「篠崎さん。俺たち、別れよう。」
私の何度目かの彼氏は、そう話を切り出した。
「あぁ...うん...わかったわ。」
私は、その言葉を受け入れる。
今回は、上手く行くと思ったんだけどなぁ...。
この人は、結構いい人で、優しくて顔もそこそこ。私に告白してきた時はなんの冗談かと周りを疑ったわよ。
それから数ヶ月、私たちはデートを繰り返した。
と言っても、買い物したり遊園地に行ったり、清い交際だったわよ?
それが、結局は破局してしまった。
理由はわかってる。間違いなく私が悪い...
明日奈の葬儀の日、私は誓った。
ー私は、私はあの二人の後を追ったりしない。私の命は、あの城で、あの二人が命を懸けて救ってくれたものだもの。精一杯生きて、幸せになって、そして...あの二人を悔しがらせてやるんだからー
その日から、その宣言を実行するため、自分で言うのもなんだが、それはもう涙ぐましい努力をしたと思う。
特に、メイクには力を入れて勉強し、かなりの成果を挙げている。
将来は、その道に進もうと思っている程だ。
そんな私は、それなりにモテるようになった。
もともと、男の比重の圧倒的に高い学校なのだ。明日奈がいなくなった事で、皮肉にも明日奈の影に隠れがちだった私に注目が集まるようになった。
もちろん、私の努力の成果もあるとは思うけど。
そんな訳で、ちょくちょく告白されるようになった私は、自分でもいいなと思う人と、何度かお付き合いをした。
でも、これが長続きしない。長くても数ヶ月。
酷いと、一月もしないうちに別れ話を切り出されてしまう。
一度、相手に理由を問い質してみたことがあった。
その人も、わりかし好印象の男性で私にしては長く続いていたのだが...
「篠崎さん。俺と別れて欲しい。」
「ど、どうして?」
「だって、篠崎さん...俺に壁を作ってるだろ?そりゃあ、篠崎さんは気さくだし、明るくて優しい、友達として付き合うなら最高の人だよ?でも、恋人になっても俺たちの関係はまるで、変わらないじゃないか。」
そんなこと無い...そう言おうとしたんだけど、何故か言葉にならなかった。
そして、続いて言われた言葉に、私の心は打ちのめされた。
「篠崎さん。もしかして君...他に誰か好きな人がいるんじゃないか?結城さんたちと一緒にいる時の君の方が、ずっと魅力的だった。」
この言葉で、私は悟った。
私は、今でもキリトのヤツを忘れられないのだと。
その思いが、彼に対して無意識に壁を作ってしまっている。
彼が怒るのは当然だろう。私は、別れ話を受け入れた。
それからも、何度がお付き合いをしたが、結局は同じ結末を迎える。
「ハァ...私の春はいつ来るんだか...」
私は、深いため息を吐き出す。
また、しばらくは時間が出来たし、シリカを誘ってALOに顔を出しますか。
あの日以来、私やシリカ、シノンは自然とALOにログインする機会が減っていった。
もともと、キリトやアスナがやっていたからこそ、私たちもやっていたような物だから仕方がない。
今は、キリトの名前を残すとムキになって続けているリーファを心配して、時々ログインする程度だ。
早速、シリカに電話をかける。
「あ、もしもし珪子?しばらくは時間が出来たんだけど、今度暇なときにALOやらない?」
『時間が出来たって...また、別れたんですか?もう、いい加減落ち着いたらどうなんですか?』
電話の向こうで呆れたと言った感情を隠しもせずに、そんな事を言ってくる珪子。
「あんたにだけは、言われたくないわよ。」
そう...。こと、恋愛話に関しては、間違いなく珪子の方が重症だ。
もともと、アインクラッドでは中層プレイヤーの間でアイドル扱いされていたのだ。
当然、珪子はモテる。何人もの男の子に告白されていた。
だと言うのに、珪子のヤツは...
「キリトさん以上の男性なんていません。私は、キリトさんを想って、生涯独身を貫きます。」
自分の教室で、珪子に告白してきた人たちを集めて、そう宣言してしまったらしい...
おそろしい子だわ...本当に。
それ以来、その話はあっという間に学校なかに広まって、珪子に告白する人間はほとんどいなくなったそうだ。
まあ、わからないでもない。私たちより年下...思春期の真っ只中...命懸けのゲームと言う、異常な状況で、命懸けで自分を守ってくれた人に恋をしてしまったのだ。
彼女の中で、キリトを超える男性像が思い浮かばないのだと思う。
『私の事は良いんです。それよりも、ALOですけど、明後日ならバイトも休みですし、時間が取れますよ?リーファにメールしときますか?』
「よろしくー。」
そう言って、その日は電話を切った。
次の日、珪子の方から電話が来た。
「ああ、珪子。どうしたの?もしかして明日用事が出来たとか?」
『いえ、そうじゃなくて...昨日、リーファに連絡を入れたんですけど、今度の日曜日に皆で集まれないかって返事が来まして...』
リーファが、皆を集めるなんて珍しいわね...
あの日以来、こっちから会いに行かないと、いつまでも連絡不通状態だったのに...
その理由も、リーファの目的を聞いて、怒るよりむしろ心配になった。
私たちの中で、最もキリトとアスナに囚われているのがリーファだ。
珪子は、恋愛に関しては重症だが、まだ前を向いているだけ、マシだろう。
それに比べてリーファは、キリトが生きた証を残すと言って、無茶なプレイングを続けていた。
そのせいで、現実の剣道の方は疎かになっていて、大会でもあまり活躍出来ていないらしい。
周りはそんな直葉を、説得してみたりしたが、逆効果になってしまい、返ってALOに比重が行ってしまったそうだ。
直葉の両親も、今は本人の納得するまで続けさせると言っていると聞いた。
この間、久しぶりにログインしたときに聞いた話では、デュエル統一トーナメントで二連覇を果たして殿堂入りを果たしたらしい。
正直、もう充分なんじゃないかと思うんだけど...
今は、静かに見守る事しか出来ない...
そんな、リーファが自ら皆を集めるなんて...
もしかして、とうとう引退するのかね。
それなら、とびきりの笑顔で送り出してやらないとね。
「わかった。ちゃんと日曜日は空けとくわ。珪子はどうするの?」
『その日はバイトがあったんですけど、もちろん、誰かに替わってもらってでも休みますよ。折角、リーファからのお誘いですからね。久しぶりに、皆で楽しみましょう。』
そうね。久しぶりに気楽にALOを楽しみますか。
この時の私は、まだ、リーファが皆を集めた理由を知らなかった。