やはり俺がシンフォギアの世界にいるのは間違っている 作:にゃにゃにゃす
頑張らせていただきます!
ノイズに弾かれた仮面は軽い音を立てて床に落ちてしまった。衝突する直前に首を後ろへ逸らした八幡に怪我はなく、取り出した呪符でノイズを破壊する。
暴かれた秘密。晒された仮面の下。彼女達が驚愕に染まるのは至極当然の事であった。警戒を解いた自身の事を悔やみながらも、もう一度だけ周囲を警戒する。
(…もう気配はない、か。)
吹き飛んだ仮面は光の粒子と変わり、その存在が消え去った。顔を見られたからには、この4人に誤魔化しは効かない。紅い眼は哀しげになりながら、4人と対面した。
「ハッチ先輩ッ!?」
「ノイズと…戦って…?」
「そんな、アニメじゃないのよ!?」
幼馴染み2人の友人達は信じられないモノを見る目をしていた。しかし、八幡がもっとも気にしていたの彼女達の背後にいる青年についてだ。こちらに来て初めて出来た同性の友人。彼は今、何を思い八幡を見ているのか……それが気になって仕方がなかった。
「……。」
「……。」
亜咲の視線は白い髪から紅い瞳へと順に移っていく。紅と蒼の視線が衝突する。しばし、見つめあったままだったが、先に声を出したのは亜咲だった。
「…カネキ?」
「誰がグールだコラぁ。」
いつも通りだった。
第21話
「俺はハンバーグが好物じゃねぇし、食人衝動もない。」
「…最後のシ者?」
「使徒でもないから。歌はいいね〜って、俺が言った?言ってないよね?」
「だったら何なら納得するんだよ?」
「比企谷八幡以外に納得するわけがないだろ…。」
日常生活のやり取り。アニメネタでグイグイくる亜咲に八幡は深く深く溜息をつくのだった。先程までの心配も、戦闘の緊張感も無限の彼方へ、さぁ飛んでいく。
急に始まったアニメネタ祭りに後輩達は若干1名を残し、訳がわからない顔をしていた。
若干1名こと板場弓美は危機的状況を忘れ、瞳をキラキラと…ギラギラとさせていた。まるで獲物を前にしたライオンである。
「比企谷先輩、私達リリンに向け一言お願いします。」
「お前も悪ノリしないでくれない?…ハァ…お前等、俺を見て怖くないの?」
当然も当然の質問だった。いつもの制服でもなく戦鎧を着て、髪は白く瞳は紅い。何より武器をその手に携え、ノイズを斬り裂いた。バケモノと呼称されても致し方無いと八幡は思っていた。
「え?比企谷は比企谷じゃん。逆に俺がグールだったら怖いのか?」
「うん。」
「うんッ!!?」
「あははは。私、ハッチ先輩の姿に驚きはしましたど怖くはないですよ。」
「それどころか助けていただきましたし。」
「ありがとうございます。お陰でアニメへの情熱が再沸騰しました。」
「板場の礼は助けた事にじゃなくね?林とのやり取りに関してだよね?」
嘘とは到底思えない、4人のあっけからんとした態度に八幡の胸が締め付けられた。
(響、未来…お前等の友達らいい奴らだな。……序でにありがとうな、小林。)
ノイズの襲撃なんて嘘だったと思えるくらいに、明るい4人の温かい言葉。だが、いつまでも感傷に浸っているわけにも此処に留まっている訳にもいかない。
「……ハイ、話しは此処までだ。林、彼女達とシェルターへ避難してくれ。いつ、またノイズが湧くのかわからねぅからな。」
「わかった。……お前はまた戦うのか?」
「あぁ。それが俺の務めだからな。ホレ、早よ行け。」
「わかった。…気をつけてな。」
3人を先導する亜咲に、少しだけ口元が緩む。しかし、直ぐに引き締めて窓から飛び降りようとした。
「比企谷ぁッ!」
「あン?…おっとぉ。」
亜咲の呼ぶ声に振り返ると、銀色の何かが宙を舞いながら八幡の目の前にあった。それを危なげなくキャッチ。そして手中に収まったソレが何なのか確認する。
「ロザリオ…?」
「祖父から受け継いだモノだ。お前に預ける…だから必ず返しにこいよ。」
「…あぁ。必ず。」
ロザリオを懐にしまい込み、窓から飛び降りた。中央棟を目指し、目にも留まらぬ速さで走る。それをしばしだけ見つめ、亜咲達は再びシェルターへ向け駆け出したのだった。
「はっ…はっ…は…フッ…。」
息を切らしながら走る八幡の1度だけ緩む口元。秘密を知られたが、拒否されなかった。感謝された。勇気を貰った。背中を押してもらった。
(だから、頑張れる気がする。…なんてな。)
ードックンッ!!
