やはり俺がシンフォギアの世界にいるのは間違っている 作:にゃにゃにゃす
マリア・カデンツァヴナ・イヴ。
ノイズを呼び出しライブ会場内のオーディエンスを人質にし、世界を相手に宣戦布告した人物。
マスメディアにより、明日はこれに近い報道がされるだろうと張本人はそんな風に思い、心で自身を嘲笑うのだった。
これはいったい誰が描いた筋書きなのか…はたまた、これも筋書き通りなのか?
突然の人質解放。
自身の優位をみすみす捨てるなど、もはや何をどうしたいのか八幡然り翼と緒川にさえ理解不能だった。
《何が狙いですか?》
マリアに入ったナスターシャからの通信。筋書きにはないと咎められ、それでも彼女は己が意向に従う。
「このステージの主役は私。人質なんて、私の趣味じゃないわ。」
そんなのは建前だった。
もちろん理由はあれど、彼女がそれを素直に言えるわけもなかった。
《血に汚れるのを恐れないでッ!!》
仲間と共に武装蜂起する。ましてや既に宣戦布告してしまっている。
ならば、敵と味方に別れる時点で誰かが血を流し、死を迎えるのは必須。
それでも……
(あの優しい少年を巻き込むなど、私が許容できるわけがない。忠告はしたが…きっと妹さん達と来てるんでしょうね。)
困りっていたマリアに手を伸ばし、迷惑を掛けようと文句を垂れるでもなく、見返りも求めずに助けてくれた彼を悲しませたくなどなかった。
本音は口に出せずに解放へと至り、マムと慕うナスターシャには咎められようと、ただ無言を貫く。
《…ハァ……調と切歌を向かわせています。作戦目的を履き違えない範囲でおやりなさい。》
「了解、マム。…ありがとう。」
国土の割譲など、どうでもよかった。
真の狙いは他にあり、その為にも……
(なんとしても翼には歌ってもらわなくちゃね。)
不適な笑みを浮かべ、翼に向き直るのだった。
◇◇◇◇◇◇
突然の人質解放に驚きながらも、観客達は戸惑いながらも順調に退避していく。
2階席からそれを見届けながら、彼は友人の肩に手を置きヒソヒソと小声で話しかける。
「妹達を頼む。俺はノイズの処理と姉さんを救出しに行く。」
「無茶だ…って言っても聞く耳持たないもんな?了解だ、任せろ。」
そのやり取りを静観していた未来の表情が曇る。
一見、冷静沈着。いつもの比企谷八幡に見えど、彼女には分かった。
幼馴染みの絆とも言える程に、彼女は八幡の異常に勘付くのであった。
「小町。皆と一緒に避難だ。…俺はやる事があるから。」
「はぁ!?やる事って何さ!?…嫌だよ……お兄ちゃん、前もその後に居なくなっちゃったじゃん!」
「悪い、仕事なんだよ。……特異災害が起きた場合は一般人の避難誘導や怪我人の救護や移送しなくちゃならん。」
「なっ!?そんな危険な仕事してたの!?なんで「話しは後だ。避難するんだ。小林、後は頼む。」
「こんな時だけ、ちゃんと名前で呼びやがって……はいよ、任された。さ、みんな外へ出ようね。」
喚く小町を亜沙は腕を引いきつつ、全員の避難を促す。
そんな中で八幡は家をキーを取り出して、未来へと腕を伸ばそうとした時、彼女の両手が八幡の両頬に優しく触れた。
エッ!?と喚いていた小町を含めた外野が固まる中、未来は八幡の頬をグイッと横に引っ張った。
「…いひゃいんひゃへほ?にゃに?」
「ムー…。」
パッと手を離すと、八幡の耳元へ近寄り…
「怒ったままなんて駄目だよ。…落ち着いて、にぃに。」
小さく紡がれた言葉。
未来は八幡から離れると、いつもの優しい笑顔を彼に向ける。
両目をパチパチさせた後、彼は苦笑する。不本意ながらも心を見透かされたが驚きはしない。
だって、それはいつもの事だから…。
「敵わねぇな…ありがとよ。頭、冷えた。」
「うん。」
口パクで彼女は伝える。
"無事にちゃんと帰って来てね?"と。
そのまま振り返り、5人の固まったままの外野に首を傾げる。
安藤と寺島に到っては、揃って顔を赤く染めていた。
「あれ??皆、どうしたの?」
「いやいやいや……え?」
「ん?」
「……えッ!?」
素っ恍けたわけでもない、キラキラとした瞳に板場は驚く。
未来は自身がとった行動に何ら疑問を抱かないのだから、恐ろしいとさえ安藤等には思えた。
