やはり俺がシンフォギアの世界にいるのは間違っている 作:にゃにゃにゃす
よろしくお願いします!
空は赤くなり、あと1時間もしない内に陽が沈むであろう時間帯。
危機は去り、解放されたシェルターから避難者達が街に出てき始めた頃。
瓦礫だらけとなったリディアンには複数人の人影があった。
完全聖遺物の対消滅による大規模な爆発により、既に校舎は見る影もない。
大爆発から生き延びたフィーネに肩を貸し、響は皆の所に戻ってきた。
「貴様、何を馬鹿な事を……」
先程まで命を奪おうとしていた者に助けられたフィーネは、力なくそう呟いた。
「こんのスクリューボールが。」
クリスは呆れながら笑う。
響のお人好しの姿が、なんだか八幡の姿と重なって奇妙な感じがした。
響はフィーネを小さな岩の上に座らせ、自身は立ったまま笑顔を浮かべて彼女を見ていた。
「もう終わりにしましょう、了子さん。」
「私はフィーネだ。」
「でも、了子さんは了子さんですから。」
「ッ……私を斬るか?安倍晴明。」
「え?ッ!?ハチ君……。」
白雪ノ華を持った八幡が、気づかない内にフィーネの真後ろをとっていた。目元は前髪でかくれてしまい、今彼がどの様な表情をしているのか窺い知れなかった。
現在、ネフシュタンに鎧は形を保ってはいるものの、先のデュランダルの一撃により既に再生する力は失われてている。
故に八幡が今にでもフィーネの首を落とせば彼女の命はそこで終焉を迎える。
「はちー」
クリスが慌てて八幡を呼び止めようとしたが、翼が手で制した。
「……。」
「どうした?父と師の仇討ちをするなら今が好機だぞ。」
グッと白雪ノ華を握る手に力が入る。ゆっくりとした動作で白雪ノ華を持ち上げていく。
響が八幡を止めようと口を開こうとした時、翼が首を横に振るのが見えた。
夕陽を反射する白雪ノ華。白い太刀は真っ赤に燃えているように見え、皆息を呑んで事の行く末を黙って見守る。
「……あ〜もう、やめだやめッ!やってられるかってんだよ。」
「なッ…んだとッ!?」
八幡の言い草に驚いたフィーネは背後を振り返る。
言った張本人は頭をガシガシと掻きながら、面倒くさそうな態度で白雪ノ華を消した。
「何故…斬らない?」
「…無防備な人間斬るつもりはねぇっスよ。それにアンタを斬ってもなにもならねぇ。斬ったとしても、生まれるのは無防備な人間を斬った"人でなし"の称号だけッスから。」
「私が憎くはないのかッ!?」
「憎いさ。憎くて堪らない。…でも、仇討ちしても親父や先生が生き返るわけじゃない。意味のない事はしたくないんで。それに、妹達に人の首を落とすなんてR指定な場面を見せるわけにはいかないんッスよ。」
「このシスコンめ……。」
ヒラヒラと手を振り、話しは終わりだと一方的な態度をとる八幡に響は安堵した。
なんせ、いつもの比企谷八幡がいたから。何かと理由をつけて面倒くさいと最終的には言うのは常日頃から。
だから、血を見なくて済んだ事に胸を撫で下ろしたのだった。
「…私は、今死のうとまた蘇る。聖遺物の発するアウフヴァッフェン波形がある限り、何度でも世界に蘇る。何処かの場所、何時かの時代。……永遠の刹那に蘇る巫女、それが私、フィーネだ。」
空を見上げるフィーネ。茜色に染まった空の向こうには、月が欠けており、その欠片をただ見つめていた。
(小僧…最期だ。身体を借りる。)
「はっ?何を言ってー」
何の前触れもなく、八幡が1人で騒ぎ、そして黙り込んだ。
理解不能な挙動に、全員が何事だ?と八幡に視線が注がれた。
「久しいな、緋維音。玉藻が見たら腹抱えて笑いそうなくらい滑稽な姿しやがって。」
「お前…まさか、初代の清明か!?」
「……ま、本人を出してみるか。あらよッと。」
「ふぁっ!?」
近くにいた響に清明の痛烈なデコピンがクリーンヒットした。すると、半透明な何かが響から飛び出た。
飛び出てきたのは、黒髪の綺麗な和服美人だった。額を両手で押さえ、目尻に涙を溜めながら清明に詰め寄った。
「何すんですか!?痛いったらありゃしませんよ!!」
「どうどう…落ち着け。ほら、立花響に痛がる事するのは、何か違うじゃん?」
「そう言えば私は痛くないですね……。」
「……い〜やいやいやッ!もっとやり方があったでしょ!?」
「え〜……面倒く……そいつは難しいんだよ、うん。」