緩んでいた口元が強く紡がれる。強く大きく高鳴った鼓動を皮切りに、八幡を殺意が包む込む。
「焦るな…。」
あの日と同じ感覚に襲われるも、自分を落ち着かせる。
崩れた中央棟のエレベーターに着いたが、キーが反応を示さない。2度、3度試してもピクリとも動かず、足止めをくらってしまう。
「チィッ、これだから秘密組織はッ!」
秘密組織が為に、今は動かないエレベーター以外に二課本部へ移動する手立てがない。
だったらと、八幡はドアを白雪ノ華で斬り、中へと蹴飛ばす。強制解放された向こうへ顔を覗き込むと底は見えず、低く不気味な風の音が反響していた。人を恐怖に落とす闇、だが八幡に恐怖も躊躇いも無くそこから飛び降りた。そのまま頭から重力に逆らわずに落ちていく。
《いやぁぁああぁああッ!!》
聴こえたのは幼馴染みの悲鳴だった。
数十分前……
未来と緒川が二課本部に避難する為に乗ったエレベーター。しかし、降下中に敵の襲撃されてしまった。秘密に嗅ぎ付いた緒川を始末する為に櫻井了子…もといフィーネは己が身にネフシュタンの鎧を纏い、姿を見せた。
止まったエレベーターから飛び出し、デュランダルが保管している場所、通称アビスに連なる廊下でフィーネと対峙する緒川。
その最中、天井を突き破り、弦十郎がフィーネの前に立ちはだかった。
非武装の人間 対 完全聖遺物。
結果は明白……と思えた。しかし、世の中には稀に規格外と呼ばれる強者がいたりする。その1人は間違いなく風鳴弦十郎、その人である。
拳が掠っただけでネフシュタンの鎧には亀裂が入るなど、もはや常人を逸脱していた。その圧倒的なパワーと戦闘センスでフィーネを追い込んでいく。
発勁で地を割り、浮いた瓦礫を蹴飛ばしてソロモンの杖を天井へ追いやった。
だが、そんな規格外であっても人間。
「弦十郎くんッ!」
「あッ!?」
フィーネへ飛びかかり、向けた拳が彼女の呼ぶ声に反応した。人間であるが故に"情"が一瞬、躊躇してしまった。
「フッ…。」
それが勝負の分かれ目だった。嫌らしい笑みを浮かべ、その隙をついたフィーネは、ネフシュタンの鎖状の鞭で弦十郎の腹部を貫いた。宙に鮮血が舞い、弦十郎は腹部からの激痛に顔が歪んでしまう。
「ぐっ…ぉ……。」
吐血し、腹部からは血が溢れる。倒れた弦十郎を中心に血溜まりが出来るまで、そう時間はかからなかった。
「いやぁぁああぁああッ!!」
刺激の強すぎる光景に未来は悲鳴をあげた。一般人では見る事がない非日常的な現実は恐怖となり、未来の身体を震わせた。
「抗うも覆せないのが定めなのだ。」
彼女は動けなくなった弦十郎からキーを奪い、天井に刺さったソロモンの杖を回収しようと鞭を伸ばした。
「ッ!」
ゾワッと背中が反応した。懐かしくも悍ましいその気配は自身の腹下辺りから感じた。
目が下を向いた時、そこには一切の感情が見えない真紅の双眼が此方を捉えていた。
彼の握られた拳には稲妻が走り、それがフィーネに迫って来る。
世界の進む時間がスローへなった気がした。
驚きで大きく開かれる瞳は、彼の動作をゆっくりと捉えていた。
