switcher!! 作:ちろ
この世にはどうしても近づけないものがあると思う。例えば今物凄く機嫌悪そうに出て行った勝己とか。
授業は終わり、放課後になってさぁ出久を待とうとみんなで教室にいようとしたとき、勝己は黙って出て行ってしまった。何か声をかけてやるのが友だちというものなのだろうが、今は俺じゃない気がする。俺は考えるのが苦手なのでこれは直感だ。
ちなみに、俺たちに対する講評は「轟少年には慢心があった」というのが全体的なもの。目蔵は焦凍の力を信頼して任せるのはわかるが、氷結した後中に入るのが遅れたことを指摘されていた。俺たちのチームは及第点。強いて言えば俺に油断があったと言われてしまった。そりゃ他のメンバーに氷結避けろって言っといて自分は凍らされるって、油断以外のなにものでもないもの。
はがれた足の皮はすっかり治った。リカバリーガールはやはりすごい。ただ、俺はあまり体力がないので大怪我には気を付けよう。治るから怪我をしていいってものでもないし。
「おお!緑谷きた!お疲れ!!」
話は戻るが、今の勝己を動かすとすれば今教室に帰ってきた出久だろう。勝己と出久の二人には因縁というか、とにかく他人は触れられない何かを感じるし、証拠に出久は勝己が帰ったと聞いて走っていってしまった。みんな出久を待っていたというのに。
「んー、じゃあ帰るか」
「お、須一お疲れ!」
ばいばいとかまた明日とか言ってくれるみんなに手を振って教室を出る。
俺自身、今回の結果にまったく納得していない。俺は焦凍に負けていたし、もしあれが現場だったなら俺は一度死んでいる。敵は情け容赦なんかないから、俺は一瞬で凍らされていたことだろう。それこそ、焦凍と会ったその瞬間に。俺は今日一度死んだのだ。
「ならば俺はニュー一成!つまり世界一強い男!」
ただ、いつまでもうじうじするなんて性に合わない。俺は世界一切り替えが早い男。
いつも通り世界一早い切り替えをした翌日。俺はいつも通り世界一早く登校していた。
はずだったのだが。
「雄英生ですか?オールマイトについてお聞かせください!」
なぜか雄英の前でインタビューを受けていた。俺は登校していただけなのに。しかしメディアに愛想よくするのはヒーローたるもの当然のこと。ここは明るくしっかり答えなければ。
「俺は須一一成!世界一切り替えが早い男です!」
「え、あの、あなたのことではなく」
「応援よろしくお願いします!それでは!」
丁寧に答え、捕まる前にその場を後にする。だってオールマイトの授業一回しか受けたことないのにそんな答えられることあるわけないじゃん。それに答え始めると調子に乗っちゃっていくらでもしゃべり続けちゃうし。俺は俺のことをよく理解している。
いつも通り教室に入り、暇な時間を過ごす。予習でもしようかと思ったが気分が乗らない。俺は試験直前になって焦るタイプだ。そしてそういうタイプは得てして普段からの勉強に向いていない。
というわけでだらだら過ごしていると、やがてみんなが続々登校してくる。やはりみんなもインタビューを受けたようで、話題はそのことで持ちきりだ。別に自分たちのことを聞かれているわけではないのだが、それでもインタビューを受けるのは心なしかテンションが上がるもので。
「勝己、おはよう!」
「おう」
返事をくれたのを見ると、勝己もテンションが上がっていたのだろうかと勝手に考える。もしかして距離が近づいたのかも?
