白燐に煌めく光の下で   作:柏コア

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第17話 さらば今まで

 

 

 

 

クラスに上手く溶け込めない俺には、親友と言えるほどの友達が一人いた。

そいつは決して真面目とはいえないけど頭が良くて、チャラそうだけど本心は友達思いで、本気で信頼を寄せていた。

今日の授業が終わってからすぐだって、自分のことじゃないのに本気で相談に乗ってくれたり。

そいつと時間を共に過ごしていく時間が増えれば増えるほど、俺がそいつに寄せる信頼は大きくなっていくばかりであった。

 

でもそれが今、大きな音を立てて一瞬にして崩れた。

もしかしたらこうして思っている時点で崩れ切ってはなく、どこかに"彼が彼であったころの彼"の事を信じているのかもしれない。

 

こうして裏切る事に、コイツの表情からは一ミリたりとも反省や後悔の色は見てとれない。

考えてみたらそんなものなのかもしれない。俺がコイツに信頼を寄せていて仲良くしてた時間も、コイツにとってはただの信頼を寄せさせる為の行為だったと考えてもおかしくない。

 

そう心に言い聞かせて、確信へと変えるには十分すぎる証拠があるはずなのに、どうしても肯定する事への恐怖心が消えないままで。

ただ許さないという感情だけが空回りしてしまった。

 

ただコイツと過ごした、俺が"信じ込んでいた"楽しかった日常全てを込めて

 

 

「この裏切り者がァァァァァァ!!!」

 

そう叫びながら唖然としてこっちを見ている米川龍樹へ全力で突き出した。

人が同じ人を殴るだけでこんなにも衝撃を受けるんだなとこの時感じた。勢いよく突き出された拳は眉間のあたりに完全に入って1メートル近く飛んでしまった。

 

でもこんなもの……俺が受けた衝撃に比べればどうって事ないよなぁ。

解放した今なら分かる。こんなも上手く偽善者をやり通せるものなんて他にいるだろうか。

だからこそ許したくない。信じていたことを否定された悔しさ。ついさっき感じた憎悪を自分の正義にして感情が振り変わる。

 

 

「殺す……お前を……」

 

もう分からない。どう動いても足掻いても俺に幸せなんか来ない。

"あの日"からずっとそうだ。

それすらも大切なものを見つけた大切な時間に惑わされて忘れてしまっていた。

どうせならもういい。いつかはこう変わってしまう運命だったのだろう。

うずくまってるコイツの横に今も散らばっているバッグの中身から、手のひらサイズの石を手にとって一歩一歩と歩みを進める。

顔を上げたコイツの目にはもう光は無かった。

勉強を教えてくれたり、本気で相談に乗ってくれたりした米川龍樹という男はもうここには居ない。そう確信をさせてくれたのだから楽なものだ。

 

 

「じゃあな、お前は不幸だよ」

 

「君!何をしてるんだ!」

 

そう声が聞こえてふと我に返って振り返る。

そこにはコイツの仲間であった奴らと

警察だ……。

アイツらは警察を連れて来やがった。

冷静になった今考えると俺が今行った行為は人を殴り飛ばした上に手に石を持って……それはもう立派な暴行だ。

 

 

「クソがっ!」

 

そうとだけ吐き捨てて全力でこの場から逃げる。

追いかけてくる様子は無さそうだがそれでも全力で逃げて自宅に駆け込む。

もうなにもかも忘れたい。忘れて楽になりたい。

あぁ……なぜ神はこんなにも味方してくれないのだ。

 

 

 

 

7年前。俺と燐子は誰が見ても分かるほど仲良くしてた。

ピアノのレッスンがない時は一緒に遊んでゲームなどをして、本当に毎日が夢のような時間だった。

でもある日、学校で番を張ってる奴らに目をつけられて放課後に公園に呼び出されて殴られた上に脅された「これ以上白金とイチャイチャするようなら、お前の家族がどうかなるぜ?」と。

今考えてみたら、たかが小学生の脅しなんてなんでなんで乗ったのだろうかと思う。でも小学生だからこそ、母さんや父さんを失うのが怖くて引き受けてしまった。

そして絶対に吐きたくなかった言葉であり、彼女の努力を知ってたからこそ絶対に言いたくなかった言葉を口にしてアイツらの指示に従ってしまった。

 

 

「ピ、ピアノなんか一生懸命やって何になるんだよ。……馬鹿馬鹿しい」

 

そういった時、本当に心が痛むのを感じた。それと同時に頰にも痛みを感じた。

ハッとして顔を上げると彼女は目に涙を浮かべてこっちを睨んでいた。

少しでも願って甘えてしまっていた。冗談として受け止めてくれれば、燐子なら許してくれるだろうと。彼女の頑張りは知っているのにそんな事を考えてしまっていた。

だが非情にも……いや、非情などではない。必然的な事だ。こうなってしまった現実があった。

 

 

「そうだよね……やっぱり私に長所なんて」

 

なんでだ……。目の奥が熱くなるのを感じる。

 

 

「これで最後だけど……私はピアノやめないから……」

 

待ってくれ……俺はそんな……。心の中で何かが壊れるのを感じた。

 

「じゃあね、"品崎和士くん"……」

 

俺は、そんなつもりじゃ…。頰に何かがつたっていく感触がする。

 

 

 

 

 

こんな風に、いつだって掴み取った幸せは誰かによって取られてしまう。

俺はこれが続く事が何よりも悔しくて、それでも何かを変えれるわけでもなくて。

そんな自分が嫌いだ。

でももう嫌うだけの自分ではいたくない。

幸せを誰かによって邪魔をされるなら、何度だって掴んでやればいい。

何がどうなったっていい。環境に恵まれて奇跡的に出会えた自然な幸せではなく、自分の意思と行動で掴み取った作り上げた幸せを掴み取ってみせる。

 

明日から変わってみせる。幸せを掴み取るために。

今までの俺に蓋をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その朝は、不思議にも早かった。

それでも寝不足を感じるわけでもなく、逆に気持ちがいいくらいの目覚めだった。

早いのは外を見れば分かったが時間を確認してみると

4.05

これは早すぎる。老人か、俺は変わるために老化してしまったのか?

そんなツッコミを入れながらしっかりと意識を覚醒させるとまず始めに出てくる疑問がある。

何すればいいんだろ……。

変わると決意はした。だけどあまりにも具体的な打開策が一つもない。

気は進まないけど、今までのメールなどでのやり取りを見返してみる。

そういえば一番初めに連絡を取り始めたのは氷川さんだった。彼女が裏であんな悩みを抱えていたなんて知らなかった。

思い返して見れば、高校生活を通じて関わった人はとてつもなく少ない。

氷川さんや燐子、そして……

米川龍樹。

何でかは分からないが、気づけばトークの履歴を見返していた。

他愛もないバカみたいな会話。それとは裏腹に勉強についての会話。全てが嘘だったと思うと、やはり心にくるものがある。

そんな中、一つ気になる文を見つけた。

コイツが俺と氷川さんの関係を知る前に何気なく送ってきたものだろうか。意図的なのかは分からないが俺は返信はしていない。

 

[〜〜月の〜日、氷川さんのバンドが〜〜でライブするらしいぜ。]

 

 

思い出したくないとまで思いかけていた人間に、今日の予定を決められた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







この場を借りて高評価をつけて下さった方をご紹介させていただきます!


評価10という最高評価をつけて下さったc c wさん!!

本当にありがとうございます!これからもよろしくお願いしますね!


そして、更新が大幅に遅れてしまい申し訳ありませんでした。









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