やはり俺がシンフォギアの世界にいるのは間違っている   作:にゃにゃにゃす

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第19話

「すまない。比企谷八幡はいるか?」

 

昼休みに2年の教室へ訪れた有名人。長時間の休憩を迎えて騒がしかった教室内がシーン…と静まり帰る。

風鳴翼と言うトップアーティストの突然の来訪に室内には緊張が走り、誰1人として彼女の質問に答えれなかった。

 

たった1人の男子生徒ー

 

「比企谷なら休むって、俺宛にメッセージがありましたよ。」

 

小林亜咲を除いて。クラスメイト達は、あの風鳴翼に臆する事なく会話する亜咲に尊敬の眼差しで見つめていた。

 

(お前が勇者かッ!!)っと皆が心中で叫んだと言う。

 

亜咲はスマホを開きメッセージを翼に見せようとした時だった。

 

「すいませーん。ハチ…じゃなくて、比企谷八幡先輩はいますか?」

 

今度は教室の後方出入口から元気な声が聞こえた。

声の主は前方出入口にいる翼に気づくと、これまた元気に小走りで近寄ってきた。

 

「翼さーん!あ、あと林さん、こんにちは!」

「完全に毒されてる!?あの、前にも言ったけど俺は小林だから。小林亜咲。」

 

ガックリと肩を落とす亜咲に、誤魔化す様に乾いた笑い声を出す響だった。状況がうまく飲み込めない翼は首を傾げるが、まぁいいかと話題を変える。

 

「立花も八幡に用が?」

「用って言うか、今日の早朝トレーニングに来なかったから様子を見に。翼さんは?」

「昼休憩なのに、いつもの場所に来ないから探しにね。」

「風鳴先輩、響ちゃんもはいコレ。比企谷からのメッセージ。」

 

差し出されたスマホに書かれていた文字を見て、2人は……ん?っと首を傾げる。

メッセージ内容は

 

休む。あとは任せた。

 

のみだった。

 

「あの子ったら…わかったわ。ありがとう。」

「うっわ人任せだなぁ〜。すいません、は……小林さん。」

「もう慣れっこだよ。休む度に、こんな風に俺に連絡するんだもん。」

「そう…だったら、八幡は君を信頼してるのね。」

「そうでしょうか?雑ですよ、扱い。」

「だったら尚の事ですよ。ハチ君、身内には雑ですもん。」

 

 

あの比企谷八幡から信頼を得ていると言われ、ちょっぴり嬉しいと思えた亜咲であった。

だが、顔は平常心のまま2人にこう告げた。

 

「複雑な気持ちだ。」っと。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

風を切りながらバイクは走る。いつもよりも速度を落とし、後ろから抱きつくように捕まっているクリスへ極力負担がないようにする。

晴れま青空の下、海沿いを走るのはツーリングみたいだった。

 

実際は現代に蘇りし緋維音……もとい櫻井了子の秘密のアジトへ突撃しに向かってるんだけどね。

 

「あれだ!あの洋館がアジトだ!」

「……でかっ。」

 

ブレーキを引き、バイクをゆっくりと停車させる。

ヘルメットはハンドルにぶら下げ、クリスと最終確認を行う。

 

「打ち合わせ通り、気づかれない様に慎重にいくぞ。」

「あぁ。アタシが先導する。」

 

コクリと頷き、俺達は静かに行動を開始した。クリス曰く、この洋館には監視カメラの類はないらしく、ならばと堂々と正面玄関から侵入した。

 

ゆっくり…ゆっくりと静かに歩む。

しっかし、まるで生活感の感じられない建物だな。無駄に彫刻や絵画が飾られてるけど。

 

「こっちだ。」

「おう……ん?」

 

風が運んできた微かな匂い。……気のせいか?鼻でスンスンっと匂いを嗅ぐと、嫌な方面で知っている2つの臭いがした。

眉間に皺を寄せ、眼光が鋭くなった俺に気づいたクリスは真剣な顔つきのまま強張る。

 

「…血と硝煙…火薬の匂いがする。」

「ッ!?…どうする?」

 

どんな非常時でも突撃は同時にする。その決まり事を守り、飛び出したい気持ちを抑えて冷静に対処するクリスに、ちょっぴり安堵した。

 

