やはり俺がシンフォギアの世界にいるのは間違っている   作:にゃにゃにゃす

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第24話

紅い流れ星が堕ちて行く。クリスの決死の抵抗により、月の破壊は免れた。

 

だが絶唱を歌ったバックファイアにより、クリスの意識は朦朧としていた。それでも凄まじい速度で、地上が迫っているコトだけは理解できた。

 

「あぁ…アタシは…死ぬ……のか?」

 

まだやりたいコトが沢山ある。親の夢だって引き継ぎ、叶えたい。

でも、力の入らないボロボロの自分ではなす術が何も無かった。

 

(大丈夫だよ。私が守るから。)

 

地上に激突する間際、身体を何か暖かいモノが包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

地上へ繋がる出口から身を出すと、真紅の月が八幡を出迎えた。

しかし、丸みを帯びている筈の月は何故か欠けており、まさかと自分が出てきた場所を振り返ると、今日の夕刻までは無かったとんでもなく大きな塔が聳え立っていた。

 

「これが…カ・ディンギル!!クソッたれ…!」

 

毒付きながらも、初弾は失敗したという事実に気づく。

だが、2射目で軌道修正されれば次で終わる。フィーネの悲願は果たされ、地上は地獄となり彼女は神として降臨する。

 

それだけは防がなければならない。

止めていた脚をまた動かして、先程から雄叫びが聴こえる方角へと急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅうがぁぁぁああぁぁッ!」

「くッ!!立花!」

 

クリスが地上へ落ちた。カ・ディンギルより放たれた絶望の光りから、身を挺して月を守り切った彼女。

 

そのクリスをフィーネは無駄だとせせら嗤った。

悲しみに暮れた響を一瞬で憤怒させるには十分な一言だった。

 

「あぁぁああるぁあ!」

「よせ…立花!」

 

結果、胸のガングニールが暴走し破壊衝動に意思を取り込まれ、敵味方の判別ができなくなり翼へ拳を向けた。

 

何度も迫る響を傷つけたくない翼は、拳で弾き、躱し続けた。

だが、異常な速度とパワーに傷を負い始め、とうとう腕部のプロテクターが砕かれた。

 

だが響は止まってくれない。呼吸を荒げながら猛獣の如く、再度翼に飛び掛かった。

 

「がるぁぁあ!」

「くッ!」

「こンのお馬鹿が!!」

「ぎゃぶぅ!?」

 

翼と交わるその瞬間、白い何かが視界に現れた。

白い何か…それは八幡の髪で、彼の拳骨が響の脳天にめり込んだ。そして、そのまま顔面から真下の瓦礫に突っ込む。

まるで破壊の化身。響の漆黒な姿に八幡は目を細め、掌に氷の短剣を造り出した。

 

 

【影縫い】

 

その短剣で響の影を縫い付ける。

呻き声を上げる幼馴染みに八幡は幾つもの疑問か頭に浮かび上がる。

 

「八幡…!貴方、どうして「それよりも状況説明を頼む。…時間がない。」

 

発光するカ・ディンギルに翼は息を飲んだ。

腹部を庇うように立つ弟を見て、色々と言ってやりたい事があったが、それを飲み込み、今までの出来事を簡潔に説明する。

 

「カ・ディンギルは荷電粒子砲。1射目は月の真下から雪音が絶唱で逸らしてくれた。…その雪音は北の森林付近に堕ちた。立花は雪音をあの女に侮辱され、怒り、ガングニールが暴走し今に至る。」

「…理解した。」

 

胸が騒ついた。姉の話しが本当なら北へ今すぐに向かいたい。

でもー……

 

『あの子達はもう戦ってる。だけど大丈夫!私があの3人を死なせはしないから。絶対、ぜっーたいにッ!』

 

玉藻が言っていた事を今だけは信じる。根拠はない。だけど、信じれられる。

そして、足下で影縫いに逆らい力づくで動こうとする響の頭に手を置き、左右に優しく撫でた。

 

「大丈夫だ。…クリスは無事だ。」

「あ…あぅあぁ…??」

「何故わかる!?」

「秘密。…ったく。奏さんから引き継いだ力で困ってる人達を守るんだろう?味方を襲ってどうすんだよ、アホ。」

「…あ……ぁ?」

「……。」

「さてと、奥の手を使わせてもらおうか。」

 

