switcher!!   作:ちろ

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第9話 戦闘、火災ゾーン

 個性の使い方はどこで教えてもらうのが普通なのだろうか。小学校中学校では個性の使用は禁止され、かといって外で使えるかと言えばそうでもなく、使えるのは家族以外にバレないであろう家の中でのみ。

 

 大体の個性は自身の成長、年齢を重ねるにつれ馴染んでいくものだ。俺の場合、少し違う。

 

 モードをスイッチするごとにくる体への負担。更にスイッチできるモードの模索。身近にその系統の個性を持っている人がいなかったから、俺は独学で自分の個性を伸ばすしかなかった。いや、大きく捉えれば父さんと俺の個性は似ているのだが、父さんのは純粋な発動型の増強系。対して俺の個性は発動型と変形型の二つを併せ持つ複合型。更にスイッチしなければ何も現れないというゼロからの模索つき。

 

 そんな俺がしたことはただ単純なこと。

 

「スイッチ。モード『power』!」

 

 努力。ただ己の可能性を信じ、体をいじめ抜くことだった。そして初めに出てきたのがモード『power』。俺の筋力の増加によりいきなり出てきたモード。出た当初は通常のモードに戻る方法がわからず、体力が尽きたことで元に戻り、そのまま入院した。体がバキバキになって1ミリも動けなかったのだ。

 

「なんだこいつ!いきなりゴリゴリになりやがった!」

 

「一気に三人なぎ倒したぞ!?ほんとに人間かアイツ!」

 

 インパクトは十分。俺は一度猿夫を見て、アイコンタクトをとった。後ろは任せるぞ、という意思を込めたのだが、果たして伝わったかどうか。

 

「スイッチ。モード『speed』!」

 

 そして次に出てきたのがこのモード『speed』。初めは速すぎて直進しかできないザコモードだったが、今はなんとか曲がれるようになった。これが出たときは通常のモードに戻る方法もわかっていたので苦労しないかと思ったが、脚がバキバキになりまた病院送り。更に脳への負荷もかかっていた。

 

 つまり、俺の個性はスイッチする度に体と脳へ負担がかかる。そしてここは火災ゾーン。徐々に酸素を奪われ、時間が経ちすぎると脳へのダメージも出てくる。だからここは速攻で片づけなければならない。幸い、俺は元々速攻タイプだ。

 

「オラァァァアアアア!!おせぇぞテメェら!ガキ一匹にやられて悔しくねぇのか!?」

 

「こいつほんとにガキかよ!あの尻尾のやつも普通につえぇし!」

 

「あぁ!普通だがつえぇ!」

 

「そりゃ須一に比べたら普通かもしれないけどさ……」

 

 というか『スイッチ』って言わなくてもモード切り替えられるんだね、という猿夫の声は無視して次々に敵を蹴散らす。別に『スイッチ』と言うことに意味がないわけではない。アレは脳に「今から切り替えますよ」と伝えるという役割があり、アレを言うだけで少し負担が軽くなるのだ。ただ戦闘において『スイッチ』と言うのは「今からモード変えますよ」と敵に伝えるようなものなのでできる限り言わないようにしているだけだ。

 

「須一後ろ!」

 

「死ねやコラ!」

 

 猿夫の焦った声が聞こえ、背後から敵の物騒な言葉が聞こえる。ふむ、背後をとって至近距離にくるということは遠距離手段を持っていない可能性が高い。ということは何かしらの直接攻撃をしかけてくるということ。

 

「スイッチ。モード『hard』!」

 

「いっ、てぇぇぇぇええええ!?」

 

 俺のモード『hard』は見る限り鋭児郎よりも硬い。その代わり動けないわけだが、こうして攻撃を防ぐにはちょうどいいモードだ。

 

「ほんと便利だなその個性!」

 

 モードを解除して背後の敵をなぎ倒そうかと思えば、猿夫が尻尾で弾き飛ばしてくれた。ありがたい。普通に強い個性だ。

 

 モード『speed』とモード『power』の繰り返しでなぎ倒していけばあと一人。そんなに倒した記憶はないが、猿夫が結構やってくれたのか。ほとんど俺が倒して猿夫はもしものときのために体力を温存してもらう予定だったのだが嬉しい誤算だ。

 

「くっそ、ほとんどが個性を使う間もなくやられちまった……!」

 

「おう、それは俺が世界一強いからだ。気にすることはない。ただ相手が悪かった!それだけだ!」

 

 指をつきつけ、さぁ最後だと踏み込もうとしたその時。

 

「ち、っくしょぉぉおおお!!」

 

「な、あっぶねぇ!」

 

 敵の一人が何かを自分に打ったかと思うと、敵の体から膨大な量の炎が溢れだした。炎の波は俺たちを飲み込もうと気づけばすぐ目の前まで迫ってきている。俺はそれを反射的にモード『speed』で横に避けると、すぐ隣を炎が通り過ぎて行った。

