やはり俺がシンフォギアの世界にいるのは間違っている 作:にゃにゃにゃす
「はい、お釣りだよ。」
少々量が多く感じたお好み焼きだったが、一口食べるや口へ運ぶ手が止まらなくなりセレナはあっさりと完食したのであった。
その食べっぷりは響までいかずとも中々のものであり、少しばかり八幡を驚かせたのであった。
「ご馳走様。とても美味しかったわ。」
「ごっそさん。…また近々きます。」
「ふふふ、あいよ。またいつでも。」
優しい笑顔に見送られながら店をでると、暁の空は薄っすらと暗くなり始めていた。
日はあと数分もせずに沈み、街は昼とは違った夜の顔へと変貌を迎えつつあった。
さて、最終確認するか。
念には念を。これ大事〜。
「ありがとよ。んで、マジでいいの?」
「おかしな事言う。言ったはずよ?君への礼だと。」
「言ったね?言ったよね?あとで返せって言われても拒否するからね?」
「しないわよ!…君は本当に変わってる。」
やれやれと首をふり、呆れたと言わんばかりの盛大なため息を吐くセレナには悪いけどさ…
ほら、美人局って線が万が一にも無いとは言い切れないじゃん?
もしかしたら路地に怖い黒服のお兄さんが待ち構えてたりーー…
と思考に耽っていたら見知らぬセダンが目の前に止まった。
ぇ?何??二課所属の車じゃねぇぞ?
「私の迎えよ。さっき連絡を入れておいたの。さ、乗って。」
「……。」
「???」
「海に沈めたり、山中に埋めたりしない?」
「君は私と言う人間をなんだと思ってるのか、小1時間ほど聞いてみたいものね。」
ぇ?ドジっ子で自称引っ込み思案な占い師だと思ってる。
そんな風に言ったら本当に沈められたり、埋められたりするかも知れない。
だから、八幡は黙秘する事にしたの。
「ブフッ…。」
ドライバーの顔は見えないが吹き出したのだけは分かった。
第9話
乗り込んだセダンは法定速度を超過することなく、安全運転のまま目的地へと2人を運んでいく。
先程までとは打って変わって終始無言のセレナ。
会話のないままセダンはゆっくりとブレーキをかけて止まっていく。
《八幡、もう少しだけ私に時間をくれないかしら?…一箇所、行きたい場所に着いてきて欲しい。》
八幡には特にこの後用事も無かった為、何も気にしせずに了承したわけだがーーー
「ここは…!」
何故、彼女は此処へと来たのであろうか?皆目検討もつかない状況に八幡はセレナへと向き直る。
セダンは八幡とセレナが降車するや足速に去っていた。
故に場所を間違ったとは到底考えられなかったのだ。
「ちょっと縁あってね。…よっと。」
侵入禁止と書かれたロープを跨いで、彼女は瓦礫の山へと歩み始めていた。
「ちょッ…ぇ…待てって!」
八幡の静止に声に耳を傾ける事なく、ズンズンと先へと進むセレナの後を仕方なく追う。
瓦礫に足をもっていかれないように注意しながら歩み、重機数台の隣りをすり抜けて開けた場所へとたどり着いた。
「……。」
かつて、そこでは多くの生徒が部活動など利用したであろう広々とした場所。
前リディアン音楽院のグランドだった場所に2人は立っていた。
目の前にはクリスが命懸けで時間を稼ぎ、翼と八幡で死力を振り絞り破壊した忌忌しい天へと伸びる巨塔。
綻び、崩れた箇所はあるものの悠然とそこに聳え立っていた。
カ・ディンギル。
月の破壊を目論んだ櫻井了子…いや、転生したフィーネの作り出した超兵器。
何故、こんなモノを彼女が見に来たのか…いや、そもそも何故この秘匿された最重要機密に関わるソレが此処にあると知っていたのか。
(いや、たまたまだ。)
いくら自称有名人とは言え、海外出身。
東京タワーかスカイタワーの類いと勘違いしてるのだろう。
うん、きっとそうだ。と心に訴えかける。
(だから…頼む。滲み出た嫌な汗は身体の奥へと引っ込んでくれ。)
「な、なぁ。此処は立ち入り禁止だし立ち去らね?それにアレは東京タワーとかじゃ「荷電粒子砲カ・ディンギル。」…なに!?」
此方を振り向く彼女は、胸の下で組んでいた腕前を解き、深く被っていた帽子とサングラスへと手を伸ばした。
「もし再利用できたらと思っていたのだけど無理のようね。……まぁ、動力源のデュランダルを失っているし、そもそも発射口も破壊されてる。あ、君達が破壊した…の間違いだったかしら?」
「なんで…セレナ、お前はいったい!」
「それは私の台詞よ。…君はいったい何者なのかしら?