「今、絶対面倒くさいって言おうとしましたよねッ!?」
「騒がしいな……ほいっと。」
自身の頬に割りと痛そうなレベルで平手打ちをすると、響同様に八幡の身体から半透明の初代安倍晴明が飛び出した。
八幡と瓜二つのその姿に皆が驚愕する中で身体を強制的に貸していた八幡は頬に手を当ててジトッと清明を睨んでいた。
「あの、頬が割りと痛いのですが?」
「俺が痛い思いするのって、何か違うじゃん?」
「「「…えー……。」」」
矛盾過ぎる清明の言い分に、痛みを与えられた2人+痛みを省かれた響がドン引きしていた。
いや、3人だけではない。その場にいる大半の人間が引いていた。
変な空気になったのを察したのか、清明の目が面白いくらいに忙しく動き回っていた。
「…あいも変わらず、やる事が規格外だな貴様は。」
「ふん、お前の輪廻転生も大概だと思うがな。」
「まーた言い合いしようとする。死んでも生まれ変わっても、2人は変わらないね。」
アハハと愉快そうに玉藻が笑うと、フィーネの表情が曇ってしまう。
「玉藻……私は……。」
「ごめんね、1人にしちゃって。私、それが心残りでさ…魂の一部を白雪ノ華に紛れこましてた。だから、知ってるよ。緋維音、私はまだ信じたいよ。人と人が繋がる可能性を。」
「だが、お前はその信じた人間に殺されたではないかッ!無残にも、ただ頑張っていたお前を奴等は!」
「うん、そうだね。殺されちゃった……だけど信じたいな。」
「玉藻…。」
フィーネへ何故、玉藻がそこまで人の可能性や未来を信じたがるのか理解に苦しむ。
殺された彼女が、人を憎まず、怨まずにいる事があり得ない。そう思わずにいれなかった。
「そりゃ、やりたい事まだ沢っ山あったけど…だけど、私は死ぬ直前に思えたんだ。幸せだったって。…生まれて直ぐに九尾を埋め込まれてさ、ず〜っと化け物呼ばわりされてた。だけど、その力があったから緋維音と清明さんと仲間になれた。戦ってばかりの旅だったけど、楽しくて仕方なかった!救った村や沢山の人に認められて……いつしか私は化け物じゃなくなってた。玉藻前はいつしか皆に認められていた。他者と手を取り合えていた。……だから、私は信じる。痛みや力じゃない。人は手と手を取り合える。」
「……。」
えへへと笑う玉藻と清明は足元から光りの粒子を撒き、消えようとし始めていた。
魂だけの存在。本来ならば、この世に姿を見せる事も叶わなかった奇跡。初代安倍晴明による規格外の力であっても、もはや2人が消えるのに数分もない事は誰の目にも見て取れた。
「…私も信じてます。玉藻さんの言う人の繋がる可能性を、未来を。」
「うん、ありがとう響。流石は私の魂を持つだけはあるね!…緋維音、私の魂は在るべき場所…響へ還るよ。」
「俺も小僧の魂へ溶け込む。…まぁ元々、この小僧は俺の生まれ変わりだしな。」
2人は既に腰まで、光りの粒子となっていたが、その顔に恐怖も悲しみもなく清々しさがあった。
「…お前達はまだ私を信じるのか?月の一部を既に破壊した私だぞ。」
「うん、信じる。」
「またお前が月の破壊なんぞしようもんなら、俺の名を受け継ぐ者が阻止するだけだ。」
「おい、結局俺ら子孫にまる投げじゃねぇか。」
「細かいヤツだな。気にすんな、お前達ならやれる。頑張れ〜。」
他者を小馬鹿にしているとしか思えない清明に、八幡しかりフィーネを含めた一堂は冷めた目で見つめていた。
だが、もうじき消える身である清明の精神は無敵状態にあり、不適に笑っていた。
「とは言え、アレをどうにかしないと、そもそも未来がないんだがな。」
清明が指刺すは燃えるような真っ赤な空。
そして、心なしか月の欠片が先程よりも大きくなっているようか気がした。
だから、八幡は誰に問うでもなくポツリと呟いた。
「……なぁ、月の欠片がさっきよりデカイ気がしない?」
「奇遇ね。私もそう見えるわ。」
「あ、ハチ君と翼さんも?」
「つまり、だ。アレ、地球に向かってねぇか?」
トドメを入れたクリスの言葉で、周囲は一気に湧く。
藤尭はノートパソコンを開き、友里と月の欠片の軌道計算を始め、緒川は政府の宇宙開発部門へと問い合わせとお祭り騒ぎとなった。
「……間違いありません、地球への直撃は避けられません!」
「司令、政府機関からです。欠片は速度を増しながら降下中との事です!」
「なん…だとッ!?」
