時間は、少し遡る。
ベルディアの侵攻の真っ最中、キリトは防衛戦に参加する為にアスナとユイの説得を試みていた。
「アスナ。俺の身体はもう大丈夫だ。ヤツから受けた呪いも解除されてるし、俺たちも防衛戦に参加しないと...。」
「ダメだよ。キリト君は病み上がりなんだよ?傷が癒えても、体力まで回復した訳じゃ無い。私は、キリト君を止める為にここに残ってるんだよ?」
「私も反対です。パパのバイタルはまだ安定しているとは言えません。そんな状態で戦いに参加したら、どんな不足の事態が起きるかわかりません。」
なんとか、二人を説得したいがアスナもユイもなかなか首を縦には振らない。
その時、巨大な爆発音が戦場の方から聞こえてきた。
「あれは、めぐみんの爆裂魔法か...」
それでも、戦場から戦いの音が消える事は無かった。
爆裂魔法でもベルディアを倒すには至らなかったのだろう...。
このままじゃ街の冒険者達は全滅する...
「アスナ...皆戦ってる...ゆんゆんも、クリスやカズマ達も、街の冒険者達だって...」
「わかってる。でも、怖いの。キリト君が死んじゃうんじゃないかって。あの時、ベルディアの攻撃を受けて倒れたキリト君を見て、本当に心臓が潰れるかと思った。キリト君、私は...街の人たちよりも、キリト君の方が大事だよ?だからお願い。ここにいて。」
「アスナ...アスナが好きになってくれた『黒の剣士キリト』は、ここで皆を見捨てるようなヤツだったか?」
アスナは何も言えなかった...
そんな事はわかってる...。
キリトは、いつだって皆のためにその身を犠牲にしてきた。
アインクラッドでの第一層のボス攻略...
攻略組が瓦解しないようにと、自ら悪役を買って出た。
その後も、ソロとして活動するようになっても、皆の為に、マップを提供したり、ボス攻略では、最も危険な位置で戦いをコントロールしていた。
自分が好きになったキリトと言う男性は、いつだって皆の為に無茶な事をやっていた。
どれだけ自分が傷ついても、周りの人を守っていた。
「アスナ...覚えてるか?アインクラッドで...『俺の命は君の物だ』って言ったこと。」
覚えている。クラディールの事件の時に、キリトの側を離れようとした自分に、キリトが贈ってくれた言葉だ。
「俺は死なないよ。俺が死んだらアスナも死んじゃうからな。俺は、アスナを死なせたくない。だから...俺は絶対に生き抜いて見せる。」
強い...決意の瞳を持ってアスナを見つめるキリト。
「う...ん...でも酷いよ...キリト君は...言い出したら...絶対に聞いてくれないし...私の気持ちなんて...全然...わかってくれないんだから...」
アスナは泣きながら、キリトの参加を容認した...
「ねえ、キリト君。戦うのは良いとして、武器はどうするの?私たちの武器は、この間の戦いで壊れちゃったし、正直、この街の武器屋にある剣じゃ、一番高い物でもベルディアを倒すのは難しいよ?」
しばらくして、落ち着いたアスナは思考を切り替えてキリトに聞いた。
その質問にニヤリと笑ったキリトは、ステータスウィンドウを開き、アスナに見せる。
「この間のアンデッド100体斬りで、レベルアップして、漸く条件が整ったんだ。」
アスナは、はっとして自分もステータスウィンドウを開く...するとランベントライトの装備に必要な筋力要求値に達していた。
キリトを見るアスナ。キリトは頷いた。
アスナはシステムウィンドウを操作すると、ランベントライトをオブジェクト化する。
自分の手元にオブジェクト化されたかつての愛剣。それを手に取り意識が高揚するアスナ。
キリトの方を見ると、キリトはまだ武器をオブジェクト化していなかった。
「どうしたの、キリト君?」
アスナが聞くと、
「いや、ベルディアとの戦い...俺の全力...二刀流を解禁しないと倒せない気がするんだ...」
それは、ゲーマーとしての自分の勘。
だが、その勘は...かつての鉄の城で何度も自分を助けてくれた物だ...
