やはり俺がシンフォギアの世界にいるのは間違っている   作:にゃにゃにゃす

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第22話

都と比べると緑豊かで、人々の喧騒もなく、耳を澄ませば川のせせらぎの音すら聞こえる名も無き山にある村。

その最奥にある一際大きめな建物の扉が今、煩いくらいに音を立て開け放たれた。

またか、と呟き室内にいた女性は物書きをしていた筆が止める。

 

「緋維音、遊びに来たよー!」

「ハァ…玉藻。貴様は暇なのか?仮にも貴族であろう。」

「あーなんか、要らない地位を与えられただけだし。気にしない気にしない。」

 

ヒラヒラと手を振り、自身の置かれている地位に全く興味も関心もないとアピールする。

妖魔退治と言われるノイズの討伐並びに異形の生物退治で武功を立てが故に、女性で異例の貴族の地位を与えられたのだったが、本人は人助けのつもりで動いていた為、見返りに興味はなかった。。

故に本心からの要らない地位と言っているのである。

 

「…それで、何用だ?」

「遊ぼう!」

 

見た目は大和撫子と呼ばれてもおかしくは無い生まれながらに完成された"美"を持ったし少女・玉藻。その見た目に反した物言いと行動力、齢14で家宝の白雪ノ華を使って数々の武功を立てた彼女だったが、その態度はまんま子どもでしかなく、度々緋維音の頭痛を引き起こす原因でもあった。

しかも、暇があれば馬を走らせず単身で走ってやってくるのだから困ってしまう。本人曰く、"馬より自分が速いから!"

 

「私は暇ではない。」

「えーなになに…月の破壊計画…??」

「なッ!?」

 

先程まで扉付近にいたのに、現在は緋維音の書き留めた髪を手に持ち読み始めていた。人間離れしたスピードに、流石の転生者・緋維音も驚きを隠せなかった。

 

(いくら九尾を身に宿しているとは言え、なんて速さ!しかも、計画を見られてしまった。)

 

「どう言う事かな?…説明、してくれるよね?」

「ハァ…長くなるぞ。」

 

そこから話された彼女の秘密と計画。玉藻には、いつもの子どものような無邪気な笑顔はなく、ただただ冷たい武士(もののふ)の眼つきをしていた。

話しが全て終わり、さぁどうする?と言う緋維音に彼女は口を開く。

 

 

「なぁ〜んか、癪じゃない?」

「……は?」

「だってさ、その呪詛を破壊して…神、なのかな?……あのお方って人に会えたとしても、あのお方からしたらさ、だから何?ってなるよね。むしろ怒るだけかもしれないよ。」

「……。」

「緋維音って、また次世代へ転生していくんでしょ?だったらその力を利用してさ…見た事ないから世界とかはよくわかんないけど、人類全てを相互理解へ導いたらいいんじゃないかな。そしたら、予想外の展開にあのお方とやらは目ん玉飛び出るかもよ?ついでに、ザマァ見ろって言っちゃえ!」

「貴様は…この世界の総人口を知らぬから、そのような世迷い言が口できるのだ。それに、人と人が分かり合うなど易々とできるものか。」

 

統一言語を砕かれた人類は、まず会話ができない相手を殺し始めた。その兵器がノイズだ。人の歴史は戦いの歴史でもある。だから、玉藻の言うそれは夢物語でしかない。

 

「だったら私は?信頼してる大好きな緋維音と一緒にいて、今はこうして分かり合おうと会話している。これを人類全てと少しずつしていけば、いずれは出来ると思うな〜。…どうかな?」

「…それは終わりの見えない始まりだな。貴様、本気でできると思うのか?」

「できる!緋維音ならできる。人は分かり合えるって信じてる。だって、化け物って呼ばれていた私が今じゃこうして緋維音という友達を得た。認められて地位を得た。恥ずかしいけど英雄なんて言われてる。救った村々の人達だけじゃなくて、都にだって友達ができた。……だから、できるよ。月を壊す必要、ないよ。」

「玉藻……。」

 

 

優しい温もりを持った手が、緋維音の手を包む込んだ。

 

 

 

 

 

 

第22話

 

 

既に日は沈み、真っ赤な満月が闇夜を仄かに照らす。

スカイタワーを襲撃してきたノイズを撃退した3人のシンフォギア装者。

彼女達は今、破壊された校舎と瓦礫の山と化したリディアン音楽院の前に佇んでいた。

クリスから八幡がリディアンに向ったと聴いていたが、もはや何がどうしてこうなったのか理解できなかった。

 

「ハチくーん!未来ー!皆んなー!」

 

響の呼ぶ声に返ってきたのは木霊した自分の声だけだった。無事だと信じたい。そう思っても、瓦礫に混じった炭は犠牲者が出ている現実を突きつけてきた。

 

「リディアンが……はっ!櫻井女史?」

 