「おい」
「ん?どした」
返事をくれたことすら珍しいのにすぐ自分の席に行かず立ち止まった。なんだ、俺と語り合おうというのか。
「俺が一番になる。わかったか」
「はぁん?俺が世界一だって何度言えばわかるんだ?」
どうやら違ったらしい。友情を深め合うかと思いきや喧嘩を売りに来たようだ。さては昨日の鬱憤を晴らそうとしているのか?陰湿なやつめ!いや、正面からきてるから陰湿でもないのか?わからん。
「テメェ昨日負けてるじゃねぇか。アレで世界一たぁ随分吠えるな」
「もう俺の方が強いですー!俺を昨日までの俺だと思うなよ!ニュー一成となったんだ、俺は!」
「けっ、言ってろザコ」
「なにぃ!?」
言いたいことだけ言って自分の席に行った勝己を追おうと席を立ちあがると、ちょうど先生がきてしまった。あいつ、あれがわかってて俺のことをぼろくそに言いやがったのか。許さん。
まぁでも、いつも通り口の悪いアイツで安心した。そんな会ってから日経ってないけど。
「昨日の戦闘訓練のVと成績見たぞ。お疲れ」
先生から発せられたのはまずねぎらいの言葉だった。あの俺がダサいVはぜひとも消してほしいと思うが、悔しさを思い出すために残しておく方がいいだろう。ただその悔しさを思い出すまでもなく俺は世界一になるのだが。勝己と焦凍を越えてな!
全員をねぎらった後は、勝己と出久に注意が飛んだ。「ガキみたいな真似はするな」と個性の制御について。確かに勝己はガキみたいだったし、出久はいつもボロボロになっている。やーい勝己、怒られてやんの。
「うおっ」
俺の心が読めているのか、勝己が少し首を後ろに向けて睨んできた。もしかしてエスパー?
「さて、本題に入ろう。急なことだが君らに学級委員を決めてもらう」
「俺は世界一学級委員に相応しい男!!」
「テメェは床でも舐めて掃除してろ!俺がやる!」
「ということは喧嘩して勝った方が学級委員ということでいいな!?」
「待ちたまえ!学級委員とはそのような手法で決めるべきものではない!」
勝己と喧嘩を始めようとすると、天哉に止められてしまった。確かに周りを見ればめちゃくちゃ手があがってて俺たち以外にやりたい人もいるし、先生もキレかけている。へへ、冗談ですよ冗談。
「学級委員とは多を牽引する責任重大な仕事!ならば多くの信頼を勝ち取った者こそが学級委員をやるべきではないだろうか!つまり、投票で決めることを提案する!どうでしょうか先生!」
「時間内に決めてね」
なるほど、まだ信頼関係の浅い今複数票を取った者こそ学級委員に相応しいということか。これは俺にチャンスがあるのでは?初日から声かけまくってたし、いけそう。勝己と何回も喧嘩しようとしてるけど、そんなこと目を瞑ってくれるさ。
「勝己!俺に入れろ!そうすりゃ委員長権限でお前を副委員長にしてやる!」
「テメェが俺に入れろ!そうしても副委員長にはしねぇけどな!」
「じゃあ入れねぇ!」
「入れろっつってんだろ!」
「「やんのか!?」」
「君たち早くしないか!」
天哉に急かされてしまったので自分に入れる。勝己もなんだかんだ言って俺に入れてくれることだろう。いや、ないな。
そして開票。結果は。
「僕三票ー!?」
「やーい勝己一票ー!」
「テメェも一票だろが!クソッ、なんでデクに三票入ってんだ!」
「人望の差ってやつじゃね?」
「だからテメェも一票だろ!」
出久が三票で百ちゃんが二票。天哉と焦凍とお茶子ちゃんはゼロ票であとは全員一票。出久に入れたのが天哉とお茶子ちゃんで、焦凍が百ちゃんに入れたのだろう。天哉とお茶子ちゃんはわかるが、焦凍は……そういえば推薦組だったか。
「よし、なら委員長緑谷で副委員長八百万で決定な」
「勝己、ここは協力してあいつら沈めるっていうのは」
「乗った」
「やめてよ!?」
冗談だって、と笑っておいたが、勝己の目はマジだった。アイツほんとどうにかした方がいい。
その日の昼休み。
「飯行こうぜ勝己!」