まるで血の様に紅い呪符を取り出して、それを勢い良く自身の心臓付近に叩きつけた。

刹那、八幡から真っ黒い瘴気が飛び出した。

 

「ぐぅぅぅ…ああぁぁあぁッ!!」

「八幡!?どうした…なにをしたんだ!?」

 

胸を両手で押さえ、苦痛に歪む八幡の顔。今、彼の全身を針を刺す様な、炎で焼かれてる様な激痛が駆け巡っていた。その激痛に意識を手放しそうになるのを耐え凌ぎ、彼は手に入れた。

 

漆黒の鎧の下、八幡の心臓から全身に渡って紅い紋様が行き渡る。

それは八幡の頬まで伸び、心臓の鼓動に連動して輝く。

 

「血化粧か…」

 

静観していたフィーネは呟く。

八幡とフィーネ。安倍晴明と緋維音。

再度参戦した八幡を見たフィーネは驚きもせずに不快そうに見つめるだけだった。

 

「ーなッ!?」

 

その八幡を見て翼は呼吸が一拍だけ止まる。

彼の眼は人間のそれではなかった。獣の眼。そして刺々しい牙が口から飛び出ていた。

 

「あぁ…そうだ。白狐の血を更に強制覚醒させる荒業だ。」

「フンッ、また私の前に姿を見せるだけでは飽き足らず、人の姿すら捨てたか?この化け物めッ!!」

「貴様!私の弟を侮辱するなどと!!」

「あぁそうだ。お前の言う通り化け物だよ。」

「八幡…。」

 

白雪ノ華に反射した自分の姿に悲しみの笑みを浮かべた

人ならざるモノに成り果てた自分。でも、これでいいのだと自分に言い聞かせる。

クリスがその身を犠牲にしてまでも繋いでくれた。

だから、引き継ぐ。全てを終わらす為なら化け物になったって構わなかった。

 

「化け物だ。…でも、化け物にだって護りてぇ明日がある!」

「ーッ!!…そうだな。その明日に歌う為……風鳴翼が歌うのは戦場ばかりで無いと知れッ!」

 

まるで初代と瓜二つの八幡の姿。そして、その隣りには玉藻を連想させるような太刀を持つ翼。

フィーネにとって、遥か昔を思いださせるその2人の姿が無性に腹立たしかった。

 

「人の世が化け物と剣を受け入れる事など在りはしないッ!」

 

刺々しい鞭が高速で2人へ向かってくる。

 

「ふっ!」

「颯を射る如き刃 麗しきは千の花〜」

 

翼の歌を合図に、2人は迫る鞭を空高く跳ぶ事で回避し反撃に移行する。

まるで獲物を追う蛇の如く、尚も接近する鞭を2振りの剣が弾く。

そのままフィーネに向かい降下するも、鞭がまた2人を貫こうと迫る。

 

「宵に煌めいた残月 哀しみよ浄土に還りなさい…永久に」

「俺たち姉弟を…侮るなッ!」

 

【閃光業雷】

【蒼ノ一閃】

 

寸分の狂いもなく同時に放たれた2つの斬撃。鞭と衝突し、大きな爆発を起こす。だが、いくら傷を付けようがネフシュタンの再生能力で鞭は瞬く間に修復された。

 

「慟哭に吠え立つ修羅 いっそ徒然と雫を拭って 思い出も誇りも 一振りの雷鳴へと〜」

 

2人が無防備にぬる着地した瞬間を狙い、フィーネは再び鞭を投げる。

だがー

 

【氷槍天昇】

 

「なにッ!?」

 

地上から飛び出した氷の槍に弾かれた。

鞭を弾いた氷が砕け散ると、大型化したアームドギアを構えた翼が地を這う様に飛び、フィーネに接近。振り抜かれたアームドギアの重量にフィーネはカ・ディンギルの外壁へ吹き飛ばされた。

 

「アレをやる、姉さんッ!」

 

隙が出来た今を見逃す程この姉弟は甘くなどない。

再び地を蹴り高々と空へと跳ぶ。

 

「去りなさい!無想に猛る炎 神楽の風に 滅し散華せよ」

 