こんな天変地異を予測できた者など世界にいるわけもなく、日本だけでなく各国の首脳陣は混乱の最中である。
如何様な手段を取るにも、民衆受けの良い最善手を取ることが必要な政府と違い、彼は自分に出来ることをする。
「どうにかする。それが俺の使命らしいからな。」
さも当たり前の様に口にする八幡に、周囲は鎮まる。
人類の存続か、滅亡か。はたまた、地球自体がなくなるかもしれない。その瀬戸際であっても、八幡は己が使命を果たすと臆する事もなく堂々と言い放ったのだった。
「小僧、秘術を使え。…悪いが限界だ。あとは任せる。」
「君たちに未来を託すね。…さよなら。」
「玉藻…清明…。」
伝説との邂逅はここで終わりを迎えた。玉藻はフィーネへ笑顔で手を振りながら消えていった。
2人は光の粒子となり、八幡と響の中へと還っていった。
僅かな温かみと力を2人に与えて。
「重てぇもんを…」
「託されちゃったね。そんでもってぇッ!…了子さんにお願いがあります。」
「なにを…?」
「私達の代わりに、転生する度に皆に伝えてください。人と人は言葉を、時を越えて手を取り合えるってことを。私には伝えられないから。了子さんにしか出来ないから。」
「ッ!?」
見た目は違えど、響の笑顔に玉藻の姿が重なった。
八幡はまんま見た通り、清明そのまま。
その2人を見て、フィーネは久しぶりに櫻井了子の顔になる。
「まったく……放って置けない子達なんだから。響ちゃん、胸の歌を信じなさい。」
トン、と優しく響のガングニールが宿る胸を押すと、微笑みを浮かべた。
「八幡君、真実を知りたければ生きて戻りなさい。…弦十郎くん。」
「おっと…USB??」
「彼にとって必要な情報も含まれているわ。だから貴方に預けておくわね。」
胸の中から傷だらけのUSBを取り出し、弦十郎を投げ放つ。
吹っ切れた。そう思えるほどに明るく、清々しい。
フィーネではなく、櫻井了子として最期に2人へ向き合う。
了子のその姿勢に、フッと笑みを浮かべた八幡と響は皆に背を向け、ゆっくりと離れていく。
「本当、またこんな気持ちになるなんて思いもしなかったわ……私もまた信じたくなってしまったわ。」
「んじゃ……ちょっくら行ってきますんで。」
「私も行くよ。」
「ハチ君、響?」
宇宙へ飛び立とうとする2人を未来が呼ぶ。今から2人が何をしようとしているのか予想がつき瞳は不安に揺れ、涙で滲んだ。
でも、振り返った2人はいつも通りだった。
響は明るい笑顔で、八幡はやる気なさそうで……
「大丈夫だ。どっかの馬鹿には借りた物を返さなきゃだし。」
「私達でどうにかするから…だから、生きるのを諦めないで!」
そのまま背を向け、飛び立つ2人を止める者は居なかった。
空気の抵抗が鬱陶しく感じる程に2人は高速で登っていく。
雲を抜け。赤い空を突き抜けて暗い宇宙へと近づくにつれ、大きくなっていく月の欠片に2人の顔つきが険しくなる。
『そんなにヒーローになりたいのかぁ?』
「「ッ!?」」
『生きて還る為にも、4人で力を合わせるのだ。』
「クリス…姉さんまで。」
振り返った先には、蒼と赤の翅を羽ばたかせる翼とクリスの姿があった。
八幡に追いついたクリスは軽くだが、彼の頭を叩いた。
『ったく、私に居なくなるなって言ったヤツが居なくなろうとして、どうすんだよ。』
『2人だけに背負わすつもりは毛頭ない。だから…』
『…ありがとう2人とも。』
『いや、居なくなるつもりはねぇよ。つーか、背負う気もねぇ。ただ、単に明日が欲しいだけだ。』
『だったらこじ開けるぞ。4人で力を合わせれば…』
『どんなモノも怖くないッ!』
『暑苦しい連中だな…だけど、悪くねぇな。』
『よし……全力全開で行くぞ!』
「「「ーーGatrandis babel ziggurat edenal
Emustolronzen fine el baral zizzl
Gatrandis babel ziggurat edenal
Emustolronzen fine el zizzl…」」」
3人の絶唱が宇宙に響く。
エクスドライブによる底上げがれた出力が更に高まり、3人の内側からエネルギーが溢れてくる。
一方で八幡は、突き出した右腕を左手で支える様に手首あたりを掴む。
「我が穿つは眼前の敵。血を焚き、唸るは光。舞い降りし神すらも、我が雷を防ぐは叶わずッ!!