「今、ギアを纏えば侵入がバレる可能性がある。白雪ノ華と戦鎧も同様だ。だから、コレだけで行く。」

 

数枚の呪符を懐から取り出す。念の為、毎日制服でも持ち歩いてて良かったわ。

 

「…だいたい、あの扉の向こうにフィーネの野郎がいやがる。……異常と感じた場合は即座にギアを起動する。」

「あぁ、それで行こう。……準備はできてるか?」

「すー…はぁー…。いつでも。」

 

フッ!と息を吐き、意識を集中させ、巨大な扉の前に移動する。

互いに目で合図を送り、コクリと頷きー

 

ドカァッ!!

 

扉を蹴り上げて突入した。呪符を投げつける体勢になり、状況確認をしようとしたが……

 

 

「なんだよ……一体何が?」

 

室内は悲惨な状態だった。割られた窓ガラス。銃で穴だらけにされたモニターや家具。

なにより異常なのは、日本人ではない者達の死体の山と血溜まり。

 

クソ…嫌な臭いだ。

 

 

「フィーネは…いない?」

「しかし、やったのは間違いなくヤツだ。」

 

死体をそれぞれ観察してみると、抉られたように肉は削られ、斬殺や刺殺されいるものが殆どだった。

 

どういう殺し方したら、こんな抉れた傷になるんだよ…。

 

ザッ……

 

「そこかッ!?」

 

背後から小さく聴こえた足音に反応し、呪符を構える。しかし、瞳で捉えた人物は敵ではなく味方だった。しかも上司どころか司令官である。

投げつける直前で踏み留まり、一応警戒は解かずに対峙する。

 

「やれやれ…投げつけられなくて良かったよ。」

「風鳴司令、何故ここに?」

「そりゃ、こちらの台詞だ。容疑者の身柄確保に訪れてみりゃ、酷い有様だな。」

「殺ったのはアタシ達じゃない!」

「ハナからお前達を疑っちゃいないさ。」

 

司令が手を挙げて合図を送ると、背後で息を潜めていた黒服さん達がゾロゾロと雪崩れ込んできた。

彼等は周囲の調査を始めた。って、待て待て待てッ!

 

 

「全員止まって下さいッ!」

 

俺の叫びに二課エージェント達は動じる事なく、動きを止めた。

クリスは、ビックリしてた。

 

「……。」

「??」

 

俺は視界を遮断し、思考に耽る。

 

死体は何故そのままにしている?隠す必要も、誤魔化す必要もないからか?

モニターは割れてはいるが、コンピュータは生きている。データを秘匿するなら破壊するのが定石だ。

いや…違う、そこじゃない。そもそも、何故このタイミングで司令がやってきた?どんな情報を掴んだか知らないが……

 

ー情報を掴んだ?

 

違う。掴まされたんだとしたら……?

 

もし、俺が櫻井了子なら……

 

 

「ーッ!!罠だッ!死体とコンピュータに触れないでください。司令、この中に爆薬処理が可能な方は?」

「大半ができる。お前たち、八幡の声は聞こえたな?各自、罠を探りつつ処理に当たるんだ!」

 

流石は二課のエリート達だった。スムーズに罠を発見し、その場で爆弾の処理に当たり始めた。

 

「よく気づいたな。」

「情報を流し、二課の要を誘導。重要なデータを含め死体諸共、爆弾で処理。非常に合理的ですよ。…俺が櫻井了子なら、そうするだろうって考えました。」

「ッ!?やはり、気づいていたか。」

「いえ、昨夜クリスに教えてもらいました。緋維音は櫻井了子だって。あの写真が役に立ちましたよ。」

 

入学後の楽しい嬉しい思い出は何処か遥か彼方へ飛んで行ってしまった。

いつも笑って元気付けてくれた。傷を負った際は、真っ先な治療をしてくれた。

あの笑顔も、偽りだったのだろうか?

 

スッと影が落ちる。ズシッと頭に何か乗ったと思いきや、左右に優しくそれは動いた。ビックリして、目で上を見てみると司令に頭を撫でられていた。

 

《八幡。》

 

その姿が父親と重なる。まるで、泣く子を慰めるように優しく撫でるそれは無性に懐かしかった。固く、ゴツゴツしてて、でも暖かった。

 

「……あの、もう大丈夫なんで。」

「お、そうか?」

「オッさん、ロリコンだけじゃなくてホモだったのか?」

 

…。

……?

