switcher!!   作:ちろ

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 飛ばし気味。


第4話 個性把握テスト

「俺は須一一成!世界一切り替えが早い男!」

 

 来る人来る人に同じ自己紹介を繰り返す。こうして自己紹介を繰り返すことでクラス全員に俺の名が知れ渡り、友だちがいっぱいできるという寸法だ。やはり俺は天才らしい。

 

「テメェよくそんなに自己紹介ばっかやるな。体力を無駄に使ってる自覚あるか?」

 

 そんな俺の自己紹介を隣の席でつまらなさそうに眺めていた勝己がバカにしたように聞いてくる。体力を無駄に使っている?そんなはずはない。俺は世界一体力を効率的に使う男。

 

「せっかくこれから三年間一緒になるんだから、仲良くしたいだろ」

 

「けっ、仲良しこよしで強ぇヒーローになれるんかよ」

 

「一匹狼気取ってるの?ダサいぜ?」

 

「あ?」

 

「おお?」

 

 勝己が睨んできたのでこちらも睨み返す。どうしてこいつはこうも喧嘩を売ってくるのだろうか。今喧嘩を売ったのは俺のようにも見えるが、気のせいである。俺は温厚なんだ。喧嘩を売るなんてそんなそんな。

 

「あれかな?群れるのは弱いやつがすることだって言っちゃうタイプ?集団でいた方が効率がいいのに?」

 

「ザコと一緒にいるよか何でもできる俺一人の方が何倍も効率いいに決まってんだろ」

 

「例えば俺と勝己が一緒にいるとします」

 

「ついてくんなカス」

 

「テメェやるってのか!?」

 

「上等だコラ!世界一世界一うるせぇテメェにどっちが一番かハッキリさせてやらぁ!」

 

 お互い立ち上がって額をぶつけ合い至近距離で睨みあう。ここでやりあうのはみんなに悪いから外に行こうと教室の入り口を見た。

 

「あ」

 

「あ?」

 

 見知った顔を発見し呆けた声を出す俺に、「どうした行かねぇのか」の意を込めて「あ?」と言う勝己。しかし待ってほしい。あのもじゃ毛とお茶子ちゃんは入試のときからの友だちなんだ。声をかけるくらい許してくれ。

 

「んだ、テメェデクと知り合いなのか」

 

「デク?あのもじゃ毛のこと?」

 

 聞くと、勝己は機嫌悪そうに頷いた。なるほど、どうやらあまり仲良くはないらしい。いじめっ子といじめられっ子ってタイプだもんね。偏見だけど。

 

「ちなみにあの二人の後ろに寝転がってる芋虫はご存知?」

 

「知るか。あんな不審者すぐにここの教師がつまみだすだろ」

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

「「教師かよ」」

 

 思わず声を揃えて言うと、担任?の相澤先生から睨まれてしまった。今日の俺睨まれすぎじゃない?そんなに悪いことしてないのに。

 

「早速だが、コレ着てグラウンドに出ろ」

 

「体操着」

 

「体力テストかなんかだろ」

 

 相澤先生は自分が入っていた寝袋から体操着を取り出し、俺たちに見せてきた。まさかグラウンドで入学式を行うのだろうかと思ったが、勝己の言っていることが一番しっくりくる。ヒーロー科だから個性を使った体力テストみたいな?何それいきなり一番を決めるなんて。

 

「もしそうなら勝己に俺の一番を見せつけることになっちゃうのかぁ」

 

「黙ってろ。さっさと着替えていくぞ」

 

 あ、一緒に行ってくれるのね。

 

 勝己が睨んでくるので、急いで着替えて一番乗りにグラウンドへ出た。俺たちの後に続いてぞろぞろとみんなが出てきて、全員が揃ったのを確認して相澤先生が話を切り出す。

 

「さて、今から個性把握テストを行う」

 

「個性把握」

 

「テスト」

 

 個性把握、と呟いた勝己に合わせてテストと言うと、またも睨まれてしまった。なんだよ、仲良し感出ていいじゃん。いらない?そう。

 

「中学の頃やっただろ?個性禁止の体力テスト。アレの個性許可版だと思ってくれればいい。爆豪、中学の時ソフトボール投げ何メートルだった」

 

「67メートル」

 

「俺は70」

 

「殺すぞ」

 

 ボソッと耳打ちすると、殺害予告されてしまった。俺の方がすごいよとアピールしただけなのに。まったく、これだから負けず嫌いは困る。俺もだけど。

 

「じゃあ個性使ってやってみろ。円からでなけりゃ何してもいい。思いっきりな」

 

 勝己はソフトボール投げ初期位置のサークル内に入ると、俺を見た。見とけよということか。中々子どもっぽいところあるじゃない?