「シッ!」
「がはッ!!?」
そして、短く吐かれた息と同時に時間は進んだ。
気づけば彼女は身体をくの字にして後ろに飛んでいた。遅れてやったきた腹部への衝撃と痛み。程なくして、彼女は背中を壁に打ち付けられた衝撃と痛みがやってくる。
「ぐッ…ガァッ!!」
背中を打ち付けた影響で呼吸が止まる。息を吸うことも吐くこともできなかった。ぶ厚い壁には亀裂が入り、彼女の受けた一撃の重さを物語っていた。
「縛り付けろ、白雪ノ華ッ!!」
不意をついた八幡は更なる攻撃へと既に移行していた。最大のチャンスと言える今、攻撃の手を緩めるなど愚の骨頂。床に刺された白雪ノ華は、八幡の命令を聴き入れて床を伝い壁へとその力を走らせた。
「なにッ!?」
壁から生えた氷の鎖が彼女の左右の腕と両足を縛り付け、壁へ十字に張り付けた。
「この様なモノでッ!…ぐぅうぅぅッ!?」
手足が千切れそうな程に強力に拘束され、身動きが全く取れない彼女。力任せに身を捩っている先では、八幡が氷で身の丈サイズの槍を精製していた。
氷の槍を両手で掴み、頭上で高速回転させた後に腰付近で構えた。
「ぅおぉぉおおッ!」
そして、雄叫びを上げながら駆け出した。槍を腰まで引き、後は勢いそのままに突き刺さすだけだった。
「八幡君ッ!」
弦十郎にした事で、八幡の動きを止めようとする。刹那、ピクリッと八幡の眉が動いた。だが、彼は止まらなかった。
今だけは非常に徹する。かつての仲間への情は地上に置いてきた。
「コイツで終いだ…。」
ボソリッと呟く様な声。紅い瞳は人体急所の心臓を捉えて離さない。
「緋維音ぇぇぇえぇッ!」
「貴様ぁぁああぁッ!」
互いの憎しみの篭った叫びが直後、氷の槍が深々とフィーネの心臓を貫いた。心臓は弾け飛び、壁一面を真っ赤な鮮血で染め上げた。
「あ…ぐッ…ぁ…。」
最期まで視線を逸らさずに、苦しそうに呻くフィーネと睨み合う。だが、それはほんの少しの事ばかりで、間も無く彼女の全身が脱力した。
明確なる死。
やがて、八幡はゆっくりと両手を槍から離した。震える両手を閉じ、項垂れた彼女に向き直る。
まるで聖槍に貫かれたキリストの様だった。美しいと感じる死。その光景に緒川も未来も釘付けとなる。
「さよなら…了子さん。」
震える唇から小さく呟かれた別れの言葉を残し、八幡は急いで重体の弦十郎の元へ駆け寄った。
「司令ッ!……酷い…。」
「早く医療室へッ!」
血は今も溢れ出てきており、致命傷ではないものの、このままでは失血死してしまう可能性があった。
だから、彼は使う。誰も救えなかった後悔が会得させた自傷の技。
歴代最強と呼ばれた3代目が発案した、命を救う為の術。
【血箋華】
弦十郎の真上に翳した自分の左手を白雪ノ華が貫いた。
激痛が左手から全身へと迸り、小さな呻き声を上げてしまう。それでも常人であれば泣き叫ぶ程の焼ける様な激痛である。
「久々…だとッ…痛てぇな、やっぱ…。」
「ハチ君ッ!!何…を…?」
悲鳴に近い叫びを上げる未来だったが、彼女は有り得ない事象に言葉を失う。八幡の左手から垂れた血が弦十郎の傷に落ちると、みるみる傷が塞ぎ始めたのだ。
