やはり俺がシンフォギアの世界にいるのは間違っている 作:にゃにゃにゃす
ここ数日で溜まりに溜まった鬱憤をノイズにぶち撒けて早数十分後。
俺は姉さんと合流を果たすべく、移動をしたのだが…
ギアを纏った響がそこにいた。
彼女がガングニールを身に宿していると言う現実。
それを今この眼で改めて確認した俺は、自然と拳に力が入ってしまう。
「奏の……奏の何を受け継いでいると言うのッ!!」
冷たく、鋭い双眼で響を貫く姉さん。
少し離れて場所にバイクを停めたにしても、全く俺の存在に姉さんが気づかないとはな…。
姉さんの怒りの感情がヒシヒシと伝わってくる。
「去りなさいーー…」
【天ノ逆鱗】
歌と同時に空へ高々と跳んだ姉さんは、そのままアームドギアを響へ向け投げ放った。
飛行しながら巨大化したアームドギアを更にバーニア全開で蹴り、そのまま響へと一直線。
「バカか!?」
白雪ノ華を召喚し、地を蹴るもここからじゃ確実に間に合わない。
軌道から響に直撃こそしないが、あの技の破壊力は凄まじく、衝撃の余波で怪我をしない保証がない。
「おりゃぁああ!」
「叔父様!?」
気合いの掛け声で巨大な剣に放たれた拳。
突如として姿を見せた赤いシャツがトレードマークの司令。
何と姉さんの天ノ逆鱗を正面から拳圧で留めやがりました。
だが、これは絶好のチャンスだ!
「こンのッ!」
「八幡!?」
勢いを殺された大剣を白雪ノ華で上へと全力で弾き飛ばす。
弾かれた大剣は消え失せた。
俺はそのまま白雪ノ華を地に深く刺して、身構える。
「ふんッ!」
大技を受け止めたとは言え、その衝撃は司令の身体に残っている。
ならば、と予想したがまさかマジで足から地へと衝撃を流すとは……
司令を中心にコンクリートは衝撃波で吹き飛ばされ、ついでに空中でバランスを崩していた姉さんをも吹き飛ばした。
……ついでに俺も吹き飛ばされた。
対策は完璧なはずだったのに…解せぬ。
地下の水道管は破裂し、吹き出された水は雨の様に降り注がれた。
白雪ノ華を解除し、周囲の惨劇を見て八幡は思ったよ。
司令、絶対に人間じゃねぇ。
あんな芸当、俺には無理だし、何なのこの人?
サイボーグか髪が金髪になる戦闘民族だろ、絶対。
「あーぁ…こんなにしちまって。何やってんの、お前達は。……この靴高かったんだぞ?」
「ご、ごめんなさい…。」
「その靴より、ここの修繕費の方が絶対に高くつきますよ。…それよりも…。」
尻餅をついている姉さんの腕を引っ張り、無理矢理立たせる。
「一体何考えてんだ!あんな大技を狙いも定め……ず…に…」
その先の言葉が俺の口から出ることは無かった。
見えてしまったのだ。
雨の様に水が降り続く中、姉さんの瞳から涙が溢れていたのを。
いつだって、強く気高く美しく、そして頼りになる姉。
前に、奏さんは彼女を泣き虫だと言った。
でも俺が姉の涙を見たのは1年前に大切なパートナーを失ったのあの日だけだった。
その姉さんが今、目の前で涙を流していた。
「翼、お前泣いて「泣いてなんて居ません!涙など流してはいません……。」
司令の言葉の先を言わすまいと姉さんが言葉を重ねた。
「姉さん……。」
「風鳴翼はその身を剣と鍛えた戦士です。だから……」
「翼さん…。」
姉さんはその先が続かない。
…あぁ、やはり俺は幾つになっても無力だ。
身体を鍛え、多くの人と交わり、そして戦って……成長したつもりだった。
いや、現に俺は強くはなった。
でも、それだけだ。
いつも支えて、助けてくれる大切な姉に何もしてやる事ができない。
頼ってばかりで、今哀しみに暮れている彼女を支えてやる事もできず…そんな自分が歯痒く、情けない。
「私、自分が全然駄目駄目なのは解っています。だから、これから一生懸命頑張って
奏さんの代わりに成ってみせます!!」
響の言葉が時を止めた。
いや、現実には時は流れているが俺の心と身体が止まった…そんな錯覚に陥った。
ふと、視界に空へと伸ばされた腕が見えた。
あぁ…人はこんなにも冷静に怒りを感じることができるのかと、こんな思考を持ったまま、響へと手を振り翳した姉さんの腕を掴む。
「離しなさい…。」
「……。」
「離せぇぇええ!」
心に激痛が走る。
目の前で涙を流す姉さんの悲痛な叫びが刃物となって、俺の心を引き裂く。
怒りで我を忘れ、暴れる姉さんを背後から抱え込む様に抱きしめ、暴れる彼女を止めようとする。
腕や肘が俺の顔に、何度も何度も打ち付けられる。
だけど、この手だけは絶対に離しはしない!
