キリト君と、この世界で再会して一日が経った。
昨日は、キリト君とユイちゃんと三人で一つのベッドに寝た。
それが、どうしようもなく嬉しくて、キリト君の胸で泣いてしまった。
キリト君は、そっと私を抱き締めてくれた。
その温もりに、私はなかなか涙を止められなかった。
一度、失ってしまった温もり。それを再び取り戻すことができて、今はとても幸せです。
この幸せを守るためなら、なんだって出来る。
この気持ちがあれば、あの時、お母さんに立ち向かう事だって出来たのにな...
そう思うと、悔しい。
今なら解る...。幸せを失う事の本当の怖さを。
人が誰かと争うのは、自分の幸せのためだって、誰かが言ってたっけ。
私の幸せは、キリト君とユイちゃんと...三人で平穏に暮らす事。
その為に、今度こそ逃げずに戦おう。
それが、私の誓い。
翌日、冒険者登録を済ませ、私はアークプリーストとなった。
前衛もこなす回復職との事なので、ALOでの戦闘スタイルにもマッチしているから、直ぐに慣れると思う。
何よりも、キリト君が傷ついた時に、自分の手で癒せるのが大きい。
ギルドで、ジャイアントトード10匹の討伐というクエストを受けた。
名前から考えると大きいカエル...スカンベジトードも大きかったけど...どれくらいの大きさなんだろう?
ギルドを出ると、予想もしていなかった人に遭遇した。
私たちを転生させてくれた天使の上司である女神アクア様。
私にとっては恩人と言って良い人?だ。
この方がいたからこそ、私はキリト君と再会できたのだから。
アクア様は、事情があって今はこの世界に、人として降臨されているのだそうだ。
もし、彼女が困っていたなら、手助けをしよう。
そう思った。
それにしても...魔王の討伐かぁ...願いといっても、私の願いはもう叶ってるしなぁ。
でも、キリト君との暮らしを穏やかに送るためにも、平和な世界にしたいしな。
うん、キリト君も目標にしてるし、私も頑張ろう。
そう言えば、キリト君はなにか願い事はあるのかな?
アクア様と別れて、私は今、武器屋にいる。
実は、アイテムストレージにランベントライトが入っているんだけど、今の私には装備出来ない。ステータスが足りていないからだ。
一度オブジェクト化してしまうと、二度とアイテムストレージに戻せないそうだから、今は実体化させていない。
装備できない武器は邪魔なだけだしね。
武器屋で、レイピアを身繕い、キリト君にお金を出してもらって購入した。
材質が、やや不安だけど今はこれで我慢だ。
早く、ランベントライトを装備出来るようになりたいなぁ。
リズ...元気かな。
怒ってるよね...きっと。
お父さんや兄さんには悪いけど、家族にはそれほど会いたいと思わない。でもリズや、シノノン...仲間たちには会いたい。会って謝りたい。
それだけが、心残りだ。
そんな事を考えながら目的地に着いた。
そこは日本では、お目にかかる事がほとんど無いだろう見渡す限りの草原だった。
「さて、これから俺たちパーティーの初クエストになるわけだが...」
そう言ってキリト君は、今日の方針について説明を始めた。
「今回の目標のジャイアントトードは、俺たちのステータスなら簡単に倒せる敵だ。打撃には耐性があるようだが、斬撃には弱いし動きも遅い。その巨体によるのし掛かりや、舌を使った攻撃に注意さえすれば、然程苦戦はしないだろう。」
「ただし、アスナは今回初クエストになるし、今日は全力で挑む。目標は5体。一応ノルマは三日あるが、出来るなら二日でクリアしたい。なにか質問は?」
「討伐の前に、スキルや動作の確認をしたいんだけど。」
私の要望に、
「勿論、そうしてもらうつもりだ。」
キリト君は、快く答えてくれた。
私は、まずソードスキルの確認を行った。
基本的なものから、細剣専用のソードスキルのリニアー、スター・スプラッシュ、フラッシング・ペネトレイター、それに私のオリジナルのスターリィ・ティア...
