五等分の結末   作:のんびり+

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はい、どうものんびり+です。
前回からだいぶ空いてしまって申し訳ないです。
亀更新なのでご容赦ください。
それでは今回も、のんびりしていってね!


上杉風太郎の憂鬱

 教室に戻り、自分の席に着いた風太郎は、おもむろに返却されたテストを机上に広げた。次の時間はホームルーム。風太郎にとっては自習に持ってこいだ。

 昼休み、あいつの面倒を見ていて出来なかった分も含め、たっぷり自分の勉強をしてやるぞ。

 ねっとりとした笑みを溢しながら、風太郎は自習を開始する。

 しかし、何故かいつもよりも騒々しいクラスメイト達の話し声が邪魔で、勉強に集中しきれない。風太郎はイライラしながらも勉強を続行するが、そんな彼の事など露知らずに、教室に話し声が充満する。

「ねぇねぇ聞いた? 今から転校生が来るらしいよ」

「あー! 聞いた聞いた、黒薔薇女子の生徒でしょ」

「おいおい、噂の転校生、女子らしいぞ。しかも美人!」

「キタコレ‼」

 ……うるせぇ。何だって転校生くらいでこんなに騒げるんだ。いくらイベントに飢えた高校生と言っても、もう少し加減ってものがあるだろ。

 風太郎はテスト用紙を机の引き出しに仕舞うと、代わりに本を一冊取り出した。

 仕方がない、テスト関連の勉強は家でやるとして、今は読書でもしておこう。読書は良い。語彙力や想像力という現代人に不足しがちな力を養い、教養を豊かにする。かのアメリカ合衆国の実業家でしられるビル・ゲイツも、年間五十冊は本を読むと言われている。こんな時は本の世界に避難して時間を潰そう。

 それから、クラスメイト達の放つ騒音を受け流して、風太郎は読書に熱中した。

 風太郎にしては珍しい、恋愛小説だった。学校の図書室でたまたま見つけた本だ。普段は読まないジャンルだったが、だからこそたまには読んで見るのも悪くないかと思い借りたのだった。

 しかし、この男、上杉風太郎の恋愛観は一般的な高校生とは一線を(かく)していた。"恋愛とは、学業から最もかけ離れた愚かな行為である"というのが、彼の見解である。

 そんな彼でも、たまには恋愛小説くらい読む。主人公とヒロインの恋の行方に、これからどうなるのだと興味も示す。ただ、ソレはソレ、コレはコレ。

 学生の本分は勉学だ。それにもうじき家庭教師も始まる。恋愛など、している暇はない。

 

 八ページ程読み進めたところで、教室前方のドアが開いた。

 まず、担任の先生が教室に入る。

「はい、号令」

 先生の指示により号令を行い、生徒が着席したのを見計らって、先生が話し始めた。

「えー、今日からこのクラスに新しい仲間が加わる事になりました。中野さん、どうぞ」

 先生に促され、ドアから一人の女生徒が教卓付近まで歩いてきた。

 再びざわつく教室内だが、先生が静まらせる。そして、彼女は言った。

「中野五月です。どうぞよろしくお願いします」

 パチパチパチ。どこからともなく拍手やら歓声があがり、歓迎ムードは上々だ。

 そんな中、ある可能性に思い当たった成績学年トップの男は、頭を抱えていた。

 らいはの話では確か、最近引っ越してきたお金持ちの娘というのが、家庭教師の対象だったはずだ……。さっき食堂で会ったあいつが、噂の転校生だと? それに、黒薔薇女子と言えば有名なお嬢様学校ではないか。

