黒子のアメフト   作:ゆまる

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「人事を尽くして天命を待つ」

とある休日。

 

「今日の一位は〜〜〜?かに座のあなた!外を散歩してみると良いことがあるかも!ラッキーアイテムはシュークリーム!でも気をつけて、鼻の頭にテープをつけてる人とは相性バツ!!出会うだけで今日の運勢を全部帳消しにしちゃうくらい悪いことが起こるかも!」

 

「……今時鼻の頭にテープをつけているような古臭い人間がいるわけないのだよ。さて、シュークリームを買いに行かねば……」

 

 

セナ、モン太、黒子の三人はランニング兼、用具買い出しとして、スポーツショップへと向かい走っていた。ついでにモン太の入部記念パーティーをしたいとのことで、栗田とまもりに雁屋のシュークリームを買ってくるよう頼まれている。

 

「けっこう売り切れることもあるみたいだから、先にシュークリームのほうから買おっか」

 

「そうですね。というかパーティーの主役が買い出しに行くってちょっとおかしいような」

 

「俺のためにパーティーしてくれるってんだから全然オッケーだ!」

 

三人は商店街へと入り、雁屋の前で立ち止まる。

シュークリームを買おうと、セナが金の入った封筒を取り出そうとしたがつい手から滑り落ちてしまった。

が、落ちる前にモン太がそれをキャッチした。

 

「わ、ありがとうモン太!」

 

「やっぱり凄いキャッチ力、ですね」

 

「フフン、キャッチだけは誰にも負けらんねぇんだ!ほれ」

 

鼻の下を擦りながらモン太が封筒をセナへと投げて寄越した。

 

「フ、自販機で当たりが出るとはな。やはりおは朝の占いはよく当たぶふっ」

 

しかしモン太の手から離れた封筒はセナとは真逆の方向へ飛び、後ろにいた人物の鼻柱へと直撃した。

用具用に結構な大金が入っていたためかなりのダメージだろう。

 

「どんな投げ方したらそんなことに!!?」

 

重力に従いズルズルと落ちた封筒の下には、緑の髪と少し赤くなった鼻、眼鏡、そしてモン太を信じられないように見つめている目があった。

 

「………………」

 

「あぁあすんませんッス!!」

 

「緑間くん……」

 

「へ?あっ!え、えっとキセキの世代の……!」

 

少し驚いた表情の黒子を見て、キセキの世代の一人、緑間だと思い出したセナが「初めまし、いやまずはごめんなさい!?」とへこへこと頭を下げる。

緑間は二人の声が聞こえておらず、フルフルと体を震わせた。

その目はみるみる厳しくなり、誰がどう見ても怒っていた。

ギリッと歯を噛み締め、緑間が口を開く。

 

「鼻の頭に、テープ……!

何故……何故今時鼻の頭にテープをつけているのだよっっ!!」

 

「ええっ!?そこぉ!?」

 

封筒をぶつけられたことではなく、意味不明な点に全力でキレた緑間にセナがあんぐり口を開ける。

 

「もしカッコいいと思ってつけているのだったら今すぐやめるのだよ!時代錯誤の上ダサいことこの上ない!!」

 

「鼻のテープにこんなにキレてる人初めて見た……」

 

「これは俺のアイデンティティファッションだっ!!ぶつけたのは悪かったけどよ、んなダメ出しすんのはお門違いだろーが!テープに恨みでもあんのか!?」

 

「そういうことではないのだよ、そういうことでは────」

 

「あ、スンマッセーン!」

 

ブンブンと頭を抱えながら振る緑間の横から、子供たちが蹴ったサッカーボールが飛んできて顔に直撃した。手に持っていたおしるこの缶は宙を舞って緑間の頭上から中身が降り注ぎ。緑間がぐらついた先には野良猫がいて、驚いた猫は威嚇しながらその爪で緑間の服を切り裂く。

 

「只今より特売タイムセール開催いたしまーす!」

 

セール待ちの奥様方の集団が緑間を踏み越えていって。ボロボロになった緑間にとどめと言わんばかりに上からぴちゃりと鳥のフンが降ってきた。

 