うん、全て問題なく発動した。
それから、アークプリーストのスキルのヒール、それに状態回復魔法、支援魔法を幾つか。これも問題無く発動できた。
後は、体の動きだけど...こちらは少し重く感じた。ステータスが低いせいかな?
生身の身体って意味だと相当動けるんだけど、VRのアバターの身体って考えるとどうしても動きが悪く感じる。
これは、慣れが必要かな。
「だいたい、把握できたよ?キリト君。」
私の準備が整ったのを見届けて、場所を移動する私たち...
そこに...巨大なカエルがいた...
大きい...私の予想よりも相当に...
「アスナ。まず1体目は俺とゆんゆんで仕留める。アスナは俺たちの攻撃から、このカエルの耐久力を大まかで良いから予測しておいてくれ。2体目は俺とアスナで仕留めるぞ。」
「う、うん。」
正直、ちょっと気持ち悪い。
でも、キリト君といる為だ。
頑張らないと...
1体目は、ゆんゆんが魔法で足止めして、キリト君の下位ソードスキルの二連発で仕留めた。
私たちの、今のステータスでは一発じゃ仕留めきれないのか...
耐久力はなかなかだね。打撃には強いんだっけ。
2体目、いよいよ私の番。
大丈夫。私はやれる。さっきの戦闘でこのモンスターの大体の動きは把握した。
「キリト君。行くよ。」
そう、声を掛け、私は飛び出した。
使う技はリニアー。私が使うソードスキルの中で、最も多用し、最も隙の少ない技。これの連発で倒せるだろう。
そう、思っていた...
私の技が当たった途端、私の手に肉を引き裂く耐え難い感触が伝わってくる...
今さらながらに、この世界がゲームではないことを実感した。
アインクラッドですら、モンスターを討伐するとき、プレイヤーに生き物を殺す感触は伝えて来なかった。
HPのやり取りとその身体をポリゴン化し消滅。
そこには、頭の中で倒したと解っても、身体で感じる事は無かった。
でも、ここは紛れもない現実だ。
そう思ったと同時に生き物の命を奪う行いに対する恐怖で身体が硬直してしまった。
「あっ」
カエルは、私に敵意を向けると口を空け、舌を伸ばしてきた。
避けなければ...そう思うのに身体が動かない...
「ママ、避けて!」
ユイちゃんの声が聞こえる。
「アスナ!」
私が諦め掛けた時、キリト君が私の前に飛び出した。
キリト君が舌を切り飛ばしたと同時に、残った舌がキリト君を横凪ぎに殴り飛ばす...
その光景を見て、私の中で何かがキレた...
よくも、キリト君を...
「うああああああああ!」
大声を上げ、フラッシング・ペネトレイターを見舞う。
オーバーキルも良いところだが、知ったことか。
キリト君を傷つけるものは許さない。
気がつくとカエルは倒れていた。
そうだ、キリト君は...
私がキリト君の方を振り向くとキリト君は痛みに顔を歪ませながら、ゆんゆんに肩を貸されながら、なんとか立ち上がった。
私は、キリト君にヒールを掛け、さっきの事を謝った。
キリト君は私の目をじっと見つめ、
「俺は大丈夫...でもアスナこそ大丈夫か?」
そう聞いてきた。攻撃の時に私が硬直した理由を察したみたいだ。
でも、もう大丈夫。一度失敗したが、キリト君を失う事に比べれば対した恐怖じゃないと気付いたから...
3体目、もう一度キリト君と私で。
4体目は私とゆんゆん。
5体目は三人の連携を試しながら仕留めて、この日を終えた。
私は戦える。
キリト君と一緒なら、できないことなんて無いんだから。
ちなみに、カエルは一匹5000エリスで売れた。
輸送はギルドで行ってくれるそうで輸送費をさっ引くとその値段になるらしい。
...食用なのだそうだ...
た、食べなきゃダメなのかな?
この世界で生きてくのは楽じゃない...
どうか、味がまともでありますように。
そう言えば、余裕が出来たら、またキリト君に手料理を作りたいな。
そのためにも、早くレベルを上げてホームを持たないと。
私は、当面の目標を見つけ、皆で帰路に着いた。