最高度まで跳んだ翼がアームドギアをフィーネへ向けて投擲。

飛んで行くアームドギア巨大化させ、八幡がその柄を両手で掴み、雷を帯電させ威力を倍増させる。

翼が八幡の足裏に自身の足をドッキングさせた瞬間、2人は同時にバーニアから火を吹かせた。

 

【雷華ノ逆鱗】

 

「闇を裂け 酔狂のいろは唄よ 凛と愛を翳して

いざ往かん…心に満ちた決意 真なる勇気胸に問いてぇ〜」

 

 

超高速で堕ちてくる巨大な剣を忌々しげに睨みつけ、鞭を幾重にも絡ませて3枚のシールドを重ねて展開して迎え撃つ。

 

「嗚呼絆にぃ すべてを賭した閃光のぉ〜剣よぉ〜」

「侮るなと言っているッ!」

「馬鹿なッ!?チィッ……あぁぁあぁぁ!!?」

 

 

翼の放つ、天ノ逆鱗ならば防げれただろう完璧な防御も、2人のコンビネーションアーツを防ぐには至らず、シールドは貫通。フィーネは辛うじて剣を回避に成功するも、剣から放たれた雷を浴びてしまい身体に激痛を伴いながら、煙と悲鳴を上げた。

 

「ぐぎィィ…貴様らぁぁあッ!」

 

2人の猛攻にそれでも耐えたフィーネが眼にしたモノ。それはー

 

【炎鳥極翔斬】

 

両手に持った剣から炎を吹き出し、空へ舞い上がる翼。

そして、空中に氷の足場を形成しながら跳び、空へ登って行く八幡。

 

そう…見事な連携もコンビネーションアーツの大技も全ては囮。

それでフィーネを倒せれば御の字としていた。

 

「狙いは始めからカ・ディンギルかッ!!?」

 

それだけは破壊される訳にはいかないフィーネは全力で鞭を投げ放つ。

無限に伸びて行く鞭は、2人に徐々に追い縋る。

横目で2人は鞭の進路を確認した時、ハプニングが生じた。

 

「しまー」

「はっ…!?」

 

唐突に八幡の限界が訪れた。

…ー否、限界はとうの昔に訪れていた。血化粧で無理やり白狐の血を濃くし、神通力を身体から絞り出していたに過ぎなかった。

 

氷の足場を造れず、宙に投げ出された八幡に翼が動揺した。

 

「フッハ……」

 

フィーネは笑った。完璧に事を運んでいた2人の限界と甘さが見えた瞬間、鞭の速度を更に上げて無防備な2人の背中に衝突させた。

 

天に向かい飛んでいた2つの希望は鞭に弾かれた。

その威力に翼の顔が歪み、視界が閉ざされた。

 

(あと少しなのに……やはり、私ではー)

 

内から出た弱音。最近は事あるごとに周囲に迷惑をかけ、八幡を悲しませた。己が弱さを実感する度に、身体に力を入れて踏んばった。

だが、どうだ?また力を及ばず、今度は世界が終わってしまう。

防人が聞いて呆れてる……そう翼は思わずにいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

《なぁに弱気になってんだ、翼。隣りを見てみな。翼は1人じゃないだろ?》

 

聴こえるはずの無い、今はもう居ないパートナーの声が聴こえた。

 

(奏ッ……隣り?)

 

閉ざしていた視界を開くと、すぐ隣りには八幡がいた。激痛に顔を歪めて片目は閉ざしていた。それでも翼を映す彼の瞳には諦めの文字は無かった。

アイコンタクト。口には出さない。だけれども翼には八幡の言いたいことが理解できた。だから、身体はボロボロで痛いはずなのに僅かに笑みが溢れた。

 

八幡も釣られてニッと笑い、白雪ノ華に氷を纏わせて両手で力一杯握りしめた。

 

(そうだ。私は片翼なんかじゃない…私は翔べる…この子と一緒なら何処へだって翔んでみせる。私はー)

 

翼は体を捻り、白雪ノ華の上に片脚を乗せた。

 

「翔べッ……風鳴翼ぁぁああッ!」「うッおおぉぉおッ!!」

 

 

そして、八幡は最後の力を振り絞って白雪ノ華を振り上げ、同時に翼は全力で白雪ノ華から跳んだ。

 

氷は砕け散り、天へ登る翼と地に堕ちて行く八幡。最後まで諦めず、足掻いた結果がこの連携だった。

 

(諦めてなるものかッ!私は人類守護の剣だッ!)

