switcher!! 作:ちろ
水曜日ヒーロー基礎学。
「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見ることになった。今回は災害水難なんでもござれ、
レスキュー。戦うところが派手で目立ちやすいが、これこそヒーローの本分と言えるだろう。俺の個性は応用、というか使い道が多いので役立つこと間違いなし。
「響香ちゃんはレスキュー向いてそうだよな。ほら、助けを求める声聞けるってデカくない?」
「見つけてからどうするかだけどね」
「そこは俺みたいなオールラウンダーがいれば解決よ!」
「おい、まだ途中だぞ」
先生もっとフレンドリーにいきませんか?あなた睨むと怖いんですよ。しかも先生に怒られるたびに勝己がムカつく顔でこっち見てくるし。怒られるようなことするなって話なんだけども。
「今回コスチュームの着用は自由だ。訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上、準備開始」
本当に必要なことだけ言う人だな。そんなんじゃモテないぞ。これで何かしらのギャップがあるなら別だけど。
各々準備してバスに乗りこむ。乗る前に天哉が番号順で二列に並ばせていたが、バスの座席のタイプ的にまったく意味をなさなかったため結局自由に座った。
「お隣お邪魔しますね」
「くんな!」
俺は勝己の隣に無理やり座る。こいつと隣になる人が可愛そうだしね。今もなぜか鬼の形相で俺を睨んできてるし。確実に俺のせいだけど。
「勝己ってレスキューできんの?口悪いのに」
「できるわ!助け倒したろか!」
「助け倒すっていう表現使うやつには向いてないと思う」
こいつ絶対要救助者に対して優しい言葉かけないよな。やることはやるけどいつも通り口悪く叫び散らして悪印象を与えそうだ。その点俺はきちんと声掛けができるらしいし、レスキューでは俺の勝ちだな。レスキューは勝ち負けなんてそういう話ではないが。
「派手で強えっつったらやっぱ轟と爆豪だよな」
「俺は!?」
前の方で人気とか強さとかの話をしていたグループからこちらに話が飛んできた。しかし『派手で強い』の枠組みに俺が入っていないのはどういうことか。
「ハッ、テメェが弱えからだろ」
「勝己も出久に負けてんじゃん」
「テッ、メェ」
「あいつ軽々と地雷を踏みぬきやがった!」
「強いかもしれない」
めちゃくちゃ顔が怖くなった勝己から目を逸らして口笛を吹く。出久が青い顔してあわあわしているが、君は誇っていいんだから堂々としていればいい。今この段階では俺と勝己は負けているのだから。
「そんな怖い顔してたらヒーローになっても人気でねぇぜ?その点俺はほら、フレンドリーでしかもイケメン」
「テメェにだけは何においても負けねぇ!人気出してテメェの人気を地の底に突き落とす!」
「やってみろ!泣いて『あなた様の人気をくださいー』つってもやらねぇからな!」
「あげるほどの人気出ねぇだろ!」
「おい、もう着くぞ。いい加減にしとけよ」
また怒られてしまった。最近勝己と額をぶつけ合う回数と先生に怒られる回数が比例してきている気がする。由々しき事態だ。このままでは先生に問題児だと認識されてしまう。既に認識されている気もするが、それは気のせいだ。俺ほどの優等生など他を探してもどこにもいないだろう。
バスが停車し、目的地についた。バスを降りると、目の前には何かテーマパークのような、しかし明らかに遊ぶ施設ではないものがあった。
「USJみてぇだ!」
「ここはあらゆる事故や災害を想定し僕が作った演習場、
USJなのかよ。絶対意識して作っただろこれ。
説明してくれたのはスペースヒーロー13号。宇宙服のようなものを着ている、災害救助のエキスパートともいえる人だ。その個性はブラックホールで、何をも吸い込み吸い込んだものを塵にする。勝てなくない?
「えー始める前にお小言を一つ、二つ、三つ、四つ……」
「五つ……」
「増やすな、コラ」
ノリで言ってみたら勝己に蹴られてしまった。人のケツを蹴るとはどういうことだ。
「皆さんご存知だとは思いますが、僕の個性はブラックホール。人を簡単に殺せてしまう個性です。みんなの中にもそういう個性を持った人がいるでしょう」
俺の個性も人を殺せるといえば殺せるし、勝己はもうすでに人を何人か殺してそうな顔をしている。顔の話かよ。
「超人社会は一見個性を資格制にし厳しい規制の下で成り立っているようには見えますが、一歩間違えれば容易に人を殺せるいきすぎた個性を持っているということを忘れないでください」
俺も、中学くらいのときに父さんからそれについて話してもらったことがある。俺のモード『power』はそれこそ本気を出せば人の骨を容易に砕くパワーを持っており、調整を間違えればあっさりと人を殺してしまう。だから、父さんは「ヒーローは戦うための力じゃなく、救うための力を伸ばすべきだ」と言っていた。カッコいい父親だぜ!
