リーファからの呼び掛けに、その日最初に現れたのはシノンだった。
「久しぶりね。リーファ。それとも『黒の絶剣士』さんって呼んだ方がいいかしら?」
シノンは、リーファをからかうように声をかけた。
「もぉ...リーファで良いですよ。お久しぶりです、シノンさん。この間の大会、優勝おめでとうございます。」
今の、リーファと最も交流が多いのはシノンだ。
GGOをメインに活動しているシノンだが、リーファに付き添って、たまに一緒に高難度のクエストをするなどして、手助けしているため、軽口もよく言っているのだ。
ここしばらくは、GGOの方で大会に出場していたため顔を出すのは久しぶりだった。
久しぶりに会ったリーファは、雰囲気が柔らかくなっていて、シノンは違和感を感じる。
この間までのリーファは『黒の絶剣士』の名を広めると言う強迫観念にも似た目的に突き動かされ、ずっと張り詰めた表情をしていた...
そう...今のリーファは出会った頃の...
キリトがいた頃のリーファのようだった。
「それで?今回はどんなクエストをするのかしら。」
理由が少し気になったが、まずは今回の目的を聞こうと、リーファに質問するシノン。
シノンは、リーファから呼び出しを受けた目的をまだ聞かされていなかったのだ。
「あー、ちょっと待ってくださいね...まだ全員揃っていないんで...」
「全員?今回は、リズ達も参加するの?」
シノンは不思議に思っていた。
リズ達はあの日以来、あまりインしてくることは無くなっていた。
たまに、リーファを心配してインすることはあるが、目的がリーファと話す事なので、レベル上げなども行っていない。
そのため、クエストに一緒にいくこともなかった。
リズ達も、足手まといになることはわかっているため付いてきたいなどと言うこともない。
シノンは、その事を責めるつもりはなかった。
リズやシリカがこのゲームをしていたのは、あくまでもキリトとアスナがいたからだろう。
その二人が、この世界にいない今、彼女たちがこのゲームを続ける理由が無いのだ。
「えーと...リズさんたちと、クラインさん、エギルさんも来ますよ。」
シノンが、リズたちの事を考えていると、リーファが先程のシノンの質問に答えた。
その面子に、シノンは混乱した。
「ハァ?エギルはともかくとしてもクラインまで?一体、何をするつもりなの?リーファ?」
今のALOの現状はシノンも知っている。
サラマンダーの...特に中層プレイヤーの素行の悪さは目に余るものがあり、サラマンダーと他の種族で反目し合っている状況だ。
そんな状況で、このALOで最も有名なリーファや、それなりに有名なシノンがサラマンダーのクラインに会うのは、一般プレイヤーにとっていい感情を抱かせないだろう。
ましてや、リーファはシルフ。サクヤ自身は話せる人間だが、シルフ領全体の事を考えれば、シルフ領を放逐されてしまう可能性すら会った。
もちろん、クラインや風林火山の面子が犯罪プレイを行っているわけでは無い。それどころか、そう言ったサラマンダーの中層プレイヤーを凝らしめたりしているのだが...一般プレイヤーにそんな見分けは付かないだろう。
そんな理由から、クライン達と行動することを避けていたと言うのに、本当に今回は何が目的なのか...
面子を考えるなら、キリトやアスナ関連の事なのかも知れないが...
あれから二年半も経って、今さらキリト達の思い出話でもしよう...なんてことも無いだろう...
