私の名前はセシル。
もちろん、本名ではなくALOにおけるアバターの名前だけど。
私は、現実では高校一年生の女の子。
今まで勉強ばかりしてきた所謂ガリ勉女子だったんだけど、高校に入学して友達になった子に誘われて、初めてゲームと言うものを体験した。
初めて触れるゲーム、それもフルダイブ型ゲームに私は、魅了された。
そこは、現実とはかけ離れた異世界。そして、そこでは私も空を飛ぶことのできる妖精。
キャラクターエディットでは、時間を掛けて、かなり可愛いアバターに仕上がった。
現実じゃあ、平凡な私もここでは可愛い女の子になれる。
まあ、友達には笑われたけどね。
そう言うその子も、現実より可愛く作ってたから、私を笑う資格は無いとも思うの。
この一ヶ月の間、それはもうドップリとこの世界に浸かっていた。
流石に、ゲームをしすぎだってお母さんに怒られてからは、時間を制限されたんだけどね。
今日も友達のリリーと一緒に、初心者向けのクエストを消化して、帰ろうとした時にそれは起こった。
私たちの周りを、いつの間にか複数のサラマンダーの男性達が囲んでいたのだ。
男達は、下卑た笑いを浮かべていた。
リリーは、気持ち悪がって一歩下がる。
私も怖かったけど、勇気を出して訪ねた。
「私たちに何か用ですか?用がないなら、どいてください。」
「おっ、なかなか勇ましいね。君。」
男たちの内の一人がニヤニヤしながら言ってくる。
「そんなことは良いです。用件はなんですか?」
「なあに、そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。君たちの装備を見る限り、君たち初心者なんだろう?女の子の二人組、しかも初心者じゃ危ないだろう?親切な俺たちがちょっと指導してあげようと思ってね。」
「結構です。私たちは私たちのペースでやりますから。」
私は、そんな話を信じる気は無かった。
この人たちは、絶対下心を持って近づいて来たんだ。
そもそも、こんな人数で周りを囲んでおいて、指導も何も無いだろう。
これは、私たちを逃がさない為に囲っているのだろう。
「そんなツレナイ事言うなって。折角、親切心で言ってるんだぜ?俺たちがみっちり教えてやるからよ。手取り足取りな。」
そう言いながら、包囲を狭めてくる男達。
どうしよう。力で来られたら、私たちなんてあっという間に組み伏せられてしまう。
そうだ。確かセクハラ行為は禁止事項のハズ。
「それ以上近づいたら、セクハラでGMコールしますよ。」
私は、そう言って男達を牽制した。
でも、その言葉は男達を刺激してしまった。
「ちっ、面倒だな。」
男は舌打ちすると、短剣を取り出した。
そして、気がつくと私の前にいて、その短剣を私に突き立てる。
あっ...と思った時には私は、倒れていた。
ステータスにはマヒの状態異常のマークが出ていた。
「不思議そうだな。この短剣はな、攻撃力こそ皆無なんだがマヒ攻撃を出せる対人武器としてはかなりの一品なんだわ。大人しくしてたらこんなことしなかったんだが...仕方ないよな。」
隣を見ると、リリーも同じように倒れていた。
男たちが、私たちに何をしようとしてるのかわからないけど、良いことは待っていないだろう。
誰か助けて...
私は、目をつぶった。
その時、
ドーンっと言う大きな音がした。
目を開けると、全身、黒ずくめの服を着たスプリガンの見知らぬ男性が地面に倒れていた。どうやら空から着地しようとして失敗したみたい。
「っててててて。うーん、失敗、失敗。」
そう言って、場違いに苦笑いを浮かべるその人。
サラマンダーの男達は、突然の乱入者に、驚いて固まっていた。
「やあ、サラマンダーの人たち。男が大勢で二人の女の子を襲うなんて、ちょっと格好悪いんじゃないか?」
そんな男達には構わず、スプリガンの男性は飄々とした態度を崩さずに、彼らを挑発した。
「うるさい。突然乱入してきやがって。何様だ、てめぇ。」
その言葉に、男達の内の一人が激昂し、スプリガンの男性に斬りかかる。
でも、それはあっさりといつの間にか抜いていた男性の黒い刀身の剣によっていなされ、逆に斬られた男は、そのままHPをゼロにした。
凄い...
素直にそう思った。今の動きにしたって殆ど見えないほどの動きだったのだ。
「あんたらじゃ、俺には勝てないよ。今すぐ解散するなら良し。そうでないなら...全員切り伏せさせてもらうぜ?」
男性は、さらに男達を挑発した。
格好いい...こんなシチュエーションを体験できるなんて。
今の私って物語のヒロインみたいだよね。
私の危機に、知らない男性が助けに入る。
そして、知り合った私たちは恋に落ちてそのまま...
キャー。どうしよう。
ゲームの中の出来事だけど、憧れるわ。
私は、今の状況をすっかり忘れてトリップしていたと思う。
「お、おい。こいつ結構やるぞ。」
「どうする?」
男たちは、男性の強さに動揺して及び腰になっているようだ。
「何をビビってやがる。幾らあいつが強くても、相手は一人。この人数で相手にすればどうってことないだろう。」
男たちのリーダーとおぼしき人物がそう、捲し立てる。
すると、
ドーン...
