ようやく現実世界で再会したお母さん...
そのお母さんが、キリト君の方を見て話しかける。
「和人さんも、ようこそ。こうして、生身でお会いするのは、はじめてね。」
「はい。その節はありがとうございます。」
キリト君が、緊張した面持ちで答えた。
やはり、生身のお母さんは、迫力がある...
「良いのですよ?私たちは、義理とは言え家族ですもの。他人行儀は辞めましょう...」
お母さんは、キリト君の緊張を察したのか、表情を和らげて、話を続ける。
「それで...」
そして、キリト君の腕の中を見て...
「その子がこの間話していた、あなた達の子供ね?」
そう...今キリト君の腕の中には、私が生んだ私たちの子供がいるのだ。
ほんの2ヶ月ほど前に産まれた私たちの子供...
私の妊娠が発覚してから、この子が生まれるまで、私はALOへのダイブは禁止された。
キリト君の能力による母体への影響が未知数だった為だ。
キリト君も、私に遠慮してか、皆に近況を伝える以外でのダイブはしなかった。
そう言えば、この子を初めて見た時のユイちゃんは、物凄く喜んでいたなぁ。
「はじめまして。私はユイ。あなたのお姉ちゃんですよ。」
そう言ってから、しばらくこの子の側から離れなかったっけ...
ここに来るまでは、私が抱いていたのだけれど、この家でインターフォンを押すのは私の方が良いとキリト君が言い出したため、キリト君に預けていた。
「名前は確か...」
「...キリアスです。」
この名前はエリス様が付けてくれたんだけど...
正直...恥ずかしい...
私は、その時の事を思い出していた...
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「え?エリスに連絡取れないかって?」
私たちは、カズマの屋敷を訪ねていた。
アクアに、エリス様と連絡が取れないか聞くためだった。
理由は、先日生まれた私たちの子供に名前を付けて貰いたかったからだ。
「あ、俺、連絡付けられるぞ?」
そう言ったのは、以外にもカズマだった。
「ちょっと、カズマ...なんであんたがエリスと連絡取れるのよ...」
「そうだ。なんでカズマがエリス様と連絡取れるんだ。同じ女神のアクアならともかく、敬虔な信者の私にも無理だと言うのに...」
アクアとダクネスが驚いて、カズマに詰め寄る。
「いや...エリス様、時々この世界に降りてるんだよ。姿を変えて。...で、俺はその時のエリス様を知ってるからな...」
「え?あの子ったら、そんな事してたの?ど真面目なあの子にしては、珍しいわね...ねぇ、カズマ...」
「教えないぞ?エリス様に止められてるから...」
そんな二人のいつものやり取りは、スルーして...
「じゃあ、連絡取ってもらえないか?」
キリト君が話を続ける。
「良いけど、理由はなんだ?」
「ん?いや、まあ...その...なんだ...この子の名付け親になって貰いたいんだよ。結婚式ではアクアに活躍してもらったし、向こうへの帰還って言う俺の願いでも、お世話になってるしな。」
「なるほど...それは良い考えだな。と言うかエリス様に名付けて貰うなど、とてつもなく栄誉な事だろう。きっと良い子に育つぞ。」
ダクネスは、エリス教徒らしく賛成してくれた。
「そんな事をしなくても、名前なら私が良い名前を考えてあげますよ?」
めぐみんが、自己主張してくる...
「よぉし、わかった。エリス様に伝えておくよ。」
マズイと思ったのだろう...カズマがその言葉を遮るように大声で言った。
ありがとうカズマ...もしめぐみんに任せたら、とんでもない名前を付けられる所だった...
なにしろ、紅魔族のネームセンスは独特だからなぁ...
めぐみんの名前もそうだし、めぐみんが飼ってる猫には『ちょむすけ』...カズマの愛刀に『ちゅんちゅん丸』なんて名付けるし...
「頼むよ、カズマ。」
キリト君もカズマの話に乗っかり、なんとかめぐみんの名付けは阻止出来た。
それから一週間後...