時間にしてみれば、僅か数十秒。現代医療では到底不可能な速さで弦十郎の傷を癒したのだった。
左手から白雪ノ華を引き抜くと、そこに傷はなく、更に未来を混乱させた。
「……ブッハァ……ハァハァ……」
尻餅をつき、激しく乱れる八幡の呼吸。
犠牲者を出さない様に立ち回り、地上のノイズを全て1人で排除。それも全力で。その後にフィーネを強襲。トドメに燃費が最高に悪い血箋華を使い神通力を大量消費。
寧ろ、よく今まで耐えていた事の方が凄いと言える。
「ハチ君、大丈夫?」
「ハァハァ…ッ、さ…流石に…ヘロヘロ…だぁ…。」
「…また助けられちゃったね。」
「気に…フゥ…気にすんな。俺がお前たちをー」
ーキィンッ
脳内にノイズの出現を知らせる警報がなった。感知した出現地は自身の真後ろだった。緩んでいた表情は険しくなり、白雪ノ華を床に刺した。
「貫け、白雪ノ華ぁぁッ!」
乱れた呼吸そのままに白雪ノ華に命じる。
【氷槍天昇】
床から生えた氷の槍が、出現したばかりのノイズ全てを貫いた。フラフラと立ち上がり、苛立ちを込めて振り返る。
そこには手にソロモンの杖を携えたフィーネが、壁に張り付けられたまま、ニィタァと狂気じみた笑みを浮かべていた。
ソロモンの杖が怪しく光を放った。と同時にノイズの出現を感知した。
(あの光ががノイズを呼び出すのか!つーか心臓潰されて、何で生きてるんだよッ!)
「緒川さんッ!2人を連れて避難をッ!」
「了解しました!」
迫るノイズを八幡が斬り刻む中、フィーネは呼び出したノイズを使って拘束を排除し、地に足をつけた。己が心臓に刺さった氷の槍を引き抜き放り投げた。
「フ…フフフ……ハァハハハハハ!使ったなソレを…血箋華をッ!これで貴様に勝機は無くなった。私の勝ちだぁッ!」
「はっ、言ってろ。どんなカラクリかは知らないけどな…死ぬまでアンタを斬るまでだ。」
「言ったはずだ。貴様に勝機は無いとな。ネフシュタンの鎧の特性は無限の再生だ。そのネフシュタンと融合を果たした私を殺す事など不可能。…立花響には感謝しているよ。生体と聖遺物の初の融合体として、大いに役に立った。ヤツという先例がいたおかげで、私はネフシュタンと同化できたのだからな。」
「ーッ!」
遠回しにフィーネはこう言ったのだ。
"お前の幼馴染みは実験のモルモットだった"と。
妹とさえ思っている響をぞんざいに扱ったのだ。それは断じて許される事ではない。今すぐにでも斬り刻みたい、そんな衝動に駆られるも深呼吸で乱れた息と心を落ち着かせる。
「その同化したネフシュタンの力を使って月を破壊する、と?千数百年前にしようとしたように。」
「フンッ…彼奴め、その事まで後世に伝えていたか。そうだ。だが、勘違いするな。月を破壊するのはネフシュタンでは無理だ。だから、私は作ったのだ。カ・ディンギルをな!」
「何故だ……何故、そこまでして月の破壊に准じる?」
「……私はただあのお方の隣りに並びたかった……だから、私はシンアルの野に塔を建てようとした。」
(何を言って……?)
