やはり俺がシンフォギアの世界にいるのは間違っている 作:にゃにゃにゃす
マリア率いる装者達との戦闘から丸3日が過ぎた。
各国はマリアの国土の割譲に当然頷くわけもなく、世界中が拒否の意を表明。ま、だろーなってのが素直な感想だ。
国のトップが首に縦に振るなんて事したら民衆が黙ってないだろうしな。
あの日の夜、帰宅した八幡を待っていたのは仁王様のような小町だった。
怒り心頭で荒ぶる小町を八幡が宥め、それでも喚く小町。
大事な大事な家族が命の危ぶまれる仕事してんだ。
心配も含めての御怒りだったのだろう。
怒る、謝るの無限ループに突入して半刻が経過した時、静観していたあの子がスゥー……と静かに立ち上がった。
チャームポイントの白いリボンと黒い髪が重力に反した動きをしている……様に見えた。
「小町…正座。」
とても素敵な笑顔を頂いた2人は一瞬だけ固まり、コンマ5秒後には即正座。
アタシの隣りにいた馬鹿まで何故か焦って正座をしていた。
アタシ?……気付いたらしていた。
正座……ただその言葉だけで、全員を馬鹿の親友が黙らせた。
ありとあらゆるキーワードを巧みな話術に盛り込み小町を黙らせた。
終始冷静に笑顔でな……。
まぁ、あの子のお陰で八幡も小町と一切の蟠りなく仲直り。
それは良かったんだけど、アタシの本能が告げたよ…あの子は敵に回しては駄目だって。
きたる翌日からは、いつ奴らが動き出すか分からないと言う理由により、2人1組が1日交代で本部に待機する措置が取られた。
今日は八幡と先輩が待機組みだったので、とりあえず学院が終わり次第にちょっ早で来たわけなのだが……
「……なんだよ、コレ??」
まず、場所はいつもアタシ等が使うトレーニングルーム。
オッさんに、2人ならそこに居ると聞いて来てみりゃ〜……なんだよ、コレ?
ドアを開けたその瞬間から全てが異彩を放っていた。
「ハァ…ハァ…やるなッ!」
「ハッ…ハッ…ん、まだまだ!」
息の上がった2人がいた。
会話だけ聴けば、ただの熱いバトル展開。姉VS弟の一歩も引かないバトルが行われていると思うだろ?
いや、確かにバトルは行われちゃいるが……。
ルーム内の光景が網膜に強すぎる刺激を与える。
あったま痛くなってきた〜……
「クリスさん、お疲れ様です。」
「あぁお疲れ……じゃねぇ!何を呑気に挨拶してんだよ!なんだ、この状況はよぉッ!」
「あはは……。」
先客だったニンジャが普通に挨拶してくるもんだから、一瞬だけアタシが間違ってるのか?と思ったが絶対に違う!断じて違う!!
ドアを開いた瞬間、まず目に飛び込んできたのは教室だった。
もう一度言うぞ。
教室だ。
もっと詳しく言うなら、ようやく見慣れた始めたリディアン音楽院高等科の教室だッ!!
黒板に教卓。生徒達が勉強する長机と椅子。
トレーニングルーム全体が教室になっていやがった。
その室内の端と端には息を荒げた制服姿の2人。
……うん、意味わかんねぇよな!?
何でだ!?どうしてだ!?
「……えっと、順に説明しますね。まず、今日も武装組織フィーネに動きはありませんでした。それでーー……」
◇◇午前中◇◇
二課仮説本部の休憩所。
姿勢正しく凛と座る翼の対面には、ダラけた八幡がテーブルとフュージョン仕掛けていた。
事の始まりは、そんな時だった。
「……あのさ」
「なんだ?」
「思うんだけどよ、もしまた奴らがライブみたいに人目のある場所とかで襲ってきた場合の対策した方が良くない?」
「うむ……一理ある。あの時に八幡と緒川さんがいなかったら、おおよそ私のアーティスト生命は終わっていただろうな…。」
「だろ?試しに起き得る状況を挙げて、それから対策案を出さね?暇だし。」
「いいだろ。では、まずはー」
◇◇◇◇
「と言う形からもし教室内であれば…と言う議論が熱く交わされる中で両者譲れない所があったらしく"ならば実践しようじゃないか!"となりまして……。」
「それがコレかよ…。」
「はい。偶々居合わせてましたので再現させていただきました。」
「やったのはアンタかよ!!」
「ちなみに、教室にテロリストが乗り込んできた場合を想定しています。」
「授業中に暇な奴が考えそうなヤツだなぁ、おいッ!」
「彼方をご覧下さい。」
「あンッ!?」
まだ何かあるのかよ……
ニンジャに指差され、回れ右をすると
「「「「「「「「……。」」」」」」」
首からプレートを引っ提げた二課エージェント8名が、静かに佇んでいた。
「何だ?アイツら。」
「テロリストです。」
「……。」
服はホコリで汚れ、何故か変に彩られているヤツもいた。
唯一共通しているのは"死亡"の文字が、もれなく全員のプレートに書かれている事。
巻き込まれた……更には、あの2人にしてやられたと言うことか…。
エージェント達をやった2人はアタシに気付く事もなく、姉弟の中だけでは今も熱いバトルを続行中。
割りと真剣に。
だが外野が見れば、ただの茶番。
どうしようもなく茶番。
「もらった!」
指に3本のチョークを挟んでナイフみたく投擲する先輩。
「なんの!」
それを逆に指の間に吸い込むように見事にキャッチした八幡が投げ返す。
先輩は教卓の奥へ滑り込み、難を逃れる時に黒板からある物を掠め取っていた。
それに気づかなかった八幡が教卓の上から先輩を強襲。
女…しかも姉と慕う相手に本気の拳を放つ。
「甘い!」
「なッ!?ーッ、ゲホッゲホッ!」
迫る拳をなんと、黒板消し(チョークの粉付)で受け止めた。
衝撃で噴き上がるチョークの粉。
真面に顔へ受けてしまった八幡の視界と動きを封じた。
「勝機ッ……ゲホッゲホッ!」
自分で仕掛けた罠に自分で引っかかるヤツをなんて言うか知ってるか?
