この場に集ったほとんどの人間が驚愕していた。
当然だろう...
二度と会えないハズの人物が、自分達の目の前にいるからだ。
いち早く、現実に復帰したクラインが怒りの表情で目の前の人物に怒鳴り散らす。
「よりによって、キリトになりすますたぁ良い度胸じゃねえか。このクライン様が成敗してくれる。」
そう言って、キリトに斬りかかるクライン。
キリトはため息を一つつくと、その刀を避けてクラインの顔面を押さえながら、
「いいぜ。でも、ここだと狭いから少し離れようぜ。」
そう言ってクラインと共に少し遠くに離れていった。
この中で唯一、事情を知っているリーファは止めない。
事前に打ち合わせをしていたからだ。
ー多分、情に厚いクラインは、話も聞かずに斬りかかってくると思う。だからそうなったら俺に任せて欲しいんだー
キリトはそう言っていた。
自分も、似たような事をしているだけに、了承するリーファ。
どうやら、キリトの予想通りの展開になったようだ。
「やっぱりこうなっちゃったんだね。」
「仕方ないですよ、ママ。普通に考えて、私たちがここにいることはあり得ないんですから。」
キリト達に気を取られていた時、家の中から新たな人物たちが出てくる。
その人物たちは、揃って苦笑の標準を浮かべていた。
「ア...アス...ナ...なの?」
最も早く、その存在に気づいたのは、やはり彼女にとって一番の親友だったリズだった。
「え?アスナさん???」
シリカはなおも驚いている。
「どういう事なの?一体...クラインが言ったように偽者?」
シノンは、偽者ではないかと話す。
「ただの偽物が、この家から出て来るなんて無理だろ。」
だが、エギルは冷静に偽者がこの家に入れるハズがないとニセモノ説を否定する。
「二人のアカウントを乗っ取ったハッカーとか?」
「アクティブユーザーのアカウントならともかく、二年以上ログインしていない...しかも、この二人をピンポイントで同時にハックするなんて、いくらなんでも手間に合うとは思えんな。それこそ、今のALOならリーファやユージーン将軍をハックするだろう。」
結局、真相がわからずリーファに聞く面々。
「あはははははは...えーっと...どう説明したら良いか。」
リーファは、キリトと再会した日を思い出していた。
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「それで、お兄ちゃん。これは一体どういう事なの?」
キリトとのデュエルを終えたリーファは、改めて目の前の人物がキリトであると認めた。
でも、なぜこうしてここにいるのかは、全くわからない。
それはそうだろう。
なぜなら『キリト』を動かす現実の人間『桐ヶ谷和人』は既に亡くなっているのだから。
「そうだな。信じられるかわからないけど、話すよ。これまでの事を。」
そう言って、キリトが話した内容は、確かに信じ難いものだった。
神様(の部下の天使)に会って、異世界を救って欲しいと頼まれ、記憶と体をそのままに、チートを持って転生。
そこで、魔王を倒し、褒美に願い事を叶えてもらい、世界を渡る能力を貰った...
目の前にキリトがいなければ、絶対に信じられないだろう。
もはや、目の前のキリトを偽者とは考えていない。
雰囲気もそうだし、自身との会話にも違和感はない。
自分たちしか知らないような話にも、普通に着いてくるのだから、疑う余地が無かった。
「まあ、正直信じられないけど、お兄ちゃんは異世界でちゃんと生きてるのね?アスナさんやユイちゃんも。」
「ああ、そうだ。」
「それでお兄ちゃん。お兄ちゃんはこれからどうするの?」
「それなんだけど、皆と連絡を取りたいんだ。俺たちのフレンドリストはリセットされてるんでな。スグ。頼めないか?」
「良いけど、どうやって皆を誘うの?お兄ちゃんを見つけました...なんて送ったら、私おかしくなったと思われちゃうんだけど...」
「う、うーん...」
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・
皆で考えた末に、目的を告げずにここに連れてきて、なし崩し的に会ってしまおうって事になった。
まさか、兄があんな軽い挨拶をするとは夢にも思わなかったが...
後で、その事を問いただすと、アレがキリトの中で一番無難な対応と考えたらしい。
相変わらず対人スキルの低い男だ。
「リーファちゃん。私が説明するよ。」
アスナの声に、我に反ったリーファ。
「良いんですか?アスナさん。」
リーファは、気遣しげに声をかける。
「大丈夫だよ。例え信じて貰えなくても、私だってリズ達には会いたくなかった訳じゃないもの...こうして一目でも会えた。だから大丈夫。」
「皆...私は...」
アスナが意を決して、話し出そうとしたとき、リズがアスナに駆け寄ると、そのままアスナを抱き締めた。
「アスナ...アスナだよね。私には解るよ。」
「信じてくれるの?リズ。」
「当たり前でしょ?何年、あんたの親友やってたと思ってるのよ。困ったときにする癖も、泣きそうなのを堪える表情も、ニセモノには出来ないわよ。」
「リズ...会いたかったよ。リズ...ごめんなさい。私、リズに...リズ達に酷いことしちゃったのに...」
「本当よ、全く。皆、どれだけ悲しんだと思ってるの?」
「ごめんね。リズ...ごめんなさい...皆...ウワァァァァァァ。」
アスナは泣いた。リズを抱き締めながら。
リズも泣いていた。
そのお互いの涙に、ニセモノを警戒していた他の皆も、アスナを本物と認めたようだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」
離れた場所から悲鳴が上がった。
どうやら、向こうも決着が着いたようだ。
女性陣は、その場を動こうとしない。
再会の余韻に浸っているようだ...
