やはり俺がシンフォギアの世界にいるのは間違っている 作:にゃにゃにゃす
「雪音クリス…現在16歳。2年前に行方不明になったギア装者候補だった人物ですね。」
二課本部のモニターには、件の少女雪音クリスの失踪時の新聞が映し出された。
掲載された写真の少女は、八幡が部屋に飾ってある写真の少女と同一人物。
「あの少女だったのか…。」
弦十郎には信じ難い現実だった。
過去にどれだけ捜索すれど、尻尾も掴めずにいた少女がよもや敵側にいるなど、完全に予想外であった。
「彼女は八幡が長年探していた娘でもあります。」
「翼!まったく、無茶しやがって。」
堂々と司令室へ入室した入院患者。
弦十郎が身内でなくとも、心配になる程の無茶をする姪っ子。
「弟と仲間の危機に伏せっているなどできませんでした。」
「翼さん!」
翼の言葉に響は感激し、嬉しそうに笑っている。
だが、それも束の間で笑顔が曇る。
今、ここに居ない八幡と保護された未来がその理由はだった。
必要とは言え、親友に嘘を吐いて隠し事をした罪悪感。
戦闘中に見た現実。
そして、今日知ってしまった新たなる真実。
「あの…ハチ君が二課に協力する為にいくつか条件があったって本当ですか?」
「それは!……そうだな。君は知りたいか?八幡について。」
「私、ずっとハチ君と居たのに…何にも知らなかったです。クリスちゃんの件だって、私だけが知りません。だから知りたいんです!」
「ふむ…わかった。了子君、アレを響君にも見せてやってくれ。あと彼が提示した協力条件もだ。」
「はいはーい。この櫻井了子にお任せあれぇ〜。ささっ、響ちゃん行きましょう。」
「え、あっ、ちょっ!」
了子に引っ張られて退室した響。
翼はその光景を黙って見送っていたが、その目は優しさが垣間見られた。
「さて、響君は退室した事だしー。」
「八幡についてですね?」
流石は姉と自称するだけの事はある。
弦十郎は深く頷き、こう切り出した。
「どう思う?」っと。
でも、通じる。それだけ八幡の状態がよろしくない。
「…1つは私の責任ですね。あの子をもう独りにしないと約束をしながらも、我を忘れて絶唱を解き放ち、一時は危篤状態。」
「その前には妹の様に可愛がっていた響ちゃんがギア装者になってしまうアクシデント。翼さんの件も、響ちゃんがいたから強がるしかなかったのよね…。」
「トドメには、この雪音クリスとの敵対。八幡君…大丈夫でしょうか?」
会話に参加した情報処理班の2人も心配な顔つきになっている。
それだけ、今の八幡は危ういのだ。
肉体であれば静養する事で解決できる。
しかし、心はそうはいかない。
「嘘つき呼ばれに攻撃の数々。対話は拒否だったそうだな。ハァ…普段が頼りになる分、今回は尚のこと心配にもなる。」
「頼りになる。いや、頼り過ぎたんだと思います。あの子は時々とんでもない馬鹿をしますが、基本的に冷静でいます。冷静でなければ白雪ノ華の妖刀としての負の力に呑まれてしまう…しかし、最近色々な事が立て続けに起き、冷静さを失いつつあります。負の感情…主に怒りの感情が目立ちます。」
翼の見解に一同はまた深いため息を漏らす。
弦十郎は病院で見た八幡の紅い眼の事を思い出したが、閉口する。
今、あの時の事を言えば更なる混乱に繋がりかねない。そう自身を納得させ、秘匿に走った。
ここで、ふと藤尭は気づいた。
「…ん?そういえば八幡君は今どこに?」
「私は止めたのですが…雪音クリスの探索を行っています。」
「戦闘の後ですよ!?一時は意識だって失っていたのに…。」
「好きにさせてやれ。今は、大人として見守ってやるしかあるまいよ。」
◇◇◇◇
雪音クリス。
長年探していた彼女とは最悪なタイミングで再開を果たした。
彼女と話しがしたい。
その一心で夜通しバイクを走らせ、彼女の捜索を行ったが見つからず仕舞い。
焦る気持ちが先走った俺は、姉さんから怒られるまで捜索を続けた。
仮眠を取り、学院をサボってクリスの捜索はを継続していたが成果ゼロと実りのない1日となった。
そして現在。
深夜とまでは行かないが、遅い時間に俺はサイゼにいた。
理由は呼び出されたから。
まぁ、後で話すって言っちゃったし?仕方ないか…。
しかしながら、向かい側に座った人物はムスッとして私怒っています!と態度で示していた。
視線も合わせようとせず、メニューと睨めっこ。
ハァ…。
「…未来、話しを聞くつもりがないなら帰ってもいいぞ?」
「えっ!?」
俺の発言が予想外だったのだろう。
未来は俺が謝罪、もしくは言い訳をすると思っていたんだろうが俺はそんな気は毛頭ない。
だって、俺悪い事してねぇし。
「緒川さん達に話しを聴いたろ?俺は確かに隠し事をしていた。だが、それはお前達を守る為だ。…未来、今回の騒動に巻き込んだ事には謝罪はする。だけどな、これまでの事については謝らないし、悪いとは思ってねぇ。……それに、お前のその態度はなんだ?怒ってるのはまぁいい。だが、さっきも言ったが聞く気がないなら帰れ。俺もやらなきゃならん事があるんだ。」
捲したてる俺に未来は口をあんぐりと開けて固まった。
君のそんな顔初めて見たわ。
美少女が台無しですよ?
