switcher!!   作:ちろ

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 気分が乗っているので二話目です。


第2話 合格通知

「直談判?」

 

「そ!あの人最後の方に『せめて1ポイント』って言ってたから、まだ0ポイントなんやないかって思って。私のポイント分けられませんかって言いに行く!」

 

 世界一臭くなった俺の学校指定体操着から制服に着替え、先ほどもじゃ毛とともに助けた女の子……麗日お茶子と並んで歩いてると、お茶子ちゃんが息巻いて「直談判する」と言い出した。あの人というのはもじゃ毛のことだろう。倒れている人を助けるためにデカい仮想敵をぶっ飛ばしたあのもじゃ毛。モード『power』の俺より強くない?

 

「別に必要ないと思うぜ。ほら、あんなに世界一アツいやつが不合格なわけねぇって」

 

「何の根拠にもなっとらんくない?」

 

「だいじょーぶだって!行くなら止めねぇけど、誰かを助けるために0ポイントとはいえ仮想敵をぶっ飛ばしたんだ。温情かなんかですっげぇポイント貰ってるさ」

 

 楽観的な俺に、あの人にポイントを!と気合いを入れるお茶子ちゃん。対照的に見えるが、もじゃ毛が受かるべきだって思ってるのは同じだ。ほら、あんな場面で人を助けるやつをヒーローと言わずして何て言うんだ?もじゃ毛はあの瞬間まさしく世界一のヒーローだったね。俺には負けるけど。

 

「うーん……でも、やっぱり行ってくる。私のせいで0ポイントになるんかもしれんって考えたら行かずにはおれんよ」

 

「そうか。ポイント分けた結果受からんかもしれねぇぞ?」

 

「だいじょーぶ!」

 

 お茶子ちゃんは俺の隣から前に出て、ピースサインを向けて笑った。

 

「私、受かるから!またね、須一くん!」

 

 おう、また。と返す前に元気無重力ゲロガールは去っていってしまった。さっきまでぐったりしていたのに、若さの神秘というやつだろうか。俺はまだ元気になれそうにない。やはりスイッチのし過ぎだろう。中々限界だったところに最後のモード『jump』とモード『hard』へのスイッチで完全に体が疲れたと言っている。

 

 ひとまず母さんに「受かったヨ」とメールを送り、帰路につく。俺の家は雄英からそこまで離れていないので徒歩で十分だ。電車通学に憧れていた俺からすれば残念なことこの上ないが、雄英に通えるならばこれ以上の贅沢はないだろう。

 

「お」

 

「あ」

 

 脳内で華々しい雄英ライフを描いていると、目の前に親の顔よりも見た、というか親そのものがいた。我が母、世界一理解のある女。須一(すいち)一華(いちか)である。

 

「心配で迎えに来ちゃった!」

 

「この俺に?心配?俺は世界一だから心配することないぜ」

 

「そりゃ母親だし。心配するよ」

 

「ありがとうございます」

 

 心配することないと言ってみたが、そりゃ母親だもんね。心配するよね。ここは素直に礼を言っておこう。俺は世界一切り替えが早い男。

 

 すっかり身長を追い抜いてしまった母親と肩を並べて家に向かう。中学の友だちはうちの母親のことを美人だとかなんだとか抜かしやがるが、俺から見ると確かにそう。そうなのかよ。

 

 まぁ、俺の母親なのだから美人なのは間違いない。なにせ俺は世界一容姿が整っている男。ということは父さんもイケメンだ。まさに美形一家。道行くガールたちの視線が痛いぜ。

 

「一成が受かったって言ってるんだから、ちょっと早いお祝いしないとねー」

 

「お、じゃあ世界一うまい寿司が食いたい。今そんな気分!」

 

「って言うと思って、お父さんが『世界一うめぇ魚とってくらぁ!』って言ってとってきて、もう家でさばいてます」

 

「以心伝心?」

 

 流石俺の父さん。世界一理解が早い男。というかうちの父さんヒーローだぞ。魚とってさばいてる暇あるの?街の平和は?

 

 俺のために魚をとってきてくれることは嬉しいが、街の平和を思うと微妙な気分になりつつ家に帰ると、世界一うまい寿司が待っていた。微妙な気分は吹っ飛んだ。俺は世界一切り替えが早い男。

 

 

 

 

 一週間後。リビングでごろごろしていた時、それはきた。

 

「一成ー。合格通知きてたよ」

 

「お。見る見る」

 

 どうやら雄英から合格通知が届いたらしい。まぁどうせ合格しているだろうから見る必要もないのだが、一応ね。

 

 ?

 

「合格通知?」

 

「合格通知」

 

「見たの?」

 

「見てないけど」

 

「?」

 

「???」

 

 母さんが合格通知と言って渡してくれたものを見る。それは一枚の封筒で、確かに開封はされていない。それなのになぜ「合格通知」と言ったのだろうか。「合否結果」じゃないの?母さんもしかしてエスパーなの?

