やはり俺がシンフォギアの世界にいるのは間違っている 作:にゃにゃにゃす
響の胸元から溢れ出る赤い赤い液体。
着ていたパーカーを脱ぎ、傷口を塞ぐように押さえつけるも、すぐに血で真っ赤に濡れてしまう。
このままじゃ、出血死は免れない。
「くそっ!くそっ!止まれ…止まれよッ!」
わかっている。
俺がどんなに憤り、苛つき、泣き、喚こうが響の血が止まる事はない。
知っている。
重体の響を救う唯一の方法を。
だが、その方法をとってしまえば、もう日常には戻れない。
普通じゃいられない。
でも、それでも……俺はッ!
もう、大切な人を失いたくないッ!
だから!
「……響。今助けるからな。」
俺は胸元にぶら下がる真っ黒な半球体を握りしめる。
半球体から怪しい輝きが発せらると、全身を通う血が沸る様な感覚に襲われる。
血が熱を帯び、肌が焼ける感覚。
だが、不快感や嫌悪感は一切ない。
そして、己が身体から溢れ出たのは神通力。
「こいッ!<白雪ノ華>!」
瞬間、俺の身体が漆黒の闇に包み込まれた。
オーラが霧散した時、俺は肘から下、胸と腰に、膝から下に漆黒の防具を身にまとっていた。
握るは純白の太刀、銘は白雪ノ華。
その白雪ノ華に反射して映るのは、白髪赤眼の自分だった。
そして、俺は……
白雪ノ華の切っ先を、躊躇する事なく己が左の掌に突き刺した。
左手から激痛が走り、小さな悲鳴が漏れる。
【血箋華】
紅い俺の血が響の傷口に落ちると、即座に傷口が塞ぎ始めた。
これが唯一、俺が響を救える手段だった。
もし、周りに誰も居なければ躊躇せずに使っていた。
だが、世界は俺にいつも優しくない。
今は結果として、目撃者がいる……はずだった。
「いけない奏!歌っては駄目ぇぇ!」
「ーーGatrandis babel ziggurat edenal
Emustolronzen fine el baral zizzl
Gatrandis babel ziggurat edenal
Emustolronzen fine el zizzl…」
不意に聴こえてきた綺麗な歌声と悲痛な叫び。
少し離れた場所で天羽奏が槍を天に掲げ、歌っていた。
歌が終わると彼女を中心に莫大なエネルギーが爆発し、発生エネルギー波はノイズを一掃した。
「今のは!?……おいおい、嘘だろ…。」
神通力を解放した俺の瞳には、天羽奏の命が風前の灯であるのが見えた。
先程のエネルギー放出が原因なのは直ぐに理解できた。
理解できてしまった。
俺が会場に戻ってきた時、天羽奏は響を守ってくれていた。
これは恩だ。
だったら返す必要がある。
ふと視線を響に向けると完全ではないものの、傷口は閉ざされており、もう安心と言える。
現に彼女は、安らかな寝息を立てている。
俺は響の頭を1度だけ撫でて、倒れた天羽奏と、彼女を抱きしめ涙を流す風鳴翼の元へと向かった。
「何処だ…翼。真っ暗でお前の顔も見えやし無い…。」
「奏!」
「アンタは俺の…妹を助けてくれてた。だから、今度は俺がアンタを助ける。」
【血箋華】
俺は今一度、左の掌に白雪ノ華を突き刺し、身体の再生とエネルギーの供給を血液越しに行い、そして倒れたのだった。
ーー……
「知らない天井だ…。」
…はい、一回は言ってみたい台詞だよね。
つか、ここ何処よ?
白に統一された壁。
病院??
「まぁ、知ってたらビックリだな。はじめまして…は、ちょいと違うか?まぁいいか、私は天羽奏だ。よろしくな!」
人居たのかよ⁈
って、真横に杖をもった天羽奏さんがいらっしゃいました。
いいか?落ち着け……クールになるんだ八幡。
冷静に対処するんだ。
「……ひゃい!よよ、よろしくお願いしましゅ!?」
無理だった…。
思いっきり噛んだ。
てか、あの台詞も聞かれた!?