「で、どうすんの?聞く聞かない、どっちだ?」
「…聞く。聞かせて。」
理解はしたが納得はしてないって感じだな。
お前は俺の姉かよ。
頼むから納得もしてくれ。
ため息は止まらず。
聞くと言う未来に掻い摘んでこれまでの事を話した。
「だから、風鳴翼さんと仲が良かったんだ…。」
「まぁな。話しはだいたいこんなもんだ。質問は?」
「…おじさんが亡くなった理由はノイズと戦ったからなの?」
「…あぁ、そうだ。親父は陰陽師として命懸けで務めを果たした。そして、俺も務めを果たしている。」
「…怖くないの?」
あぁ、怖いさ。怖いに決まったる。
死ぬ。そう思った事は何度も何度もあった。
その度に生への喜びと感謝をしたものだ。
でも、自身の死よりも恐れてやまないものがある。
「俺は、大切な人達を失う方が何倍も怖ぇんだよ。だから、戦う。守りてぇからよ。」
「…そっか……私達が知らないだけで、ずっと守られていたんだね。……ハチ君、守ってくれてありがとう。」
「ーッ!!……あぁ。」
溢れた嬉しさに蓋をする。
でないと余計な物まで目から出てきそうだったから。
ありがとう
たったそれだけの感謝の言葉だけで、こんなに嬉しく思えるのは何故だろう?
……あ、そうか。
俺、戦って初めて身内から感謝されたんだ。
だからこそ……か。
「さて、話しはお終いだ。もう遅いし帰るぞ。」
「うん。送ってくれるよね?」
「当たり前だ。」
会計を済ませて帰路につく。
幼馴染みーズが住まうマンションに着いた。
「未来、響と仲直りしろよ?」
「バレちゃうよね、やっぱり。……私、怖いの。響が居なくなっちゃうんじゃないか……独りで何もかも全部抱えてるんじゃないかって……」
「だからこそだろ。全部知ったんだから、お前が響を支えてやれ。帰る場所でいてやれ。それが一番響に必要なんだからよ。」
「……うん。わかった。」
「ならば良し。じゃ、俺は帰るぞ?おやすみ。」
「おやすみ。」
こうして、俺は我が家を目指した。
だから、未来の呟きは聞こえやしなかった。
「私は心配だよ。いつも黙って独りで抱え込むハチ君が…堪らなく心配だよ。」
翌日、外は生憎の天気だった。
余談だが昨日の深夜から早朝にかけて、あの嫌な気配を市街地から感知。
しかも連続で。
マンションから単騎で出撃し、ノイズは全て殲滅した。
…寝かせておくれよ。
前日の戦闘後に夜通しの捜索と、やった事は自業自得だよ?
でもさ…いくらなんでも深夜から早朝はダメだろ。
空気読めやクソノイズが!
ってなわなけで、本日も学院をサボることにした。
だって眠気がヤバイんだもんよ。
とりあえず林に休むとメッセージを送る。
内容は
脳内で飼ってるスフィンクスが風邪引いたから休む
である。
眠くて深夜テンションにも近い今の俺は、このメッセージに何ら疑問を抱くことなく送信した。
すると僅か2分後にスマホが光って着信を報せる。
林か…返事早くね?
なになに……
教師にメッセージ内容をそのまま伝えたら怒られただぁ?
