俺は今、ただひたすらに廊下を走っている。
現実を受け止めたくない心の中の心理が、俺の体を突き動かしたんだろう。
俺の頰を流れる冷や汗は、先程覚えた既視感が気のせいではないと物語っている。
彼女本人なら昨日の今日だ。心はそう簡単に受け入れようとはしない。誰でもこうなってしまうのだろうか……
「どうして……どうしてアイツが……」
五時間目が始まって何もやる気が起きず、予想外の出来事に混乱する脳を強制停止させるように机に突っ伏して意識を飛ばした
「……崎さん……品崎さん……!!」
誰かが俺の名前を呼んでいる…
「品崎さん!!起きてください!!」
あぁ、どこか遠くから声が聞こえる……
ここは……天国?
ガタッ
「品崎さん!!起きてください!!」
あっ。勝手に夢の中だと思い込んでたけどこれリアルだわ
「ど、どうしたんだね氷川紗夜くん急にそんな大声出して」
「寝ぼけてるのか知りませんが口調がおかしいですし今に始まったことではありません!」
「ご、ごめんなさい氷川さん。……ってみんなは?」
「もう帰りましたよ、まさか帰りのホームルームが終わっても起きないとは……」
「帰りのホームルーム?あれ?五時間目は?てかなんでみんな起こしてくれなかったの?」
「何度も声はかけましたよ、そうしても起きないですし、品崎さん、少し魘されているように見えましが、大丈夫ですか?」
「魘されてた……?俺が?」
「はい、少し苦しんでるような声を出していました。今だって顔色があまり良くありません。確かに初日からあんな風に絡まれてしまって大変だとは思いますが、無理だけはしないで下さいね」
「ありがとうございます氷川さん。俺は大丈夫ですよ。今日のも気にしてないですし、何しろ自分が言いに行ったのが原因なので」
「あまり自分を責めないで下さい。一人の生徒を救ったのは事実ですし、品崎さんのした事は正しいことです。それと……せっかくクラスメイトになったのですし、敬語でなくても大丈夫ですよ」
慣れていないのだろうか、急に声が小さくなり氷川さんがちっぽけなものに見える
「分かりました氷川さん。これからよろしくです」
「全く治ってないようですが……」
「ごめんなさい、善処します」
「はぁ……」
氷川さんにも気付かれるほど思い込みすぎていた事と、今日会った"白金と言う名の持ち主"の事で頭がいっぱいだった
「ゲームでもするかな」
そう思ってベッドから起き上がった時、
「ピロリン♪」
自分のスマホが、少しの振動と共に軽快な音を鳴らした
今は返信しなくてもいいかなと思いながらスマホを見たが、浮かんでいる文字を見たらその考えは一瞬で無くなった
氷川紗夜
「よろしくお願いします、同じクラスの氷川です。今日は……」
氷川さんさんからLINERにメッセージが来てたのだ。このままでは全文が見れないのでロックを解いてメッセージを見る。
「よろしくお願いします、同じクラスの氷川です。今日はいろいろとありましたが、大丈夫ですか?また何かあるようでしたら気軽に言ってくださいね」
「氷川さんはなんて優しいんだろうか、初日からこんなに優しくしてもらって、本当に嬉しすぎる本心です」
とは送らずに、律儀に
「ありがとうございます、初日から心配かけてすみませんでした」
と送ったら、意外なことに即既読で
「今日も言いましたが、敬語でなくて大丈夫ですよ」
と、来たので
「わかったよ、ありがとう氷川さん」
と、今度はちゃんと対応できた
ーーーーーーーーーーーーーーー
どうしてこうなった
学校に行くようになって一週間と半日が経とうとしていた今、仲良くなった友達に話しかけられた
「和士が学校に来た初めの日さ、放課後氷川さんと何してたの?もしかして……」
こんな下らないことを言ってくるコイツの名前は米川龍樹(よねかわりゅうき)同じ部活に入ると聞いて仲良くなったイケメンだがお調子者である
「もしかして、なんだよ?」
「もしかして氷川さんとお付き合い始めたのかなーーと」
「違うし、第1初日から彼女作るほど俺はたらしじゃないしなんかウザいから校庭に埋めていい?」
「辛辣ゥ!」
こんな風に馬鹿みたいな……いや、馬鹿な会話をしていると
「品崎さん」
「どうしたの?氷川さん」
氷川さんが話しかけて来た、それまでは良いのだが
「おっ、ついに嫁の登場か!これは期待でk」
「くらえファル○ンパンチ!」
お調子者が黙ってるはずもなく、躊躇なくパンチを入れる。
「どうしたの?氷川さん」
何事もなかったように話しを戻した
「はい、少しお願いがありまして……よろしいですか?」
「俺にできることならなんでもするけど何をすればいいの?」
「生徒会室に新しい副教材が届いているので運ぶのを手伝ってくれませんか?急ですみません」
「暇だったし全然大丈夫だよ、じゃあ行こっか」
「ちょっとまって俺はこのままスルーされる流れなんだってばよ?」
「そういうことだぜじゃあなLOSER」
「I'm a loser」
「うるせぇ」
,
副教材も殆どが運び終わって
「必要分が運び終わったので、これで終わります、集まってくれた生徒の皆さんありがとうございました」
と、氷川さんが声かけをすると集まっていた生徒は皆帰っていったので、俺も教室帰ることにした
「あっ、どうしよう……」
まだ副教材を運んでいた生徒が箱を落として大変なことになっていた、渡り廊下で周りを見ても誰もいなさそうだったので助けようと思って動き出した。
「っ……!」
だが、非常にも。いや、非常などではない。偶然にも、困っている本人は昨日助けた少女……白金燐子だったのだ。
写真を見たときのような、胸が締め付けられる感覚がする。
それでもここで引いたら個人的な問題などではなく、人間として腐ってると思う。
彼女に気づかれないように、こっそり手伝えばいいんだ。
そう心に言い聞かせて、彼女の元へと向かう
「あの……ありがとうございました……」
何とか俺が"品崎和士"だと気づかれる事なく作業を終えた。いざ自分の正体を隠すとなると、何事よりも難しい。それより……
えげつなく心臓に悪い。
「いえいえ、大丈夫でしたか?」
「はい、おかげさまで助かりました……ありがとうございま……っ!?」
彼女は、言葉を途中で止めて、驚いたようにも、恐れているようにも見える瞳で俺の胸の辺りを見つめていた
時間の問題だった。それが、今になってしまっただけ。
「あの、どうかしましたか?」
もう諦めがついた。それでも、有得る限りの最善の可能性を信じて平然を装って話しかける。
「あの……すいません貴方は……」
彼女は下を向いている。決して落ち込んでいるわけではない。
俺も気づいていなかった。俺と彼女の足元には、"品崎"と表してある名札が一つ落ちていたことを。
「失礼します」
と、この場を逃げるように強く吐き捨ててこの場を去った。
決断の日は近い
今回はなんとなくネタが多くてすみませんでした、ですが、しっかり話としては成立させていくのでよろしくお願いします
それと、学校行事でしばらく期間が空いてしまいます、すいません
これからもよろしくお願いします!