馬鹿って言うんだ。
馬鹿は間抜けにもチョークの粉を吸い込み咽せている。八幡も同様だ。
「どいつもこいつも……どうかしているぞッ!?突起物!!」
「ゲホゲホ……あ、クリス?」
「ゲホゲホ……ゴホッ……なんだ雪音、来ていたのか……ッ!ちょうど良かった!聞いてくれ!」
アタシに気付くにゃ否や、2人はドタバタとチョークの粉を撒き散らしながら近寄って来た。
って、待て待て待て待て!!
「それ以上、アタシに近づいてくれるなッ!制服が汚れちまうだろ!?」
「むッ…では、この距離で。雪音はチョークを使う際は喉元を狙うべきだと思わないか?」
「…用途は板書だと認知しているんだが?」
「だから目潰しが1番有効だって言ってるだろ…。」
「アタシの言葉がわからねぇのか?」
「視界を奪えば敵は暴れるやも知れん。だが、喉元を攻撃して動きを封じてしまえば「それだと一撃必殺じゃなきゃならねぇし、失敗したらー」
結局、アタシの声は届かず終い。そんで互いに一歩も引きやしない言い争いが勃発。
あーだ、こーだとチョークの使い方について熱き討論…いや意見の押し付け合いをしてやがる。
……。
……ん?ちょっと待て。
まさか…いや…でも……
「なぁ、まさか互いに譲れないの「「チョークの使い方(だ)!」」
真っ直ぐで闘志の炎を宿した4つの瞳がアタシとカチあった。
……嘘、だろ?
そんな事の為に…トレーニングルームをこんなにして、他人巻き込んでたのか……?
し、信じらんねぇ〜……
思考に感情が追いついた時、ブチンッと何かが自分の中でキレた音がした。
「…さん…」
「ん?何だ?」
「…い…ん…」
「どうした??」
湧き上がる怒りに呼応した躰が、フルフルと小刻みに振動。
アタシの異常に気付いた馬鹿姉弟はオロオロと、しかしアタシに近づくなと言われた為そこから前には出てこない。
「ゆ、雪音?」
「クリス…??」
「解ッ散ッ!!」
艦を揺らす勢いでアタシは叫んだのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
事を知った司令から今日から全員帰宅するように仰せつかった。
何かあれば至急通信を入れるとの事。
その時にー
『すまん…お前達がそこまで疲れてると気付けなかった俺の落ち度だ。』って可哀想なモノを見る目で言われたんだけど…なんでだ??
姉さん共々、終始頭にクエスチョンマークが出てたんですが?
