俺たちは、念願のマイホームを手に入れた。
正直、予想を遥かに超える超高性能アイテム(あれをただの家と言ってしまって良いものか...)と化していたが...
とは言え、内装も外装も俺たちが使っていた通りに再現されたこのログハウス...。
約二年を超える、この世界での生活で再び手に入れた、俺たちの帰るべき場所。
初日は、アスナとユイと三人で一つのベッドで眠った。
そう言えば、この世界でアスナと再会した日もそうしたっけな...
さて、ホームを手に入れたとは言え、俺たちの「お呼ばれ」生活は続いていた。
まあ、理解はできる。
魔王を討伐するほどの戦力を持った俺たちと、なんとか繋ぎを取りたいのだろう。
中には、アスナ達の外見に惚れて、本気で婚姻関係を望む輩もいたが...
特に、某国の第一王子は本当に面倒なヤツだった。
アスナに一目惚れしたらしい、某王子はあの手この手を使ってアスナを誘った。
時には、金を。時には名声を。
時には俺をこき下ろして...
あちこちに呼ばれてる俺たちのスケジュールをどうやって知ったのか知らないが、行く先々で偶然を装って近付いてきては撃沈していた。
最終的に、ヤツは権力と言う名の暴力に訴えようとした。
「アスナ。いい加減に私のものとなるのだ。私のもとに来れば、お前を戦わせるような酷いことはさせん。一生幸せにしようでは無いか。」
「何度も言っていますが、私は、彼といるだけで十分幸せです。貴方のもとに行く気は毛頭ありません。」
アスナの何度目かな、断りの言葉。
流石に、何度も断られているから噂になっていたのか、周りの人間から失笑がもれた。
それに、プライドを傷つけられた某王子は激昂し、
「今、笑ったヤツは誰だ?私を誰か、わかっての行動だろうな!!」
大声で怒鳴り散らし、話を続ける。
「アスナよ、そこまで私を拒むなら、私にも考えがあるぞ?お前の住む街を我が国の騎士を使って攻めても良いのだぞ?」
その言葉に周りの人間達は一斉にざわめきだした。
そりゃあそうだ。一人の女性を手に入れる為に戦争を起こすと公言したのだから...
俺は、流石にただ見ている訳には行かず、二人の間に割って入った。
「いい加減にしたらどうですか?王子。今の発言は忘れます。だからもうお帰りください。」
「キリト君。」
俺の登場で、アスナは喜びの表情で俺のもとに来ると、俺の腕に自分の手を添えた。
「貴様...私に向かって良くほざいたな。自分の発言の意味がわかっているのか?」
「それはこちらの台詞ですよ。王子こそ、俺たちを敵に回すと言うことがどういうことか、本当に理解されていますか?」
「どういう意味だ。」
この王子は本当にわかっていないようだ。
まあ、わかっていたら、さっきのような発言をするわけもないか。
「王子、俺たちは何者ですか?」
その質問に、王子は意味がわからなかったのか、疑問の表情を浮かべる。
「質問を変えましょう。今日の集まりは、なんの為に開かれたのです?」
「それは、魔王を討伐したお前達の祝勝会を...」
そこまで言って、ようやく気づいたようだ。
「そう、俺たちは魔王から世界を救った勇者と周りは呼んでいますね。」
俺は話を続ける。
「さて、王子。ただでさえ魔王を討伐する力を持った俺たち。それに、世界を救ったと言うことで、俺たちの名声は世界中に鳴り響いている。だからこそ、こうしてあちこちから呼ばれているわけだしな。そんな俺たちに、宣戦布告するって事は、世界を相手に戦争をしますと宣言しているようなものですよ?」
「ち、違う...私は、ただ...」
既に、この王子を見る周りの目は呆れと怒りの物になっていた。
自分の発言を理解できない頭の悪さに対する呆れ。
平和になったことを喜ぶこの場で、私欲のために戦争をすると公言したことに対する怒り。