 

 そして。

 

「死ねえ!!」

 

「死ね?」

 

 爆音とともにボールが天高く放たれた。投げるときの声はともかく、流石実技一位なだけあってものすごく伸びている。投げられたボールはやがて地面に落ちると、先生が持っている機械にその記録が表示された。

 

「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

 記録は705.2メートル。

 

「すげー面白そう!」

 

「流石ヒーロー科!個性思いっきり使えるんだ!」

 

「勝己!いいか、705.2-67で638.2!それが勝己の個性の記録だからな!」

 

「頑張れよ」

 

「勝った気でいるんじゃねぇ!」

 

 今まで個性を禁止されていた反動からか、現実離れした記録に全員が沸き立つ。勝己もどこか誇らしげで、俺を見下してくる始末だ。いや、勝己が見下してくるのはいつものことだが。

 

 そんな俺たちに釘を刺すように、先生がボソッと呟いた。

 

「……面白そう、か」

 

「俺は言ってませんけど?」

 

「ヒーローになるための三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのか?」

 

 どうやら先生の何かに触れてしまったらしい。初対面の人は地雷がどこにあるかわからないから困る。勝己は大体地雷だからむしろ困らない。

 

「よし、じゃあこうしよう。トータル成績最下位の者は見込みなしとし、除籍処分とする」

 

「じゃあな」

 

「最下位になるか!この俺が!」

 

「生徒の如何は教師の自由。ようこそこれが雄英高校ヒーロー科だ」

 

 雄英は自由な校風だと聞いたが、先生も自由なのか。まったく、テンションが上がってきた。

 

「つっても除籍ってなぁ。恨みで敵になる人出てきそうだ」

 

「だから見込みなしなんだろ濃ゆ顔」

 

 納得してしまった。勝己は頭の回転が速いらしい。

 

 まぁ、いくらなんでもヒーロー科をやめさせられるだけで普通科かどこかに入れられるんだろう。高校から出てけってなると世間が黙ってないだろうし。自分の子どもが先生に高校をやめさせられましたって、親なら納得できないものね。

 

「第一種目は50メートル走か」

 

 天哉が50メートルを走り抜ける姿を見て、首を傾げる。入試で見た時はもうちょっと速いように見えたが、気のせいだろうか。それとも今のはトップスピードじゃなくてどんどん加速していくとか?

 

「勝己、トータルで負けた方が飯奢りってのはどう?」

 

「ごちそうさま」

 

「財布の中身確かめとけよ。俺は優しいから食う量はほどほどにしといてやるよ」

 

「あ?」

 

「ん?」

 

「出席番号13番、14番、入れ」

 

 まさに喧嘩を始めようとしたその時、先生に呼ばれてしまった。命拾いしたな、勝己。

 

 中指を立ててくる勝己に中指を立ててスタートラインに立つ。隣に立っているやつは勝己がしょうゆ顔だと言っていた範太だったか。確かに。勝己は完全に蔑称のつもりで言ってるから範太がしょうゆ顔ってことに納得したことは言わないでおこう。

 

「うし、スイッチ。モード『speed』!」

 

「スリムになった!」

 

「どういう個性だ?あれ」

 

 ギャラリーの声が心地いい。俺のことをカッコいいと騒いでいるみたいだ。当然のことだが、嬉しいものは嬉しい。あれ、カッコいいって言ってる人ひとりもいなくない?