「だが、あのお方は人が同じ高みに至る事を許しはしなかった。あのお方の怒りを買い、雷霆に塔を砕かられたばかりか、人類は交わす言葉までもが砕かられた。……古来より、何故月が不和の象徴と呼ばれているのか分かるか?」
「?…ッ!まさか!?」
「そうだッ!月こそがバラルの呪詛の源だからだ!…だから、月を破壊するのだ。そして、人類を1つに束ねる!貴様にも一応聴いておくとしよう……私に手を貸せ、安倍晴明。」
「……断る。俺は安倍晴明。そして人類を守る剣だ。月の破壊は重力崩壊を引き起こすなんて事、誰もが知っている。だからこそ、アンタを止める。」
白雪ノ華を構えからの拒否の意を伝えた八幡に、フィーネはフンッと不機嫌そうに鼻を鳴らし、ソロモンの杖を突き出す。
「だいたいな、アンタ達があのお方とやらを怒らせたのが、そもそもの原因だろうが。…俺だったらバラルの呪詛?とやらを、あえてそのままにして人類を1つにしてやるね。そんでもって、あのお方とやらを引きずり出して"ザマァ見ろ"って言ってやるな。まぁ無理な話しだろうけど。」
「…昔、貴様と似たような事言った者がいた。あの娘は永遠に転生し続ける私ならバラルの呪詛から解放せずとも、いつかは人類を相互理解に導けると言ってくれた。…優しい心を持った、たった1人の友。だが、人間の可能性を信じていたあの娘は欲深き人間達によって殺されたッ!だからこそ、月を穿つ!そして重力崩壊を引き起こし、狼狽える人類を聖遺物の力を振るう私の元へ帰順させる。恐怖と痛みを持って私が束ねるのだ!」
「そんなトチ狂った世界は御免だッ!」
もはや対話による解決は無理だった。始めから駄目元ではあったが、フィーネの語る未来図を八幡は受け入れられる訳がなかった。それは八幡の望む未来とも、未来や緒川が抱く平和とも懸け離れた狂気の世界。
だから、もう戦うしか遺された道は無かった。
「はぁぁあ!」
「無駄だ!ネフシュタンの力にひれ伏せるが良いッ!」
狭い通路で閃光業雷などの威力の高い大技を使えば、天井が崩れてその下敷きになってしまうが為に使用は不可。
懐に斬り込むが、鞭を器用に扱うフィーネに白雪ノ華を弾かれてしまう。呪符を放てど、彼女に届く前に木っ端微塵にされてしまう。有力な手段がないまま無常にも戦いは続いていく。
「フハハハッ!言っただろう?貴様に勝機はないと。何故なら貴様には決定的な弱点がある。……それはー」
鞭を引き、しなるそれを距離を取った八幡に向けて放つ。間をおかずに左手に持つソロモンの杖から光りが放たれた。
「ッ!?」
放たれた光りは八幡の頭上を越え、離脱途中の3人の前にノイズを出現させた。突然の出現に恐怖で固まってしまった未来に、ノイズが迫る。
「…え?」
「未来さん、下がって!」
「させるかぁぁああぁッ!」
鞭を白雪ノ華で弾きながらも、後ろ向きのまま呪符を放ちノイズを粉砕する。八幡の注意が自身かは逸れた隙を逃さず、フィーネは鞭を八幡へ振り落とす。寸前でバランスを崩しながら半身で鞭を躱したが、また光りがソロモンの杖から放たれた。
「クソっ垂れ!」
崩れた体勢を力任せに戻し、床が陥没する力で3人の方へと跳躍。着地した流れのままノイズを横薙ぎで斬り、拳で貫き、脚で蹴飛ばす。
風を斬る音が聴こえたが時すでに遅し。隙だらけの八幡の背中に鞭が直撃した。
「ぐはッ!」
「ハチ君ッ!」
吹き飛ばされはしなかったものの、それなりに威力があり、背中に激痛が走る。痛みに顔を歪める八幡に未来は彼の名を叫んだ。
ーキィンッ
己の怪我を確認する間も無く、次のノイズが召喚された。痛みで歪む視界で捉えたノイズを片っ端から斬り刻んでいく。3人を守る為に動き回る八幡をフィーネは愉快そうに眺めていた。
「それが貴様の弱点だぁ!何1つ捨てられない貴様の剣は私には届きはしない。」
「ハァハァ…うるせぇよ。」
「理解できぬか?ならば、その身体で解らせてやろう!」
わざと未来の前にノイズを召喚する。緒川は未来を連れて逃げようとするが、弦十郎を抱えた状態では素早く動けなかった。
疲労で鈍った八幡の動きに鋭さも技の冴えも無く、ガムシャラに白雪ノ華を振り回す。呼吸は一層荒くなり汗も滝のように流れる。
(まだだ…まだ何か手があるはずだ……何か!)
