カズマ視点。
俺たちは、魔王を倒した。
その名声は、世界中に広まり今や俺たちは時の人となった。
キリトのパーティーはいち早く有名になっており、あちこちの国に呼び出されていたが、俺たちの方にも、遅れて呼び出しが掛かるようになった。
そして、なによりも俺たちにも二つ名が付くようになった。
俺、サトウカズマは『強(狂)運の冒険者』
めぐみんは『爆裂卿(狂)』
ダクネスは『盾の(変態)聖騎士』
そして、アクアは『アクシズ教(狂)の女神』
.........ってなんでだぁ!!
なんで全員()が入ってるんだよ。しかもその中身が明らかに俺たちをディスってやがる...
これは、絶対にアクセルの街の連中の仕業だ。
間違いない。微妙に真実っぽいのがその証拠だ。
なんでも、魔王討伐後に、俺たちの足跡をたどった記者がまとめた新聞を冒険者ギルドの方で検討して、そのまま付けられたらしいからな。
こんなことを知ってるのは、あの街の連中...
他にもいなくは無いが、きっとそうだ。
アクセルの街にもどったら、絶対に復讐してやる。
魔王を倒したこのカズマさんをなめるなよ?
ふっふっふ...
さて、そんな俺たちだが...今、俺たちはアクセルの街にはいない。
アイリスに呼ばれて城に滞在している。
もう、一月になるか...
実を言えば、他の国からも招待状が来てる。
どこも英雄の俺たちとの繋ぎが欲しいのだろう。
だが、俺たちはアイリスやダクネスの顔を立ててこの城に留まっている。
他の国は、キリト達が上手くやっているだろう。
これまでの事を思い返しながら部屋で寛いでいると、この国の重鎮の一人であるクレアが近づいて来た。
「カズマ殿...もういい加減、言い飽きたが...帰ってくれ。」
「断る。」
ここ最近、毎日言われている事なので、何を言われるかわかっている俺は、クレアの言葉に被せるように即座に否定する。
この世界の救世主たる俺たちだが、この城に滞在して二週間も経つと、周りから煙たがれるようになった。
何故だ?俺たちは世界を救った英雄として、ただ手厚い歓待を望んでいるだけなのに...。
「カズマ殿たちが、魔王を倒してくれた事には感謝している。だが、このままではカズマ殿たちの為に、国の財政が傾いてしまうのだ。頼む。カズマ殿。もう、帰ってくれ。」
「俺たちが帰ったら、アイリスが寂しがるだろう?」
「その心配はない。遠征に出ていた陛下たちがもうすぐ帰ってくる。アイリス様も、実の家族と水入らずしたいだろう。」
くっ...やはり義理の兄では、本当の家族には叶わないか...
しかし...
「だが、断る...」
この贅沢三昧の暮らしを手放すものか...
クレアめ...以前は実力で排除されたが今回も上手く行くと思うなよ?
俺が、臨戦体勢に入ったのを察したのか、クレアは一つため息を付くと、
「仕方ない。世界を救った救世主殿だ。出来れば自身の決断で帰って欲しかったのだが...」
そう言って、お付きの兵士に何かを伝える...
そして、その兵士がどこかへ行ったと思ったら、その兵士はすぐに戻ってきた。ある人物を連れて。
「よう、カズマ久しぶりだな。」
そう言って、俺に声を掛けた人物は、キリトだった。
巷では『黒の勇者』と呼ばれているらしい。
魔王を倒すと言う同じ功績を持つ俺たちなのに、何故こうも評価が違うのか...
「久しぶりだな、キリト。今回は何しに来たんだ?」
警戒しながら聞くと、
「薄々、わかっていると思うけど、今回は冒険者としてあるクエストの為に来たんだ。」
「...依頼内容は?」
いつでも逃げ出せる準備をする。
「この城からカズマをアクセルの街に戻すことだな。」
言い終わる前に、俺は逃げ出した...ハズなんだが...
「カズマ。帰るぞ。」
いつの間にか、俺の前にいたキリトに腕を締め上げられた...
「いてててててて、キリト、頼む見逃してくれ。」
「断る...と言うか、もう後はお前だけだぞ?」
「は?」
広間にそのまま連行されると、キリトパーティーの他に、簀巻きにされたアクアとそれを見ているめぐみん、ダクネスがいた。
「あ、カズマ!たす...けるのは無理そうね。」
「ああ、やっぱりカズマも捕まりましたか...」
アクアが助けを請おうとして、俺の現状を見て諦める。
ダクネスは、もともと帰ることを主張していたし、めぐみんはどちらでも良い派だったので俺たち二人を拘束した段階で、キリトたちのクエストは達成と言うわけだ。
「流石はキリト殿、真の英雄は違いますね。」
クレアがキリトを誉める。
真の英雄がいると言うことは、偽の英雄がいることになるんだが...
どうも、キリト達にクエストを依頼したのは、このクレアらしい。
どうやら、帰宅を主張していたダクネスと結託して、キリトを呼んだのだそうだ。
余計なことを...
くっ、こうなったら一か八か...