小町ぃ、お兄ちゃん恥ずかしいよぉぉぉお!
しかも、噛んだから二重に恥ずかしいよぉぉおお!
だって急に話しかけられると人って焦るよね?
しかも美人な有名人が急に話しかけてきてみろ。
ボッチじゃなくても噛むと思う。
結局何が言いたいのかと申しますと、逃げ出したい。
穴があったらダイブしたい。
「おーい。比企谷八幡…だっけか?呼びにくいからハチって呼ぶか。ハチ、私を助けてくれて礼を言う。ありがとうな。」
……いい人だ。
噛んで、キョドッて、目の腐った奴を馬鹿にしないなんて……
しかも、御礼付きだべ?
マジ、優しいっしょ!?
「……俺は妹みたいなヤツを天羽さんに助けてもらったんで…恩をお返ししたに過ぎません。なので、俺に感謝なんかしないでください。って、響は!?」
上半身を叩き起こし、周囲を見渡すも響は居なかった。
「お前さんの妹?なら都内の病院で入院中だ。因み、来週には退院予定の健康体だから安心しな。」
…良かった。無事だったか…。
心底安心して、ベッドに倒れる。
ふと、何かを思い出したのか彼女は時計を見ていた。
「ハチ、起きれるか?」
「えぇ、まぁ。少し身体が重いですが歩けもしますよ。」
これは血箋華の代償の血液不足だと…まぁ、神通力の酷使が原因なんだけどね。
「ほーん。なら車椅子は必要ねぇな。私について来てくれ。」
「はぁ…?」
ズンズンと先に歩いて行く天羽さん。
アンタ、その杖必要?ってくらい先へ先へと進んでいくんですけど。
俺の悪評が学校に広がるくらい、はっやぁーい。
……あれ、なんか目から汗が出てきた。
「ハチには色々聴きたい事がある。私の傷を治した方法や、あの姿とか色々な。でも、まぁ一先ず……」
やがて、彼女はとある扉の前で立ち止まる。
「此処へ先に入んな。」
八幡、意味わかんない。
だってこの先に誰がいるのかもわかんないのに先にはいれと?
……でも、ボッチは拒否ができないのである。
仕方なく、開いた扉の向こうへ踏み出した。
パーン!パーン!
パーパフ パーパーパフパフ!
パチパチパチパチ!
人間、本当に驚くと声が出なくなるらしいです。
俺の視界に映っているものを言ってやろうか?
…え?いらない?
いや、言わせろよ。
まずは、
熱烈歓迎、比企谷八幡様
と書かれたデッカい段幕
次に達磨とお祝いの花々。
最後に変なハットを被ったオッサンと、笑顔で拍手をする人達。
視界の情報処理が追いつかないので
ウィーン…
とりあえず、下がって扉を閉めることにした。
「……なんで戻ってきたんだ?」
「…自己防衛本能です。」
呆れた顔の天羽さん。
いやいやいや、何今の!?
え!?誰?あの人達は誰!?
「ほら、私も一緒に行ってやっから!」
「ちちちょ、待ってぇぇ!」
近い、美人、柔らかい、いい匂い!
って違う!
腕を掴まれ、もう一度中に入ると二度目のクラッカーと拍手が俺たちを迎えてくれた。
「ようこそ!特異災害対策機動部二課へ!歓迎するよ、比企谷八幡君!」
「…あのぅ……帰って良いですか?」
切実に。
「そんな事言わずに、笑って笑って!お近づきの記念にツーショット写真♡」
髪型とサングラスが奇抜な女性に写真を撮られた。
もう…わけわかんねぇ……。
「さてと、まずは自己紹介をしよう。俺は風鳴弦十郎。特異災害対策機動部二課、ここの責任者をしている!」ニッ
「そして、私はできる女と評判の櫻井了子。よろしくね。」
「私達も、ちゃんとした自己紹介を。私は天羽奏。シンフォギア、ガングニールの装者だ。んでこっちは…ほら、翼。」
「風鳴翼…。シンフォギア、天羽々斬の装者よ。初めまして。奏を助けてくれてありがとう。」
「比企谷八幡でしゅ。」
あ、やべ。また噛んだ。
「いや、私が言うのもアレだけどよ…普通ツヴァイウィングの私等を見たら興奮するんじゃないのか?ハチは最初から冷静だよな。」
冷静なら噛みません。
しかし天羽さんは、もはや噛んだことは気にしてない御様子です。
ん?
