「岩崎が吐いたぞ」
「え?」
渡辺は言葉の意味が飲み込めない様子だった。
「一部始終を見ていたそうだ。犯行の」
「エッ!……そんな筈は」
(!……そんな筈は?)
簡単に落ちた。渡辺は白状したも同然だった。
「そんな筈はないと言うのか?どうしてだ」
「……鼾を掻いてたし……」
「ぐっすり眠っていると思ったのか?」
「……はい」
途端、渡辺は青菜に塩のようになった。
「どうして、殺したんだ?」
「……姐さんのことが好きでした」
(!……)
「社長が死ねば、姐さんと一緒になれると思い――」
「原口の女房と関係があるのか!」
努は、怒ったような口吻で渡辺を睨んだ。
「いいえ。俺の片想いです」
その言葉に、努はホッとすると少年のような安堵の表情を浮かべた。
「たかが片想いで、原口を殺したのか?」
「姐さんに自分の気持ちを打ち明けて、もし、そのことが社長に知られたら殺されるかもしれない。そう思うと、姐さんを自分の物にしたくても、告白できなかった。社長さえ居なければ天国なのに。そう思うと、社長が邪魔で仕方なかった。
そんな時、チャンスが訪れた。あの日は、朝から土砂降りだった。今夜しかない。腹を決めると、予定していた段取りを復習しました。夕食後に、事務所のソファーでテレビを観ながら酒を飲むのが、社長の日課でした。そして、酔うとソファーで寝る癖も知ってました。
……布団の中でパジャマの釦を外すと、岩崎の兄貴が寝付いた頃を見計らって部屋を出ました。事務所のドアを開けると、案の定、テレビを点けっ放しで社長が鼾を掻いていました。予めパジャマのポケットに忍ばせておいたゴム手袋を嵌めると、紐をポケットから出して、仰向けになった社長の首に巻き、思い切り絞めました。社長は首に手をやると、足をバタバタさせて、うーっ!と唸り声を上げました。が、雨音が何もかも掻き消してくれてる筈だ。そう信じて、俺は躊躇なく更に力を込めました。
社長が動かなくなったのを確認すると、パジャマと下着を脱ぎ、真っ裸になると、庭側の窓を開け、庭の隅に用意しておいたスコップで穴を掘りました。社長を引き摺って埋めた後、シャワーで体を洗うと、下着とパジャマを着て、浴室までの廊下と事務所の床を拭きました――」
「殺害方法は自分で考えたのか?」
「……いいえ。……姐さんから」
(……やっぱりか)
「原口の女房も共犯か?」
「いいえ!姐さんは関係ありません。姐さんから聞いた殺人事件の手口を真似ただけです」
「殺人事件?」
奈津が二十年前の殺人事件の話をしたのだろう。だが、真犯人でなければ手口は知り得ない。益々、奈津への疑惑が深まった。