その周りの目に耐えられなかったようで、王子は護衛を引き連れて退散していった。
結局、この王子は国本に帰るが、この話を知った国王の逆鱗に触れ、廃嫡されたようだ。
まあ、あんな人間がその国の王になったら国民は大変だろうから良かったのだろう。
あれから二週間。ようやく俺たちの生活も落ち着いてきた。
各国への顔見せも大体終わり、ようやく一段落就いた。
そして、魔王討伐から実に一月以上経ったころ、家で寛いでいた俺たちの前に、エリス様が再び降臨した。
「お久し振りですね。キリトさん、アスナさん、ユイさんも。」
そう言って微笑むエリス様。
「エリス様。この家、本当にありがとうございます。エリス様のおかげで、こうして快適に過ごさせて頂いています。」
アスナが、エリス様にお礼を言う。
「お礼は、不要ですよ。そもそも、この家は貴方の魔王討伐と言う偉業の対価として出した報酬です。快適に過ごせているなら、私としても嬉しいですよ。」
本当に良い女神(ひと)だな。
「それで、エリス様。今日はどういった要件で?もしかして...」
エリス様は頷くと、
「はい。キリトさんの願い事を叶える為にやって来ました。やはり、貴方の世界を渡る能力を授けるのは難しいです。こっちは、あと数年...時間を下さい。それで、アクア先輩の提案の方なんですが...この一月、いろいろ調べてようやく形になりましたので、改めてスキルを授けに来ました。」
そうか...ようやく向こうに行けるようになる。
俺は、喜びにうち震えた。
「それでは、キリトさん。前に。」
俺は、言われた通り、エリス様の前に出る。
エリス様が、俺の額に手を翳すと俺の全身が光に包まれた。
「はい。これで終了です。」
「え?これで終わりなんですか?」
なんか偉くあっさり終わったな。
「はい。スキルの付与は終わりです。それでは次にスキルの説明を始めます。まずはスキル名を言ってください。スキル名は『VR』です。」
俺は、言われた通りにする。
そうすると、俺の手にアミュスフィアが現れた。電気コードこそ付いていないが、間違いない。
「エリス様。これは?」
「貴方の考えているものと同じですよ。それを装着して『リンクスタート』と言う事で貴方はALOの世界へ、フルダイブすることが出来ます。アミュスフィアは貴方のスキルで最大10個まで呼び出せますから、一度に行けるのは最大で10人までとなります。」
「それから、ここからが肝心なのですが、例え物質を持っていかないとしても、世界を渡るのはかなりのエネルギーを使います。そのスキルを使い、ALOにダイブできるのは、一週間に一度。それも24時間のみとさせて頂きます。それを大きく超えると、強制的にログアウトして、二度とそのスキルを発動出来なくなるので気を付けて下さい。」
「わかりました。」
「それでは三人とも、これでとりあえずの役目は終わりです。キリトさんの本当の願い事を叶える為に、私も頑張りますので、皆さんをお元気で。それでは...」
そう言って、エリス様は姿を消した。
俺は、自分の手元にあるアミュスフィアを一度見たあと、アスナ達の方を見る。
二人とも、期待に満ちた顔をしていた。
「キリト君。早く試してみようよ。」
「私も、早くフルダイブと言うものを経験してみたいです。」
そう言えば、ユイは肉体を持って、フルダイブするのは初めてになるのか。
俺は、二人に頷くと、
スキルでアミュスフィアを更にを二つ出し、アスナとユイに手渡した。
この家にいる限り、犯罪に巻き込まれることはまず無い。
三人同時にダイブしても問題ないだろう。
俺たちはアスナの提案で三人で同じベッドに横になるとアミュスフィアを装着した。
そして手を繋ぎ合いながら、俺たちにとっては久しぶりの、ユイにとっては初めての言葉を紡ぎ出す。
「「「リンクスタート」」」
俺たちは、あの世界に再び戻ったのだった。