……えッ!?クリスの言葉が脳を揺さぶった時、俺は司令から離れて呪符を構えていました。

 

「……違うからな?」

「えぇ、信じてますよ。」

「なら、呪符を仕舞ってくれ。」

「風鳴司令。仕掛けの全ての解除と爆弾の処理が終わりました。指示を。」

 

エージェントの報告を聞き、俺をチラ見しながら指示を出す。

そんな反応されると怪しさ倍増なんですけど。なーんて、おふざけは終わりだ。

司令の指示は的確だった。

半分の人員は死体の回収をし、そのまま二課本部へ帰投。データ関連に強いもう半分は、残ってデータの抜き取り作業を行うこととなった。

 

一旦外に出て、司令とクリスで事の顛末を話している時だった。

 

「カ・ディンギル……フィーネか言っていたんだ、カ・ディンギルって。それが何なのか分からないけど、ソイツはもう完成してるみたいなことを。」

「カ・ディンギル…。司令、心当たりは?」

「ないな。しかし、それが何にせよ大きな収穫だ。もしかしたら中のコンピュータに記されてるやもしれん。」

「だったら俺は残らせてもらいますよ。…カ・ディンギル、何か嫌な感じがしやがるんで。」

「だったらアタシも残らないとな。」

「俺は本部に帰投する。…八幡、後手に回るのは終いだ。」

 

突き出された司令の拳。

クリスは分からないのか首を傾げてるが俺にはわかる。

 

「えぇ。今度はこちらから仕掛けましょう。」

 

コツンと自分の握った拳を軽くぶつける。

これは反撃の狼煙だ。

司令は満足気に頷くと、赤いSUVで去っていった。

……まさかの自家車かよ。司令、偉いんだから送迎して貰えばいいのに。

 

「あの風鳴司令は?」

 

洋館の中から1人のエージェントが走ってきた。割りと慌て気味なんだけど…どったの?

 

「今本部に戻りましたけど?」

「何かあったのか?」

「えぇ…。もし宜しければ比企谷さんにも見て頂いきたいのですが。」

「わかりました。クリス。」

「あいよ。」

 

てなわけで、死体の消えた例の場所に戻る。コンピューターと二課のノーパソを配線で繋ぎ合わせて、データの抜き取り最中の様だったのだが…。

 

「こちらを見てください。重要なデータは殆ど残されておらず、中に有ったのは比企谷さんと立花響さん、そして二課の防衛システムとエレベーターシャフトのデータのみでした。」

「俺と響の…?すいません、そのデータを出してください。」

 

 

そこに記されていたのは、俺の実力をデータ解析したものだった。使える術だけでなく体術データまで。嫌な事にそれらを先代達との比較までされてやがった。……やべ、落ち込むわ。

……ゔぁ!?こんなに差があるん!?初代様と3代目様、化け物かよッ!!?……あれ?体術だけなら、俺は歴代最高なの?やったぁ♪って喜べるかッ!!これじゃ、ただの脳筋だろうがッ!

 

「おい、この立花ってヤツのデータが変だぞ。」

「変って…なになにー」

 

立花響。融合症例第一号。

爆発的なエネルギーの源は胸にある第3号聖遺物ガングニールによるもの。また、これに伴い異常な回復速度を可能としている。

過去からの超越せし存在になりうる。カストディアンからの呪縛から解放される可能性。

 

 

「いや、意味がわからん。」

「アタシだって分かんねぇよ。」

「……まぁいい。今はカ・ディンギルについてだ。すいません、カ・ディンギルって言葉が出てきませんでしたか?」

「カ・ディンギル……。いえ、該当するモノはありませんね。」

「そう、ですか…。ん、通信か……比企谷です。」

 

通信は司令室からで、既に姉さんと響は参加していた。

 

《さて、サボリ魔の弟には罰が必要ね。》

《連絡なしで、トレーニングしてくれないし。…ハチ君今どこ?》

「……は?通信内容ってコレなの?」

《違うぞ。2人とも八幡へのバッシングは後にするんだ。…収穫があったんだが……了子君は?》

《まだ、出勤していません。朝から音信不通でしてー》

 