破壊された校舎の上から此方を見下ろす了子を翼が見つける。無事で良かったと思った矢先、とてつもない事実をクリスが叫んだ。

 

「フィーネ!お前の仕業か!?」

「フィーネだと!?」

「フフ……ハハハハハッ!!」

 

笑う。ただただ愉快に笑う。その高笑いが彼女達への答えだった。奇抜な眼鏡と髪留めを外しネフシュタンを起動した。もはや言い逃れもせず、隠すこともなく本来の姿を見せるフィーネに響は狼狽えた。

 

「嘘ですよね?そ、そんなの嘘ですよね?だって、了子さん私を守ってくれました。」

 

クリスのデュランダル強奪未遂の折に、飛び掛かってきたノイズから響を守ったのは紛れもなく櫻井了子だった。だが、返ってきた答えは……

 

「あれはデュランダルを守っただけのこと。希少な完全状態の聖遺物だからね。」

「う、嘘ですよ。了子さんがフィーネだと言うなら、本当の了子さんは?」

 

そして語られる真実。

フィーネは自身の遺伝子に己が記憶を刻み込み、子孫がアウフヴァッヘ波形に接触すれば記憶を呼び覚ます。目覚めた彼女は、本来の身体の主の意思を塗りつぶして蘇る。

破天荒にも程がある輪廻転生システムに翼は歯ぎしりがなる。転生者がいると解ってはいたが、よもやずっと自分達の近くにいたのだ。気づけなかった事を悔やんだ。

 

「……過去より蘇りし亡霊。お前は、また月の破壊を目論んでいるのか!!」

 

あの日、八幡に聴かされた比企谷家に伝わる昔話し。月を破壊しようとしたが為に、初代安倍晴明に討たれたフィーネの話し。まさかとは思った。だが、フィーネの苛立ちの表情を見て確信へと変わる。

 

「チィッ。…よもや貴様にも伝えていたとはな。」

「……おい、八幡はどうした?あの馬鹿はどうなってやがる!?」

「そんな事も解らないのか?それとも認めたくないのか?だったら、教えてやろう。」

 

フィーネが響へと何かを放った。両手で受け止めたソレを見て、一瞬呼吸が止まる。

黒縁の眼鏡。レンズに固まって血がこびり付いてる黒縁の眼鏡。手は震え、嫌な汗が額から流れ落ちた。

 

「これってハチ君の……嘘……。」

「違う!コレを使ってアタシ等の戦意を削ぐつもりだ!そうに決まってるッ!!」

 

認めたくない。八幡の実力をしっているからこその否定の叫びだった。

 

「……いや、コレは八幡の物で間違いない。」

「そんなわけない!アイツが…アイツは!」

 

翼は響の手のひらにある眼鏡を、そっと掴み取りフレームの内側を見る。K&T&Hと彫られた文字が、翼の知る本物の証しだった。

 

「内側に彫られて文字…K&T&Hの意味は"奏と翼と八幡"。入学祝いに私と奏がプレゼントしたものだ。」

「そうだろうな。よーく知ってる。何せあの場には私も居たからな。」

「1つ聴かせろ……私の弟をどうしたッ!!?」

「吠えるな小娘。決まっているだろう?私と戦い、そして敗れた。」

 

 

そして心底楽しそうに笑い始めたフィーネ。耐えれないと言わんばかりに、腹を押さえて笑う様は狂気じみていた。

 

「貴様達に見せてやりたかったぞ!?あの表情。思い出しただけで笑いが止まらぬ!アハッ……ハハハハハ!7年前と3年前の真実を知り、憤怒したあの顔ぉ!!古から私の邪魔をしてきた一族はもういない!!……ハァ…昂ぶりと興奮が治らない!」

「7年前と3年前……?それって……」

「あの子の父君と師が殉じた年だ…貴様、何を知っている!?」

「知っているさ…全てを!何せ、7年前も3年前もノイズを千葉に大量発生させたのは、この私なのだからなッ!!」

「なん…だと…?」

「あり得ねぇ!ソロモンの杖もなしにどうやって!?」

「操れずとも、開け放たれたままのバビロニアの宝物庫からノイズを呼び出すのは私にとって容易い事だ。」

「そんな…じゃぁ貴女がおじさんを……。」

「直接ではないがな。それを知った比企谷八幡が、怒りに我を忘れた直後に腹を貫いてやったがな。」

「腹…え?」

 

腹を貫いた。その言葉に3人とも声を出せなくなる。血痕のついた眼鏡が月明りで鈍く光った。それを翼は大切に懐へしまった

 

「八幡の…そんな…。」

「ハチ君が…嘘ですよね?」

「嘘なものか。まぁ、今はまだ殺してはいないがな。ヤツには守れなかった後悔と絶望を与えた後に殺す。安倍晴明に連なる者は我が手で滅ぼす!毎度、我が悲願を邪魔する奴等一族は今宵、この手で滅するのだぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい。今、何と言った…?」