「一人で食っとけ!」
「だってよ!鋭児郎と電気もくる?」
「おう!行くぜ!」
「だってよ、のつながりが俺には見えない」
「何増やしてんだ!」
言いつつ、勝己は本気で拒絶しないので普通についていく。実は一人で食べるの寂しいんだろ。ふふ、わかっている俺は触れないでおいてやろう。思春期男子のそういう部分に触れるのはよくない。
雄英の食堂にはクックヒーローランチラッシュがおり、一流の料理を安く食える。俺の好きな寿司まであったのは驚いた。流石最高峰というべきだろうか。
「勝己何にした?」
先に座ってみんなを待っていると、勝己が対面に座った。トレイの上には赤いもの。
「赤くて辛いやつ」
「お前に味覚と食を楽しもうっていう気持ちはないの?」
「あ?楽しんでんだろが!」
「辛いのは男らしいよな!」
「鋭児郎の男らしさ基準ってよくわからんよな」
電気が純粋な疑問を口にすると勝己がキレて、鋭児郎が独自の男らしさ理論で勝己を褒める。褒めているのかどうかは分からないが。
でも辛い=男らしいってのはわからんでもない。忍耐力鍛えられそうだし。勝己涼しい顔して食ってるけど。ところでなんでそんな赤い劇物が食堂にあるの?
「つか寿司ばっかだな。飽きないのか?」
「こいつ舌バカだから何食べても一緒なんだよ」
「んなわけあるか!ただ寿司好きだから寿司ばっかでも飽きないってだけだ」
「バカではあるな」
ショートしたらアホになる電気には言われたくない。好きな物はいくらでも入るだろ。勝己もバカみてぇにバカみたいなもの食ってるし。あいつ辛味と赤さだけで食べ物判断してるだろ。
まぁバカと言われても俺は実際頭がよくないので別にいいかと思い寿司を口に運ぼうとすると、いきなり警報が鳴り響いた。うるせぇ。
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください』
「セキュリティ3?」
「雄英にあるセキュリティのことだろ。3ってこたぁ校舎内にカスが入ってきたってことだ」
聞きなれない言葉に首を傾げていると、勝己が好戦的な笑みとともに教えてくれた。赤くてよくわからないものは既に平らげたようで、準備万端と言わんばかりに手をわきわきさせている。
「あぁ、辛いものを食べるのは汗をかくためか」
「今言ってる場合か!逃げるぞ!」
「既に逃げ遅れてるし!」
「まぁ落ち着けって。どうせ今いってもごちゃごちゃんなってわけわからなくなるだけだし、ここはヒーローらしく避難誘導でも」
「大丈ー夫!!」
しようとしたその時。『EXIT』の上に天哉が張り付いた。
「モード『exit』……」
「ただのマスコミです!何もパニックになることはありません!」
「なんだマスコミか」
「報道精神もここまでくると大したもんだぜ」
モード『exit』の天哉の声により、混乱は収まった。俺も報道陣がきていたとわかっていれば同じようなことができたものを……!
「ん?勝己どした」
混乱は収まって何も危険はないとわかったはずなのに、勝己が難しい顔をしていた。まさか敵じゃなくて残念だとか?まさか勝己といえどそこまで不謹慎ではないだろう。
「いや」
勝己はそこで一度切って、外を眺めながら言った。
「マスコミ如きに雄英のセキュリティが突破できんのかと思ってな」
「……確かに」
偶然機械が誤作動を起こしたのかもしれないが、最高峰の雄英でそれは考えにくい。
何か嫌な予感がする。が、今は飯だと切り替えて寿司を楽しみ、昼休みが終わって。
「委員長はやっぱり飯田くんがいいと思います!」
「俺ではなく!?」
「いや、あの、須一くんももちろんすごいんだけど!」
他の委員を決めようというときに、委員長である出久から衝撃の一言が。多分あの食堂での一件だろう。確かに委員長らしい行動ではあった。多を牽引するっていう言葉にぴったりの。
「うーあー」
また一番になれなかった。これは打倒天哉を掲げるしかないと固く心に誓った。