白燐に煌めく光の下で   作:柏コア

19 / 23





この度は投稿が大幅に遅れてしまい本当に申し訳ありませんでした。
リアルで揉め事だったり色々あったのですが、そんなのは言い訳に過ぎないのでもっと短い幅で投稿できるよう頑張ります






第19話 決意の共鳴

 

 

 

 

 

 

突き刺さるような気だるさを感じながら目が覚めた。体とは裏腹に目はしっかりと覚めている。ここでひとつ大きな欠伸をしてどうにか1日のスイッチを入れる。それと同時に携帯に電源を入れる。端末は俺が最後に見ていた画面を映し出した。そう、氷川さんとのトーク画面だ。

結局、昨日ライブ後に送られてきたことには返信出来ていない。行動に起こすことへの決意は固めたものの、行動の起こし方に迷ってしまっているのが現状だ。目が覚めれば頭がスッキリしてどうにかいい方法が浮かぶかと思っていたが、全くそんなことは無かった。

俺からすれば悩み続けているのでそこまで時間が空いてないように思えているが、不安を抱えている彼女からするとどうしようもなく長か感じる時間なはずだ。

……我ながら人間として最低なことをしてしまってるじゃないか。

そう気付いてからは早かった、すぐに返信を入れる。

 

 

「返信遅れてホントにごめん。話聞くよ?」

 

そう送って画面を一度閉じようとした時、俺が送ったメッセージのすぐ下にもう既読の文字が付いていた。その事は、俺が彼女を長い時間不安の海に閉じ込めていたことを確証させた。

どんな顔をして彼女に会えばいいのか、本当に分からなくなるほど申し訳ない。実際に合うわけではないが

そうしているうちに、通知を伝える振動が手に来た

 

 

「それが……直接話がしたくて、大丈夫でしょうか」

 

前言撤回、実際に合うことになった。

これ以上不安にさせたままにするほど俺も腐った人間では無いので

 

 

「全然大丈夫だよ、氷川さんはいつがいい?」

 

「今日の一時に、商店街を抜けた所にある公園で会えますか?」

 

「了解、後でね」

 

そう連絡を入れて、すぐに身支度を整える。

 

 

 

 

 

 

 

家を出る時間までは意外と長く感じられた。自分では気付いてないところで心に余裕が出来ているからなのか。自分にも分からない。でも言ってしまえば氷川さんとのトラブルがあってから負の連鎖が起き続けていた。

母さんが倒れ、燐子が襲われた。そして信じていた親友に裏切られたこと。

これを起こしてしまった原因が全て自分の変化だとするならば、事実はそうだ。

負の連鎖の原因なら、これを解決出来れば全て上手く行くじゃないか。

そんな自信が今の俺にはあった。

 

 

 

 

 

氷川さんは律儀な人だ。そうも驚くほど実感させられた。

これ以上彼女を待たせて不安な思いはさせたくないので、待ち合わせの一時間前に約束の公園に着いた。

……さて、どう時間を潰すものかとスマホをいじり始めると視界の隅に見覚えのある人物が現れたのですぐにスマホをしまうと、まだこちらには気づいていない氷川さんがもう現れたのだ。

彼女は律儀だ。本当に驚いた。

こちらを見つけると少し早歩きで氷川さんはこっちへやってきた。

俺はベンチの片方を開け「いいよ」と声をかけると「すみません」と堅い感じのやり取りになってしまった。

 

座ったのはいいけど俺は何から話せばいいか分からず固まってしまい、氷川さんはどこかソワソワしていて落ち着きが無いように見える。まだ何から話せばいいかなんて分からないけどここで切り出さないというのなら、変わろうだなんて笑い事にしかならない。だから

 

 

「「あの!」」

 

話を切り出したのだが……綺麗に被ってしまった。

 

 

「聞かせてよ、氷川さんの気持ち」

 

俺も覚悟して話を切り出したが、それよりも今大事なことは氷川さんの気持ち。彼女自身の気持ちより大事なものなんて他に無い。そのくらいは分かっている。

 

 

「私は……生まれ育った環境は同じ。それなのに妹のが優れていて、それは主観だけではなく客観的に見ても同じ事でした。周りも私たちが大きくなるにつれて日菜を良く評価するようになりました。私は日菜には負けたくなかった。何か取り柄を作りたかったんです。それでギターを始めたんです。それなのに日菜は真似するように始めて、すぐに追い抜かして行って……もう嫌なんです。」

 

俺は正直氷川さんの事なんて何も知らなかった。こんな話を聞いた今でも既に驚いている。

それでも、分からなくても俺なりの考えで彼女を救ってあげたい。今は心の底から思える。だからこんな事じゃ怯まない

 

 

「氷川さんはさ、本当に頑張ってると思うよ。俺は偉そうに言えるほど氷川さんの事知らないよ。それでも目の下にクマが出来るまでギターの練習したりライブでは正確な演奏でしっかり仲間を支えてさ、そんな氷川さんは俺から見たらすごい眩しくてさ。憧れなんだよ」

 

「私は負けたく無いから確かに頑張りました。それでも、練習量ははるかに少ないはずなのにすぐに上手くなっていって。練習して追いつかないなら……何の為にギターをやっているかすらも分からないんです。この前の観客の方の言葉を聞けば分かるはずです。客観的に見ても私の方が劣ってることぐらい」

 

もちろん俺の一言で氷川さんが納得してくれるとは思っていなかった。彼女は頭が良い分、理論派だからだ。同情するだけでは心は動かない。目に見える証拠が欲しいんだと思う。

俺は妹さんの事は知らないから目に見える根拠なんて無い。

じゃあどう解決するか?