 

「スタート!」

 

 不意打ち気味にスタートの合図が出されたが、俺は世界一反射神経がいい男。問題なくスタートを切る。

 

 モード『speed』はその名に相応しくとても速い。それはトップスピードに乗るまでの早さも。つまり、

 

「この競技において俺は天哉よりも速いということ!」

 

「3秒05」

 

「嘘ぉ!?」

 

「あいつ多分面白いやつだな」

 

「一番一番って言ってるのも嫌味に聞こえないよね」

 

「だっせ」

 

 負けた。天哉の個性は加速していくものじゃなかったのか?いや、加速していくものなはず。ということはトップスピードに乗っていない天哉に負けたのか。

 

「でも0.01だ!はい俺すごい!世界一!」

 

 よく考えてみれば天哉は速くなる個性がメインだが、俺は別のこともできる。ということは天哉もすごいが俺の方がすごい。天才。

 

「4秒13」

 

「俺のかちー」

 

「てっめぇ……」

 

 勝己の番が終わり、その記録は4秒13。まずは俺の勝利だ。いやぁ天才は辛いね。

 

 全員が走り終え、第二種目握力。

 

「スイッチ。モード『power』!」

 

「今度はゴリッゴリになった!」

 

「ちょっとオールマイトみたい」

 

「ふん!」

 

 モード『power』になり思い切り測定器を握りしめる。540キロというとんでもない記録をだしたやつがいたが、俺がそれに負けるはずがない。なにせこのモード『power』は世界一の力を誇る。

 

「480キロ……」

 

 また負けた。ちくしょう、なんだよ540キロて。ゴリラかよ。腕めっちゃあるし。カッコいいし。まぁ勝己には勝てたけど。あれあれ、大丈夫かな?

 

 第三種目、立ち幅跳び。

 

「スイッチ。モード『jump』!」

 

「脚長っ!」

 

「びっくり人間すぎる」

 

「とう!」

 

 多くの声援を受け、思い切り跳んだ。記録は20メートルでまずまずといったところか。前ではなく上ならもっと跳べるのだが、競技上仕方ない。

 

 第四種目、反復横跳びはモード『speed』で挑んだが、あまり記録が伸びなかった。速すぎると反復するときに足の負担がすごいから調整が難しいんです。

 

 第五種目、ボール投げ。

 

「うーん、ここまでの記録を見ると俺が勝ってるなぁ」

 

「調子乗んな!俺が勝つわ!」

 

「ふふん。まぁボール投げでも勝つんで、見ててくださいや」

 

 サークル内に立ち、モード『power』を使ってボールを握りしめる。あとは単純、最も綺麗で効率のいいフォームでボールを投げるだけ。目標710メートル!

 

「パゥワァァアアア!!」

 

 美しいフォームからの美しい投擲。これはみんなも見惚れるに違いない。俺が知る限りベストな投擲ができた。これは勝ったな。

 

「701メートル」

 

「701」

 

「吠えやがって負け犬が」

 

「はいはい。今までの成績で負けてる子犬は黙りましょうねー」

 

「見とけ」

 

 勝己が青筋を立てて行ってしまった。その怒りを保ったままボールを投げると、俺よりすごい記録。失敗してくれないかなと思ったが勝己がそんな失敗をするはずがないか。なんでもこなせそうだし。かわいくない。

 

「ハッ」

 

「ぐぬぬ……あ、もじゃ毛だ。ヒーローらしい記録出てないなー大丈夫かなー」

 

「逃げんなコラ。つかったりめぇだろ。アイツ無個性のクズだぞ」

 

「無個性?」

 

 もじゃ毛を見ると、一投目46メートル。確かに無個性の記録だ。でも入試の時は確か。

 

「あいつ、入試んとき0ポイント仮想敵ぶっ飛ばしてたぞ?」

 

「は?」

 

 勝己が間抜けな声を出すと同時。

 

 もじゃ毛が放った一投は天高くに軌跡を描いた。

 

「705.3メートル」

 

「……は?」

 

 勝己がまたも間抜けな声を出す。そういえば幼馴染だなんだと言っていたか。この反応を見るにもじゃ毛の個性は知らなかったようだ。そんなことある?幼馴染なのに?どんだけ仲悪いの。

 

「……どういうことだデク!!ワケを言えコラ!!」

 

「あ、おい」

 

 地雷だらけの勝己は今起きた出来事も気に入らなかったらしい。鬼の形相で個性を使ってもじゃ毛の下へ向かった。が、途中で先生に捕縛されてしまいなんとも間抜けな姿になっている。

 

「ったく、幼馴染なら仲良くすりゃいいのに」

 

 まぁ他人にはわからない領域に二人の複雑な関係があるのだろうが。なんとも物騒な関係である。

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