「お、おい、カズマ。アクアがおかしいぞ。お前が何かしたんじゃないのか?」
さっきまで、俺と同じ様にアクアの変貌ぶりに呆然としていたダクネスが、そんな事を言ってきた。
「おい、なんでそうなる。なんでもかんでも俺のせいにするなよ?俺がいつ、アクアに何したってんだ?」
「カズマは、いつもアクアを口悪く罵っていたではないか。やれ使えない穀潰しだの、やれ借金女神だの。きっと、ストレスで...おかしくなってしまったんだろう...そう言う事は、私にこそ言って欲しいのに。そんなことを言われ続けたら...私は...んっ」
...こいつは平常運転だな。放っておこう...
それにしても、本当にアクアのやつはどうしたんだ?
あんな女神ぜんとした姿を見ると、普段の駄女神っぷりを知ってる俺たちは落ち着かなくなる。
後でとんでもないことをやらかしそうで...
何しろ、こいつは一つ役に立ったと思うと二つ、三つも何かやらかして足を引っ張るからな...
そんな俺の考えをよそに四人は会話を続けている。
「三人とも、これからどうするつもりですか?私たちは、強制はしません。あなた方が転生したことで、既に私たちの目的は達成しておりますから。」
「...俺たちは、魔王の討伐を最終的な目標にしています。確かに、強制はされていませんが、貴方には大きな恩があります。こうして俺とアスナとユイで過ごす日々をもう一度送れる...それだけで、俺たちは幸せです。」
「アクア様は、本当はこの世界の魔王を討伐して欲しいんですよね?なんでも願いを叶えるなんて、報奨を用意する位ですから。」
「そうですね。この世界に住む人々は、今、まさに苦しめられています。それこそ死んだ人々が生まれ変わるのを拒否するほどに...勿論、魔王が討伐されるなら、私たちにとって、大変に喜ばしい事です。」
「貴方たちには、期待しています。ですが...無理はなされないように。この世界は、確かにゲームのようではありますが、貴方達がかの城で経験したものと同じ...死ねば本当に亡くなります。ですから、慎重に行動してください。」
「気を付けます。それでは、俺たちはこれから武器屋に寄ってからクエストに向かいますのでこれで。」
「ゆんゆん、そろそろ行くぞ?」
「あ、待って下さい。それじゃ、呼ばれてるからこれで。めぐみん。勝負はまた今度するわよ。」
慌ててゆんゆんが二人の方に駆け寄り、俺たちの前から去っていった...
アレ...おかしい...ナニコレ...おかしい...
何のオチもなく、会話が終了してしまった。
アクアは、三人と一匹?の姿が見えなくなるまで微笑みながら手を振っていた。神々しい気配を漂わせながら...
「おい、アクア。お前一体どうしたんだ?悪いものでも食べたんじゃないか?」
あいつらが見えなくなるのを見計らった俺は、アクアに声を掛けた...
「ハァ?何よ突然失礼ね。私はヒキニートのカズマじゃないんだから、そんな事する訳無いじゃない。」
そこには、先程の女神アクア様はいなかった。
いるのは、俺が知ってる残念女神アクアだ。
「いや、お前、さっきの様子はなんだよ。見ろよ。さっきのアクアを見てダクネスが怖がってるじゃないか。」
「わ、私は別に怖がってなどいない。ただ、さっきのアクアは...その...本当に女神様のようで、驚いていただけだ。」
「そうだぞ?アレじゃあ、まるで普通に女神様じゃないか。」
「二人とも失礼ねぇ!まるでも何も、私は、正真正銘、今も昔も女神様なんですけど...」
「お前、普段のへっぽこっぷりを見て、周りが信じてくれると思うなよ?」
「うわぁ~ん!カズマが言っちゃいけない事言ったぁ!」
俺の一言に泣き出すアクア。
ダクネスが宥めて落ち着いた頃に、
「で、結局あの態度はなんだったんだ?」
俺が、改めて問いただすと、
「私は、彼らを導く女神として彼らに接していただけじゃない。」
そんな答えが帰ってきた。
「ちょっと待て。お前、俺が日本で死んだとき、人の死因を笑うわ、俺には期待してないとか横になりながら、あろうことかお菓子食いながら、おざなりに対応してただろ?女神として接してなんていなかったじゃないか。それに、自分で送り出したミツルギってやつの事は覚えてすらいなかったクセに、なんであいつらのことは知ってるんだよ。」
俺が、早口で捲し立てると、
「バカね...カズマ。彼とカズマを同列に扱うなんて、とんでもない暴挙よ。彼とカズマは、月とすっぽん...どころか太陽とミジンコ位差があるのよ?」
哀れみの視線を俺に向けながらそう言ってきた。
こいつ...後で絶対、泣かしてやる...
そう誓いつつも、質問を続けた。
「あいつらも、転生者なのはわかったけど、何がそんなに違うってんだ?大体、お前は転生者の事なんていちいち覚えてないって言ってたじゃんか。」
「これだから世間知らずの引きニートは...」
まるで、枕詞のように俺の悪口を加えながらアクアは説明を始めた。
「良い?カズマ。本来ならあの場に導かれるのは、ランダムに選ばれる無害な若者の魂なの。でも、彼はある出来事から私自身が注目して、もし若くして亡くなるようなら、是が非でも転生してもらおうと介入していたのよ。」
「いったい、あいつは何者なんだ?」
「カズマもゲーマーなら『ソードアート・オンライン』って知ってるわよね。」
「そりゃあ、知ってるさ。俺も応募したけど一万人っていう狭き門に阻まれて落選して、そりゃあ悔しがったもんだ。...けど、実は正真正銘のデスゲームだったみたいで、落選して良かったっなぁって、ホッとしたもんだ。それからVRは二度とやらないと決めてアミュスフィアにも手を出さなかったし...ってまさか...」
俺は、アクアの言わんとしている事に気付いた。
「そうよ、彼はSAOサバイバー。それも、デスゲームをクリアして6000人もの命を救った...平和な日本に於いては、二度と現れる事はないだろう正真正銘の英雄よ?」
「それに引き換え、カズマさんは何してたかしら?確か学校も行かず引きこもってゲームしてたヒキニートよね。」
...生まれてきてスミマセン...
「ってことは、あの女の子も?」
「彼女も同じね。SAOサバイバー。それも最前線で一番大きいギルドの副団長をやっていたわね。彼女はキリトがゲームをクリアする寸前に彼を庇って命を落とし掛けたけど、制作者の気まぐれで生きてたみたい。まあ、キリトもラスボスと相討ちだったから本来なら死んでいたんでしょうけど。」
「ちなみに、二人はゲームの中で結婚もしていたそうよ?」
...なんだろう。殺したい程に妬ましい。
「とにかく、彼らには期待してるのよ。魔王討伐を。だから対応が丁寧になるのは当然でしょ?」
「そう言えば、あいつらアクアに敬意を払ってたけど、アクシズ教に入れなくて良いのか?」
「必要無いわ。彼らの祈りは私に届いているもの。宗教ってね、神を認知して、神に祈りを捧げる為に分かりやすくしたものなのよ。だから、彼らには必要無いわ。」
そ、そうなのか?
今日のアクアは、何故だか知的だ...知力が低いくせに...
「まあ、良いか。とにかく、疲れたし今日は家に早く戻ろう。...ってそう言えば、さっきからめぐみんが一言もしゃべっていないような...」
めぐみんは...未だに呆けていた...
よほど、ゆんゆんが誰かと一緒にいることに驚いていたようだ...