。モード『jump』!」

 

 モード『jump』にスイッチして跳ぶ!これを繰り返せば早めに越えられるはずだ。

 

『先頭二人難なく越えていくー!!』

 

『一人は実際に空を飛んで、もう一人も飛んでるようなもんだからな』

 

『だが油断はできないぜ先頭二人!後方に迫るは轟焦凍ー!』

 

 第二関門を抜けて走っていると、プレゼント・マイクの実況が耳に入った。そうか、俺の後ろに焦凍がいる、と。どうやらゆっくりしすぎたらしい。やはり第二関門で手こずったからか。

 

「追いついたぜイナサ!」

 

「やっぱ速ぇ!いい個性っスね!」

 

「お前もな!」

 

『さぁー最終関門!その実態は一面地雷原!怒りのアフガンだ!地雷の位置はよく見りゃわかるようになってんぞ!目と脚酷使しろ!』

 

「お先!」

 

「待てやコラァ!!」

 

 また飛んで行こうとしたイナサの足を掴む。流石にこうも近くで見続けたら挙動がわかってきたぞ。このまま行かせてたまるかってんだ!

 

「あ」

 

「お」

 

 ニヤリと勝ち誇ったのも束の間。

 

 走った勢いのまま足を掴んだ俺と、足を掴まれて引っ張られたイナサは地面へと倒れ込んだ。そしてここは一面地雷原。

 

 結果。

 

「スイッチ。モード『hard』!」

 

「あっ、ずる」

 

 ずるい、と言い切る前にイナサは吹き飛ばされていった。ごめんね。

 

 モードを解除し、さて、と走りながら考える。確かに見ればわかるが、確認しながらチマチマいけば追いつかれてしまう。なんとか速く抜ける方法はないだろうか。

 

「ぉぉぉぉぉおおおおおお!!」

 

 そうやって考えていた俺の耳に、ここ最近で聞きなれたアイツの声が届いた。

 

「一位になんのは俺だぁぁあああ!!」

 

「いや、俺だ」

 

「勝己に焦凍!もうきたのか!」

 

 後ろを見るとすぐそこに勝己と焦凍。そういえば勝己も飛べるからここは楽に抜けられるのか。今は焦凍の妨害があって前に行けない状態になっているが、俺の近くにきた今二人の矛先が俺に向かってきてもおかしくない。今俺が一位だし。

 

 だったらここから一人だけ抜ける方法を考えなければならない。二人を出し抜いて、俺だけ一人抜ける方法。

 

 ここで俺は、ふと地雷が目に入った。確か光と音はすごいが、威力はそこまでだったか。だがイナサが吹き飛んでいたということは人を吹き飛ばす力はあるということ。あれ?地雷が起爆する瞬間に前に跳べたらそのまま前に飛ばされね?いけんじゃね?

 

 正直、これは博打だろう。戦闘訓練の時に焦凍の氷結のタイミングに合わせてジャンプができなかった男だ。地雷を踏んだ瞬間に跳ぶなんて真似ができるとは思えない。そう、地雷の場所がわからなかったなら。最終関門は地雷の場所がわかるように設置されており、意図的に踏むことができる。それはつまり、タイミングを合わせるのは普通の地雷より簡単だということだ。

 

「スイッチ。モード『speed』!」

 

 モード『speed』にスイッチし、一気に最高速。そして目の前の地雷を踏む瞬間に、モード『jump』にスイッチ。そして、地を蹴ると同時に前へ跳躍!

 

 その瞬間、俺はゴミのように吹き飛んだ。不格好なゴールにはなるが、これで俺が一位通過できるに違いない。そう思っていたその時。

 

『A組緑谷爆発で猛追!っつーか……抜いたー!!』

 

「は?」

 

 背後で大きな爆発音が聞こえたかと思えば、プレゼント・マイクが出久の追い上げの実況。いや、俺は抜かれていない。まだ大丈夫だ。このまま俺が一位で通過できる。

 

 そう思っていたところに、また爆発音。それが聞こえたかと思えば。

 

「出、久」

 

 入試の時に見た、あのもじゃ毛が俺の前にいた。

 

「な、に抜いとんじゃコラァァァアアアアア!!!」

 

『さぁさぁ序盤の展開から誰が予想できた!?今一番にスタジアムに還ってきたその男、緑谷出久の存在を!!!』

 

「最後の、最後で……」

 

 出久の後にゴールゲートを抜けた俺は、出久を見た。客席に向かってガッツポーズをしているのは、あそこに出久の師匠的な人がいるからだろうか。ここからはよく見えないので推測しかできない。

 

 ただ、一つだけわかったことがある。

 

「個性使わず俺に勝ちやがって!舐めプしてんじゃねぇぞコラ!!」

 

「ひぃっ!かっちゃんがうつってる!?」

 

 出久に詰め寄ると、聞き捨てならないことを言われてしまった。うつってるって。勝己病気かなんかか。

 

 体育祭第一種目障害物競走は、二位通過に終わった。

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