「相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います」
俺は自分の実力の位置を知りました。個性の上限値が未熟なだけで、調整自体は得意だからその辺りは心配していない。かといって余裕ぶっこくわけではないが。
「ですが、この授業では心機一転!人命のために個性をどう活用するかを学んでいきましょう!君たちの力は傷つけるためにあるのではなく、助けるためにあるのだと心得て帰ってください」
「かっちょえぇ」
「敵を殺せば早ぇだろ」
「ブレないな勝己」
素晴らしい演説に胸を打たれた人が多い中、勝己は憎たらしい顔で「殺す」などという話を一ミリも聞いていなかっただろうと詰め寄りたくなる発言を平気でした。そこが勝己らしいというかなんというか、ブレない自分を持っている人は尊敬できると思う。俺の次に。
「そんじゃあまずは……」
13号先生の演説が終わり、相澤先生が指示を出し始める。また怒られるのは嫌なので静かにして相澤先生の指示を待っていると、先生が黙ってしまった。13号先生に影響されて何かいいことを言おうとしているのだろうか。そのままの先生が素敵なんだからいいんですよ?
「一かたまりになって動くな!!」
初めて聞いた先生の大声は、もの凄く緊張感のあるものだった。
「13号!生徒を守れ!」
その先生の視線の先に、何か黒いモヤから大量の人が出てきた。人かどうか怪しいやつもいるが、異形型なだけで普通の人かもしれない。そんな人を人じゃないなんて言ったら差別にあたる。
というか。
「敵か」
先生がドッキリをしかけているのなら敵ではないが、素人でも感じるやつらの嫌な感じであれは敵だと理解できた。今まで敵に襲われたことがないからどんなものかわかっていなかった。自分に向けられる悪意がどれほどのものか。
「勝己、アレ見ても殺すって言える?」
「上等」
なんというか、いつもと変わらないやつがいると安心するな。いや、ビビってるわけじゃないんだけどね?ただ、加減が難しいというかなんというか、敵に対してどう個性を使うのが正解なのかどうもわからないってだけで。
「でも戦う機会はなさそうっていうか、許してくれなさそうだ。避難だってよ」
「いや、そうでもなさそうだ」
相澤先生が一人で敵のところに向かい、俺たちは避難しようとしたその時。目の前に黒いモヤが広がった。
「初めまして、我々は敵連合。僭越ながらこの度雄英高校に入らせて頂いたのは……平和の象徴、オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして」
「ハァン!?テメェらみてぇな有象無象が?オールマイトを?殺す?オイオイ勝己!最近の敵はジョークがお上手みてぇだ!」
「なんだそのテンション」
「あと勝己、行くなよ。相手の個性がわからない以上13号先生に任せた方が断然いい」
隣から爆発音が聞こえた。遅かった。
「バカ!それじゃブラックホールが使えねぇって!」
黒いモヤに攻撃した勝己と鋭児郎を注意するが、もはや無意味。あのモヤは相澤先生のところから一瞬でこっちにきた。ということは少なくともあの距離を一瞬で移動できる手段を持っているということであり、つまり。
「散らして、嬲り殺す」
「やっぱり!」
全員のところに黒いモヤが伸びてきた。恐らくこれに入ると別の場所へ移動させられる。ということはそれを予想していた俺がするべきことは、人数が少ないところへ行くようにすること。
「猿夫!」
パッと見た限り一人になりそうだった猿夫のところへ向かう。焦凍も一人だったが、焦凍か猿夫のどちらについていくべきかとなると、猿夫だろう。一人で大丈夫だというわけではないが、わかりやすい強さを基準にして考えるとそうなる。
そして黒いモヤに飲まれ、出た先は。
「あっつ!」
「火災ゾーンか……」
火災ゾーン。多くの建物があり、大体燃えている。どういう原理で燃やし続けているのだろうかとか地球温暖化は大丈夫だろうかとか色々気になることはあるが、今は置いておく。
問題は、目の前にいる大量の敵だ。
「お、きたきた。かわいそうなガキが二人も」
「暑いだってよ。熱に耐性がないやつは苦労するな」
「なるほど。ということはそれぞれの災害ゾーンに適した敵がいるとみてよさそうだ。となるとここにいるのは火の個性か、ただ単純に耐性があるだけか。何にしろ……スイッチ。モード『speed』」
「ちょ、須一?」
「手っ取り早く全員倒す。無理そうなら逃げる。これでいいだろ」
今ここで逃げる選択肢をするとどこに行くかわからない俺たちではなく、他のゾーンに加勢に行くかもしれない。ならば俺たちがここで食い止めなければならないというわけだ。ヒット&アウェイでしのぐというのもアリだが、俺のヒットはすなわち撃破。モード『speed』からのモード『power』を舐めてもらっては困る。
「さぁ後悔しろ!この世界一強い俺の前に現れたことをな!」
「現れたのはそっちだろ」
戯言をほざく敵をぶちのめすため、風のように駆け出した。