さて、今回異変の調査をギルドから依頼された俺たち。
事実上、指名依頼になるわけだが...はっきり言ってこの世界に無知な俺たちに異変の調査が行えるかと言えば...正直、自信はない。
世界の情報を検索できるユイがいるとは言え、その能力は万能ではない。
そもそも、この世界に来てから討伐依頼しか行っておらず、ダンジョン探索は未経験。
この世界のダンジョンが、どんな場所かわからない以上、危険が大きすぎる。
できれば、盗賊のスキルを持っている仲間が欲しい。そう思ってルナさんに相談していると、正にルナさんが勧めてくれたクリスが、そこに立っていた。
「呼ばれた気がしたんだけど、私に何か用事かな?」
呼んだ訳では無いが、どうやって察知したのだろう...
聞き耳スキルでもあるんだろうか。
「やあ、こうやってしっかりと話すのは初めてかな?初めまして。キリト君。私はクリス。見ての通り盗賊だよ。」
「あぁ。初めまして、クリス...さん。俺は、キリト。ソードマスターで、一応このパーティーのリーダーだ。」
「アスナです。アークプリーストをやっています。初めまして。クリスさん。」
「ユイです。ピクシーです。」
「...わ、我が名はゆんゆん。アークウィザードにして上級魔法を操るもの。」
もう、紅魔族の名乗りには慣れた。
ゆんゆんは相変わらず、恥ずかしそうだが。
「クリスで良いよ。さん付けって好きじゃないんだ。」
「それなら、俺たちの事も呼び捨てで構わないぜ?」
「さて、自己紹介は終わりとして、本題なんだが...確かにクリスに用があったんだが、今大丈夫か?」
「大丈夫だよ?今は他のパーティーにも参加してないしね。」
「そうか...実はさっきギルドからクエストを依頼されたんだ。」
「うわっ。それって、ギルドから直々にキリト達に指名依頼があったって事?凄いね、君たち。まだ、冒険者になって1ヶ月なのに、そこまでギルドに信頼されてるんだ。」
「勿論ですよ。実際、キリトさん達のパーティーのクエスト達成率は、今のところ百パーセント。難易度は低めですが、それでもこれは凄い事ですよ?」
ルナさんが話に加わってきた。
実際、高難易度のクエストばかりが張り出されている為、誰もクエストを受けず暇なのだろう。
「クリスさんにも、事情をお伝えします。できれば、キリトさん達に協力して頂きたいんですが。」
そう言って、クリスに説明を始めるルナさん。
「わかったよ。このまま原因もわからないまま高難易度のクエストしか出されないんじゃ、この街の冒険者は失業しちゃうしね。その代わり、報酬は期待して良いんだよね?」
ルナさんの説明を聞いて、クリスは了承した。
ちゃっかり、報酬についても触れていたが...
「勿論です。私たちにとっても、死活問題ですからね。色をつけさせてもらいますよ。」
ルナさんも、ニッコリと笑って返した。
俺たちは、早速依頼に取りかかった。
あの後、軽く打ち合わせを行い、準備のため一時解散。
再び集合し、アクセルの街を出発した。
そして、今俺たちは、件の廃城に来ている。
「うーん。確かにおかしいね。あの廃城は半年位前に、魔王の幹部の一人、『デュラハンのベルディア』って奴が根城にしていたんだ。でも、それはカズマのパーティーを中心とした街の冒険者達に討伐された。その後、ベルディアの配下だっアンデッド達は統率を失って、散り散りになったハズなんだけど...」
クリスのスキルの一つ、千里眼で偵察すると、廃城には、アンデッドが群れをなしているらしい。
「もしかして、幹部クラスの魔物が再び住み着いているのか?」
「それは、中を見てみないとなんとも言えないな...でも、あのアンデッドの群れを突破して中に入るのは難しいね。潜伏スキルと言っても万能じゃないし...。」
俺の隠蔽スキルも見つかり辛くなるだけだしな...
仕方ないな。正面から突破するしかないか...
と、その前に...