「んはっ!?」

 

カ・ディンギルを守りきったと安堵するには、早計過ぎた。

火の鳥となって飛んでゆく翼を信じられないと思いながらも、フィーネは鞭を再び振り抜いた。

 

「はっ…!?」

 

だが更なる障害がフィーネに立ち塞がった。

鞭の行先に八幡が飛び出してきたのだ。古より彼女の邪魔をしてきた一族は、やはり最後の障壁となりフィーネを狼狽さえた。

 

(身体はマジでもう限界…白雪ノ華だけじゃ鞭2つの迎撃は既に無理。だったらー!)

 

目前まで迫った鞭。八幡は1つは白雪ノ華で叩き落とし、続く2つ目はー……

 

「がぁッ!?あぁッ…!…こうするっきゃねぇよな…。」

「なん…だとッ…!?」

 

左肩で鞭を受け止めた。身体を張った最後の抵抗。肩を貫通するも、減速した鞭を両腕で掴み、両の掌から血が噴き出した。

身を挺して彼はフィーネへの最期の妨害を成し遂げたのだ。

 

「はちまぁぁぁんッ!」

 

姉の叫び声の後、眩い光が背後から射された。絶望に染まるフィーネを見て、自分達の思惑の成功を確信した。

思わず漏れた最高に見下した笑みを浮かべ、八幡は薄れゆく意識の中で呟いた。

 

「ざまぁみろ…。」

 

直後に爆発するカ・ディンギル。爆風に吹き飛ばされながら、彼は地上へ堕ちたのだった。

 

翼の特攻により内部から爆発して、崩壊するカ・ディンギル。

2人の姉弟の命と引き換えにフィーネの悲願、月の破壊から人類は救われた。

 

避難者達とシェルターでコトの行末をモニター越しに見守っていた未来、弦十郎、緒川達は訪れた結末に言葉を失った。

 

「アメノハバキリに続き、白雪ノ華…反応途絶ッ…!」

 

モニター前にいた藤堯は悔しさと悲しみに唇を震わせながら現状を伝えた。

告げられた残酷な現実に、友里は耐えられずモニターに背を向けて口を押さえて涙を流し始めた。

 

「身命を賭して、カ・ディンギルを破壊したか…翼、お前の歌は世界に届いたぞ……八幡、お前の行為は無駄じゃない……明日は繋がった…世界を守ったぞッ…!」

 

弦十郎の震える声と拳。

その横にいた少年はコトの顛末に瞳は揺れ、呼吸が定まらなくなった。

 

 

「嘘だろ…比企谷が…死んだ?そんな……!」

 

祖父から貰った大切なロザリオを彼に渡した。彼は必ず返しに来ると言っていた。

八幡は冗談は言えど、一度だって裏切るような嘘は言わなかった。だから、信じた。

 

「わかんない…わかんないよッ!なんで…皆戦うの!?痛い思いして、怖い思いして!…死ぬ為に戦ってるの…?」

 

明日は繋がったが希望は砕かれた。絶望と恐怖に耐えれなかった板場の叫び。涙は止め処なく溢れ流れ、戦い死んでいったと予想される3人を気に留める事もできなかった。

 

「わからないのッ!?」

「ぅえ…!?」

 

一喝したのは未来だった。幼馴染み2人は戦いに身を投じ、いつも見守るしかできない自分。

モニターに映る、兄と慕う八幡は地に伏したまま微動だにしない。

涙を流しはすれど、未来は信じていた。彼は生きていると。

 

モニターの向こうでは、戦意を失い、膝まづく響がいた。このままでは、大切な人達を全て失ってしまう。

だから、自分の出来る事をしてあげたかった。自分の出来る事で2人を助けたかった。

 