コイツ…由比ヶ浜とベクトルの違う阿保だったのか。
脳内小林プロフィールに"意外じゃないが阿保である"を追加し、深い眠りに落ちた。
それから4時間後。
昼を過ぎた辺りで、目が覚めた。
少しスッキリした気持ちでカーテンを開く。
運良く、朝方に降っていた雨は止んでいた。
これならバイクでの捜索は出来そうだな。
寝起きのため軽めの昼食を摂り、今一度市街地へと繰り出した。
人が集まりやすい場所や、あらゆる分野の店内を片っ端から探す。
彼女の写真を持ち、聞き込みもしたが成果のないまま2時間が経過した。
ーキィンッ
「またか…この短期間って、人為的だろ、これ。」
ゲンナリとする。
3日続けての戦闘なんて人生初めてだよ。
アクセル全開でバイクを走らせる。
ハァ…確実にソロモンの杖が使われているよな…。
その上、こう短期とあれば間違いなく緋維音の野郎は自在に操ってやがる。
感知した方角へと向かうも、街には既に警戒警報が発令されていた為、多くの人々がこちらに向かって逃げていた。
バイクはここまでだな…。
脇道で停車し、細い路地へと駆ける。
「だったら跳ぶだけだ。」
建物の壁を左右交互に蹴って上へ登っていく。
屋上につけば、あとは屋根伝いで跳んで行けばいい。
漆黒の鎧を起動し、白雪ノ華を握り建物を跳び越えていく。
感知した方角は確か大きめの河付近だった…あッ!!?
大きく河川敷付近の建物へ跳んだ時に見えたのは銀髪の少女だった。
丸2日探していた人物の発見に胸が高鳴った。
とは言え、彼女の置かれている状況は宜しくない。
ノイズが彼女を囲んでおり、退路がないのだ。
「Killter Ichaivーゲホッゴホッ!!…あ……。」
シンフォギア・イチイバルを起動しようとしたクリスの歌が途中で咳へと変わった。
苦しむクリスなど、御構い無しにノイズが彼女を貫かんと次々に飛び立つ。
「させるかよ!」
取り出した呪符を数十枚を一気に投げつけた。
クリスの数メートル先で展開させ、衝突したノイズ供は悉く雷に打たれて消し炭になる。
「これって…。」
「八幡の仕業さ。」
ここで、ふと視界に赤いシャツのオッさんが見えた。
オッさんはクリスを抱きしめると、俺が着地した建物へと跳び、見事な着地を決めました。
……待て待て。おかしい。絶対におかしいって。
司令はギアも鎧も纏っていないただの人間だぞ?
ただの人間がジャンプで5階以上の建物、しかも屋上まで跳べるわけないだろ!
そんな跳べるならM印の赤い帽子を被ってください。ついでにキノコ食べてデカくなってください。
それなら納得でき……
やっぱり理解も納得もできそうにねぇや。
……。
…うん、現実逃避はここまでにしよう……
深呼吸をし精神を落ち着かせる。
そして、白雪ノ華の切っ先を司令の眼前に突き付けた。
「こンのロリコンがぁぁあ!」
「なんだその誤解は!!?」
驚愕する司令だが、今の自分を是非とも鏡で見て欲しいですこん畜生。
「クリス、抱きしめた!離してない!特殊性癖!ロリコン!」
「語彙力どうした!?ほら、離したぞ!……ん?なんで君は蔑んだ目で俺を見てるんだ?」
クリスは司令からゆっくりと離れ行く中で、自分の身体を抱きしめ、終いには司令をゴミを見るような目で睨んでいた。
「オッさん…ロリコンなのかよ。普通に引く。」
「違うぞ!?八幡、お前のせいで有らぬ誤解が生まれてしまったではないか!」
普段の余裕たっぷりにドシッと構えている司令だが、今のその姿は見る影もない。ざまぁ…。
べ、別に司令が羨ましかったとかじゃないんだからね!?
狡いとか、そんな事思ったわけじゃないんだからね!!?
お?
「そいや。」
飛んできたノイズを呪符でボカンッ!とする。
「そんな、やる気も覇気もない声で敵を屠るな。こちらの気が抜けるだろうが…っと、おふざけはここまでだ。八幡、俺は避難誘導の指揮を執る。大丈夫だな?」
「えぇ。クリス、お前は司令と一緒に避難してくんない?」
「はっ誰がお前の言うことなんて聞くかよ。そもそも、ノイズ供の狙いはアタシだ。邪魔すんじゃねぇ。……それにロリコンと一緒になんて避難したくねぇ。」
「誤解だからな!?」
「必死なのが余計怪しんだよッ!ーKillter Ichaival tron」
赤い色のシンフォギア・イチイバルを身に纏い敵へ光の矢を連続掃射していくクリス。
彼女は最後まで司令をロリコンと勘違いしたままだった。
誤解を作った犯人である俺は、司令の肩をポンと軽く叩いてからクリスに続いて地上へと飛び降りた。
……許せ風鳴司令。
出来心でやった。しかし、悔いはないッ!!