「う、う、うわぁぁぁあ〜…………」

 

もはや人為的なものすら感じる絶望的な運の悪さにセナとモン太がドン引きする。

 

「…………貴様のせいなのだよ」

 

ぬらりと、幽鬼のように緑間が立ち上がりモン太へと迫った。

 

「いっ!?なんで俺!?」

 

「緑間くんはおは朝の占いを妄信してるんです。多分ですけど、モン太くんみたいな人に出会うとアンラッキー、みたいな内容だったんじゃないでしょうか」

 

「逆恨みって言いたいけど今の流れが流れだけに……」

 

「早く、早くシュークリームを買わねば……!ラッキーアイテムのシュークリームを買わねばならない……!!」

 

おしること引っ掻き傷と踏まれた跡でグチャグチャの緑間が、ポケットから財布を探しながら雁屋へと向かおうとする。

しかし驚いた表情で全てのポケットを引っ張ったり叩いたりし始めた。

 

「財布……俺の財布はどこだ!?」

 

ハッと目の前を見ると、キラキラしたお守りがついた財布が落ちている。緑間が安心した顔でそれを拾おうとした瞬間、カラスがそれを掠め取り、どこか遠くへと飛び去っていった。

 

「……………………」

 

絶望の表情を浮かべる緑間。セナもなんだか泣きたくなり、モン太は自分が悪いわけではないと思いつつも謝りたくなってきた。

 

三人が呆然とする中、黒子は一人雁屋へと向かいシュークリームをひとつ買い、緑間の元へと近寄る。

 

「どうぞ」

 

「っ……! 貴様から施しを受ける気はないのだよ」

 

「施しとかじゃないです。元チームメイトですし、これくらいはいいでしょう?」

 

「…………フン」

 

この後に襲い来るかもしれない不幸と天秤にかけたのか、緑間は不承不承といった体でそれを受け取ろうとした────瞬間。

 

「いでっ」

 

セナが持っていた封筒……大金が入ったそれを、バイク二人乗りした不良風の男たちが奪い取り、そのまま走り去った。

 

「へへへ、大漁だ!」

 

「引ったくりー!!」

 

モン太が咄嗟に追いかけるが、相手はバイク。追いつけるはずもなくみるみる差が離れていく。

 

「おい黒子、早く寄越せ」

 

緑間は黒子からシュークリームを貰うと、未開封のおしるこの缶を懐から取り出した。

それを大きく振りかぶる。その姿はまさしくクォーターバック。

 

(爪のケア、よし。スニーカーのヒモ、よし。占いの順位、よし)

 

「ラッキーアイテム……よし」

 

緑間はそう呟くと、おしるこの缶を空へと放った。

 

「人事を尽くして天命を待つ。俺は人事を尽くしている。だから、俺のパスは……完璧だ」

 

空を飛んだ缶は、放物線を描き降下していく。まるで意思があるかのように不良のほうへと吸い込まれていく。

 

「あでっ!!」

 

そしてバイクを運転している不良の頭へと小気味いい音を立てて直撃した。ヘルメットはつけていないため、衝撃はそのまま頭に伝わっただろう。不良は態勢を崩しバイクが横向きに倒れ、地面を擦りながら転がっていった。

 

「う、うぐぐ……」

 

「おい、誰か警察呼んでくれー!」

 

「……えっ、あの距離から缶を当てたの……?」

 

丁度追いついたセナとモン太が、倒れた不良から封筒を取り返した。

その場に居合わせた正義感の強そうな男性が不良たちを抑えつける。

いずれ来る警察が不良たちを捕まえてくれるだろう。

 

「……緑間くん、ありがとうございます」

 

「フン、ラッキーアイテムの借りを返しただけなのだよ」

 

黒子が頭を下げると、緑間は別の方向を見ながらそう返した。黒子は、少し困ったような表情を浮かべる。

中学時代、緑間と黒子は別段仲が悪かったわけではない。むしろ良好とも言えるほどだった。ボールを投げる緑間と、ボールを受け取る黒子。言葉にはしなかったものの、両者の間にはかなりの信頼があったのだ。

