switcher!! 作:ちろ
春。
「俺は世界一登校が早い男!」
「いってらっしゃーい」
俺は世界一教室に早くつくため、早々に家を出た。早く起きすぎて母さんが作るはずの朝食を家族全員分作ってしまったほどである。世界一器用でもある俺は料理を作ることなど造作もないのだ。
外で堂々と個性を使うと頭の固い人たちがうるさいので、モード『speed』を使わずに全力疾走する。基本的に個性『スイッチ』はモード『power』なら筋力に、モード『speed』なら脚にとそれぞれ強化される部分に負担がかかるので、その負担を軽減するために自らを鍛えておく必要がある。つまり、個性を使わずとも俺は素晴らしい能力を持っているということだ。
ちなみに、モード『brain』を使うと急激な眠気に襲われるのは、別に頭が悪いからとかそういうことではない。決して。
嫌なことを考えてしまったので、高校生活のことについて思考をスイッチする。
雄英高校は狭き門。選ばれた者だけが入学を許される。一般入試でヒーロー科に入れる人数はわずか38名。推薦入試の4人を加えると1クラス21名が2クラスで、合計42人しか入れない。その中の1人が俺で、更に実技成績2位。ということは俺がめちゃくちゃすごいということである。
「雄英到着!」
そうこうしているうちに雄英に着いた。見る度に思うが、「お金かけてますよ」とアピールせんばかりの外観である。何か学校というより会社みたいな見た目だ。将来こういうヒーロー事務所を持てたらどれだけ誇らしいことか。まぁ俺のように世界一な男はこれよりすごいヒーロー事務所を持てるに決まっているのだが。
門をくぐり、1-Aの教室を目指す。登校が世界一早かったからかまったく物音も声も聞こえない。最高峰の学校に一番乗りとは、これは俺が世界で一番という証明だ。
「でか」
1-Aの教室に着くと、デカい扉が待っていた。大体5メートルほどの高さがある。恐らくあらゆる個性の生徒に対応するためだろう。バリアフリー?ってやつだ。
教室に入ると、やはり誰もいない。新入生の中で俺が一番。というか雄英の中で一番。いやぁ、世界一はやはり世界一だ。
席順がわからないので俺はとりあえず教卓の前である一番前に座ることにした。俺は一番を愛する男。
しかし朝早く着きすぎるとやることがない。誰かがいるとコミュニケーションをとるのだが、一人だとどうも。教室の掃除もやる必要がないくらい綺麗だし、ほんとに何をしよう。俺は世界一計画性がない男。黒板にチョークでもあれば俺の自己紹介を書けたのに、チョークすらない。
「お」
「あ?」
そうして暇を持て余していると、二番目の、そう二番目の新入生が教室へ入ってきた。俺の次に入ってきた人物は爆発ツンツン頭の目つきが悪い男。ネクタイをしていないのは我が道を行くタイプだからだろうか。高校生ながらしっかりした自分を持っているのは尊敬できる。友だちになろう。
「おはよう二番!俺の次に登校するとはすごいやつだ!」
「あぁ!?誰が二番だテメェ!」
「ん?二番に反応するってことは君も一番が好きなのか!気が合いそうだ!俺は須一一成、よろしく!」
「よろしくしねぇわ!つか、お前『も』ってことはテメェ一番が好きなのか?」
お、よろしくしないって言ってるのに一番が好きなのか?って話す気満々じゃん。かわいいやつめ、不良っぽく見えるが実はうまく人と接することができないシャイボーイと見た。口が悪いのもそのせいだろう。ここは優しく接するべきだ。
「おう。俺は世界一が好きな世界一切り替えが早い男!惜しくも実技は二位だったが、いずれ頂点まで上り詰める!君も共に頑張ろう!」
「ハッ」
握手しようと手を差し出すと鼻で笑われた。鼻くそでも詰まってたのかな?
「俺が実技一位だ。テメェごときに追い抜かれるかよ、ザコ」
言って、俺を見下したヤツは後ろの方に向かい、左から二列目、後ろから三番目の席に座った。
「ハッ」
「あ?」
その姿を見て鼻で笑ってやると、ヤツが眉を吊り上げ俺を睨んでくる。まったく、実技一位の割には程度が知れている。まさか一番前ではなく後ろから三番目に座るとは。
「同じ一番を好きな者として情けない。まさか一番前じゃなくそこに座るとは。この時点で君は俺に負けを認めたことになる」
「席順関係ねぇだろ。んなことにこだわってるからザコなんだよ」
「とことん一番にこだわるのが世界一たる所以。あと言い方は悪いが、人を見下した発言ばかりすると余裕がないように見えてダサいぞ。ん?」
「は?」
「あ?」
お互い立ち上がり、睨みあう。そしてヤツは自分の荷物を持つとそのまま前に移動し、俺の隣の席に座った。
「上等じゃねぇか!テメェがどんだけザコかわからせたるわ!」
「そっちこそ俺がどんだけ世界一かわからせたるわ!」
「真似すんじゃねぇ!」
「あと名前何?」
「急に落ち着くなや!爆豪勝己だ!テメェの上に立つ男の名前しっかりそのノミよりちいせぇ頭にぶち込んどけ!」
爆豪勝己。いい名前だ。そしてまさか教えてくれるとは思わなかった。爆豪なりに少しは俺を認めてくれたということだろうか。どこに認める要素があったかわからないが、コミュニケーションの成功をまず喜ぼう。友だち第一号だ。話してみると口が悪いわりにそこまで悪い奴じゃないし、仲良くやれそうだ。煽っちゃったけど。