ねぇ…?
【黒鬼】さん。」
「!!?」
過去にノイズを倒す正体不明の戦士を、自衛隊が呼称したコードネーム。
厨二病のようなネイミングに、この名を初めて聴いた時には八幡は内心嫌で嫌で仕方がなかった。
黒鬼と呼ばれるのが不快極まりないのである。
だからこそ彼は厨二なコードネームで呼ぶなとか、恥ずかしいでしょ!とか言いたい事はある。
いや、そうではない。
ルナアタックの英雄と呼ばれるシンフォギア装者達とは違い、唯一存在そして正体を知られる事が無かった八幡。
八幡並びに翼でさえ知らない。
彼等が月の欠片の破壊から帰還し、意識を失っている間ー
弦十郎達が翼の父にあたる風鳴八紘と共に、他国へ漏洩せぬようにと八幡の情報を懸命に秘匿する為にあらゆる手を尽くしていたのだ。
映像記録の抹消、箝口令、保管してある情報は最重要機密とし幾重ものプログラムによって守られるようにした。
もともと情報が俄かに漏れていたシンフォギアとは違い未知の存在である陰陽師。
その存在が明るみに出てしまえば、八幡自身だけではなく親しい者たちにどのような影響を脅やかすのか計り知れなかったからだ。
故に、彼女が言った"黒鬼"と言う単語は情報が漏れない限り、知られようがかいモノだったのだ。
「あら、どうしたのかしら?驚いた顔して。」
そんな事を勿論知らない彼女だったが、言葉と同時に解き放った姿。
その真の姿に驚愕し、八幡は固まり…そして、憤怒した。
「お前は…!」
「この姿では初めまして、ね。」
ニヤッと不敵に笑うセレナ…いや、その人物の忌々しい名前を敢えて八幡は叫ぶのだった。
「マリア・荷電・粒子砲!!」
「なんだその月を破壊しそうな名前は!?私の名前はマリア・カデンツァヴナ・イヴだ!!」
割と大真面目な間違いであった。
そもそもが八幡はマリアに興味がなかった。
なにより、失ってしまった大切な仲間が纏っていたギアを使ってテロを起こした人物。その為か、マリアへの認識は敵ではなく斬り捨てる目標としか捉えていなかったのである。
故にーー
「…誰にだって間違いはある。」
開き直る。
悪気もなく平然と。
「名前を間違えるのは非常に失礼だと思うわ。」
「お前たちだって間違いを犯してるじゃねぇか。…姉さんのライブ無茶苦茶にしやがって。しかも各国に戦線布告まで。」
「そうね…間違いである事は否定はしない。だけれど、この間違いは正しい間違いだ。」
「はぁ?(何言ってんの、こいつ…意味がわからん。季節はもう秋だけど頭の中は春なのか?ん?)
「Granzizel bilfen gungnir zizzlー」
「っ、こい白雪ノ華!麒麟!!」
突然のガングニール起動に八幡は慌てて麒麟を纏い、白雪ノ華を構えた。
アームドギアである槍を構える彼女に集中しようとするが、不意に耳元へ風鳴司令の焦燥とした叫びが聴こえた。
《八幡、どうした!?こちらでガングニールと白雪ノ華を検知したぞ!?しかも場所がー》
ーキィンッ!