「うぅ…ゔ…くぅ…。」
やがて全身の力が抜け、立つことすら辞めてしまった姉さん。
初めて見るその姿に哀しみで胸がまた締め付けられる。
「司令…姉さんを頼みます。」
「あぁ。」
いつも大きく見えていた姉さん。
本当は俺なんかより小さくて腕に収まるくらいなのに…
尚も涙を流す彼女を司令に預ける。
ここからは俺がやるべき事だ……
「あ、あの……」
乾いた音が小さく木霊した。
掌が僅かに熱を帯びる。
響に手を出したのは生まれて初めの事だった。
◇◇◇◇◇
部屋に戻った私は何をするでもなく、机と頬を同化していた。
ルームメイトで大好きな幼馴染みの未来が心配そうにしているのが伝わってくる。
本当……私ってば駄目駄目だなぁ……。
翼さん……泣いてた…。
「……。」
窓ガラスに映った自分の頬をゆっくりと撫でる。
いつも何だかんだ言っても頼りになって、捻くれてるけど本当は誰よりも優しく、いつも助けてくれる私の想い人。
喧嘩する前にいつも、先に謝ってくれて仲直り。
怒鳴られた事も無かった。
なのに……
初めてだった。
伸ばした手を拒絶されたのは。
初めてだった。
彼に頬を叩かれたのは。
初めてだった。
感情の無い表情を見て恐怖したのは。
初めてだった。
「ハチ君……泣いてた……。」
あの日、私は生まれて初めて彼の涙を見たのでした。
◇◇◇◇◇
翌日。
連日の出撃に疲労を迎えに迎えてしまった為学院を休み、二課の本部に居た。
メディカルチェックの結果は特に問題なく、今は休憩所でマッカンを啜っている。
昨日と同じく、友里さんと藤尭さんも一息ついていた。
「皆さん、こんにちは。」
「緒川さん、お疲れ様です。」
「お疲れ様です。」
「…どうも。」
「御一緒してもよろしいでしょうか?」
「えぇ、構いませんよ。」
緒川さんは二課のエージェントであり、表世界ではトップアーティスト風鳴翼のマネージャーを務めている。
俺もいつも何かと世話になっていたりする。
ふむ、偶には礼をしなければなるまい。
そう思い、自動販売機…通称、八幡専用販売機で黄色い缶を買い、緒川さんに渡す。
「よかったら、どうぞ。」
「あはは……ありがとうございます。」
……あれ?なんで苦笑いなんでしょうか?
そんなに俺が人に奢るのは珍しいのか?