「ヒ、ヒナがキスするのかと思ったよ……。」
「キス??しないよ?」
何言ってんの?と言いたげに困った顔をする未来。
普通なら赤面したり動揺するであろう場面でさえ、未来にとって八幡相手ではあり得ないのだった。
「ビックリしたわ〜……未来ちゃんって天然?」
「…そう言えば昔からこんなんだったな、って小町は思い出しましたよ。2人とも相変わらずなんだね…。」
「……?とりあえず避難してくれ。俺も移動すっから。未来、悪いが小町と一緒にいてくれ。」
「うん、わかった。」
部屋の鍵を受け取り、退避する未来にならって全員が部屋から出て行った。
八幡は彼女達とは反対方向へと走り、懐へ眼鏡をしまう。そして代わりに小型通信機を耳に当てがい通信を入れる。
「こちら八幡。司令、指示を。」
《八幡……。緒川と連携し、事の対処に当たってくれ。観客の避難が最優先だが……現場での対応及び、戦闘の必要性の判断はお前の一存で構わん。》
「了解。では、まずは緒川さんと連絡を取ります。…………緒川さん。」
《八幡さん!…これから僕はこの映像配信を止めに行きます。》
「わかりました。では、俺はもしもに備えて観客席付近に潜みます。」
《はい、頼みます。…しかし、マリア・カデンツァヴナ・イヴは私達と言っていましたので……敵勢力が未知数です。お気をつけて。》
「忠告痛み入ります。では。」
マリアに気取られぬ様に、音を立てずに地を這う様に姿勢を低くして最速で駆ける。勿論、映像にも映り込まない様に細心の注意を払う。
ステージを囲う様にノイズが並んでいるとは言え、ステージ上の2人の会話が聴こえる位置までやってきた。
上空のモニターには世界各国の中継映像が流れており、翼とマリアが常に映し出されていた。
深く…ゆっくりと深呼吸をし、全神経を耳に集中させる。
「観客は皆退去した。これで被害者が出る事はない。それでも戦えないと言うのであれば、それは貴女の保身の為。」
「くッ!」
(ちッ…姉さんが装者だって知っていやがるな。やっかいな…。)
マリアの言葉に翼は悔しげに下唇を噛み締める。
シンフォギア装者であるとマリアには知られているが、中継の繋がったままの現状ではギアを起動できない。してしまえば、風鳴翼はアーティスト活動を2度と出来なくなる処か、処罰される可能性も十分に有り得えた。
「あなたはその程度の覚悟しかできてないのかしら?」
マリアは浅く息を吐き捨てると、先程まで使っていた剣をモチーフとしたマイクスタンドで翼に攻撃してきた。
幼少期より剣を振るい、鍛錬を欠かさずに続けてきた翼。
故に剣の使い手としては翼の右に出る者など、日本には八幡を含む数人しかいないだろう。
マイクスタンドを逆手に握り、迫るマイクの攻撃を後退しながらも防ぎ時には流す。
とは言え、シンフォギアを纏いその恩恵で身体能力が向上したマリアの攻撃は重く鋭い。
そんな中、マリアは己をコマの様に回転させながら接近。
嫌な予感がした翼がマリアの纏うマントを弾こうとマイクスタンドを振り上げると、まさかの真っ二つに切断されてしまった。
一瞬の焦りは有りながらも、これまでに得た戦闘経験と持ち前のセンスでマントを回避し、マリアから距離をとる。
折れたマイクスタンドを投げ捨て、構えをとる中で不意に弟の声が耳元でした。
《姉さん、ヤツの隙をついてバックヤードへ出るんだ。》
「ッ!?……なるほど。」
そこに行けばカメラの外に出られる。
本当に頼りになる弟だと心で褒めた後に顔を引き締め直す。
そのステージで起こっている戦いの片隅で、八幡は何時でも飛び出せる様にとペンダントと呪符を構えていた。
そして、翼は衣装の長く大きな袖を使いマリアの視界から自身を切り離した。
虚を突かれたマリアがそれを払うと翼は既にバックヤードへと走っていた。
マイクスタンドを槍投げの様に投擲。狙いは翼の脚だった。
翼の視界の外からの完璧な軌道。
だが……
《跳べッ!》
「くッ!」
「馬鹿なッ!?」
翼は1人では無かった。
比企谷八幡と言う最も頼りにしている弟が近くにいた。
それを知らなかったマリアにとって、翼の動きは異常でしかなった。
(後ろに目でも付いてるというのか!?)