「クリス…さん?機嫌直していただけませんか?」
「あンッ!!?」
「ひッ!?」
暗くなった夜道をズンズンと歩むクリス。
後髪はブンブンと荒ぶっており、アタシは怒ってますとアピールしていた。
「アイツが落ち込んでるってのに、何わけのわかんねぇ事してんだよ!」
「ほーん…心配してんの?響を。」
「なッ!?…煩いんだよ、馬鹿ッ!!」
顔を真っ赤にして照れてやがる。
さっきも赤かったけどな…意味合いは主に怒りでだが。
クリスは勝気な態度、強気な言動を良くするが根は優しさの結晶体だからな。
「響、どの程度に落ち込んでた?」
「晩御飯をお代わりしない程度に落ち込んでた。」
「あ、しっかり食べてはいるんだ…。」
「あの時に、お前がもっと優しい言葉を掛けてやれば良かったんだ。なのに…。」
あの日。泣きながら俺へ縋るように問いを投げかけた響。
『私のしてる事って偽善…なのかな?』
敵対した…調と呼ばれた少女に偽善者と言われ、拒絶された。
痛みを知らない……そんな事はない。ありえない。
響は俺が不在になった学校で迫害されていたのは知っている。
本人達は俺が知らないと思ってるんだろうけど。
酷い言葉。無言電話に落書きや脅迫状。
挙げたらキリがない悪意の数々が響と立花家を蝕んだ。
そんな過去から逃げず、響は優しく真っ直ぐに生きようとしている。
『私のしてる事って偽善…なのかな?』
違う。
そんなのは、俺や未来達、仲間が堂々と言い張れる。
だけど……
『響はどう思う?』
『わかんないよ…ハチ君、私は間違ってるの?本当に偽善者、なのかな?』
『…それは自分で解を出すんだ。誰かに求めては駄目だ。』
『……あ、あは……あははは、そうだよね……そうだよ…ね…。』
俺は彼女の問いに答えを出さなかった。
残忍だ、鬼だと言われようとも…嫌われてでも俺は響や大切なひとを守りたい。
だからー
「あの時は、あぁする他無かった。」
「何でだ!?」
「…響の人助けは、アイツの戦う理由そのものだからだ。困っている人を助けたい。守りたい。そんな自身の行いが正しいのか間違ってるのか、その答えを他者に委ねてしまえば響の根本が覆る。戦えなくなる。だから、どれだけ悩み苦しもうが、解は何としても自分で出さなきゃならねぇ。出して、"揺るぎない理由と信念"そして"迷わない心"を手に入れなきゃならねぇんだ。これから先を考えれば…」
「あの馬鹿の為に…?他人には理解しにくい捻た優しさだな。」
マンションのエントラストを抜け、降りてきたエレベーターに2人揃って乗り込み、目的の階を示すボタンを押す。
扉は閉まり、極めて軽いGを感じながら上昇して行く。
「何でも解を与えてやるのが優しさじゃねぇだろ。大切な奴等なら尚更な。」
「…獅子は我が子を愛してるから谷へと落とすってやつか?」
「いや、可愛い子には旅させろ…だ。」
俺達を乗せた箱は停止し、扉が開く。
やはり揃ってエレベーターから出ると、クリスは自身の住う部屋の前に止まり鍵を取り出して解錠する。彼女の後ろを通過し、真隣りの部屋を解錠する俺。
はい、お隣りさんは雪音クリスさんでした。
司令曰く。クリスは一応、敵対していた関係であった為これは監視措置なんだそうだ。
……本当だろうか?
「着替えたらそっち行く。」
「あいよ。じゃーな。」
さてさて、今日の晩飯当番は俺だからな……何にしようか?
クリスが部屋に来たのは僅か3分後だった。
……うん。君、早過ぎ。
◇◇◇◇◇◇◇
「皆、集まりましたね?」
武装組織フィーネ。
薄暗い一室に集められた3人の装者と1人の男性。
予定通りに事を運べず、計画していた作戦は失敗に終わった。
3人ともに苦虫を潰した様な顔をし、月詠調にいたっては苛立ちさえ浮かべていた。
「作戦は失敗です。…コレでは「アイツのせいデスッ!あの黒い装者が居たから!」
予め入手した情報には無い敵戦力。しかも、かなりのやり手とあらば暁切歌の言い分も無視はできない。
「マム、あんなの情報に無かった。」
「…ハァ……えぇ、ありませんでした。なので、調査しました。ご覧なさい。」
そしてモニターに映し出されたとある記録映像。
閃光のように駆け、ノイズを次々に屠っていく黒い鬼面の人物が映し出されていた。
かつて二課が入手した2年前の八幡の映像に、全員が釘付けとなり、食い入る様にモニターに集中した。
「得られた情報は、鬼面に漆黒の鎧と純白の太刀。日本の組織は彼を[黒鬼]と呼称。…コレだけです。」
「…名前は比企谷八幡。17歳の高校2年生。地元を離れて現在は一人暮らし。」
「ッ!…どこでその情報を得たのです?」
ナスターシャの得た情報に追加されていく比企谷八幡の情報。
マリアを見据えるナスターシャの眼光が刃物のように鋭くなる。
対してマリアは、後悔の色を僅かに滲ませながら口をゆっくりと開いた。
「ライブ前日。街でファンに追われていたところを偶然、彼に助けられてね。偽名を名乗ったし、終始、彼は私が誰か気付いていなかったわ。」
「あの日に?」
「確かマリアがスイーツを買ってきてくれた日デスね。」
「……あのスイーツを買ってくれたのは彼よ。」
投げかけられた言葉に調と切歌が驚愕し固まる。
美味しく頂いたスイーツを敵から貰っていたとは、つゆ知らずに幸福に包まれたのだ。
敵は塩でなく甘味を送ってきた。
不快そうに調は舌を出して、表現するなればウゲェ〜…と言う顔をしていた。
「…ぐぐぐッ、美味しかったけど邪魔したアイツは許せないのデースッ。」
「スイーツに…罪はない。」
複雑な表情に心境の2人をさて置き、マリアはナスターシャへとあるプランを持ちかけたのだった。
「マム、私に考えがある。」
「…聞きましょう。」
5分後、ナスターシャは首を立てに振りマリアの立案を呑むのであった。