だから黒子は、緑間の態度の理由は察しがついていた。

 

「まともに話すのは、あの時以来ですね」

 

 

『────黒子、一緒に王城に行く気はないか?』

 

思い出されるのは、中学三年の後期、とある日。中学最後の大会が終わってからほとんど学校に来なくなっていた黒子は、いつもの無表情から更に感情が抜け落ちて、目からも光をなくしていた。たまたま帰り道で緑間は黒子と遭遇し、俯く黒子に緑間がそう声をかけたのだ。

 

『あそこは厳しいが完全に実力主義。監督の理念も俺と通じるものがある。そして、あの進清十郎もいる。クォーターバックとレシーバーが他に比べて弱い点も、俺とお前が入れば改善される。アメフト部の設備も良いし勉強も大事にしている。良い高校なのだよ』

 

『……そう言ってもらえるのは、本当に、すごく嬉しいです。でも……ごめんなさい、僕はもうアメフトを……続けられる気が、しない』

 

緑間の目を見ようともしない黒子に、緑間は何も言わなかった。言えなかった。何か言った瞬間に、黒子が壊れてしまう気がした。黒子が一礼して、去っていく。キセキの世代のクォーターバックと、レシーバーの関係が、今ここで終わった。

 

 

「俺の勧誘を断ったかと思えば部員数も足りていないような超弱小高校でまたアメフトを始めているとはな。試合の時は一瞬自分の目を疑ったのだよ」

 

「……すみません。あの時は本当に辞める気だったんです。でもちょっと気持ちの変化がありまして……」

 

気まずそうに話す黒子の後ろから、セナとモン太が帰ってきた。

 

「おーい!強盗捕まったぞー!」

 

「──まぁいい。せいぜいその仲良しチームで遊んでいるがいいのだよ」

 

緑間は踵を返し、その場を立ち去ろうとする。

 

「緑間くん!」

 

その背中に黒子が珍しく少しだけ大きく声をかけた。

 

「決勝で、待っていてください」

 

緑間は鼻を鳴らしただけで、何も言わなかった。

 

 

 

翌週。モン太がセナをアイシールドだと見抜いたり、黒子がモン太にアメフトについて教えたりしたのだが、それはさておき。

 

「賊学との五百万賭けた勝負!見なきゃ男じゃねーーー!!」

 

新戦力・モン太の実践投入兼、新入部員獲得のパフォーマンスとして、賊学と練習試合をすることになった泥門。相手チーム、賊学カメレオンズのエース葉柱を、例の如くヒル魔が煽りに煽って500万円などという大金を賭けることになったらしい。

 

「ぜ……ぜってぇ負けらんねぇな……」

 

ヒル魔が大々的に校内で宣伝しまくったため、グラウンドの脇には3桁を超えるほどの生徒が集まっている。

 

「えぇ……それに負けられない理由は、まだあります」

 

 

それは賊学との対校試合が組まれた日。泥門の部室から出る際に葉柱が捨て残したセリフ。

 

「カッ!俺からすりゃ進もキセキのなんとかもみんなゴミだね!」

 

そう言いながら歩き去ろうとした葉柱の正面に、何かがぶつかった。

 

「訂正してください」

 

「うおッ!?なんだオマエいつのまに!?」

 

「キセキの世代の皆はゴミじゃありません」

 

黒子が、葉柱を真っ直ぐに見つめていた。イカツイ見た目の葉柱に全く怯む様子はない。

葉柱は黒子の言葉が耳に届いたのか、その目が嗜虐的に歪んだ。

 

「あ?もっぺん言ってみろザコ」

 

葉柱の腕が黒子へと伸びる。しかしその腕は黒子ではなく、セナの頭を掴んだ。いつのまにか間へと割り込んでいたのだ。

 

「!? なんだこのチビ」

 

「いっ!?……進さんも、ゴミなんかじゃない……最強の選手です」

 