 中野五月……不思議な事にらいはの言っていた生徒像と一致する。まさかとは思うが、俺の生徒って──。

「中野さんの席は上杉君の隣ね」

 先生が風太郎の左隣にある空席を指差した。そこで、五月と風太郎の目が合う。

「あ、上杉君! さっきぶりですね」

「…………」

 五月が笑顔で話し掛けたが、風太郎はあまりの衝撃に言葉を失っていた。

 窓際の後方、風太郎の隣の席に座った五月は、またしても風太郎に語り掛ける。

「知っている人がいて良かったです。上杉君、改めてよろしくお願いします」

「……あぁ、よろしく」

 かろうじて返事を絞り出した風太郎は、事の真相を知るべく、五月本人に確認を取ろうと考えた。こんなにも間違っていて欲しい推測など初めてだが、聞きたくもない真実でも知りたいと思ってしまうのは、人間の抑えきれぬ探求心によるものか。

「なぁ、中野」

「はい、なんですか? 上杉君」

「もしかして、お前のところに家庭教師が行くって話きてないか?」

 風太郎が尋ねると、五月は目をぱちくりと瞬またたいた。

「確かに、お父さんから聞かされました。どうしてわかったんですか?」

「いや、別に……」

 ──確定だぁぁ! 絶対こいつだ! 疑いの余地なし! 

 風太郎は組んだ手の上に額を乗せて、今の心情が外に漏れないようポーカーフェイスに徹した。

 なるほど、確かにさっきこいつの学力を見た限りでは、家庭教師を必要とするのも頷ける。そのくらい酷かった。立派な赤点候補生だ。

 驚愕の真実に動揺する風太郎だったが、ここで逆転の発想を見出す。

 まあ、逆に考えれば、これはむしろラッキーなのかも知れない。事前に生徒と面識を持てたし、席も隣だからいくらでも勉強を教える時間はある。良いじゃないか! 家でも学校でも、こいつを勉強漬けにしてやるっ! 

 開き直った風太郎は、内心、溢れそうになる笑みを必死に噛み殺した。

「上杉君、何だか悪意のある笑みをしてますが」

「いや? 別に?」

 五月の指摘を澄ました顔で流すも、五月をこれからどう教育してやるかという事で一杯な風太郎なのであった。

 

 ショートホームルームを終え、各々が帰宅したり部活動へ向かったりとする中、風太郎も家に帰るべく荷物をまとめていた。その時、既に荷物をまとめ終えた五月が風太郎に声を掛ける。

「上杉君、この後って時間あったりしますか?」

「ないね」

 即答であった。

 見覚えのあるふくれっ面をする五月に、風太郎はたじろいぎながらも言う。

「なんだよ。これから俺は帰って勉強だ。何か用があるのか?」

 今日はまだ家庭教師の実施日ではない。こいつ用の勉強プランも不十分だし、勉強を教えるのはこれからいくらでも出来る。勉強教えて下さいとか言ったら適当言って帰ろ。

 そう思案する風太郎に、五月は拗すねたまま応えた。

「あなたに会って欲しい人がいたんです」

「なんで過去形なの?」

「自分で良く考えてみて下さい!」

 ……えぇー。やっぱこいつ面倒だな。

 風太郎はコホンと咳払いをし、話を元に戻す。

「んで、会わせたい人って誰なんだ?」

「……私の姉妹です」

 ……姉妹? 姉妹か。姉妹!? 

 風太郎の脳内は一瞬、パニックに陥ったが、すぐに体勢を立て直す。

 中野は今、姉妹に俺を会わせたいと言った。考えろ。これが何を意味するのか。

 現実時間にして僅か三秒──五月が反応のない風太郎に違和感を覚え、声を掛けようとするまで──にして、風太郎は考えられる限り最悪の答えを導き出した。

「なぁ、中野」

「はい、何ですか?」

「お前のその姉妹ってさ、勉強苦手だろ」

「うっ……まあ、そうですね」

 認めざるをえない真実を肯定した五月によって、風太郎は自身の考えがおおよそ正確である事を知る。そして、最重要事項となる質問を、恐る恐る紡いだ。

「なぁ、中野」

「何でしょうか?」

「お前の姉妹って、一人か? 二人か?」

「四人です」

「……?」

 目を丸くして首を傾げる風太郎に、五月が付け足して言った。

「四人です。私達は五つ子なんです」

「イツツゴ?」

「はい」

 それから数秒、五月が放った単語の意味を理解した時、風太郎の脳は一度、完全に機能を停止した。

 