 

「猿夫!無事か!?」

 

「無事!けど、何だアレ。何か打ってたよな?」

 

 炎が溢れだす直前。確かにあの敵は自分の首に注射器のようなものを打っていた。俺の知識が正しければ、あれは。

 

「多分、個性をパワーアップさせるクスリだ。父さんからそういうのがあるって聞いたことがある」

 

「それって違法じゃないのか?」

 

「完全に。海外じゃどうかわからんが、少なくとも日本ではアウトだったはずだ」

 

 炎の壁越しに会話する。こんな派手な炎エンデヴァーくらいしか見たことがない。敵の様子から見て何かクスリを使ったのは明らかだ。

 

「はは、すげぇ!すげぇぞ俺!おい、この力がありゃテメェらなんざ怖くねぇ!かかってこい!」

 

「猿夫、引くぞ」

 

「え?」

 

「あのクスリが日本産なら効果時間が短いはず。詳しい長さはわからんが、どっちにしろあんな炎出す相手に近接戦闘しかできない俺たちが相手するべきじゃない」

 

「……意外だな。須一はこういう時敵に向かっていくと思ってた。わかった」

 

 猿夫も俺が言ったことと同じことを思っていたのか、敵がいる方向とは逆の方へと走る音がした。よし、これで猿夫は安心、と。

 

「ごちゃごちゃうっせぇぞ!!」

 

 向かってこない俺たちに痺れを切らしたのか、敵がまた炎の波を放ってくる。猿夫はすでに逃げ始めているからこの炎の波が届くことはないだろう。無駄に逃げる手段が豊富な俺もこれに飲まれることはない。

 

「スイッチ。モード『jump』」

 

 そして、個性を使い慣れていない敵に制裁を加えるべくスイッチする。炎の波が俺のところへ来る前に高くジャンプし、無理やり空中で体勢を変えて天井を蹴った。向かう先は敵のところ。俺が体操選手かなにかならうまいこと体勢を変えられるのだろうが、ここは要練習である。

 

 敵は今の炎で仕留めることができたと勘違いしているのか、正面だけ見て高笑いしていた。わかる。いきなりすごい力を手に入れると自分はすごいやつだ、なんでもできるんだって思っちゃうよね。俺もそうだった。

 

 そうやって慢心すると後でひどい目にあうというのが世の常である。

 

「じゃあな敵さんよ!」

 

「は?」

 

 敵と接触する直前に声をかけると、敵は間抜け面して俺の方を見て。

 

 その顔面に勢いを乗せた拳を叩きつけた。角度的には死なないはず。父さんから教えてもらった人の殴り方は間違いない。

 

 敵を殴り飛ばした俺は瞬時にモード『hard』にスイッチし、骨を守った。あのままだと全身ぐちゃぐちゃになってたからね。モード『hard』にすると痛いものは痛いが見た目無事になるから重宝する。繰り返して言うがめちゃくちゃ痛い。

 

「須一!逃げるって言ってなかったか!?」

 

 猿夫が敵を攻撃しにいった俺に気づいていたのか、モードを解除した俺に駆け寄り手を引っ張って起こしてくれた。心なしか怒っているように見える。まぁ下手したら燃やされる可能性もあったし、怒るのも当然か。

 

「悪い。アレ嘘。敵に自分の視界を塞ぐような炎出して欲しかったから、敵に聞こえるよう逃げるのを提案しただけだ」

 

「結果的にはよかったけど、あの場面は逃げるのが正解だっただろ?」

 

「それはわかってるんだけど、なんかさ」

 

 俺は猿夫から離れて先ほどぶっ飛ばした敵の懐を漁り、注射器を取り出した。

 

「クスリ持ってるってわかってて、助けがくるかどうかもわからないならやるしかねぇかなって。日本製で効果時間が短くても、それが何発あるかわかんなかったし。二発目ありましたーってなったときに逃げて遠くへ行ってたとしたら近づくのは難しい。かといってそのまま逃げだせば暴れまわる炎の敵が他のところに行きかねない。ならここでやった方がいいかなって」

 

「……須一、考えるの苦手だって言ってなかったっけ?」

 

「別に、できないとは言ってないぜ」

 

「カッコよくないぞ」

 

「いてっ」

 

 キメ顔で言ったら叩かれてしまった。ひどい。

 

「で、これからどうする?」

 

「そうだなぁ。一緒に行動するのは当然として、こっから近いのは山岳ゾーンと水難ゾーン。水難は行っても役立たずだから山岳ゾーンに行こう」

 

「あれ、なんでゾーンがどこにあるか知ってるんだ?」

 

「入口から見た時に覚えた」

 

 俺は自分の興味があることならすぐに覚えられるんだ。勉強もこうだといいのに。

 

「よし行こう。前は俺が行くから後ろは任せた!」

 

「任された」

 

 言って、俺たちは山岳ゾーンへ向かった。猿夫、尻尾使って移動するのね。

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