頭に響いた不快な感覚。
彼はノイズのそれを確かに感じた。
しかも、よりにもよってー
「離れた港かよ…やってくれたな。」
「やはり、君はノイズの出現を感知できる。私の憶測は間違いではなかった。」
「っ…だったらこちらも言わせてもらう。テメェ等だな?サクリストS及びウェル博士に手を出したのは。…人でなし供が。」
「なんとでも。」
否定も肯定もしない。
だが十中八九、八幡の推測は正しいのだろう。
なにより、此処へとまんまと連れられた後にノイズの出現。
サクリストS、即ちソロモンの杖での人為的な出現による可能性が大いに高いといえた。
だったらと、彼女を斬り刻みたい衝動を無理矢理に心中の奥底へ捻じ込み、彼は行動を移した。
「アンタの相手はまた今度だ!」
戦線離脱し、出現したノイズの下へと駆けようとしたのだがー
「そうはいかない!!」
【HORIZON†SPEAR】
ガングニールの矛先が展開し、エネルギー砲が放たれた。
(あの時の!)
顎を引き、上体を後ろに大きく反らして紙一重で回避する八幡。
通り過ぎたエネルギー体は重機数台を飲み込み爆発する。
赤い炎が八幡の後方で上がり、闇夜の2人の顔を照らした。
(こいつ…口だけじゃない。)
先程、八幡へ放たれHORIZON†SPEAR。
力を集中させた軸足を見定めた射線で八幡を狙い、また彼を闇に紛れ込ませない為に重機を破壊し辺りに明かりを灯した。
標的を攻撃しつつ退路を防いだ智略と実戦力。
彼女が強敵である事を認識し、八幡は白雪ノ華を構えた。
「さ、お話しをしましょう。翼達が来てしまえば貴方と話しができなくなるからね。」
「話しだと?へ、足止めの間違いだろ。」
「そうね。それも事実の1つ。されど黒鬼、君と話したいと言うのもまた事実だ。」
余裕綽々と言わんばかりに見下す様に八幡を勝ち気の笑顔で牽制する。
退路は無いこともない。
やり合う事も八幡は厭わない。
ただ、彼女が会話を求めているのであれば…
そう思い、八幡は密かに二課本部へ通信をONにしマイクの集音量を最大にした。
「…一応、聞くだけ聞いてやる。」
「意外ね…でも、ありがとう。」
一息入れ、彼女はアームドギアの矛先を地に刺す。
力強く握っていた槍から手を解き、優しく掌を八幡に向ける。
「黒鬼…いや、八幡。私達の仲間になって欲しい。」
「は…ぇ、はぁ??」
まさかまさかの展開に
《はぁぁあぁぁあッ!??》
スピーカー越しに会話を聞いていた弦十郎の素っ頓狂な叫び声が聞こえた。
予想外。想定外。
まさしく意味不明な現状に八幡は考えが纏まらない。
時間稼ぎ?嘘?だったら何故?困惑する八幡を見つめるマリアの瞳には一点の曇りもなかった。
「…意味がわからん。」
「あら、スカウトしたいと言っているのよ。…君は人に優しくできる人間だ。正しくある為なら身を削る覚悟があると私は睨んでいる。…だから、私達にその力を貸して欲しい。世界を救う為に。」
「世界を救う…??こりゃまたぶっ飛んだ会話だな。」
「そうね。でも、君は一度世界の危機を目の当たりにしている。だったら理解できるでしょ?…平和は一瞬で砕かれるものだと。」
「それはー」
その先の言葉は続かなかった。
何故ならば
《み、未知のパターンを検知!!これはッ…アウフヴァッフェン!!?》
「ッ!?」
友里の悲鳴の様な叫びが八幡の鼓膜を刺激したと同時に余裕を全面に出していたマリアの表情が激変。
彼女の瞳に映った何かが、彼女へ驚愕と焦りを与えたのだった。
「八幡、背後だッ!!」
「なにッ!?」
振り返った矢先、目と鼻の先に鋭利に尖ったそれがあり、八幡の瞳いっぱいに映る。
真っ直ぐな軌道で八幡を強襲したそれはー
どうしようもなく…
槍だった。