それでも止まれなかった。もう目の前で誰かがいなくなるのが嫌だった。守りたい者を守れないのが嫌だった。だから、踏ん張る。思考し続け、諦めない。
「うッ…おらぁぁああぁッ!」
気持ちが折れないように苦し気に咆哮する八幡を、未来は祈るように見つめていた。
(誰か…誰かハチ君を助けて……お願いします、神さま!)
だが、未来の願いを神は聞き入れなかった。
心は折れずとも先に八幡の身体がは折れてしまった。
最後の1体を真っ二つに斬った直後、パリィィンッ!と音を立て光の粒子へと砕け散る白雪ノ華と戦鎧。
力尽き、両膝を地に付けてしまう。髪と双眼は黒に、服装はリディアンの制服へと戻り、もはや立ちあがる体力さえ残されていなかった。
「はぁ…はぁ…はぁ…。」
「フッ…限界を迎え尚もその様な目をするか。」
「ハチ君逃げて!」
フィーネは動けない八幡の頭を鷲掴みにし、持ち上げる。身体が言う事を利かず、八幡はされるがまま宙に浮いてしまう。掴まれた箇所から血が垂れてくるも、もはや痛みを感じる事もできない程に疲労困憊。
垂れた血が右目に流れ込み、反射的に閉じてしまう。
絶体絶命。八幡の命はフィーネが握っている。まさに今この場のフィーネの立ち位置は"神"と言える。
(つっても、死神だな。)
「さて、では貴様に良いことを教えてやる。」
「ハァ…ハァ…嘘つけ…」
「ノイズとは何か…それはバラルの呪詛にて相互理解を失った人間が作り出した、人間だけを殺す為の自立兵器なのだ。そして、ソロモンの杖はそのノイズをバビロニアの宝物庫から呼び寄せ使役する完全聖遺物。……しかし千数百年前、初代安倍晴明との戦いの時よりバビロニアの宝物庫の扉は開け放たれたままでな……使役出来ずとも私の巫女としての力だけでノイズを召喚する事が可能となっていた。これがどう言う意味かわかるか?つまりー……
7年前と3年前に千葉で起きたノイズの大災害を手引きしたのが私だと言う事だッ!…フフ…ハッハハハハ、貴様の父と師の仇はずっと貴様の側にいたのだぞ?」
「あぁ…??」
「嘘…。」
「そんな…なんて事をッ。」
あまりの衝撃に言葉を失う。
今、この女はなんと言ったのか?遅れてやってきた言葉の意味。
それを理解した時、彼は叫んでいた。
「テ…テメェがぁぁ!!殺す…殺してやるッ!」
それは流れた血が入ったからなのかは分からない。今は八幡の右目は真っ赤な血の色に染まっていた。
憤怒と憎しみが八幡の心を支配し、その心は顔にも出ていた。
怒りと憎しみの炎が燃え盛る八幡を見たフィーネは狂気染みた笑みを浮かべる。
「その顔が見たかったぁッ!」
そして、八幡の脇腹を鎖の鞭で貫き、引き抜いた。
逆流した血が口から飛び出し、限界を迎えていた八幡は激痛に耐えれずに意識を手放し、そのまま地に伏せた。
「ハチ…君?……ハチ君ッ!しっかしりして!ハチ君!」
「八幡さん!」
真っ赤な鮮血が溢れ出る傷口を緒川は上着で押さえつける事で止血する。未来は動かなくなった八幡を必死で呼びかける。何度も何度も呼びかけるも返事はなかった。涙が溢れ、八幡を失ってしまう恐怖で身体の震えが止まらなかった。
「殺しはしない。そんな救済、貴様に与えてやるものか。己が無力を噛み締め、何も守れなかった絶望を味わい、苦しみながら死ぬのが相応しい。」
そう言ってからフィーネは八幡の懐から、ある物を奪取した後にデュランダルが保管されている扉の向こうへと去っていった。
血は止まらなかった。