「でも、エリュシデータはともかく、エクスキャリバーを装備するには、まだまだ筋力が足りなくて...どうしたものか...」
悩むキリトに、どこからか声が聞こえてきた。
『お困りのようですね。キリトさん。』
それは、自分達をこの世界に送ってくれた天使の声だった。
「お久しぶりですね。キリトさん、アスナさん、ユイさん。」
「お久しぶりです。ですが...今は悠長に挨拶をしている暇は...」
『存じていますよ。キリトさん。私たちには貴方達を手助けすることは出来ません。ですが...』
『貴方がその世界に持ち込んだ武器を、ランクの低い物と交換することは可能です。弱体化させる訳ですからね。手助けには当たりません。』
きっと、それは屁理屈なのだろう。
この天使は、自分達の窮地に手を貸すために無理をして、連絡をくれたのだ。
『ただし...一度交換したら、二度とエクスキャリバーを手にすることは叶いません。それでも、良いですか?』
その言葉に、一瞬悩むキリト...
確かにエクスキャリバーは、SAO 、ALOを含めても最強クラスの武器だ...だが...必要なのは最強じゃない。今を生き残る力だ...
「お願いします。エクスキャリバーをダークリパルサーと交換してください。」
『わかりました。それでは貴方のアバターデータに介入します。交換の選択肢が出たらOKボタンを押してください。』
その言葉でアイテムトレードのウィンドウが開く。
OKボタンを押すとき、一瞬シノンの顔がよぎった。
エクスキャリバーは、シノンがくれたもの。
ーこれを使う時は、私の顔を思い出してー
冗談混じりにそんな事を言ってたっけ...
シノンのヤツ怒るだろうなぁ...
そう思いながら、キリトはOKボタンを押した。
『全く...しょうがないわね。これは貸しよ?返しに来ないと承知しないからね?』
どこからか、シノンの声が聞こえてきた気がした。
アイテムウィンドウにエクスキャリバーの文字が消え、ダークリパルサーが表示される。
早速ダークリパルサーをオブジェクト化するキリト。
ダークリパルサーを手に持った時、キリトは心の中で呼び掛けた。
(力を貸してくれ。リズ)
『頑張りなさい、キリト。でも、アスナを不幸にしたら許さないからね。』
今度はリズの声が聞こえた。
幻聴かもしれない。それでも、キリトは嬉しかった。例え世界は変わっても、俺たちの心は繋がっている。
ああ...わかってるさ。リズ。
必ず、アスナを幸せにするよ。
そう、心の中で誓い、エリュシデータもオブジェクト化する。
エリュシデータとダークリパルサー...
二本の剣を背負った黒の剣士...
今この世界に、ソードアート・オンラインをクリアに導いたアインクラッド最強の剣士の姿が降臨した。
『活躍...期待しています。キリトさん。それとアクア様をよろしくお願いします。』
そう言って、天使の声は聞こえなくなった。
「私は戦場ではお役に立てません。二人を信じて、宿で待っています。だから...必ず帰ってきてください。」
ユイの言葉に頷き、抱き締め合う親子。
そして...
「ユイ。行ってくる。」
「直ぐに終わらせてくるからね。今日はご馳走にしようね、ユイちゃん。」
二人は、戦場へ駆け出した。
正門に辿り着くと、ベルディアがまさに今、ゆんゆんに止めを刺そうとしている所だった。
「マズイ。行くぞ、アスナ。」
間に合え...
「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」
一気にベルディアとの間合いを詰めるキリト。
アスナもそれに続く。
その勢いのまま、キリトは二刀流突撃技のソードスキル『ダブルサーキュラー』を発動した。
アスナも『リニアー』を使い、飛び込む。
横から二人の攻撃をまともに食らい、吹き飛ぶベルディア。
ゆんゆんは、魔力が尽きたのか倒れて動けないようだった。
それでも、意識ははっきりしているようでキリト達の乱入に目を見開き、やがて涙を流しなが微笑んだ。
ボロボロのゆんゆんに、キリトは声を掛ける。
「よく頑張ったなゆんゆん。あとは...俺たちに任せてくれ。」
そう言って、キリトはベルディアを睨み付けた。