やはり俺がシンフォギアの世界にいるのは間違っている   作:にゃにゃにゃす

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第14話

やれやれ、いつになったら八幡は他人に甘えられる様になるのやら。

最近は少々頼られていたから忘れていたよ。

本当に大切な事は己で抱え込むタチだってことは、共に過ごした2年でわかっていたのにな。

 

 

「でぇ?ロリコン親父がアタシになんの用さ。」

 

……アイツ時々とんでもない馬鹿な事をすると前々から思っていたが、よもや俺が被害に遭うとはな…本当に困った部下だよ。

 

「まずは訂正して欲しい。俺はロリコンではない。」

「あぁ、そうかよ。っで?」

「信じてないだろ……はぁ。これを見たまえ。」

 

そう言ってタブレットを鞄から取り出し、クリス君に渡す。

怪訝そうにそれを受け取り、画面と睨めっこしながらもこちらを警戒している。

まるで借りてきた猫だ。

 

「なんだ、これは?」

「それは八幡が嘘つき野郎かどうかを知るデータだよ。まぁ、読んでみる事だな。」

「ハァ??…このデータに信頼性なんてあるのかよ?」

「いざとなると口下手になる八幡よりは、な。」

 

舌打ちをし、彼女は画面に集中する。

2年前に奏が、翼と八幡の仲を取り持つ為に用いた方法をまんま使わせてもらった。

 

さて……上手く行けばいいのだが……んん??

 

写真立てが…ワザとなのか?

 

まぁいいか。

 

 

「オイ…。」

 

ドンッ!と音を立てたのは彼女の拳だった。

叩きつけられたテーブルは軋み、僅かに揺れた。

 

待つこと、時間にしてみれば10分やそこらだった。

拳を叩きつけたまま、タブレットを見ていた彼女が俺に問う。

 

 

「コイツはどう言う事だ?八幡が…陰陽師?ガキの頃からノイズと戦ってたってのか?」

「間違いなかろう。そこに記された通り、アイツは幼少期から父親の比企谷七弥により鍛えられた。君もギアも纏わずに戦う八幡を見ただろう。」

「なんで……おじさんが…死んだ…?」

「あぁ。よりにもよって八幡の目の前でな。」

 

俺の言葉に雪音クリスは、身体が小さく跳ねた。

 

驚愕に染まる彼女。

タブレットは小刻みに震え、額には汗が浮かんでいる。

あからさまに動揺している彼女だが、アイツの悲劇はまだ終わらんよ。

 

 

「それだけじゃないぞ。父親の死後、彼の弟子だった者を師事したが、3年前にその師さえノイズ戦で殉じている。」

「……。」

「悲劇だよな。アイツ、ウチに所属するまで、ずっと独りだったんだよ。独りで強くなり、独りで戦い、独りで立ち向かって……そんなアイツがウチに所属する時に提示した条件がその下に記されているよ。」

「………ッ!!?」

 

呼吸が止まったのが分かった。

目の前に記された比企谷八幡の所属に対する条件。

その内容に彼女は動揺するのは仕方のない事だ。

 

「家族の比企谷家と、家族同然の立花家・小日向家の安全保障と災害時の優先避難。次が母親に二課所属となる事への情報開示に、家族を養う為の固定給。そして、1番彼が重要視して出した最後の条件。それはー……」

 

とうとう持てなくなり、タブレットはテーブルに伏した。

 

やれやれ、それ…高かったんだぞ?

雑に扱うもんじゃないってのに…。

 

拾ったタブレットの画面に記された内容。

それは

 

NPO活動中に死亡した世界的ヴァイオリニスト雪音雅律と声楽家のソネット・M・ユキネの娘・雪音クリスの捜索。

 

「…嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッ!!アイツは私のことなんて「忘れてなんかいないさ。その証拠がそこにある。」

 

指の先。

そこには伏せられた写真立てがあった。

 

やれやれ、アイツ絶対にワザと倒してたな。

理由は恥ずかしいからとか、そんなところか。

 

雪音クリスは脚を震わせながら、ゆっくり一歩…また一歩と踏み出し、それを手にした。

 

「……ッ!」

 

息を飲む音が微かに耳に入った。

背中を見せる彼女が、今どんな表情をしていたのか分からない。

ただ、その写真立てを優しく抱きしめ、肩を震わす姿を見ればなんとなくわかるがな。

 

「アイツはずっと君を探していた。七弥氏が生きていた頃は頻繁に南米へ渡っている。亡くなった後も1人で金を貯めて、そして何度も訪れていた。これが、八幡の搭乗記録と記録映像の写真だ。」

「……。」

 

顔は下を向いたまま、手に持つ資料を奪い取る彼女。

 

「なんで…どうして……私はッ…!!」

 

強く握られた資料はグシャグシャになり、大粒の涙が床に溢れていく。

知ってしまえば、自己嫌悪に陥ると思ったが……やはりか。

 

「クリスは何も悪かねぇよ。悪いのは全部俺だ。」

「八幡ッ!?お前聴いてー…」

 

リビングにはいつの間にやら八幡がいた。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

聞き耳立ててたが……司令、何してくれてんの?