一字一句間違える事なく言葉を紡ぐと、閃光業雷以上に極限まで右腕に雷を溜め込む。
限界以上に溜め込まれた雷は腕から漏れ始め、右腕は音を立てながら紫雷を出し、己が意志に関係なく暴れそうな右腕を左手で掴んで制御する。
【神通骸手】
かつて、初代が生きていた頃に生み出された秘術。
それは仲間であるフィーネの為の技だった。もし、フィーネが月破壊を敢行しようとした場合、そして破壊された月から人々を守護する為……そして何より、フィーネを拒絶した創造主が現れた時に備えた、正にフィーネだけの為に編み出された秘術であった。
ー……大気の摩擦で紅く染まる月の欠片が眼前に迫る。
八幡が雷を溜め込み、翼はアームドギアを超巨大化させ、クリスはミサイルを大量に構えていた。
そして響は、八幡の隣りで四股のパワージャッキを限界まで後ろへ伸ばす。
不気味な音を上げる月の欠片を4人は迎え撃つ。
地球の命運なんかじゃない。守りたいモノを守る為に今、4人は1つになる。
「これが私達の絶唱だぁぁぁッ!」
響の叫びを合図に、全員が己の限界を超えた力で迫る月の欠片へと攻撃を開始した。
「「「「ぅおおぉぉッ!!」」」」
刃に亀裂が入り、ギアが欠け、身体は傷つきながらも攻撃は止まらなかった。諦めない。挫けない。
明日を…未来を信じ、掴み取る為に全身全霊でこの一瞬に賭けた。
「「「「あぁぁぁああぁッ!!」」」」
重なる決死の叫びの後に、4人の視界が真っ白に染まる。
打ち上げられた花火の様に一瞬の輝きの後に大爆発を起こし、月の欠片は爆散した。
…地球まで轟く爆発音に、世界中の人々が空を見上げた。
破壊された月の欠片は大量の流れ星となり、夜空に何度も白線を描いた。
それを地上で見届けたフィーネは、穏やかな顔を浮かべたままで塵と化し、風に消えたのだった。
(未来は繋がったわね……。ありがとう。)
かくして、少年と少女達はその命を燃やし尽くして世界を救ったのであった。
◇◇◇◇◇
アレから時は流れ、3週間が経過した。
米国を筆頭にシンフォギアシステム及び櫻井理論の開示を要求される日本政府は、慌ただしい日々を過ごしていた。
あの日、八幡と響、翼にクリスが命懸けで世界を救った真実は世界に伏せられたままだった。
その4人の捜索活動も打ち切られる決定が下され、行方不明から作戦行動中の戦死扱いとなった。
黒い雲が空を覆い、被災者たちの代わりに涙を流すかのように、大粒の雨が戦いの傷痕が残る街に降り続いた。
その街にある墓地。所々が崩れた箇所がある中で、名前の彫られていない真新しいお墓があった。
ようやく雨が上がり、光が雲の隙間から差し込む中、小向未来が名もないお墓の前にやってきた。
全身を濡らし、その手にはユリの花束を持っていた。
お墓の前につくと膝から崩れ、止める事を忘れた涙を流しながら、墓前に飾られた写真を見つめる。
「会いたいよ……もう会えないなんてッ!そんなの嫌だよッ!……響……兄に……ぅ…あぁぁあッ!!」
また、激しい雨が彼女に降り注がれる。
名もなきお墓には、笑顔の響と間抜けな顔をした八幡の写真が並んで飾られていた。
悲しみに暮れ、涙を流す中で……
「きゃぁぁッ!助けてぇ!!」
聴こえた助けを呼ぶ声。
未来は立ち上がり、下を覗くと事故を起こし煙りを上げる車。その持ち主と思われる女性を、忌まわしい事にノイズが襲っていた。
「こっちへ!」
恐怖で固まった女性に駆け寄り、その手を掴み、共に駆け出した。
2人の墓地の前を擦り抜け、道路を息を切らしながら走る。
元陸上部なだけはあり、体力もスピードもあり、ノイズから距離をとれた。
だが、それは未来だけであり救助を求めた女性が倒れてしまった。
「わ、私…はぁはぁ……もう…。」
「お願い、諦めないで!……ッ!?」
その僅かな時間で、未来と女性はノイズに囲まれてしまった。眼前に迫る"死"に女性は生きる事を諦め地面に伏した。
だが、未来は諦めなかった。両手を開き、ノイズから彼女を守るように立ちはだかった。
ゆっくりとした動作で迫るノイズから目を離さず、力強く睨みつけた。脳裏を駆け巡ったのは、最後に見た大好きな2人だった。
ズドンッ!!