今聞き慣れない言葉があった。
「シンフォギア?って何んですか?それにガングニールに天羽々斬って伝説の…?」
「はいは〜い。それについては私が説明するわよ。」
と言う櫻井さんによって、シンフォギアについての解説が、行われた。
なるほど。
完全聖遺物なんてモノ、そうそう世の中に現存していない。
しかし、聖遺物の欠片に残った僅かな力を歌で引き出すのか。
……あ、これは俺の白雪ノ華には使えないな。
「こちらも質問いいかしら?」
「えっと…はぁ、どうぞ?」
「あの会場での映像を拝見しました。単刀直入に言うわ貴方は何者なのかしら?」
……まぁ、そうなるよな。
薄々気づいてはいた。
この部屋には、俺を歓迎している様に見せてはいるが武装している人が少なくない。
警戒されてる上で、答えるのか…
「自分は比企谷八幡とは別にもう一つ名前があります。それが安倍晴明。陰陽師、当代の安倍晴明です。」
まさかのまさかに、室内が一気に騒つく。
そら伝説で架空の人物だもんな、安倍晴明って。
陰陽師って、何?って言ってるアイドルが目の前にいるけど。
「…ちょっと待って頂戴。陰陽師?実在していたの?」
「えぇしていましたよ。今となっては俺が最後の陰陽師ですけど。ついでに言うと大昔から陰陽師はノイズを対処していましたよ。御国の命によって。……明治過ぎたあたりからっすかね。他国と戦争に戦争を重ね、国のお偉いさん達は戦地で兵士をノイズから守る為に陰陽師を派遣しまくって、バッタバッタと倒れて行き、とどめに大空襲などなどで…気づけば、今じゃ比企谷家以外いなくなってましたね。お陰様で、唯一生き残りの俺が安倍晴明を襲名する羽目になりました。」
皆さま絶句。
でも、事実なんだよな。これが。
戦争、駄目!絶対!
「これは…詳しく話しを聞く必要があるわね。ちょ〜っと向こうでぇ、お・は・な・し!しましょ〜ねぇ〜♡」
「え、え!?あっ、ちょっ!?」
何で皆さん、こう強引なのん!?
八幡、強引なの嫌い!
ってなわけで、別部屋に移ってお話しの続きみたいです。
部屋には
ハットの叔父さん
自称できる女
ツヴァイウィングの2人
仄かに香るはカオス臭。
「さーて、まずはこちらの映像を御覧あれ。」
モニターに流れたのは、鬼の仮面に漆黒の防具を身に纏い、太刀を持った人物……つまり俺だった。
流れるのは、対ノイズ戦での映像で瞬く間にノイズを殲滅。
時間にして5分もかかっていなかった。
「君はコード黒鬼と呼ばれ、我々二課の者達で探していたのだ。映像を観る限り君は強いな。」
へ?そんな厨二くさい名前つけられてたの?
俺、もう中3ですよ。
「へー…ハチ、強ぇな。」
「…そーなんすかね?比べる相手が居ないんで、自分じゃ分かりません。」
ボッチは比べれないのですよ、ボッチは!
