先輩の立てた計画が真っ白になった、俺はその言葉を聞いて白金先輩を慰めることにした。大丈夫だ、真っ白になったのなら色んな所に出掛けるということでもいいと思う。
「椎名君、ごめんね」
「大丈夫ですよ白金先輩。真っ白になったのなら色々な所を見たり出掛けたりでもいいと思いますよ?個人的になりますが、そんな感じでも旅をしているみたいで楽しいと俺は思います」
俺は個人的な意見を先輩に言った。これはあくまで俺の意見だ。先輩はどう思うのだろう、どんな言葉が出るのだろう。
「でもいいの?椎名君に……凄く申し訳ないし、今日のために立てた計画を……無駄にするなんて……私にはできないよ」
「それなら少しずつ思い出してみませんか?出掛けながらなら思い出せるかもしれませんよ?思い出せたらそこに行きましょう」
「うん、わかった。ありがとう椎名君」
よかった、安心してくれた。思い出せないのなら出掛けながら思い出す、これはその場で考えたものだ。なんとかなればいいんだが……。
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私は椎名君の言う通り少しずつ思い出していくことにした。今井さんと相談して立てた計画なんだ、少しでもいいから思い出していかないと。
私と椎名君はどこに行こうかを話し合った。最初に行く場所は喫茶店に決まった。私が遅れたことで時間が十一時半になったため、私達は早速お昼を取ることになった。
中はまだ混んでいなかった。椎名君は普段は少食みたいであまり食べないそうだ。私達はコーヒーとサンドイッチを注文した。同じメニューを注文したなんて何の偶然だろう。いや、偶然と言っていいのかな?まぁいいや。
「そういえば先輩言い忘れてました。今日の私服、可愛いですね」
「へ!?そ、そうかな?」
「そうですよ。ゴシック風って変わってるなと思いますが、先輩らしくていいと思います」
「あ、ありがとう……。椎名君もかっこいいよ?」
「……ありがとうございます。なんか照れるな」
私が椎名君の私服を褒めたら椎名君の耳が赤くなっているのが見えた。椎名君って照れやすい感じなのかな?私としては仕返しができたからいいかな。また一つ椎名君の意外な一面を知ることが出来た。うん、いい感じだ。
私はお昼ご飯を食べ終え、椎名君から話がありますと言われた。何だろう、話って……。何を聞かれるのかな?
「白金先輩は何故Roseliaに入ったのですか?」
「私がRoseliaに入った理由?」
「はい、ずっと前から気になっていたんです。先輩がどうしてRoseliaに入ったのかが知りたくて……」
椎名君からの話とは私がどうしてRoseliaに入ったのか、ということだった。私はそれを聞いて何かホッとした、そんな感じがした。どうしてかはわからない。
けれど、何となくわかる。
――椎名君が私のことを知ろうとしてくれているのが少し嬉しかった。
私は椎名君にRoseliaに入った理由を話した。その時の椎名君の表情は真剣だった。感動しているのか、私のことを知ろうとしてくれているのか、どっちなのかはわからない。でも、椎名君が真剣に私の話を聞いてくれているのは凄く伝わった。
「これが私がRoseliaに入った理由だよ」
「そうだったんですね。先輩は強いですね」
「強い?私が?」
「はい。内気だった先輩がRoseliaに入って色んなことを経験して、ここまで変わることが出来たなんて凄いですよ」
私が強い、椎名君はそう言ってくれた。確かに私は自分でも何か変わったなと実感している。椎名君と出会って、椎名君がどんな人なのかを知ろうとしていて……。
昔の私は確かに内気だった。今でもそうだけど、心は強くなってると思っている。これはあくまでも個人的だ。
「ありがとう椎名君」
「え?どういたしまして……でいいのかな」
「ねぇ椎名君」
「何ですか?」
今度は私が聞く番だ。椎名君が何故ピアノを始めたのか、それを聞いてみよう。あの演奏を最初に聞いたとき、私は感動してしまった。歌いながら弾いているものもあった。あの時の椎名君はとても歌が上手だった。
「私も……聞きたいことがあるんだ。椎名君が……どうしてピアノを弾き始めたのかを……知りたいんだ」
「大した話にはならないですけど、それでもいいですか?」
「私は……構わないよ。だから……聞かせて……?」
わかりました、椎名君は一呼吸して言った。どんな理由なんだろう、私は心の準備をしつつ椎名君の話を聞くことにした。
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俺がピアノを始めた理由か、いつぐらいだったかな。中学一年辺りになるか……。まだ俺が本にしか興味を持っていなかった時に母さんからやってみないかって勧められてそっから始めたんだったな。
俺は昔のことを思い出しながら白金先輩に説明をした。あの時のことは今でも覚えている。最初弾いた時はこんなに楽しいんだなって思わなかった。どうしてもっと早くに始めなかったんだろう、どうしてピアノと出会うのが遅くなったのだろうって後悔していた。
母さんが調律師になったのは二十五歳辺りの頃だった。俺が弾いているピアノは母さんが過去に使っていた物で、チューニングは定期的にやっている。歌いながら弾くってことをやったのは中学二年生からだ。あれから弾くことが楽しくなったんだ。
それからは読書やピアノ、さらにゲームと俺は趣味を増やしていった。ここまで変われるのならもっと早くにやればよかったって今でも思っている。
「とまあこんな感じですね」
「そうなんだ。椎名君って……私と……似てるね」
「そうですか?どの辺がですか?」
「ピアノを弾いたり、本を読んだり、ゲームをしたりって……まるで私みたいだなって……思ってね」
言われてみるとそうだ。なんか振り返ってみると白金先輩と似てる部分あるな。何でか恥ずかしくなってきたな。俺と先輩だと、先輩の方が色々と経験している。それに引き換え俺はあんまりだ。もし比べられたら俺はどう感じるのだろう。あまりこんなこと思いたくないな。
「そうですね。俺と先輩が似てるって、何て言ったらいいんだろう……。偶然、じゃないですかね?」
「偶然……かな?」
「俺もわかりませんけど、似てるのならそうなのかなって思ったので。ごめんなさい、なんか不快な思いさせちゃいましたね」
せっかくのデート?なのに、何をしてるんだ俺は。白金先輩にこんな思いをさせるなんて情けない。これじゃあ先輩のことを知るなんてできないも同然じゃないか。
「ううん、そんなことないよ」
「え?」
「私は不快には……思ってないから、椎名君は気にしなくて……いいよ」
白金先輩は顔を赤くして言った。何で顔を赤くしてるんだ?俺は何か言っただろうか、不快には思ってないとなると何か変なことを言ってしまったのか、気になるな。
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私と椎名君は喫茶店から出た後、本屋に寄って互いに欲しい本を買い、服屋にも行った。私が衣装を作ってきることを言うと、椎名君は驚き、凄いですねと言われ、私は凄く嬉しかった。椎名君にここまで言ってもらえるなんて、どれほど嬉しいことだろう。
結局私は真っ白になってしまった計画は思い出せなかった。今回のデートは終わってしまったけれど、それでも椎名君のことを知ることができてよかった。
私は今日のことで一番嬉しいことがあった。さっきの喫茶店で椎名君からピアノのことを聞いた時のことだ。その話を聞いた時、私と椎名君はどこか似ている所があるんじゃないのかって思った。
それが、私にとってはとても嬉しいと感じた。どうしてかはわからない、でも゙似ている゙という言葉がどこか心地よいと、響きのいい言葉だと私は思った。
私と椎名君の距離が何となくだけど、少し縮まったような気がした。
デート回これにて終了です