 

腹の底から出た低い声が、一瞬でこの場を支配した。

 

 

翼の顔に深い影が射し、目元は前髪で隠れてしまい表情は見えない。紅い紅い満月と重なるその姿は不気味で、他者に得体の知れない恐怖を与えた。

 

そんな翼を中心に風が騒いた。

クリスは寒くもないのに、気づけば自身の手足が震えているという事態に困惑していた。

だが、響は違った。二課に所属して間もない頃、野外演習場で行われた、とあるテスト。あの日、八幡の怒りを買い、死のビジョンを見せられた。

 

殺気。

 

顔の見えない翼からヒシヒシと伝わるソレに、響は恐怖に飲み込まれた。

 

 

「お前の悲願とやらの為に八幡は傷を負わされ……剰えあの子を殺すと言ったのか?」

「な…んだって…んだ!」

「つ、翼…さん?」

 

2人は心臓を鷲掴みにされたかのような息苦しさを覚えた。身体は重い何かに押し潰されそうになる。

翼の握られた拳は怒りに震え、声は低く小さいにも関わらず、場にいる全員の耳にスッと入っていく。

 

「お前か?あの子から父親を奪い……あるはずだった幸福と自分を切り捨てさせたのは…。」

 

(怖い…こんな翼さんを私は知らない…!)

 

「お前か?…あの子の敬愛した師を…たった1人の理解者を奪い、あの子を孤独という奈落の底へ突き落としたのは?」

 

一歩……また一歩とゆっくり前へ出る翼を2人は見つめることがしか出来ず、また恐怖に足が竦んで動けなかった。味方に恐怖心を抱くなど可笑しいにも程があるが、翼の放つ禍々しい殺気にあてられてしまう。

翼のからの"圧"は一歩フィーネに近づくほど、彼女の身体を重くしていった。

 

「お前か?」

 

歩みはそこで止まった。フツフツと沸き上がる怒りは、到に臨界を迎えていた。溢れる憎しみを翼は受け入れたのだった。

 

「まだ幼かったあの子の小さな背中に……。」

 

思い出したは初めて八幡と刃を交えたあの日に見た、八幡の泣いた顔だった。

 

 

「お前が…お前が何もかもを……背負わせたと言うのかぁぁああぁぁあッ!!」

「ッ!?」

 

翼の雄叫びのような怒号は地を、空気を揺らした。更に解放されてる殺気は重圧となって、彼女達の身体を鈍らせ、怯ませ、恐怖の闇へと陥れた。

歯を獣のように剥き出し、切れ長の瞳は限界まで開きフィーネを圧倒する怒りの眼差し。

 

もはや、この場に人類守護の防人はいない。剣でもない。

いるのは、ただただ怒りに身を染めた修羅だった。

 

「ひっ!?」

 

響は見えた翼の顔に思わず悲鳴を上げた。クリスは悲鳴を上げなかったものの固まってしまう。

 

「フー…ッ!フー…ッ!」

 

呼吸は荒く、しかし憤怒の眼光は衰えずにフィーネを射抜く。

フィーネは、ハッと我に返り今の自分の状況に気付いた。己が知らぬ間に後ろへ移動していたのだ。

 

(私が…一歩後ろへ下がってる…?ッー馬鹿な!こんな20にも満たぬ小娘に、私が恐怖したと言うのか!!?)

 

それは反射だった。絶対的な死を感じた身体が生を掴もうとした反射的行動。それは即ち、フィーネが翼に恐怖を抱いたと言う何よりの証拠だった。

 

フィーネにとって、この行動は屈辱でしかなく……故に怒り、翼を睨み返した。

 

「小娘がぁぁあッ!」

「……。」

 

刹那、翼がニタァ〜と笑みを浮かべた。こちらの背筋が凍ってしまう程に、悍ましく冷たい狂った笑みをだった。

精神が正常な者には到底真似できない不気味な笑顔にフィーネは身体を震わせた。

 

「いい事を思いついたぞ。…お前の両腕を斬り落とし、次に両脚を捥ぎ取り、あの子に突き出してやろう。父と師の仇であるお前へのトドメはあの子に刺させてやらねば。」

 

そうすれば、きっと八幡は喜ぶと本気で思った。

血の繋がりはなく、出会ってまだ2年弱。でも本当の弟のように愛している。だから、血が怒りで滾る。殺意が沸く。長年に渡り弟を苦しめ、心身に深い傷を負わせたこの女が許せなかった。

 

「Imyuteus ameー」

「おい。」

 

肩を掴まれた矢先に頬を殴られて、鈍い痛みに翼は片目を閉じて顔を顰める。

目の前には拳を構えたままのクリスが仁王立ちしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




八幡不在でしたね……。
次回は火曜日あたりに更新をしたいと思います。
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