やはり俺がシンフォギアの世界にいるのは間違っている 作:にゃにゃにゃす
鉄の軋む音が耳に木霊し、時折ガタンっと音をたて車内は揺れた。景色が移り変わる窓の向こうでは朝日が昇り始めている。
1ヶ月前よりも少し暖かく感じる陽の光がジンワリと身体に熱を与える。
前回と同じく、変装を施した俺とクリスは電車で我が千葉県にやってきた。
駅のホームへ降り立つと、朝の爽やかで少しだけ冷たい独特の空気が迎えてくれた。
うむ、やっぱ千葉の空気は一味違うぜ!
「さぁて…こっからは歩きだ。結構歩くけど。」
「最近はお前の部屋に篭ってたから丁度いいさ。」
軽くステップを踏み、歩き出したクリスは上機嫌だった。
そら、毎日部屋ん中だからな。外に出れて嬉しいわな。
俺なら永久に篭れるけどな!
「なぁ、今日は学校休んでよかったのか?」
「少しくらい構わねぇよ。こう見えて俺ってば成績優秀だから。」
「はい、ダウト。」
「嘘じゃないからね…。」
失礼なヤツめ。
これでも元学年主席だぞ!……出撃回数が右肩上がりになるにつれ、比例して成績落ちてるけど。
「でぇ?どこに行くんだよ?」
「……親父の墓参り。今日が命日だし。」
「はぁッ!?そうならそうと早く言えバカ!」
「はいはい、悪うございました。ほら、置いてくぞ?」
荒ぶるクリスをのらりくらりと宥めながら、ゆらりゆらりゆり…ゆっりゆっらっらと歩む。
生まれ育った街をゆっくりと歩くのは実に2年ぶりだった。
故に地元で見馴れた景色は幾ばくか違っていた。空き地にはコンビニが建っていたし、雑木林は保育園に様変わりしており、2年と言う時間の重みを感じつつ、少々寂しくもあった。
「……。」
「……。」
感傷に浸ってる俺に気を使ったのか、クリスは静かにちょこちょこと背後からついてきていた。
やがて視界に2年前まで通っていた中学校が見えてきた。
『ハチくーん!はやくはやく!』
お調子者の響がいた。
『ハチ君おはよう。』
しっかり者の未来がいた。
『はちまーん。おはよう!』
初めての男の娘…じゃなくて友達できた。
『せーんぱい!愛しのいろはちゃんですよ♡』
あざとい後輩ができた。
『あ?』『ん?』
獄炎の女王とヤンキー娘が怖かった。
『俺は君が嫌いだ。』
ムカつくイケメンリア充がいた気がする。
『ヤベぇっしょっ!?それはヤバイっしょ!!』
黙れ戸部。
『我こそは剣豪将軍なりぃぃッ!』
なんか居たわ。
「……どうかしたか?どんどん目から光が消えてたぞ?」
「いんや、昔の事を思い出してただけだ。大した事じゃない。」
途中までいい感じの回想が台無しだ。
剣豪将軍って誰だっけ?……まぁいいや。
『比企谷君。』『ヒッキー!』
アイツら、元気かな?…元気だろうな。なんせ俺が居なくなったんだし?仲良く百合百合してるんだろうよ。
アイツらと過ごした1年と少し……俺は嫌いじゃなかった。
放課後になれば、あの教室に行った。
室内に広がる紅茶の匂いも味も……アホの子が錬成した木炭クッキーは…うん、忘れたい。
部活仲間と呼べる彼女達とは、ぶつかり合って、傷ついて、傷つけて、すれ違った。それから初めて胸の想いを打ち明けて、そしてー……
唯一捨てきれなかった中学での思い出。
苦く、辛く、でも輝いていた時間。
懐かしいと思ってしまえるほど、俺は遠くに行ってしまった。行って戦って、変わったのか変えられたのか……成長したのだとは思う。
今の俺を見て、アイツらはなんて言う?
《目が濁ってないッ!?》
ククッ…これだろうな。
「ん?なんか楽しそうだな。」
「なんでもねぇよ。ちょっとペース上げるぞ。」
「あ、おい。アタシを置いてくなッ!」
置いてかねぇよ、バーカ。2度と居なくなるなっつーの。
…ん?あンれぇ!?カフェの窓ガラスに反射した自分の姿を見て驚愕。自然と笑顔になってるよ俺…。
『貴方の笑顔は気持ち悪いわ。比企谷菌』
『ヒッキー、マジキモい!』
やかましいわッ!!