「すいません。響達に私達の声を届ける事はできませんか?」

「お、俺も手伝わせてくないか!?比企谷は俺達を助けてくれた。それ以前に友達だ。だから、アイツの為に何か出来るなら手伝わせてくれ。」

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

氷の短剣は消え去った。暴走は終わりを迎え、ギアが解除された。

誰も仲間がいなくなった響は、その場に立ち尽くしたまま涙を流し始めた。

 

「翼さん…クリスちゃん……?」

 

翼はカ・ディンギルへと消え、クリスは森に堕ちた。

そして、大好きな幼馴染みは目の前に倒れたまま動かない。既に鎧も白雪ノ華も消えており、いつもの比企谷八幡の姿で血を流し続けていた。

 

「ハチ君…起きてよ……ハチ君……。」

 

ユサユサと弱々しく八幡を揺するも反応は皆無。

大粒の涙が一粒…また一粒、八幡へと落ちていく。

 

 

「えぇいッ、何処までも忌々しいッ!いつもいつも私の邪魔をするかッ!?」

 

鞭を地面に叩きつけ、苛立ちを抑えられない。

フィーネは荒れていた。兼ねてより計画していた月の破壊をまたしても、安倍晴明に邪魔をされたのだ。

どれ程時が流れようとも、己が前に立ち塞がる彼等に憤慨せずにはいられなかった。

 

「ハチ…君…。」

『八幡達を助けたい?」

「……?声?」

『ねぇ、助けたい?』

「聴こ…えたッ…!助かるの?……お願い、ハチ君達を助けて!」

「狂ったか?1人で何を言っている。」

 

フィーネからしてみると唐突に1人で会話し始めた響。

精神的に異常をきたしたとしか思えない奇行っぷりに、眉を潜めた。

 

『うん、助けてあげる。だから、少しの間だけ身体を借りるね?』

「お願い…します。」

「フンッ。狂う程に苦しいのであれば救ってやろう。感謝するのだな。」

 

フィーネは響の頭上かは鞭を全力で振り落とした。ギアを纏っていない生身の響では即死は免れない。

だが、響は手を天に翳し、シールドを展開した。弾かれる鞭にフィーネは目が大きく開かれた。

 

「何だとッ!?」

「まったく、危ないなぁ。……おいで、白雪ノ華ッ!」

 

呼ばれた白雪ノ華は、八幡の中から飛び出して響の掌に収まった。

感触を確かめるように数回握りしめながら、響はフィーネと対峙する。

先程までの悲壮に満ちた顔ではなく、鋭く冷たい武士の眼でフィーネを捉えていた。

 

「貴様ッ…何故、それを触れる!?それは妖刀!認めた主人以外を容赦なく呪い殺すはず!」

「やれやれ。どうして分からないのかな?ね、緋維音?」

「はぁ?ーなんッ」

 

一瞬で視界から響が消えた。

間も無く吹き飛ぶフィーネ。何が起きたのかわからないまま、フィーネは背中で地を削って行く。

 

「何をー……何が起きた!?」

「流石は私の魂の器なだけあって、動きやすいや。」

『あの…ハチ君達を……。』

「うん、今からやるところ。さぁ〜、やるよ。皆を癒すよ…手伝って、白雪ノ華ッ!!」

 

夜空へ伸ばされた白雪ノ華から眩い黄金の輝きと、とてつもないエネルギーが噴き出した。

 

それは夜空へと飛び立ち、そして3つに分散した。1つは森の向こうへ落ち、もう1つは破壊されたカ・ディンギルの発射口付近へ。

そして、最後の1つは八幡へ降り注がれた。

光りを浴びた八幡の髪は揺れ、瞬く間に傷を癒していく。

 

「貴様…何をしたッ!?」

「何って…八幡達の傷を癒してるんだよ。」

「馬鹿な!?何だというのだ…貴様は何だというのだッ!?」

 

フィーネは叫びながら、鞭を横薙ぎに振り回した。脇腹への直撃コースだったが、響は白雪ノ華で下から掬うように軽々と上へ弾いた。

 

「緋維音、私は信じてたんだよ?緋維音ならバラルの呪詛を解かずとも人類を1つにできるって。統一言語がなくたって創造主とやらに胸の想いを伝えれるって。……でも、もう駄目みたいだね。」

「先程から貴様は何を言って……ッ!!まさか、お前はッ!?」

 