「ところで勝己の個性は何なんだ?俺の個性は『スイッチ』!あらゆるモードにスイッチし、そのモードに合わせた力を発揮する世界一の個性!」
「俺の『爆破』が世界一だ!勘違いしてんじゃねぇ濃ゆ顔!」
「濃ゆ顔!?」
「彫り深ぇんだよテメェ!日本人らしくしろや!」
俺の彫りの深いハンサムフェイスを濃ゆ顔と言ってバカにしてくるとは。いや、これは遠回しに「ハンサムですね」と褒めてくれているのか?そうに違いない。勝己は人を素直に褒めることができないシャイなヤツなんだ。
「勝己もカッコいい顔してるよな。俺の次に」
「何勘違いしていきなり褒めてんだ!つか俺のがカッコいいわ!」
「何でも張り合ってくるな、勝己」
「テメェがいちいち自分が一番だってウゼェくらい言ってくっからだろうが!」
いちいちとウゼェを重ねて言ってくるとは、そこまで言わなくても。ただ、俺が一番であることは純然たる事実。確かに勝己が実技一位で俺が二位であるということは変わりないが、これから俺が一位になるのだから俺が一番であることに間違いはない。
しかし、結構ちゃんと?返事してくれる。やはりヒーローを志しているから根っこは優しい部分があるのだろう。ストイックで顔がよく、普段口は悪いが根っこが優しい。なんだそれ、モテそう。
そんな俺の次にモテそうな勝己は、机に足をかけてポケットに手を突っ込んでいる。どう見ても不良だ。その不良が俺を睨みつけて何か言いたそうにしている。きっと「お前、世界一だな」と言ってくれるに違いない。
「テメェ、76ポイントらしいな」
違った。まさか実技のポイントでマウントを取ってくるのだろうか。まぁ今の俺の位置を確認するためにはいいかもしれない。
「おう。敵ポイント46で、救助活動ポイント30の合計76ポイント」
「俺は敵ポイント77で一位だ」
「?」
「救助活動ポイントは0」
勝己は俺を睨んだまま低い声で言った。
「テメェには負けねぇぞ」
「ん?でも敵ポイントと救助活動ポイントをどっちも多く取って、しかも実技二位って俺の方がヒーローっぽくない?つまり俺の勝ちじゃない?」
「チマチマ助けるより敵を全部ぶっ潰せば済むんだよ!テメェは弱ぇからできねぇだろうがな!」
確かに最後の方は普通にばててたし、敵ポイントを77もとるのは正直キツイ。そういう意味では勝己はものすごくタフなのだろう。俺よりも。うん、そこはまず認めなければならない。どうせ俺が追い抜くから勝己は二番目に成り下がるのだが。
「まぁ実際戦ってみれば俺が勝つし。体育祭が楽しみだなぁ。俺が一番になる体育祭」
「俺が一番になるわ!テメェはせいぜい二番にしかなれねぇよ!」
やはり認めてくれているのか。二番にはなれると思ってくれているってことだから。俺は二番で満足する男ではないので、必ず勝己に勝って一番になるが。
「それにしても他の人遅くね?今日登校する日であってるよな?」
「テメェはまだしも俺が間違えるかよ」
俺は世界一うっかりなので間違える可能性があることは否定できない。こいつこの短時間で俺のことを理解するとは、中々やるやつなのでは?
「お」
まだかなまだかなと待っていると教室のドアが開いた。入ってきたのは入試の時に見たメガネの子。今は世界一速いが、いずれ世界二になる男。
「おはよう!そしてよろしく!俺は須一一成!世界一切り替えが早い男!」
「おはよう!俺は飯田天哉だ。よろしく!切り替えが早いのは素晴らしいな!」
「テメェいつも切り替えが早いって言ってんのか?」
「事実だからな!」
天哉の印象は真面目。もじゃ毛を注意していたのはその真面目さからくるものだろう。もじゃ毛は天哉のことを怖いやつだと思っていそうだが、こいつは間違いなくいいやつだ。俺の次に。
「君もおはよう!俺は飯田天哉!よろしく!」
「聞いてたわ!いちいち名前言うんじゃねぇよ端役が!」
「それはすまない!ところで君の名前を教えて欲しいのだが」
「誰が教えるか!」
爆豪が初対面の人間に対して必ずといっていいほど発動する威嚇をしているので、横から勝己の名前を天哉に教える。新入生同士仲良くしないと。
「こいつは爆豪勝己。よろしく」
「そうか。よろしく爆豪くん!」
「勝手に教えんな!」
天哉は俺の後ろに座り、勝己は変わらず俺を睨みつけてくる。そんなに睨んで目が疲れないのだろうか。これもタフネスの賜物か。
「君たち仲がいいな。同じ中学なのか?」
「さっき会ったばっか。でも物凄く気が合ってさ」
「合ってねぇわ!脳内にお花詰まってんのか!」
「お花て」
言動に似合わず可愛らしいことを言ったので思わず笑ってしまった。お花か。詰めてみてもいいかもしれない。俺は世界一メルヘンな男。
「ちなみに勝己が実技一位で俺が二位。最強の二人です。よろしく」
「何っ、ということは越えるべき壁ということか!君たちから学ぶことは多そうだな」
「テメェ実はマウントとるの好きだろ?」
何のことだろうか。人聞きの悪い。ただ、言い返せることがないので教室のドアを眺めることにした。勝己が「おい、聞いてんのか」と言ってくるが無視だ。無視。
次はどんな個性的な人がくるのだろうか。まぁ俺には負けるだろうが。