俺なりの考えで彼女を救うんだ。

 

 

「氷川さん、氷川さんはギターを始めた時何を目標に始めたの?」

 

「それは……バンドに所属し、そのバンドで更なる高みを目指して行きたいと思い。始めました」

 

帰ってきたのは、彼女らしいしっかりした目標だ。なら話は早い。

 

 

「その目標は……今も変わらないと、1番の目標だと胸を張って言える?」

 

「それは……その……」

 

「氷川さんが生半端な気持ちでギターをやっているなんて思ってないよ。でもさ、多分氷川さんは活動を続けていく中で"バンドとして高みを目指していくRoselia氷川紗夜"じゃなくて"妹に負けたくないひとりのギタリスト氷川紗夜"になっちゃってるんだと思う」

 

「……」

 

彼女は俯き黙っている。決して無視しているわけでは無い。それは表情で分かる。

悲しそうな。実感してしまったような表情。それでも彼女に伝えたい事を伝え終わるまでは決して言葉を留めない。

 

 

「自分でも気づかないうちにさ、目指すものが変わっちゃってたんだと思う。それに妹さんに負けない事を目標にしちゃうとさ、ゴールに妹さんっていう壁がずっと張り付いててさ。結局妹さん以上になるのは難しくなっちゃうんだ。だからさ、氷川さんはさ」

"Roseliaを更なる高みへ連れて行く1人の少女氷川紗夜"になって自分を目標にして……自分というオリジナルを磨いて欲しいんだ

 

俺の口からは、そんな出来た言葉が出てきた。無論、これは本音だから問題なんて何一つない。

思いを伝え切った。もう俺から言えることは何もない。これで彼女の心を動かせなかったら、全く格好のつかない無意味な行動になってしまう。

それでもいい。思いは伝えたのだから。

ゆっくり視線をおろす下ろすと、氷川さんはまだ俯いている。

流石に氷川さんの心に届くには足りなかったか。

と一度感じだが、そうではないみたいだ。

 

氷川さんはワンピースの裾を握り締めながら鼻をすすっている。

そして落ちて行く雫、一粒……二粒とワンピースの色を点々と濃くしていく。

 

氷川さんは……泣いているのだ。

俺の言葉が氷川さんを泣かせたのか?否、そうではないだろう。

俺の言葉を聞いて、彼女自身の心と会話をして泣いているんだろう。

泣いていて悲しそうな表情をしているのは確かだが何か決意に満ちたような目を俺に向けて、氷川さんは話し出した。

 

 

「品崎さんの言う通りです……。自分が誰か分からなくて、ずっと怖かったんです……。でも、ようやく自分が何者なにかが分かりました……私は!!」

"私の音を奏でるギタリスト、氷川紗夜です"

 

その言葉が聞けて安心した。

氷川さんはその言葉を絞り出した後、顔を手で押さえてまた泣き出してしまった。

 

 

俺に氷川さんを慰める権利があるかは分からない。でも今は俺を安心させてくれた彼女を安心させたいという気持ちでいっぱいだった。

 

 

「その答えが出たならよかったよ。話してくれてありがとうな」

 

そう言いながら、腕を回して彼女の肩を軽く摩る。

 

 

「品崎さん……ありがとう」

 

 

 

 

 

 

五分ほどそうしていただろうか。氷川さんが鼻を啜る音も聞こえなくなり、俺も気持ちが落ち着いた。

 

 

「品崎さん、品崎さんも抱えているものがありますよね?」

 

「うぇ!?」

 

ずっと静かに俯いていた氷川さんが話し出すもんだから、つい変な声が出てしまった。慌てて回していた腕を解いて、話を聞く

 

 

「お、驚かせてしまってすみません……。それで、なにか心当たりはありますか?」

 

「うーん……」

 

急にそう言われても余り思いつくものなんてなく、正直あるのかも分からない。

 

 

「好きなんですよね?白金さんのこと」

 

「うーん……えっ!?えぇぇぇぇぇ!!」

 

「やはりそうでしたか……」

 

「うん?なんで!?なんで」

 

「私だって学校にいるから分かりますよ……品崎さんの行動で」

 

あれ?俺そんな目立った行動したっけ?

そもそもどうなんだろう俺は

俺にとっての燐子ってなんなんだろう

本当は分かり切っている。俺は

 

 

「うん、そうだよ。俺は燐子が好きだ」

 

「それを聞けて安心しました。頑張ってくださいね」

 

俺がそう言うと氷川さんは笑顔でそう言葉をかけてくれた。俺の気持ちに氷川さんが火をつけてくれたんだ。

この気持ち……無駄にしない!

 

 

「ありがとう!俺も頑張るよ!」

 

 

 

 

 

俺にとって燐子は、たった一人の想いを寄せる人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 








お読みいただきありがとうございます!

16話にて流星@睡眠不足さん

18話にて石月さん

誤字報告ありがとうございました!!今後無くなるように心がけます!





▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。