何かに気づいたフィーネだったが、もう全てが遅かった。

響の背後で何が、のそりと動いた。

傷は治れど、目に生気は感じられないまま立ち上がった比企谷八幡。

勿論フィーネは立ち上がった八幡に気づいたが、今の彼女はそれよりも優先すべき事柄があった。

 

「玉藻…なのか?」

「私の魂も引き継いで行くのも限界。どうせ消えゆくならばと、魂を上乗せした力で彼等を癒すまで。」

「やはり…玉藻なのだなッ!?」

「……。」

 

響…いや、響と入れ替わった人物はフィーネの問いに答えなかった。

ゆっくりとした動作で白雪ノ華を天へと掲げて、目蓋を閉じた。

 

「…響、八幡。耳を澄ましてごらん。」

(……耳を…??)

「……。」

 

 

 

《仰ぎ見よ太陽を よろずの愛を学べ…》

 

 

(これって…リディアンの校歌。それに、この声は未来だッ!!)

「聴こえたね?皆、無事みたいで良かった良かった。」

 

聴こえて歌声に響の気力が戻ってきた。

大好きな親友が生きている事実が彼女に活力をあたえた。

 

「なんだ、何処から聴こえて来る?この不快な歌……歌…だとッ…?」

 

 

 

(響、私達は無事だよ。ハチ君、早く起きて。2人が帰ってくるのを私は待ってる。だから、負けないで。)

 

未来は歌に胸の想いを乗せて歌う。未来だけじゃない、亜沙も板場たちも胸の想いを乗せて歌っていた。

放送機器遣い、シェルターから校歌で2人へエールを送る。

 

 

「……ふふっ。私は時間切れ。…緋維音ッ!これ以上、今を歩む者達を巻き込むのは許されない。……さぁ、夜は明けるッ!陽は登り、歌は鳴り響き、明日を掴むその手には奇跡と力をッ!……響、八幡あとは任せたからね。」

「待て、玉藻ッ!」

 

最期までフィーネに応える事なく、明るくなっていく空へ向けて白雪ノ華を投げ放った。

 

それを八幡が右手で受け取った。先程まで光りを失っていた瞳には生気が宿っていた。

瀕死からの完全復活を遂げた八幡は、響の隣りに立つ。

 

「聴こえたな?」

「……うん、聴こえたよハチ君。玉藻って人に任すって言われた。未来達の歌か聴こえた。…皆が歌ってるんだ……だから、まだ歌える…頑張れる、戦えるッ!!」

 

直後、2人の身体が光り輝いた。

その際に発生した衝撃波はフィーネは後方へと吹き飛ばした。

 

彼女には理解ができなかった。何故、玉藻らしき人物が響の中にいたのか。

何故、自分の問いにも答えず、話しを聴いてもくれなかったのか。

 

そして何より今、目の前で起きてる事象に頭がついて行けなかった。

 

諦めを知らないと言わんばかりの2人の眼差しがフィーネの視線と衝突した。

 

 

「まだ、戦えるだとッ!?何を支えに立ち上がる…何を握って力と変える?あの鳴り渡る不快な歌の仕業か…?」

 

超先史文明期から現代に至るまで、この様な事象を見た事がないフィーネは更なる混乱を招く。

疑問は頭を巡り、言葉を口にしても2人は答えない。

 

 

「そうだッ…!お前達が纏っているモノはなんだ?何を纏っている?それは私が造ったモノか…?お前達が纏うそれは一体なんだ……?なんなのだッ…!?」

 

 

当事者である2人には起きている事象の説明は出来ない。

しかし、立ち上がる理由も戦える理解も簡単だった。

 

守りたい。

ただ、それだけの事。

 

 

「やるぞ、響ッ!」

「うんッ!」

 

天を仰ぐ程の塔を越える光りの柱が4本、青天へと伸びた。

 

 

「シィィンフォギァァアアァッ!!」

 

八幡と響だけじゃない。その背中に翅を生やした翼とクリス。

 

今、4人の戦士が朝陽で輝く空に集結した。

 

 

 

 

 

 




あと1、2話でルナアタック編終了です。
……フロンティア前に日常編をいくつか書きたいと思いますが……どうしましょ?笑
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