頭を掴まれ顔を歪ませながらもセナは葉柱を睨みつけた。

 

「ハッ!ザコどもが言ってくれんなぁ?」

 

「どっちがザコかは試合で決まることです」

 

なおも淡々と述べる黒子に、葉柱のこめかみがビキリと音を立てる。

 

「上等だ。テメーら、試合で泣いて謝っても許してやらねぇぞ」

 

セナを放り捨て、部室を去る葉柱。

騒ぎが聞こえてか、まもりが部室から飛び出してくる。

 

「大丈夫かセナ!?」

 

「う、うんなんとか……」

 

「お、おまえ結構根性あんなぁセナ!」

 

「セナ君」

 

ズボンについた砂を払うセナに、黒子が葉柱の去った方を見ながら口を開く。

 

「今度の試合、絶対勝ちましょう」

 

「……うん!葉柱さんを倒そう、僕らで」

 

 

「ぶっ潰す!!」「ぶっ殺す!!yeah!!」

 

「泥門デビルバッツ対賊学カメレオンズ、キックオフ!!」

 

そして、試合開始。カメレオンズがキックしたボールを、モン太はなんなくキャッチ。ゴールまで残り60ヤード地点で泥門の攻撃がスタートすることになる。

 

「あの猿、キャッチ上手いっすね……?」

 

「あぁ?上手いなら王城戦で使ってんだろ!あいつらの攻撃はほぼアイシールドのラン!もしくはあの地味なやつへのパスしかねぇ!アイシールドさえ潰せば、後はザコへのパスだけだ!」

 

カメレオンズは黒子へのマークに一人残し、他は前進守備。完全にアイシールド21を止めるための布陣だ。

 

「ケケケ、わかりやすくて助かる。おいファッキン猿、一発目からカマすぞ」

 

「ウッス!!」

 

「SET!HUT!」

 

モン太が誰も止めにこないフィールドを駆け上がる。

アメフトのボールを扱い始めたのはついこの前だ。それでもすでにこの動きは体に染みつき始めていた。どこへ飛んでくるかわからない野球と違って、アメフトはどこに球が来るかわかっている。あとは純粋なキャッチ力。ヒル魔からは、すでに3桁を超える回数のパスを受け取っている。その中でわかったことは、球を受け取る時の手の形。力加減。走るスピードetc。そして、ヒル魔のコントロール。何百球、何千球投げて来たのか。「ここなら取れる」と思ったところにドンピシャで球が来る。

 

(サイテーな先輩だけどよ、努力はMAXしてるんだって、なんとなくわかるぜ!)

 

そして今回も例に漏れず、混み合う中央をぶち抜き、モン太が望んだところへとボールは向かって来た。

 

「パス!?」

 

「こんなん味方も獲れねーよバーカ!」

 

パスミスを確信した敵チームを尻目に、モン太は跳ぶ。

斜め前から飛んだにも関わらず、ボールはモン太の手にまるで吸い込まれるかのように収まった。

 

「努力MAXダーーッシュ!!」

 

「後ろガラ空きだっ」「戻れ戻れーっ!!」

 

誰もいないエリアで大幅にモン太は歩を進め、30ヤード前進。

 

 

「なんだあの猿!?」

 

「泥門のレシーバーってあの地味野郎一人じゃねぇのかよ!」

 

「やっぱり下がったほうが……」

 

「バカが!下がったらアイシールドに走られんだろーが!!」

 

頭に血が上った葉柱は自分の言ったことをそうそう撤回しようとしない。ヒル魔はそこまで計算済みだ。

 

「HUT!」

 

ヒル魔はここでアイシールドへボールを手渡す──

 

「来た!アイシールドだ!!潰せ!!」

 

──()()をした。ボールはまだヒル魔の手の中。

アイシールドを止めに、カメレオンズは総出で突っ込んできている。

止めるものは、いない。その後ろ姿を見て、黒子は予感する。これは、アイシールド21を初めて見た時と同じ感覚。キセキの世代を思わせる、天賦の才の片鱗。

 

(本庄さん、俺……必ず──)

 

(モン太くん……。もしかすると、

君も……"光"に……!)