◇◇◇◇◇
比企谷之墓
とある山の中腹付近にそれは建っていた。
去年は友里さんに車出してもらったから楽だったけど、案外急勾配の坂でビックリ。俺は大丈夫だったが、クリスの息か絶え絶え状態になってしまった。
ショルダーバッグから線香を取り出し、ライターで直火。
明らかなるマナー違反であるが、親父の性格だと気にもしてないだろう。
一般常識が欠如しているクリスは、俺の真似をして線香を立てた。
揃って合掌し、瞼を下ろした。
親父、こんな若くて可愛い女の子に線香立ててもらってよかったな。
……あ、美人局じゃねぇからな?雪音クリスだから。アンタの親友の娘だかんな?
……親父。俺が安倍家の責務を果たす。緋維音から人々を助けてやらぁ。だから、見ててくれ。
1人じゃない。仲間もできた。だから……
「先生と一緒に、そっちで酒呑みながらでも見守ってくれ。」
「……。」
墓に話しかけたとて、当たり前だが返事はない。
「…行くか。」
「ん。」
短い返事でトコトコと背後から付いてくるクリス。
今年は去年より滞在時間は短かったが、気持ちは晴れやかだった。
振り返るとクリスが首を傾げる。……可愛いな、オイ。
「どうかしたのか?」
「いや、別に…。朝飯食ってくか。何がいい?」
「あんぱんッ!」
君、そればっかりだよね。
たまには、もっと高いモノでもいいんだからね?
結局、駅近にある朝から空いてるカフェに入りモーニングを済ませた。
再び電車に揺られ、街に戻り、変装を口実にクリスと散歩に興じる。
まぁバレなきゃ犯罪にならないって、何処かのニャルラトホテプが言ってたし大丈夫だろ。
そもそも犯罪じゃないしな。
合意の下で部屋に匿ってる。ただ、両者が未成年の男女ってなだけだ。
ダメな気もしないわけでもないわけでもないがな。
つまり、だ。俺とクリスは悪くない。世界が悪い。
そうやって勝手に世界に罪を着せた翌日。
授業も終わり、現在二課本部の休憩所でマッ缶で一息ついていた。
今日はとある人物に届け物があってやってきた。
ライブのリハ後に来るとは聞いていたので気長に待ちますかね。
「あ、ハチくーん!」
「おう。響と…君はなんでいんの?」
休憩中に響の乱入なんぞは当たり前と化していたが、今日はここに居るには不可解な人物が隣りにいた。
「その事でハチ君にお話しがー…ね、未来。」
「あのね、私も二課に協力する事にしたの。ハチ君も響も戦ってるんだし。せめてサポートだけでも…って。」
このパターンは完全に想定外だった。
響の帰る場所で居てやってほしいとは言ったが…それは二課の手伝いとイコールでは断じてない。戦いに身を投じているから解る。
戦いに戦いを重ねて行くと色々と変化してしまう。
戦いが当たり前になって、生き残る度に死は遠いモノだと錯覚したり、だ。
だから、未来には平和な世界にいて欲しいのだ。戦いで擦り減る響の常識や精神を未来に癒して欲しいと願ってたのだが…。
「はぁぁあ〜…。」
「盛大に溜息だね。実はハチ君が嫌がるのは分かってたよ。でもお願い。私だけ守られてるだけなんて嫌なの。微力だけど、2人を私なりに支えたい。」
「…俺たちは命懸けで戦うんだ。遊びじゃないんだぞ?」
「わかっているつもり。」
「俺や響が目の前で死ぬ可能性だってあるんだ。」
「ん、見届けさせて。」
やはりと言うか、退いてはくれないよね。君、愛らしい見かけによらず頑固だもんね。しかも超がつく程に。
…はぁー…何で、巻き込みたくないってのに…。
「わかった、無理だけはするな。言っとくが納得はしてないからな。」
「わかってる。ありがとう、ハチ君。」
「ハチくーん…私の時はもっと怒ってたよね?」
「あん?そりゃお前、アレだよアレ。うん、アレだ。」
「何の説明にもなってないよ!?」
「こんな場所で、貴方達は何を騒いでるの?」
「翼さん!」
「騒いでたのは、毎度だが響だけだからな。」
何て事を!っと叫びながらポカポカと…いや、ドスドスと脇腹を殴ってきやがった。ちょっ…痛いから…痛いから!!