 

「じゃあなんで合格通知って言ったの?」

 

「え、だって合格してるんでしょ?」

 

「あぁそうだった。俺合格してるんだよ」

 

 なんだ、そういうことか。確かに俺のようにスーパーな世界一ボーイが合格していないわけがない。受験当日にも「受かったヨ」とメールを送ったじゃないか。俺は世界一うっかりな男。

 

「じゃあ見るわ」

 

 自分の部屋に戻るのもめんどくさいので、その場で封筒を開ける。きっと「あなたは素晴らしい。ぜひ雄英に、いや、ぜひすぐプロヒーローになってください!」と雄英教師陣が土下座している映像が映し出されることだろう。そんなそんな。頭を上げてください。

 

 しかし、投影されたのは俺を差し置いてNo.1ヒーローをやっている、

 

『私が投影された!』

 

「オールマイトだ!」

 

「父さんの商売敵!世界一ヒーローな男!」

 

 オールマイトは父さんが目の敵にしている。というのも、「俺が世界一なはずなのに、なんであいつがNo.1やってるの?」という純然たる疑問からだ。俺から見てもオールマイトの方がすごいのだが、父さんが世界一であるということも事実。ということは市民の見る目がないのだろう。俺が今プロヒーローをやらずに学生の身に甘んじているのもそのせいだ。決して実力がないからではない。決して。

 

『ふふ、なぜオールマイトが!?という顔をしているね!』

 

「まぁ雄英に勤めることになったからとかだろ」

 

「むしろそれ以外ないよね」

 

『私が雄英に勤めることになったからさ!』

 

 決めポーズをとっているところ申し訳ないが、先に言い当ててしまった。いや、でも、俺は悪くない。だってそうとしか思えないじゃん。俺は世界一理解が早い男の息子なのだから。

 

『さて、合否結果だ!君ほどの実力ならばもう自分でわかっているかもしれないが、見事合格!筆記はギリギリだが、実技が素晴らしい!』

 

「素晴らしいってさ!」

 

「筆記はギリギリだってさ!」

 

「合格なんですから目を瞑っていただけませんかね……?」

 

 いいよいいよと俺の肩をぽんぽんする母さんは、まさに世界一理解のある女。筆記ギリギリだというのは情けないが、これが今の実力なのだから受け止めるしかない。実は頭がよくなるモード『brain』があるのだが、あれを使った後は急激な眠気に襲われるため試験で使うのは怖かったのだ。それで実技がボロボロになったら意味ないしね。

 

 そして実技が素晴らしい結果になったので、俺の作戦は大当たりだったわけだ。素晴らしいな俺。

 

『敵ポイント46!途中からペースは落ちたものの上位に食い込むポイント数!これも素晴らしいがこれだけじゃない!我々雄英はもう一つの基礎能力も評価していたのさ!』

 

「なんだろ。世界一度とか?」

 

「じゃあ一成物凄いポイント貰ってるんじゃない?世界一なんだし」

 

 そうかもしれない。なにせ世界一だし。

 

『それは救助活動(レスキュー)ポイント!人救けした受験生に送られる、審査制のポイントさ!そのポイントが30ポイント!試験という他との競争の場で人救けをするその精神も素晴らしいが、何より我々が評価したのはその言動!』

 

 言動?俺何かいいこと言ってたっけ。身に覚えがない。

 

『君は人救けをする度に激励の言葉を投げかけていた!これは不安になっている人を安心させる人救けの基礎スキル!それが君には備わっている!』

 

「……」

 

 母さんからの柔らかい視線がすごい。「いい子に育ってくれてよかった」と目で語っている。ま、まぁ俺は世界一優しい男だから当然のこと。無意識にでもヒーローらしいことをやってのけちまうのさ。

 

『合計76ポイント!文句なしの合格だ!こいよ、須一少年!雄英(ここ)が君のヒーローアカデミアだ!』

 

「よかったね。一成」

 

「……い、いや?合格するのは当然だし、大事なのはここからだから。世界一な俺にとって雄英なんてただの通過点だ。うん」

 

 そう、大事なのはここからだ。雄英に入ってどう過ごすか。有意義な学生ライフ?違う。俺はヒーローになりに雄英へ入るんだ。学生ライフも大事だが、一番はヒーロー。そこを曲げては世界一じゃない。

 

「つまり、俺が入試一位で通過するのも当然で、一番の成績で卒業するのも当然だ!」

 

『あ、ちなみに君は実技二位だ。惜しかったな!』

 

「あら」

 

「えぇ?」

 

 後日聞いた話によると、俺はそれから30分ほど固まっていたらしい。一番じゃなかったことがどれだけショックだったんだ、俺。

 

 いやしかしそこまで悔しがれるのは伸びる証拠。何も恥じることではない。

 

 俺は世界一切り替えが早い男。

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