 

(──アメリカンフットボールで、ヒーローになります!!)

 

「キャッチMAX!!」

 

「タッチダウン!!」

 

ゴールラインの向こう側でボールをキャッチしたモン太は、天に向かって指を立てるのだった。

 

 

ボーナスゲームのヒル魔のキックは外れ。カメレオンズの攻撃は止めることができずタッチダウンされ、キックも決められた。これで点数は6ー7。

 

「クソが!!あの80番が本レシーバーだ!王城戦で出し惜しみしやがって……!」

 

ドリンクのボトルを握りつぶしながら葉柱が、チームメイトを恐喝するような剣幕で打ち合わせをする。

 

「80番は二人でカバー!15番に一人残して後は全員アイシールドだ!!それで止まる……!」

 

その様子を見てヒル魔がケケケといつもの笑いを溢した。

 

「おいファッキン地味。やれるな?」

 

「はい。モン太くんがかなり目立ってますし、それに──」

 

ヘルメットの留め金をバチリと止め、その目に静かに闘志を燃やす。

先ほどのモン太のキャッチ。ド派手で強力な、まさに"光"のキャッチ。自分では、ひっくり返っても真似できないだろう。でも、だからこそ。

 

「──僕も、燃えてますから」

 

 

「SET!HUT!」

 

「猿は塞いだ!あとはアイシールドだけ──」

 

葉柱が勝利を予感して笑みを浮かべるなか。

黒子をマークしていた賊学の選手、荒戸は自分の目を疑った。

 

「あ、え、あれ……?」

 

「泥門パス成功ー!25ヤード前進!」

 

「んなぁぁぁ!!」

 

立ち呆ける後ろから、泥門の前進成功の笛が鳴る。

黒子は、いつのまにかボールを抱えて遥か後方にいたのだ。

 

葉柱が荒戸の胸ぐらをつかみ、今にも殴りかかりそうな格好で怒鳴りつける。

 

「テメェ、殺されてぇか!?」

 

「いや、違うんす!!なんか、急にいなくなって……!!」

 

「テメェが目を離したからだろうが!!ザコのマークすらまともに出来ねーのか!!」

 

「次抜かれたらマジで殺すぞ」と残し、セットポジションにつく。

荒戸は涙目になりながらも黒子を見据えた。コンマ一秒たりとも見逃してはいけない。どんな僅かな黒子の動きも見逃さないようにと……。

 

そういう心理の相手が一番、やりやすい。

黒子は容赦なくミスディレクションを行い、荒戸の横を悠々と抜けていった。

 

(な……んで……後ろに……)

 

「パス成功!!」

 

 

葉柱がもはや何も言わずに幽鬼のようにゆらりゆらりと荒戸へと近づいて来る。

涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、荒戸は手をブンブンと振り回して抗議した。

 

「見えないんす!!ほんとに!ほんとに!!なんか変な技とか使ってるっす絶対!!じゃなきゃ目の前で見失うとかありえない!!」

 

その言葉で葉柱がピタリと止まった。

たしかに見逃せばぶっ殺すと言っているのに、同じことを繰り返すのは違和感がある。葉柱の言うことにわざと反抗するような、そんなぬるい従わせ方はしていない。

 

思い返せば王城戦でも不自然なパスシチュエーションは何回かあった。全部15番(黒子)絡みで。

 

「チッ……!」

 

大きく舌打ちすると、葉柱はチームメイトに指示を出した。

 

「もういい、潰せ」

 

小細工も、みみっちい作戦も、鬱陶しいザコも。潰せば終わる。

 

プレーが始まった瞬間、賊学の選手は一様に泥門の選手を攻撃した。アメフトの攻撃、ではない。殴る、蹴るの暴行だ。

 

明確な暴力は反則だが、審判にバレなければペナルティは与えられない。いや、実際は反則にされているのだが、同時に様々な箇所で反則が行われたため把握し切れていないのだ。

 

そしてその暴力の刃は黒子とセナに対しても向けられていた。

 