エギルは、仕方なくその場を離れキリト達のもとに向かう。
クラインは、命の灯火となっていた...。
キリトにデュエルで負けたのだろう...
後、十数秒で死亡扱いとなる。
「ハァ...」
エギルは、一つため息をつくと、ウィンドウを操作して蘇生アイテムを取りだし、クラインを蘇生する。
「キリト...よく戻ってきたな。」
エギルは、笑ってキリトの帰還を喜んだ。
「エギル...サンキューな。」
エギルが自分を信じてくれたことが嬉しい。
でも、面と向かってそれを言うのは照れる。
キリトは、結局顔を下に向けながら礼を言う。
キリトの気持ちを理解しているエギルは、それ以上、なにも言わなかった。
クラインがアイテムで完全に蘇生された。
エギルは蘇生されたクラインに向けて指を二本だして、一言。
「適正価格の二倍な。」
「そ、そりゃあ無ぇだろう。エギルの旦那ぁ。」
クラインは、値切る為に交渉を開始した。
そのやり取りに苦笑を浮かべつつ、キリトはアスナ達のもとへ向かう。
「アスナの方は、穏便に済んだみたいだな。」
「リズがいたからね。それに、リーファちゃんが認めてくれてるのが大きかったと思う。理由はもとかく、私たちが本人だって言うのは、納得してくれよ。ありがとう。キリト君。キリト君のおかげで、皆に謝る事が出来たよ。」
「お礼はいらないよ。俺だって、皆に会いたかったんだから。」
「それでも、良いの。ありがとう、キリト君。大好きだよ。」
二人は、見つめ合う。そして...
「あー、おっほん。」
リズが、咳払いすることで離れた。
「間違いなく、この二人はキリトとアスナね。周りがいるのに二人の世界を作るなんて...こいつらにしか出来ないわよ。」
リズは久しぶりに見るキリアスに、二人が本物たと完全に認めた。
「アスナさん。私たちは、二年半ぶりにキリトさんに会うんですから、ここは譲ってください。」
シリカは、久しぶりに会ったキリトに暴走気味だ。
「シリカちゃん...なんか、変わったね。随分とアグレッシブになったような...」
そんな、シリカに驚くアスナ。
以前から、キリトに好意を持っているのは知っていたが、アスナがいるため遠慮しているような娘だったハズなのだが...
「あああああああっ!!!」
シリカがキリトの方を見て、大声を上げる。
見ると、シノンがキリトに抱きついていた。
「キリト。本当に貴方なのね。私...私...」
「「「キーリートー(君)(さん)。」」」
「お兄ちゃん?」
「ま、待て。これはシノンが...」
「言い訳は、良いから離れなさい!...ってシリカちゃん!?」
アスナが怒っている間に、
「私も、抱きつきます。キリトさん。会いたかったです。」
シリカがキリトに抱きついた。
「あ、じゃあ...ついでに私も...」
リズが顔を真っ赤にしながら空いてる所に抱きつく。
「ちょっと、リズまで...」
「皆、ズルいです。私も...」
リーファも続く。
「ちょっと、リーファちゃんはこの間したでしょう?って言うか、皆、離れて...離れなさい。」
「ちょっと位良いじゃないですか。二年半ぶりなんですよ?」
シリカがニコニコしながら言う。
「良い訳無いでしょう?」
「これは、勝手な事をしたアスナへの罰よ。諦めなさい?」
「シノのん。それとこれとは話が違うでしょ?」
「そうそう、罰よ罰。」
リズも、乗っかる。
「アスナさんは、毎日一緒にいるんだから良いじゃないですか。」
とどめとばかりにリーファが言う。
「もう、良いから離れてぇ。キリト君は私のなの。私のキリト君なのぉ。」
「キリト...手前ぇ...散々、皆を悲しませといて、美少女にまみれるとはどういう事だ。このクライン様が成敗してやる。」
キリトの惨状に怒りのボルテージを再び上げるクライン。
「今度は、いくらで蘇生アイテムを売って欲しいんだ?」
エギルの言葉にピタリと動きを止めるクライン。
キリト達の再会は、感動の再会とは呼べないだろう。
それでも、皆、久しぶりに本気で怒って、本気で泣いて、そして、本気で笑った。
自分達の日常が戻ってきた。
この奇跡の再会を誰もが心の底から喜ぶのだった。