シノンがそんな事を考えていると、リズとシリカがやって来た。
「ヤッホー、リーファにシノン。久しぶりね。」
「お久しぶりです。リーファ、シノンさん。」
二人が挨拶をしてくる。
「お久しぶりです。リズさん。シリカ。今回は、急な呼び出しだったのに、二人とも。来てくれてありがとうございます。」
リーファが、二人に笑顔で挨拶を返す。
「「!?」」
リズやシリカも、リーファの変化を敏感に察知したようだ。
「へぇ...急な呼び出しに、よく来れたわね。シリカはバイトがあるし、リズは恋人がいるんじゃなかった?日曜なのに放っておいて良いのかしら?」
シノンは、その話に乗っかり、場を流すと二人に聞いた。
「うっ...」
リズが話に詰まる。そして、シリカが代わりに答えた。
「私は、バイト替わって貰ったんで大丈夫ですよ。リズさんは...」
「わあぁぁっ。言わなくて良いから...」
慌てて、シリカの口を塞ぐリズ。
「つまり、また別れた訳ね...」
その様子に、シノンは全てを察した。
呆れながら、シノンが言うと、観念したリズが「ハイ...」と小さく答えるのだった。
「もう、リズさんも諦めたら良いのに...」
「嫌よ。私は、あんたと違って一生独身なんて絶対にゴメンだわ。だいたい、学校の教室で一生独身宣言するなんて正気の沙汰じゃないわよ?」
「そう言う事言いますか?リズさんなんて、何度も男性をとっかえひっかえしてるものだから、私のクラスでは悪女扱いされてるんですからね?」
「なーんですってー。ちょっとソイツら絞めて来るわ。言ったやつの名前を教えなさい。」
「嫌ですよ。大体、リズさんが男の人をとっかえひっかえしてるのは事実じゃないですか。」
しばらく、二人の掛け合い漫才を見ていたリーファとシノン。
すると、最後にエギルとクラインが到着した。
「よぉ。お前達...元気そうだな。」
エギルが最初に声をかけた。
「リーファっち。それに皆も...久しぶりだな。」
クラインは、フードとマントで変装をしていた。
クラインもALOの現状でリーファ達に会う不味さは理解しており、変装をしてきたようだった。
「お久しぶりです。エギルさん。今日はお店を休んでまで来てくれてありがとうございます。」
「クラインさんも、お久しぶりです。クラインさん、よくクエストに誘ってくれてたのに、出れなくてごめんなさい。今日は本当に来てくれてありがとうございます。」
「いや、俺の方こそすまねえな。配慮が足りてなかったぜ。」
二人はお互いに謝り合う。
そんな雰囲気を変えるため、エギルは改めてリーファに今回の目的を尋ねた。
「それで、リーファ。俺たちを集めて、一体何をしようって言うんだ?」
周囲の皆も喧騒を止めて、聞きの体勢に入る。
「...それなんですけど...これから皆さんに一緒に来て欲しい場所があるんです。着いて来て下さい。」
そう言って、羽を出すと飛び上がるリーファ。
シノン達は、目的を告げずに飛び立ったリーファに疑問を感じつつも、後に続く。
...目的の場所は、天空城アインクラッド。
その二十二層、今リーファ達は、森の中を歩いていた。
最初こそ、騒ぎながらリーファに着いてきていたクライン達だったが、この二十二層に入った途端、口数はめっきりと減っていった。
「な、なぁ。リーファっち。こんな所に来てどうしようってんだ?」
クラインも、シノン達も、リーファが自分達を連れていこうとしている場所を察していた。
そう、ここにはこの世界に置いて、自分達がよく集まっていた...あの二人が大切にしていた思い出のホームがあるのだ。
だが、あの二人がこの世を去った事で、あの家に入る事の出来る人間はいなくなり、また、二人を思い出すのが辛くて、自然と誰も寄り付かなくなっていた。
その森の家が、今目の前にある。
たまらず、クラインがリーファに声をかけた。
「リーファっちも、わかってるだろ?もう...この家の扉を開けられるプレイヤーはログインすることは無いんだ。こんな所に来たって...」
そう、キリトは事故でこの世を去り、キリトを深く愛していたアスナもその後を追った。
二人が、本当の娘のように大切にしていたユイも、あれ以来姿を見せない。
クラインは、沈痛な表情で現実を伝えようとした。
その時、ガチャッ
「よぉ。スグ。おかえり。ありがとな。皆を連れてきてくれて。」
リーファは、苦笑いを浮かべてる...そして...
「おっ?クライン。久しぶりだな。相変わらずの野武士面だ。」
扉を開けた人物。キリトがそこに立っていた。
「「「「「ええええええええええええええっ」」」」」