 

「本人に無断で個人情報を開示しないでくださいよ。」

「ハッ、何を今更。」

「鼻で笑わないでくれません?」

 

よし、決めた。

司令がロリコンだって言うデマを積極的に流してやろう、そうしよう。

名付けて、八幡の逆襲。

 

「は、八幡…アタシ……。」

「あ〜………。無事で何よりでした。」

 

もう…ね。

何も言えないんだわ。

言いたいこと全部、司令が言っちゃったし…証拠付きで。

 

「なんッ…で…!アタシはお前に酷い事言ったんだぞ!?嘘つき呼ばれした!武器だって向けたし、ミサイルだって撃った!……なのに、何で責めないんだよッ!?」

「…俺は約束を果たせなかった。だから嘘つき野郎だし、ミサイルは……まぁ姉さんが防いだし結果オーライ的な?」

「違うだろ!お前は…八幡は約束を守ろうとしてくれた。なのに、アタシは……何も知らないのに…知らなかったのに…クッ……うぅ……」

 

 

クリスの止まっていた涙がまた溢れていた。

ギュッと服の裾を握りしめて、堪えようとしているが流れる涙は止まらない。

 

「クリスとまた会えた。こうして話しができている。俺はそれが嬉しいんだ。……だから、泣くな。自分を責めるな。お前は何も悪くないんだ。クリス言ったろ?沢山酷い目に会ったってさ。……ごめんな、助けてやれなくて。」

「謝るなよ!…八幡だって、辛かったんだろ!?おじさんも師匠も死んで悲しかったんだろ!!なのに……なんで…。」

「クリスだって同じだろ?…雅律さんもソネットさんも亡くなってさ。辛くて、悲しくて、苦しんで、傷ついて…なのに……なのに俺は約束も守れず、お前を助ける事もできなかった…ッ!俺はいつもそうだ!力が足りない、間に合わないッ!だから、いつまでも何も守れやしないんだ!親父も、先生も、奏さんも…みんな…みんなぁッ!!」

 

 

溢れ出した感情は激しさを増した。

止まらないし、止められない。

心の奥底に仕舞い込んだ後悔と自分への憤りが、決壊したダムの如くどんどん…どんどん溢れ出ていく。

ノイズへの憎しみも。

失った悲しみも。

自分自身への憤りも。

 

「八幡…?」

「いなくなるのは…俺で良かったのに。」

 

ポツリと落っこちたのは本音だった。

 

「…いい加減にしろ。」

 

乾いた音の後、頬に熱と痛みが走った。

ふり抜かれた手の平が、やけに大きく見えた気がした。

 

陰ながら支えてくれ、いつも顔に似合わない優しい瞳をしている司令。なのに、今は悲壮に満ちた目をしていた。

 

「いなくなるのは自分で良かっただと?…お前のその言葉は死者への冒涜だぞ。」

「どこがですか……親父や先生は俺より格段に強かったんだ…だったら、2人が生き残ってる方が遥かに合理的だッ!姉さんの隣りだって、俺じゃなくて奏さんが立っている方が良いに決まってる!」

「それは翼がそう言ったのか?…違うな、お前の勝手な解釈に過ぎん。それに先に逝ってしまった3人はお前を守りたくて命懸けで守ったんだぞ。……なのにお前は何故、そこまで自分の存在を否定する?」

 

そんな事は言われなくても分かっている。

でも、それでもー!

 

「俺は…ッ!……俺は俺が許せない。いつも何も守れない…口だけで何もできない自分が許せないッ!」

 

昂ぶった感情はら俺の真の想いを声にして外に出した。

許せなかったのは他でもない自分自身。

近くに居ながら、何もできない自分が許せなかった。

 

辛いも苦しいも悲しいも、何も成し得ない自分への罰だと…自然とそう思える程に、俺はどこか異常なのだろう。

 

でも、それでいい。

俺は幸せを感じてはいけない。なっちゃいけない。それだけは、許されないのだから………

 

 

 

「だったらアタシが許す!八幡が許せなくても、アタシが許す!」

「ーッ!?」

 

クリスのその言葉が荒ぶる俺の心を射抜いた。

涙ながらに抱きついてきた彼女。

 

許す…俺を??