「ぐぇっ!!」「つっ……!」

 

「セナ!!クロ!!」

 

ボールを持っていないにも関わらずタックルされた二人。向こうの目的は完全に痛めつけることだけだ。

 

しかし二人のダメージは軽かったようで、すぐに立ち上がる。

 

「あれ、意外と平気……」「大丈夫、です」

 

(そうだ、進さんのタックルは、こんなもんじゃなかった)

 

痛みで悶絶し、立ち上がるのも嫌になるようなあの強さ。

賊学とは、世界が違う。

 

ふと、セナが黒子の表情に気づいた。黒子にしては珍しく、誰でもわかる程度にムッとしている。わかりにくいことに変わりないが。

 

「クロ、怒ってる……?」

 

「これは、アメフトではないです。

あの人たちには、絶対に負けたくないです」

 

黒子のその目には確かな怒りが込められていた。

 

 

栗田がどこからかつれて来たハァハァ三兄弟を負傷者と交代させ、賊学の喧嘩暴力を返り討ちに合わせ。

走る黒子のもとへ、葉柱が突っ込んでくる。

 

「葉柱と黒子の一騎打ち!?」

 

(再起不能にしてやる……!)

 

スピードで劣る黒子を、アイシールドよりも先に潰そうと考えたか。

不気味なパスキャッチをされる前に消したいと考えたか。

何にしろ、葉柱のその突撃は──

 

「カッ……!?」

 

──不発に終わった。

 

「タッチダーウン!!」

 

「キセキの世代はゴミじゃないですし、デビルバッツはザコじゃありません」

 

葉柱のタックルを掻い潜ってパスキャッチを決めた黒子は、そう言い残してベンチへと戻っていく。

 

「何気にアイツ、負けず嫌いだよな」

 

モン太がそう言って、セナもうんうんと頷いた。

 

 

「クソッ、クソックソクソクソ!!アイシールドさえ、潰せば……!」

 

葉柱がセナを睨み殺しそうな形相で地団駄を踏む。

ヒル魔はそれを見て楽しそうにガムを取り出して口に入れた。

 

「ケケケ、んじゃーお望み通りタイマンやらせてやっか!」

 

今、カメレオンズの守備はモン太と黒子、セナに同等に割かれている。

最初のようなガチガチのラン対策をされればセナも走りづらかったが、今ならば。

 

「今度こそアイシールドだッ!!」

 

中央ラインの栗田が空けた穴を爆走。

その先に待ち受ける葉柱と一対一の構図となる。

 

「やっと来やがった!!骨ごとへし折ってやる!!」

 

嬉々として葉柱がセナへと突撃する。

その目に一瞬怯えかけたセナだったが、そこで思い出したのは王城戦だった。

 

(違う……全然違う……進さんのほうが、何倍も恐かった!!)

 

猛スピードで、葉柱のリーチの外へと走り去る。葉柱が伸ばした長い腕は宙を掻き、セナに触れることも能わない。

 

「ア……!」

 

「タッチダーーーウン!!」

 

尋常じゃないキャッチ力のレシーバー。

未だに何をされているのかわからない、

不可思議な力を使うレシーバー。

そして1対1では絶対に止めることが出来ないだろう、アイシールド21。

 

勝てない。

 

それを口に出しこそしなかったものの、葉柱の心は完全に折れていた。

 

「ケケケ、勝負あったな!アメフトは──ビビらせたら勝ちだ!」

 

そこからは一方的な展開だった。

この日、泥門は創部以来初めて、大量リードで勝利を納めたのだった。

 

「試合終了ー!!」

 

51対20で泥門高校勝利。

 




オマケ

「俺のパスは……外れんッ!」

「ぐえ!なんかべちゃっとしたもんが……」


「……緑間くん、今投げたのおしるこじゃなくてシュークリームですよ」

「ハッ……!マズ────ぐああああああぁ!!」

「ああ……緑間くんに一瞬にして大量の不幸が……」


【tips!】
失踪?してないよ!

【tips!】
オリ展開ってやっぱむずいわ。

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