私たちが、部屋で寛いでいると、
「キリトさん、アスナさん、それにユイさんも...お久しぶりですね。」
エリス様が降臨された。
「お久しぶりです。エリス様。」
「話はカズマさんから聞かせて頂きました。私に、その子の名付け親になって欲しいとか。」
「はい...図々しいお願いだとは思いますが、もし良ければ、生まれてくるこの子に名前を付けて上げて欲しいんです。結婚式では、俺たちを転生させてくれたアクアに司祭を頼みました...」
「だから、今度は俺たちを受け入れてくれた、この世界の女神である貴方にお願いしたいんです。」
「俺たちがこうして一緒にいられるのも、新しい命を授かったのも、この世界のお蔭ですから。」
うん。本当にこの世界には感謝している...
こうして、キリト君と結婚して...子供も授かって...
もちろん、大変な事や悲しい事もあった。
それでも私は、今幸せを感じている。
だから、感謝している...この転生を。
「私たちは、この世界の魔王を倒してもらいたいとお願いしていた立場ですから、そこまで感謝する必要は無いのですが...良いでしょう。魔王を倒した勇者の頼みとあっては無下にも出来ませんしね。」
エリス様は、そう言って微笑む。
「では、アスナさん...少しお腹を触らせて貰いますね?」
エリス様が、私のお腹を触ると目を閉じた。
数秒して目を開けたエリス様...
「貴方たちの子供は男の子の様ですね。」
そうか...名前を付けるのにも性別がわからないと付けられないものね...
「決めました。貴方たちの子供の名前は...」
『キリアス』
「キリトのキリと、アスナのアスを合わせた名前です。英雄の名前を掛け合わせた最高の名前だと思いますよ?」
そうだった...ここは洋名が基本の世界...
日本人っぽい名前なんてエリス様が付けるハズが無かった...
それにしても...エリス様...安直過ぎませんか?
...なんて言えないよね...スゴく良い笑顔だもん...
それに、自分達からお願いしたのに、気に入らないからやっぱり無し...なんて言えないし...
「あ、アスナさん?」
「ひゃい(ハイ)...」
動揺して、変な返事をしてしまった...
「お腹の赤ん坊が、無事出産出来るように、少しだけ私の加護を授けました。良い子を産んで下さいね?」
...そうだよね。名前よりも無事に産まれてきてくれたら、きっとそれが一番よね。
「ありがとうございます。エリス様...きっと元気な子を産んで見せます。」
エリス様は、私の言葉に満足したのだろう。天界に帰っていった。
「『キリアス』ですか。パパとママの名前を貰えるなんて、羨ましいです。でも...早く産まれてこないかなぁ。」
ユイちゃん...スゴいキラキラした目で、私のお腹を見てるけど...予定日はもうちょっと先だからね?
それから一月後...キリアスはこの世界に生を受けた。
周りの人たちは、皆祝福してくれた。
キリアスという名前も、私たちが有名だからか、直ぐに受け入れられて、ホッとしていた。
そして、現在...
「こんにちは。キリアスちゃん。おばあちゃんですよ。」
お母さんが、破顔した表情でキリアスをあやしている。
お母さんが、こんな顔をするなんて...
「ほら、三人とも?いつまでも玄関にいないで家に入りなさい。」
「ハイ。おばあちゃん。」
ユイちゃんは、真っ先に同意した。
そう言えば、ユイちゃんを知った後の、お母さんやキリト君のお義母さんは、ユイちゃんをとても可愛がっていたっけ...
「お邪魔します。」
キリト君の言葉に、
「和人君?ここは貴方の家でもあるのよ?」
久しぶりに、厳しい表情を見せるお母さん。
何を言いたいのかわかったのだろう。
キリト君は苦笑して、それから...
「...た、ただいま。」
そう言うのだった。
その言葉に満足したお母さんは、
「おかえりなさい。」
そう返した。
「ほら、アスナも...」
「ただいま。」
「おかえりなさい。」
ああ、本当に帰ってきたんだね。
ありがとう、キリト君。キリト君のお蔭だよ。
キリト君に感謝しつつ、私は家の中に足を踏み入れた。