片手で拳をパシパシと弾きながら、懐からペンを取り出す。
【影縫い】
響の影にペンを落とし、その場に縛り付ける。
「あ、あれぇ!?か、身体が動かないぃぃ!!なんでぇ!?」
「響ッ!?」
「お見事です、八幡さん。」
突然動かなくなった自分の身体に、響の目が忙しく動き回る。
錆びついたロボみたくにギギギッと身体を動かす様は、実に滑稽である。
何が起きたのか、さっぱり分からない未来は頻りに響の身体をペタペタと触っている。
緒川さんは褒めてくれ、犯人の俺はと言うとー…
「はっはっは。まだまだ修行が足りないな。」
つい、高笑いをしてしまいました。
緒川さん直伝、忍術の影縫い。これがまた難しい技で姉さんは会得に3年も費やしたらしい。
…俺?俺は1年半だ。
フッ…己が才能が恐ろしい。
「はぁ〜…やり過ぎよ。」
やれやれと首を振り額に手を当てる姉さんを無視して、横に置いてある箱を持ち上げる。
意外と重量のあるそれを姉さんの後ろにいる緒川さんへと渡す。
「あの…これは?」
「日頃から緒川さんには世話になってるんで、その御礼に。良かったら飲んでください。」
「飲む…?ーッ!まさか、このケースの中身は。」
「MAXコーヒーです。」
世界が止まった。
騒いでいた幼馴染みーズも呆れてた姉さん、受け取った緒川さんもみんなが固まったまま動かなくなった。
あら、俺っていつの間に時間停止できるようになったのかしらん?砂時計入りの盾なんて持ち合わせてないのに…八幡ビックリ。
「ありがとうございます。美味しく…いただきます。」
笑顔の緒川さんだったが、影が射していた気がした。
…やはり、か。
なんとなく、そうだと思ったんだよな。
この程度の量じゃ
足 り な い よ ね ?
「あと1箱あるので、どうぞ。」
追加で更にもう1箱を乗せて、合計2箱のMAXコーヒーを献上した。
笑顔のまま、緒川さんの片目から涙の雫が流れ落ちた。
泣くほど喜んでもらえるとは…感激だ。
「鬼ね。」
「鬼だよ。」
「鬼なの?」
3人の言っている意味がわからなかった。
鬼って、何がだろう?
「あら、皆んな揃って何…ホントに何してるのかしら?」
了子さんが俺たちに話しかけてきたが、頬がヒクついている。
何をしてるってー
響は影縫いで動けず、未来はその響の心配。
姉さんは手持ちぶたさで、緒川さんは感極まり涙を流しているだけだよ?
「あら、その手に持つダンボールは何かしら?」
「MAXコーヒーです。俺が進呈して、緒川さんは今、感極まって泣いています。」
「…。あれは哀愁の涙でしょうに…。」
「良かったら、あと1箱あるんで了子さん要ります?」
「いらー……こほんっ。私はブラック派だから遠慮するわ。」
「そっスか…だったら。」
感涙の緒川さんに追加でもう1箱献上すると、膝から崩れ落ちてしまった。
箱を落とさない辺りから、彼の器用さと見かけによらないパワーを感じ取れた。
「えぇっと…緒川君は捨て置いて、響ちゃんはメディカルチェックをするわよん。2人はどうする?序でに受けても構わないわよ。」
「いえ、私は明日のライブ準備がありますので。」
「俺も呪符の在庫が心許ないので、製作作業に勤しむつもりなんで遠慮します。」
「あら、そう?なら、お一人様ご案なぁーい。」
了子さんが響を引っ張っる瞬間に、ペンを蹴り飛ばして影縫いの効力を無にする。
「あれ!?動く…って了子さん待ってぇ!」
「響ぃぃ!あ、失礼します!待って、響ぃ!」
「んじゃ、俺も用が済んだし帰るわ。」
残された風鳴翼と緒川慎次。
彼女はこう思っていた。
どうしようと。
自身の真下では、膝をついたまま動かない緒川がいる。
マネジャーでもある彼が復活しないとライブの準備に移れないのである。
「あの…緒川さん?」
「……お見苦しいモノをお見せしてすいません。さ、我々も移動しましょう。」
顔を上げた緒川の笑顔は、いつもより爽やかなのに絶望の色が濃く出ていたと言う。