だって、俺はクリスとの約束を守れなかった。

親父も先生も奏さんだって、俺は助けれなかったのに…

 

 

「俺もだ。例えお前がお前を許さなくとも俺やクリス君、翼や響君だって許すさ。だから…もういいんじゃないか?彼女も八幡も十分苦しんだ。だから、もう良いんだ。もう苦しい思いも、悲しい思いもしなくていい。2人ともただ幸せになれば良い。それだけの事だ。違うか?」

 

 

幸せ…そうなることは許されない…はずなのに…!

 

なりたい…幸せに満ちた人生を送ってみたかった。

 

 

…だけどッ!!

 

「八幡…アタシは幸せになっちゃいけないと思うか?」

「そんなわけないだろ!沢山辛い思いをしてきたんだ、幸せにならなきゃおかしいだろ!」

「そっか…そうだな。……だったらさ、八幡も幸せになっていいんじゃねぇのかよ!?アタシが良くてお前がダメなんてのは間違ってる!」

「……。」

 

いいのだろうか?

俺なんかが人並みに幸せになって…本当に?

 

ギュッと更に抱きついてくるクリスに、自然と口角が上がる。

 

ありがとう。

そう心で感謝し、真っ直ぐ彼女を見つめる。

 

「善処…する。……だから俺と1つ約束してくれないか?」

「約束……?」

「あぁ、約束だ。……もう居なくなるな。ずっと傍にいてくれ。」

 

俺はクリスを抱きしめ返した。

嫌がれて抵抗されると思ったが、彼女は更に抱きつき大声をあげて泣き出してしまった。

昔、そうしたようにクリスの頭を優しく何度も何度でも撫で続けた。

 

泣き止んだら、沢山話しがしたい。

ただ、それだけでいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泣き疲れて眠ってしまったクリスをソファーに寝かせる。

今更ながら、さっき言ったセリフが俺を悩ませる。

 

『……もう居なくなるな。ずっと傍にいてくれ。』

 

ぬぉぉおおぉッ!!やっちまったぁあああぁ!!

なんでなん!?

なんで最近、黒歴史製造マシン化してんの!?

しかも、人前で!

 

「八幡…恥ずかしがってるところ悪いんだが、今後の方針を決めたい。」

「あ、はい。……んん。クリスはヤツに追われてますから、暫くはウチで保護したいです。」

「それが良いだろうな。彼女にとっても、無論お前にとっても。彼女の件は俺と緒川しか知らないからな…。他に悟られるなよ?それと念の為だ。この通信機を彼女に渡してやれ。あとは必要なものがあれば言ってくれ。」

「了解。…司令、この度はありがとうございました。」

 

頭を下げると司令がギョッとする。

 

「よせよせ。…俺はな、お前よりも少しばかり大人だ。だから偶には甘えてもいいんだぞ。」

「…はい。」

「八幡、ちぃとばっかし説教臭くなるが聴け。お前さん、いつも自分よりも他者優先ばかり。その生き方は自己犠牲と言うより俺には破滅願望にさえ見える。……なぁ八幡。少しは、自分の為に生きてもいいんじゃないか?」

「……よく…わかりません。自分の為に生きるって…。」

 

幸せとは程遠い人生を望んで歩んできた。

許せない自分を戒める為に、身体に鞭を打ち戦ってばかりいた。

守りたい者を守る為なら自分なら死んでもいいとさえ、本気で思っていた。

 

だから、自分の為にってのが良く分からねぇ…。

 

「…俺が2年間で見てきた比企谷八幡ってヤツはな、嬉しそうに笑ったり話したりするのは家族や仲間の事ばっかりだ。自分の事なんてそっちのけでな。……お前はお前の為に笑ったりしていいんだ。人に甘えたい時は甘えればいい。難しいことじゃないだろ?」

「……。」

「今わからなくても、いつか分かればそれでいいさ。…それから自己犠牲は時に他者を傷つける。それだけは覚えとくんだ。」

「…はい。」

「まぁ何がともあれ、良かったな。彼女とまた会えて。」

「はい。」

 

それは、今日1番の良い返事だった。

司令はそう言って帰っていった。

 

再び会えたクリス。

……分かり合えた。分かってもらえた。

許してくれた。幸せになりたい、一緒に。

 