「アスナ、大丈夫か?アスナはああ言うの苦手だろ?もし、ダメならアスナとユイは、先に戻って待っていてくれても良いんだぞ?」
そう、アスナはホラーが苦手だ。
アインクラッドでも、ゴースト系モンスターのいる階層では何かにつけて理由を付けては、攻略をサボる程に。
攻略の鬼と呼ばれていた当時のアスナがそうする位だから、相当苦手なのだろう。
「確かに苦手だよ?でもねキリト君。私にとって、一番の恐怖ってなんだかわかる?」
顔色はあまり良くないが、決意を持った表情で続けるアスナ。
「それはね、キリト君が私の知らない所で死んじゃう事。...私を置いていったら許さないからね?キリト君。」
「...わかった。」
俺は、一度アスナにそれを経験させている...
俺は、震えるアスナの身体を抱き締めた。
「イチャ付くのは、時と場所を考えた方が良いよ?」
クリスに突っ込まれて、直ぐ離れたが...
「潜伏での侵入が難しい以上、正面から行くしかないな。」
「正気?正直城の外にいる奴らだけでも100体位いそうだけど。」
「ソードマスターのスキルに剣に聖属性を付与するセイントソードって言うのがある。アスナも剣は得意だし、浄化魔法もある。ゆんゆんのサポートがあればなんとかなるだろう。」
「それに、危なくなったらゆんゆんのテレポートの魔法で離脱すれば良いからな。」
そう。これが一番大きい。
何かあった時に戦闘を離脱できると言うのは、安全を考えた時大きなアドバンテージとなる。
「うーん...わかったよ。でも、私は戦闘はそこまで得意って訳じゃ無いんだ。自分の身を守ることは出来るけど、フォローはしてよね。」
クリスの言葉に俺は頷くと、
「よし、行くぞ。」
掛け声と共に飛び出した...
「はぁ...カズマ達に聞いてはいたけど...君たちって本当に無茶苦茶強いんだね。とても、冒険者登録して1ヶ月の新人とは思えないよ。パーティーの連携も見事だし...。」
「特にキリトとアスナの連携はとんでもないね。あんなの真似できる人いるのかな?まるで数十年連れ添った夫婦みたい。と言うか、私が今まで一緒に組んだパーティーの中でキリト達が最強だよ。うん。」
正面から突破を試みた俺たちは、見事廃城の外にいるアンデッドを全滅させる事が出来た。
その戦いを見て、クリスは目を丸くして驚きながら言ってきた。
「サンキュー。クリス。」
クリスの称賛に返すも、続いて質問された言葉にアスナ達の雰囲気が変わる。
「キリト達なら、高難易度のクエストだってクリア出来るのに何で受けないの?」
「クリスも、キリト君は臆病者だって言いたいの?」
「いくらクリスさんでも、そんなこと言ったら許しませんよ?」
「ち、違うからね?純粋に疑問に思っただけで...大体、本当に臆病者なら、こんな何が起こるかわからない異変の調査なんてクエスト引き受けないでしょ。」
慌てて、訂正するクリス。その言葉にいつもの雰囲気に戻る二人。
俺は、自分の考えをクリスに伝えた。
勿論、アインクラッドでの話はしていないが...
「なるほどね...私はキリトの考えに賛同するよ。」
その話を聞いて、クリスは相槌を打つと、俺の考えに賛同した。
「キリトが、他の冒険者からなんて呼ばれてるかは知ってるよ。臆病者とか、冒険をしない冒険者とかね。」
「でも、私はこれでも長い間、色んな冒険者を見てきたからわかる。この職業は、慎重な人しか長生き出来ない。どれだけ強力な武器や防具を持っても、あるいは強力なスキルや才能があっても、自分は選ばれている...なんて、勘違いしてる子達は、大抵、身の丈を超えた依頼に振り回された挙げ句、こんなハズじゃ無かったって世の中を呪って死んでいく...。それに比べて、君たちは自分の能力をしっかり把握して、命を一番に考えてる。だから、君たちはそのままで良いと、私は思うよ。」
「ありがとう。」
その言葉に少し救われた気がした。
城の中に侵入した俺たちだが、中には然程アンデッドはいなかった...
そして、中心部...おそらく玉座の間と思われる場所に果たしてソイツはいた。
「ほお。ここまでやってくる冒険者がいるとはな。なんとも嬉しい話じゃないか...」