慌てて翼を追う。だが既にバックヤード手前まで来た翼をステージに戻すのは不可能……と思えた。
着地した翼のヒールが根本から折れ、バランスが崩れた。
運が自分に味方した。そう確信したマリアは翼の真横まで接近し……
「貴女はまだ、ステージを降りる事は許されない……フンッ!!」
放った蹴りは翼の腹部に吸い込まれるように、めり込んだ。
「がッ……あぁッ!」
そして、振り抜かれた。
ステージへ戻されるどころか、ステージを余裕で超えて行く。
宙を舞う翼を狙い、ノイズが動き出した。それを目視で確認してしまえた翼の表情が諦めに染まる。
(決別だ…歌女であった私に……。)
《そうは問屋が卸さねぇな。》
「……え?」
翼の右手が暖かい何かに包まれ、力強く引っ張られた。
「八幡!?」
「中継の遮断を確認。…後で緒川さんに礼を言ってくれよ?」
宙を高々に跳んだ八幡が翼を抱えて、ステージへ着地する。
間髪入れずに翼が八幡の腕から飛び降りてみると、上空のモニターがブラックアウトしていた。
優秀な仲間の協力により世界中の視線から解放され、風鳴翼を縛るものもなく自由を得た。
そして隣りには、1番信頼し戦場を駆けるパートナーである八幡がいる。
「…負ける理由が見当たらない。」
「だな。」
「お前は何者だ!」
マリアの問いに向き直る2人の眼光が、鋭く彼女を射抜いた。
その直後、マリアは驚愕して固まる。正確には八幡を見て固まり、動揺で瞳が揺れ動いていた。
(何故、彼が此処にいる!?…まさか、身内の有名人とはー)
「…一応、勧告しとく。投降しろ。」
「私達が揃った時点で貴様の勝機は失われた。」
「……。良い気にならないで頂戴。シンフォギアも纏えない人間が加勢に現れたくらいで。周りを見てご覧なさいな。ノイズがいる時点で彼は貴女の弱点…護らなければならない足で纏いでしかない。」
認定特異災害ノイズ。
人間に取り憑き、諸共に炭化して朽ち果てる。
その存在は、人間にとって脅威に他ならず、また対処できる唯一の手段がシンフォギアだけ……とマリアは知っていた。
だが、実際は違う。
シンフォギアが造られる前より遥か昔から、ノイズと戦い続けている一族がいた事を彼女は知らない。
だから、八幡を翼の弱点と言いきった。
「…フッ、どうやら貴様は私達について一部の情報でしか知らないようだな。…八幡、ノイズは任せる。」
「あいよ、任された。」
マリアに背を向け、八幡はステージから高々と勇ましく跳ぶ。
「なッ!?よせ、自殺行為だ!!」
八幡の身を案じて叫ぶと、マリアは駆け出した。
手を伸ばして八幡に向かおうとするも、間に翼が割って入り妨害される。
「退きなさい!このままでは彼は死「それはどうかな?」
翼が勝ち誇った顔をした直後、ステージの下から爆発音が鳴り、砂塵が上がる。
「何が……。」
そしてマリアは目撃する。
砂塵が消えた場所に立つ漆黒の何かを。それが人だと脳が理解した時、彼女の瞳が驚愕の色に染まる。
握りしめられた純白の太刀。
白髪に血の様に紅い双眼。
血の覚醒。纏うは四霊鎧シリーズ麒麟。握るは白雪ノ華。
古来より人類守護の任についていた陰陽師、安倍晴明を引き継いだ比企谷八幡がそこに立っていた。
「シンフォギア!?」
「違う上に教えてやる道理がない。マリア・カデンツァヴナ・イヴ、貴様は3つの失態を犯した。…1つ目は私を1人だと侮った事。2つ目は八幡の存在を知らなかった事。そして…… Imyuteus amenohabakiri tron…。」
「ッ!!」
シンフォギア・天羽々斬を起動し、その手に握る刃をマリアに突きつける。
しかしマリアはイレギュラーな存在である八幡が気になるも、彼は最早彼女を見てなど居なかった。翼に任されたノイズだけに集中しきっており、一瞥もしない。
「3つ目…それは私達2人を相手にしてしまった事だ!」
八幡の命を狙いノイズが動き出すのが戦いの狼煙となる。
今ここに戦いの火蓋が切って落とされた。
「「いざ、推して参るッ!!」」