 ショートした思考回路が復活した風太郎は、五月と共に学校の正門へと向かっていた。五月の姉妹達はもう正門前にいるらしかった。

 比較的機嫌の良さそうに歩く五月とは対称的に、風太郎はまるでこれから死地へ赴く兵士のような足取りをしている。

 こいつは良いな、気楽そうで。

 隣を歩く五月を、風太郎は羨望の眼差しで見つめる。

 俺の考えが正しければ、と風太郎は思う。

 恐らく、家庭教師の対象は五月──他の姉妹とややこしいから名前呼びで良いだろ──だけではなく、その姉妹も含まれるという事になる。そして、その姉妹もどうやら勉強が苦手らしい。五月が苦手と言うのだ、五月に近い学力であるとみて良いだろう。そんなやつら五人の相手を、俺一人でやれと!? 

「あ、いましたよ」

 靴に履き替えて校門へ向かっていると、五月が前方を指さした。風太郎はさされた指の先を見る。そこには、四人の女生徒が佇んでいるのが見えた。

 風太郎らが近づいて行くと、先方もその存在に気づいたようで、手を振る者もいた。

「一番最後に来るなんて、五月ちゃんにしては珍しいね」

 最初に声を掛けたのは、ショートヘアの少女だった。明るい笑みをたたえている。

「ねぇ、ちょっと五月。私、あなたの隣が凄く気になるんだけど」

 続いて、蝶のような髪留めをしたロングヘアの少女が、風太郎に視線を送って言った。

「……五月の友達?」

 次に、ヘッドホンを首に掛けたロングヘアの少女が質問する。

「五月、もう男の子と友達になったのー!?」

 最後に、大きな緑のリボンをしたショートヘアの少女が驚嘆の声を上げた。

「えぇー、まさか五月ちゃんが彼氏を連れて来るなんて。お姉さん予想出来なかったなぁ」

「か、彼氏!? 違います! 私と上杉君はそんな関係ではありません!」

 ショートヘアの少女がニヤニヤといたずらっぽく言うと、五月は顔を真っ赤にさせながらも否定の言葉を発する。キャッキャウフフと続く五つ子の冗談を、風太郎は切り込むタイミングを見計らいつつ聞いていた。

「なぁ」

 そして、会話が途切れた一瞬を見逃さず、風太郎は口を開く。

「あ、そうそう! 君の名前は?」

 しかし、会話のコントロール権は依然として中野姉妹に握られたままであった。

「……上杉風太郎だ」

「ねぇちょっと、あんた五月の何なのよ? 本当に付き合ってないの?」

「中野──五月とはただ席が隣ってだけで」

 気の強そうなロングヘア少女の質問を流すも、

「でも、それなら出会ってこんなすぐに名前呼びするかな?」

 お気楽そうなショートカット少女が空かさず揚げ足を取る。

「中野って呼んだらお前ら全員が反応しちまうだろうが!」

「ずばり、決め手はなんだったんですか〜? 真面目なところ? 好きそうだもんね」

「おい五月、助けてくれ。こいつら会話が成立しないぞ」

「す、すみません……」

 五月は苦笑いを浮かべて謝った。どうやら五月でも姉妹の暴走は止められないらしい。

 風太郎はやっぱり来るんじゃなかったと後悔しながら、中野姉妹の一方的な会話に付き合わされたのだった。

 




はい、姉妹達が出揃いました。
本当はもっと進む予定だったのですが、更新を優先しました。
五月とのラブコメを早く書きたいものです。
それでは次回も、のんびりしていってね!
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