そう大きな破壊音と共に全てのノイズが炭となり、消しとんだ。
「あ…ぁ……はっ!?」
目の前で起きた事象に未来は固まった。
はっとなり、左を見てみると丁度ギアと四霊鎧の解除の輝きを吹き飛ばした4人が立っていた。
「悪りぃ遅くなった。……よく諦めなかったな。」
「ごめん、色々と機密を守らなきゃいけなくて。また、未来には本当の事が言えなかったんだ……えへへ。」
大好きな2人が並んで立って、自分に話しかけてくれていた。もう会えない筈だった。でも、2人は今そこに立って笑っていた。
「未来ッ!」
「ぅ…ふっ…ひっく…響、兄にッ!」
駆け出した、手を広げた2人の胸へと飛び込んだ。悲しみの涙は雨と共に上がり、今は赤い夕陽の光りと2人の温もりに触れながら嬉し涙を流した。
再会を喜び、抱き締め合う3人を翼とクリス、そして弦十郎と緒川は微笑みを浮かべながら見守る。
優しいひと時が流れる中、八幡がハッとなる。
「やっべ…緒川さん、時間は!?」
「大丈夫ですよ。まだ間に合います。さ、皆さん乗られてください。」
「よし、行くぞ。」
「うん!」
「わわッ!?ちょっとッ!」
開かれた後部座席の未来を響が押し込みながら自身も乗り越んだ。
「姉さん、クリス。ちょっくら行ってくる。」
「あぁ。よろしく伝えておいてくれ。」
「気をつけてな。」
◇◇◇◇◇
とある公共施設には今、沢山の人が中に入っていた。
此度の事件で傷ついた人達を音楽で元気つけようと開催される、有名オーケストラによるチャリティー公演会。
その控え室には、特別参加する1人の少年の姿があった。
暗い顔のまま鏡に移る自分を見つめ、やがてヴァイオリンを手に取って感触を確かめ始めた。
少年の目元にはクマが出来ており、彼を心配する声が控え室で出る中、スーツ姿の女性スタッフが少年に近づく。
「あの、小林君。君と同じ制服を着た人がコレを渡してくれって。」
「俺に…ですか?」
スタッフが渡してきたのは青いバラの花束だった。この公演に出る事を知っている人はそんなにいないし、その上で花束を渡してくる人も居ない筈だった。
(いったい誰が…ん?)
花束を纏めている物に違和感があり、持つ箇所を見て彼の目が大きく見開いた。
「コレッ!!」
花を纏めているそれを花束から外し、もう一度確認する。
それは、彼が祖父から譲り受けた大切な物だった。だから、戦いへ赴く友に貸し与えた。必ず生きて帰って来させるために。
「青のバラなんて珍しいわね。確か、花言葉は"奇跡"だったかしら。」
「花束を持ってきたヤツは何処にいきましたか!?」
「え……えっと、控え室を出て右方向に「ありがとうございます!」
控え室を飛び出し、通路を全力で走る。人と衝突しながらも、彼の脚は止まらず、花束の差出人を懸命に探す。
「あ……ッ!」
お目当ての人物がいた。後姿だが、彼にはわかった。
自分と同じリディアンの制服に身を包み、何より特徴的なのは頭にある一本のアホ毛だった。
隣りには茶髪の女の子と白いリボンの女の子がいた。
目頭が熱くなり、胸がキュッと締め付けられる。
走る勢いは増し、したがって足音も大きくなる。
彼の近く音に気づいたアホ毛の少年が振り返ろうとした瞬間に、小林亜沙は地を蹴り、跳んだ。
そしてー……
「ちゃんと血を拭き取って返さんかいッ!!」
「おぶほッ!!?」
振り返る八幡の脇腹に渾身のドロップキックをめり込ませたのだった。
吹き飛ぶ八幡を真横で目撃した響と未来は口を開けてポカンッとなり、蹴った亜沙は満足げにフゥンッ!と穴息を荒々しく出した。
「痛いわ…そりゃねぇだろ…。」
「……ん!」
「お前はトトロのカンタかよ……。」
手を差し出した亜沙に文句を垂れながら、八幡はその手を握る。
ぐんっと力強く引っ張られ、立ち上がった。
「遅い。」
「…悪りぃ。」
「…おかえり。」
「おう、たでぇま。」