だから、教えてやらなきゃならない。

暗い世界にいた彼女と自分に暖かい世界を。

でも、まぁ…その前に

 

「まずはテーブルマナーから教えなきゃだな。」

 

ひとり言は静かな笑い声に掻き消された。

今日は久しぶりに良い気持ちでいる。

最近は、なにかとあり過ぎたしな。

 

ソファーで眠るクリスの穏やかな顔を見ていると、こちらまで眠くなってくるな……。

 

夜通しの捜索に、未来との話し合い。

また捜索に戦闘……そら、眠くもなるよな。

 

言い訳のような胸の思いを正当化し、俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?ここは……!」

 

崩れた街並み。

建物は軒並み崩れ、道路は陥没し、電柱は倒れていた。

 

俺は此処を知っている。

 

 

ふと、目の前を影が横切った。

 

「…3年前の俺か……。」

 

歯をむき出しで、怒りを込めた斬撃でノイズを屠る3年前の自分がいた。

技と呼ぶには烏滸がましい稲妻を放ち、ただノイズを破壊する。

時には拳で殴り脚で踏み付け、白雪ノ華で斬り裂く。

 

上げる雄叫びは怒りか、悲しみか。

涙を流す紅い目は、闇夜に光った。

 

 

 

その最中、世界が止まった。

 

ノイズも、舞う砂塵も、空飛ぶ鳥たちも、みんな止まった。

停止した世界の中で、3年前の俺だけがこっちを見ていた。

瞳孔の開ききった赤い目は闇の様に深く、全てを吸い込みそうな程に暗い。

 

そして、ゆっくりと動いた口で告げられた。

 

《人殺シ》

 

 

「ーーっ!!?」

 

 

 

……うげぇーー……最悪の目覚めだ。

あんな、気持ちの悪い夢久々に見たわ。

眠る前はあんなに良い気持ちだったてのに……

 

ん?

 

「〜♪〜〜♪」

 

鼻歌が聴こえる。

割りと間近から…っていうか直上から。

 

……ウチのクッションって、こんな暖かくて柔らか素材だっけ?

違うよね。これは…よもや!?

 

意を決してバッ!っと天を仰ぐと、驚いたクリスと視界が交わった。

割りと至近距離で。

 

つまり…えっと?

 

「膝…枕……だとッ!?」

「お…お、起きるなら起きるって言ってから起きやがれ!」

「そんな無茶な……あだぁッ!!」

 

立ち上がったクリスのおかげで、床とお顔がゴッツんこ。

ふつうに痛てぇよ……。

鼻、折れてないよね?

 

「……なんで膝枕?」

「違っ……あ、あれは……そのぅ…」

「あ、うん、もう良いや。」

 

しどろもどろになるクリスを見ていると、もう良いやって。

 

「うぬぬッ!」

「…2人とも起きた事だし、これからの事を話さないか?」

「…わかった。…………私はこれから、どうしたらいいんだ?」

「えぇー……。」

 

話し合いを提案したら、3秒で終了しちゃったよ。

 

「……そうだな。とりあえず、騒動が治るまでは、この部屋で過ごしてもらうとして……。なぁ、緋維音について何か情報はないのか?」

「緋維音じゃない。フィーネだ。……話したくない、っていったら?」

「無理に聞く気はねぇよ。……まだ奴を信じてるってんなら、しゃーなしだろ。」

「……変な奴だな…。あ、昔からか。」

「まぁな。」

「肯定すんのかよ。ホント変な奴だな。」

 

フフッと笑うクリスに釣られて俺も笑ってしまう。

再会は最悪だった。

でも今は最高だって言える自信がある。

 

「明日は一度外に出るぞ。必要なモノ買わないとだからな。」

「必要なモノ?食いもんか?」

「お前の衣類だよ。それ一着じゃな困るだろうが…。」

「べ、べつに困りゃしねぇよ!」

「あーはいはい。寝巻きとかも必要だな。あと生活上の消耗品。ってなわけで、買い物は決定事項だ。いいな?」

「わかったよ…。仕方ないから付き合ってやらぁ。」

「いや、君に必要な…はぁ、もう良いや。」

 

上から偉そうに言いながらも、嬉しそうな彼女にため息がこぼれた。

 

林ぃ……ここに本物のツンデレがいるぞ。

 

とここでスマホが着信を知らせる。

相手は響か。

……なんだろう…すっげぇ嫌な予感がする。

 

「…もしもし?」

《あ、ハチ君。明日、デートしよ!デート!》

 

……ふぁッ!?

 

 

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