了子さんの身を案じて、心配そうな声色の友里さん。だが、こちらも別の意味で心配だ。今この瞬間に何かやらかすんじゃないかと。

 

その時、通信に割込みが入った。

 

《やーっと繋がったぁ。ごめんね、寝坊したんだけど通信機の調子が良くなくて。》

 

いつもの戯けた調子の了子さんだが、白々しい。

一応、身の心配を告げる司令も、やはり白々しい。

隣りで息を潜めていたクリスに視線を送ると、ゆっくりと頷いた。そうか、やはり了子さんが…。

そんな中、司令が打って出た。

 

《カ・ディンギル。この言葉が意味するモノは?》

 

いきなり確信つくたぁ…マジで打って出やがりました。

まぁ後手に回るのは飽きたしな。丁度いいか。

 

《ーッ…カ・ディンギルとは、古代シュメールの言葉で高みの存在。転じて、天を仰ぐほどの塔を意味するわね。》

《何者かが、そんな塔を建造していたとして、何故俺たちは見過ごしてきたのか。》

《確かに、そう言われちゃうと…。》

「響が気づかないにしても、俺たちが気づかないのは可笑しな話しですね。」

《……あ、バカにしたよねッ!?》

《痴話喧嘩は後になさい。》

 

おっと、姉さんに怒られちまった。でも、事実なぜ俺たちは塔などに気づかなかったんだろうか…。光学迷彩……?いや、そもそも、そんな建造物を一個人で造れる物なのか?

 

《何にせよ、漸く掴んだ敵の尻尾だ。このまま情報を集めれば勝利も同然。相手の隙にこちらの全力を叩き込むんだ。…最終決戦、仕掛けるからには仕損じるな。》

「了解。」

《了解。》

《了解です。》

 

通信を切ると、安堵の溜息が出た。司令、色々と仕掛け過ぎだろ。了子さん、一拍だけ呼吸止まってたし。そりゃ、まさか図星突かれるとは思わなかったよな。なんせ、クリスは俺と居るんだ。ま、知る由も無いだろうが。

 

「カ・ディンギル…高みの存在……塔。ここらで1番高いのってー」

「東京スカイタワーだな。だが、いくらヤツでも極秘裏にアレに手を加えるなんて土台無理な話しだ。」

「ん〜…じゃ、見えなくしてるとか?」

「だとしても、そんな建造物を一個人じゃ造れるもんかよ。」

 

ーキィンッ

 

あっ、そう来る?来ちゃうん?

しかも場所は……うん、スカイタワー方面だよね。

 

「ノイズが出やがった…って通信早ッ!?」

《八幡君、飛行タイプの超大型ノイズが計4体が東京スカイタワー方面へ移動中!翼さんと響ちゃんはもう向かっている!》

「藤尭さん、了解です。ただちに追いかけます。」

「アタシも行くッ!」

「……あぁ。急ぐぞ。」

 

通信を切り、バイクへ向かう。たぶん、今回のノイズは囮だろう。俺たちの目をスカイタワーに向けさせる為に仕掛けたと考えるのが妥当だろう。

とは言え、被害が広がる前に早急にー

 

『こちらを見てください。重要なデータは殆ど残されておらず、中に有ったのは比企谷さんと立花響さん、そして二課の防衛システムとエレベーターシャフトのデータのみでした。』

 

 

何故か先程のエージェントの言葉が蘇った。

 

……ちょっと待て。

 

進めていた足を止め、パソコンへと孟ダッシュ。キーボードとマウスを動かし、1つのデータを見直す。

 

「お、おい、急がねぇとヤバイんじゃ……。」

 

画面にのめり込む俺にクリスが急かすが……確かにヤバイんだよ。

 

 

……あぁ、なるほど、ね。やってくれたな、了子さん。

 

今、画面に開いているのは二課とリディアンを繋ぐエレベーターシャフトの図面と二課本部の防衛システムの追加項目だ。

提案、改修作業の責任者は櫻井了子。

 

 

全身から血の気が引き、寒くもないのに手が震えた。

 


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