「では、断言しよう。君は強い。そして、そんな君に頼みたい。我々にその力を貸してくれないか?」
「…こうして身バレしてて拒否できるんですか?貴方達は政府側の人間だ。……どうせ拒否したら面倒な事になるんでしょ?」
「…すまない。しかし、これは君を守る為でもあるんだ。」
「でしょうね。理解してます。なので協力はしますが、条件があります。」
「わかった。できるだけ君の条件は呑もう。」
譲れない条件。
俺は別にボランティアで戦っていたわけじゃない。
大切な人達を守るために戦っていた。
だから……
「ありがとうございます。では1つ目。俺の家族、それと付き合いのある立花家と小日向家の安全保証。ノイズが出た際は最優先で避難させてください。」
「お安い御用だ。」
まずは一安心だ。
これで家族と響、未来を守れる。
「2つ目は…母には本当のこと言わせてください。それから3つ目は固定給をいただきたい。ただ働きはできません。最期にー」
パチンッ
俺の頬に軽い衝撃と痛みが走る。
…普通に痛い。
頬に平手をくれたのは、風鳴翼だった。
彼女は怒りの炎を灯した瞳で、俺を睨んでいた。
「その手に力を持つ者が、お金欲しさに戦うだと…?ふざけているのか!…黒鬼、貴方には失望した!」
……ーーー
何て事があったのが3週間前の出来事だった。
彼の母君と話しをつけ、こちらに越してきてもらったわけだが……
「ノイズ各方面にて出現を確認!翼さんと八幡くん、戦闘に突入!」
「モニター、でます!」
映し出されたモニターには、左翼が翼、右翼を八幡くんのフォーメーションで戦闘を行っていた。
「…やはり協力要請して正解だったな。」
「そうね。ただ、陰陽師の技術が私の研究に活かせないのが残念だわ〜。……伝説の殺生石、その欠片で僅かに流れる白狐の血を強制覚醒。使っている白雪ノ華を陰の力で制御し、逆に陽の力で結界の鎧を身に纏う。陰陽師は陰陽表裏一体の力を使う…ね。白雪の華は妖刀に部類される物だし、よくもまぁ闇に呑まれず正気を保っていられるものね。」
「白狐の血か…。あの髪と瞳の色から彼の言っている事に虚偽はあるまい。…我々はできる限りこれからもサポートしていくだけだ。頼んだぞ、了子くん。」
「えぇ。まずは、鎧の改良ができないか八幡くんと目下、相談中よ。」
大人として、子どもばかりに戦わせてばかりで情け無いとは思っている。
代われるものなら代わってやりたい。
だが、それが出来なく、故に歯痒い。
ならばと、出来る事をしよう。
彼等には出来ない事をしてやる事ぐらいしか、俺たちにはないのだから。
「ノイズの殲滅を確認。」
「2人とも、怪我も無いとの報告です。」
今回、市街地に出現したノイズは少なくなく、苦戦を強いられると予想されたが、蓋を開いてみればそんなことは無く、殲滅までスムーズに進んでいった。
スムーズではあったのだが……
「彼を二課に迎えて3度目の戦闘だが……なんだかなぁ〜。」
「ま〜ったく、噛み合ってないわねん。どうするの、弦十朗君?このままじゃ、不味いんじゃない?」
了子くんも、流石に呆れていた。
八幡くんの個人能力は、装者2人に勝らずとも劣らない。
即戦力として申し分ない。
ただ、了子くんの言った通り、2人は全く噛み合っていない。
個々で戦闘を好き勝手に行い、連携の'れ'字も見当たらない。
奏は、まだ万全の状態ではない為、司令室から2人を見守っていたのだが、常時ハラハラしっぱなしだ。
それは無論、我々もなのだが。
「なぁ、了子さぁーん。私のガングニールまだ直らねぇの?」
「ガングニールもそうだけど、奏ちゃん絶唱の負荷がまだ残ってるのよ?まだ当分、だ〜め。」
「でもよ…このままじゃ……」
そう、このままでは危険だ。
何より問題なのは、あの2人が互いに歩み寄るつもりが無い事。
八幡くんは
「自分、ボッチなんで。」
と言うわ、翼は翼で
「金で動く者など信用できません。」って言うし…ビンタかましてるから尚の事、歩み寄るつもりは皆無。
どうしたものか…
「旦那、あの2人説教して意味あると思うか?」
「ないな。」
即答だった。
頭の固さと、捻くれ度合いが凄い2人に説教など、馬の耳に念仏だ。
嫌でも、翼が不機嫌になって反論してくる姿が浮かんでくる。
「だったら…仕方ねぇ。私に賭けてくれないか?」
そう申し出る奏に、俺は任せる事にした。