震える指でプルタブを開ける緒川さんを見て漸く理解した。
日頃から多忙で疲れてるんだな、うん。
「ゴク……ゔっ…ゴクゴクゴク!」
「おーいい飲みっぷりっスね。」
「ごっくん…ご馳走様でした。」
余程喉が渇いていたのか一気に飲み干す緒川さん。
どこか達成感のある表情をする彼だが、少し残念な気持ちになる。
できれば、マッカンは味わって飲んで欲しかったのだが……いや、待てよ。
緒川さんの多忙さはよく知っている。
エージェントとマネージャー業にと日々大変な事は明らかだ。
たぶん、此処に来るまでも忙しくて喉がカッラカラだとした仕方のない所業だ。
だったらと……
俺はもう一度マッカンを購入し、緒川さんに渡す。
次は、味わって飲めるはずだ。
それに、この程度では彼への感謝は足りやしないが、少しは伝わればいいな…なんてな。
「…ありがとうございます。」
笑顔で受け取ってくれた緒川さんだったが、その笑顔には少しだけ影が射していた気がした。
「鬼ね…。」
「鬼だな…。」
情報処理班の2人の声は八幡には理解できませんでした。
「…で?緒川さん、俺に何か用があったんでしょ?」
「ごく…ぅっぷ……ハイ。昨日の一連の事は司令に伺ってます。それで、八幡さんにお願いしたい事がありまして…。」
「姉さんを気分転換に連れ出して欲しいって事ですか?」
「えぇ…頼めますか?」
「いや〜…無理だと思いますよ。姉さんはたぶん、そんな暇など有りはしない。今は戦いに備えて休むべきだ…って言いますよ。」
「翼さんのモノマネが思いの外クオリティ高いな!」
「翼さんに聞かれたら怒られるわよ。」
「大丈夫です。その翼さんなら、今は自宅で休養をとられてますから。」
休養……ね。
それで落ち着いてくれれば良いんだけど…俺でさえ、まだ心にいつもの余裕がない。
あんな取り乱した姉さんが、たった1日で元に戻れるとは思えねぇ。
「それとは別の件ですが…八幡さん、来週のお墓詣りは翼さんと御一緒でよろしいでしょうか?」
来週。それは奏さんの命日である。
あの日見た、奏さんの最期の姿が脳裏にフラッシュバックする。
「…八幡さん?」
「…え、あ、はい。その日は必ず行きますので。」
「そうか…奏ちゃんが居なくなって、もう1年かぁ…。」
「翼さんにとっては、まだ1年なんだと思うわ。捉え方は人それぞれでしょうけど…ってゴメンね、八幡君の前で言う事じゃなかったわね。」
「いえ…。実際、友里さんの言う通り人それぞれなんだと思います。緒川さん、来週はお願いしますんで。」
「はい。お任せ下さい。……ん?響さん。」
ふと緒川さんに後ろを指さされ、振り返ると困ったような表情の響が壁の向こうから半分顔を出していた。
「…では、俺はこれで帰りますね。お先に失礼します。」
「えぇ、気をつけてね。」
「身体休めるんだぞ?」
「お気をつけて。」
3人に別れを告げ、足早に響と真反対へと進んでいく。
角を曲がり、そこで壁を背もたれにして待つ事数秒、焦った顔の響が駆け足で曲がってきた。
俺と視線が交わると、身体が跳ね、萎れる。
「何がしたいんだ、お前は。」
「いや…あの〜…あはは…謝り…たく…て。」
「謝る?何を?自分の何が悪かったのか分かってるのか?」
「それは…そのぅ…」
「だったら謝らなくていい。そんな謝罪は不愉快なだけだ。…昨日はビンタして悪かったな。じゃ。」
「あ!待って!」
不安気味に服の袖を掴んできた響。
謝りたい。でも、何を謝ったらいいのか分からない。
響がそう思っているのは分かっている。
俺はこのままではダメな事も分かっている。
仕方ない……か。
通信機を取り出して、司令へと繋ぐ。
「あ、司令お疲れ様です。今から野外演習場を使いたいんですけど、いいっスか?」
『八幡、今日は休むんじゃなかったのか?使う分には構わないが……。』
「では、お願いします。あと付き添いに司令と…緒川さんにお願いしたいんっスよ。今から響に試験与えたいんで。あ、ギャラリーはなしでお願いします。」
『…良くわからんが分かった。使用の許可と付き添いはしよう。先に行って暫く待ってろ。』
「ありがとうございます。では、後ほど…。」
通信を終え、響を連れて外に出ると緒川さんが、すでに車で待機していた。
響と会話のないまま、車に乗り込み野外演習場へと向かうのであった。
閲覧ありがとうございました。
また、いつも読んでくれている方、お気に入りに入れてくれている方には心より感謝申し上げます。
引き続き、この作品をよろしくお願いします。