また、新たな乱入者が現れた。
「キーリートーくーん」
新たに乱入してきたのはアバターとしても、かなり可愛い顔をしたウンディーネの女の子だった。
そんな彼女は、どうやらスプリガンの男性に、怒っているようだ。
「酷いよ、キリト君。私を置いていくし、ゴールに着いたのにいないし。私、行った道を戻って探す羽目になったんだからね。」
「ああ、アスナ...悪い。ちょっとトラブルを見かけてさ、助けに入ってたんだよ。」
「全く...仕方ないなあ...」
そう言って苦笑するそのアスナと言う女性。
それは、互いに信頼しあった恋人の会話のようだった。
...どうやら、私の恋はほんの数分で終わりを告げたようだ。
隣を見ると、リリーも微妙な顔をしていた。
ああ、きっとリリーも、同じこと考えてたんだろうなぁ。
私は、その表情を見て悟ってしまった。
まあ、こんなシチュエーションだもんね。
女の子なら、誰だって憧れるだろう。
その相手に恋人さえいなければ...
「さて...これで二人だな。」
キリトと呼ばれた男性は、男達にニヤリと笑いながら告げる。
「はっ。一人が二人になったところで何も変わらんさ。おい、お前ら。獲物が増えたんだ、喜びやがれ。」
男たちのリーダーはそう言って、武器を取り出す。
男たちもそれに続いた。
「アスナ。半分任せた。」
「了解。」
二人は、これから戦闘になると言うのに、全く気負った様子もなく、男達に近寄った...
二人の強さは圧倒的だった。
男達は10人位いたのに、その数をどんどんと減らしていく。
男達の攻撃はまるで当たる様子はなく、二人の攻撃であっさりと消えていった。
気がつけば最後の一人、リーダー格の男のみとなっていた。
「お、お前ら一体何者なんだ...」
男は、もう意気消沈していた。
二人に勝てないのは解りきっているからだ。
「通りすがりの、ただのプレイヤーだよ。」
うーん...この人はいちいち言うことが格好いいなぁ。
なんだろう。普通の人が言ったら気障な台詞って笑うんだけど、この人が言うと、不思議とハマるんだよね。
やっぱりアレかな?恋は盲目ってやつなんだろうか?
「そ、そんなハズ無ぇ。いや、お前の格好...全身黒ずくめ...盾無しの片手剣...」
男は、ぶつぶつと呟いていた...
そして、何か思い当たる事があったのか、キリトさんに質問をした。
「お前...あの女...『黒の絶剣士』の知り合いか?」
黒の絶剣士?
「黒の絶剣士?いや、聞いた事もないな。」
キリトさんは知らないようだ。
「嘘を言うな、それだけの強さなんだ。ALOを長くやってるトップクラスの廃人プレイヤーなんだろう?この世界最強のプレイヤーと言われてる黒の絶剣士を知らないハズが無いだろう?」
そんな人がいるのかあ...
女の人で最強なんて凄いなぁ...
「へぇ、そんなヤツが出てきてるのか。残念ながら俺たちがこのゲームをやるのは2年半ぶり位でな、その時にそんなプレイヤーは聞かなかったな。まあ『絶剣』って呼ばれてたヤツなら知ってるが...」
キリトさんはそう答えた。
キリトさんもアスナさんも、ブランクあってあの強さなんだ...凄いなぁ。
「嘘を付くな。そんな強さで二年ぶりだと?俺は信じないぞ!」
「別に信じなくても良いんだけどな...とりあえず、そろそろ終わりにしよう。」
そう言って、キリトさんは男を倒した。
「お疲れ、アスナ。」
「キリト君もね。まあ、あの程度の人たちならキリト君だけで倒せただろうけどね。」
「そんな事無いさ。助かったよ。」
「どういたしまして。」
二人はお互いを労うと、私たちに声をかけてきた。
「君たち、大丈夫だったか?立てる?」
私は、自分の体を動かそうとしてみた。
いつの間にかマヒは消えていて、すんなり立つことができた。
「大丈夫...みたいです。あの...助けてくれてありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
私たちは、二人にお礼を言った。
「いや、無事で良かったよ。ああ言うプレイヤーは、どんなオンラインゲームにも一定数いる。残念だけどね。だから君たちも気を付けた方がいい。初心者二人だけでパーティーを組むんじゃなくて、中堅からベテランの人と行動した方が良い。」
キリトさんは、私たちにアドバイスをくれた。
良い人だなぁ。
この人には、恋人がいるみたいだけど、思うだけなら私の自由だよね。
だって、私にとってこの人は私の危機を救ってくれた王子様なんだもん。
私は、キリトさんのアドバイスを聞いて一つ思いついた事があった。それをキリトさんに伝える。
「あの...もしよろしければ、私たちに指導してもらえませんか?」
折角知り合えたんだもん。これで終わりじゃ勿体無い。
命短し恋せよ乙女ってね。