「キリト、賭けをしないか?俺と一騎討ちをしてキリトが勝ったら素直に従おう。だが、俺が勝ったら見逃して欲しい。」
「この状況で、俺がそれを受けるメリットは無いだろう。」
「私も、見てみたいです。世間で英雄と言われるパーティーのリーダーであるお二人の戦いを。」
アイリスが俺に賛同してくれた。
「アイリス様...」
クレアはアイリスに甘い。
「仕方ないですね。カズマ殿、自分で言った事だ。約束は守って頂きますよ?」
やはり、アイリスの意見を無視できなかったか...
「いや、そんな事をしなくても、このままカズマたちを連れ帰れば依頼達成なのでは?」
「キリト殿、申し訳ないがお願い出来ないだろうか。カズマ殿もあれで一応...認めたくはないが、例えあんなでも、魔王を倒した英雄の一人なのだ。出来れば、自分の意思で帰ってもらいたい。」
おい、なんだその言い方は。
一応ってなんだ。あんなでもってなんだ。正真正銘の英雄だろう。
「ハァ、仕方ないですね。でも、本来ならここで依頼達成なんですから、追加報酬をもらいますよ?」
キリトが折れた。
「仕方ないですね。追加で50万エリス出しましょう。」
え?一体、このクエストにいくらの報酬が付いてるんだ?
そんなに、俺たち煙たがられていたの?
俺は、その金額に戦慄した。そこまで出して俺たちをこの城から追い出したいって...
冷や汗をかきながら、場所を移動する俺たち。
「ねえ、ダクネス。この運び方はどうかと思うの。もうちょっと、私に優しくしてくれても良いんじゃないかしら?」
簀巻きにされたまま、ダクネスに担がれているアクアが主張する。
「私が、帰宅を主張した時に帰っていたら優しくしても良かったのだがな...これ以上、城の者たちに迷惑は掛けられないんだ。帰るまで大人しくしていてもらうぞ?」
ダクネスは、取り合う気は無いようだ。
「カズマ、大丈夫なのですか?キリトとカズマでは、戦闘力に差がありすぎます。今の内に謝った方が良いですよ?」
めぐみんが、心配して言ってくる。
「正面からやり合えば勝ち目は無いだろうけど、この俺が正面から戦いをするハズが無いだろう?」
そう言って、めぐみんを安心させる。
「そうですね。いつも小狡い戦いをしてきたカズマですからね。なんとか切り抜けられますよね。」
...自分から言っておいてなんだが...胸が痛いです...
そんな事を話していると、どうやら目的地に到着したようだ。
「ここは、普段城の兵士たちが訓練をする訓練所だ。ここなら多少、大きな技を使っても問題ない。」
クレアが言う。
「おい、アレ...黒の勇者じゃないか?」
「本当だ、閃光の姫騎士もいる。綺麗だなぁ。」
「バカ、勇者と姫は恋人だぞ?お前なんか相手にされるものか。」
「天魔の大魔導師、救世の聖女も...」
「うおおぉ。英雄をこの目で見れるなんて。」
兵士たちが俺たちに気づき騒ぎ出す。
お前ら...英雄なら毎日見ていたじゃないか...
「それでは二人とも前へ。」
クレアに促され部屋の中央で対峙する俺とキリト。
その雰囲気に、これから俺たちが一騎討ちをすることを察したのだろう。
騒いでいた兵士たちが一斉に静かになる。
それはそうだろう。英雄同士の戦いだ。皆、記なるだろうしな。
キリトは右手の剣を下げ、左手を付きだし半身になって構えた。
どうやら、キリトは二刀流を使う気は無いようだ。
これなら勝機はある。あのミツルギにも効いた手、これを使えばキリトがいくら強くても、なんとか勝てるハズだ。
「それでは...はじめ」
合図と共に飛びたす。
「いくぞキリト...『スティール』」
「!?」
俺はスティールを唱えた。狙い通り、キリトから剣を盗むことに成功する。
後はこの剣でキリトをノックダウンすれば...
って重っ...なにこの剣...重くて持てないんですけど...
俺が、なんとか剣を持ち上げようとしていると肩を叩かれる。
振り向くと、キリトが右手を抜き手の形に替えて俺の脇腹を付く...気のせいかその手が光って見えた気がする。
「ぐはっ。」
俺は、ぶっ飛んで倒れた。
「よし、今度こそ帰るぞ?カズマ。」
剣を拾いながら、話すキリト。
呆気ない決着に、周りが沈黙している...
その居たたまれない雰囲気のなか、俺は意識を手放した。
気がつくと、アクセルの自分の屋敷に戻っていた。
意識を失っている間に、アクセルに戻されたようだ。
「ああ、気がついたかカズマ。」
「大丈夫ですか?カズマ。」
めぐみんとダクネスが声をかけてくる。
「カズマったら、凄い負けっぷりだったわね。お城の人達、爆笑してたわよ?ぷーくすくす。」
アクアは、後で泣かしてやろう。
「キリトたちは?」
「もう、帰ったわ。明日、改めて顔を出すって言ってたわよ?」
仕方ない、自分で言ったことだしな。負けた以上、約束は守るとするか。
取りあえず、アクアを泣かしてから今後の事を考えるとするか...
幸い、金はたんまりあるんだ。
ゆっくり、まったりやって行くさ。
この素晴らしい世界に祝福を!
ちょっと息抜き的な話。