図書委員の奏でる旋律と綴られし恋歌   作:ネム狼

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久しぶりの更新となります


初めて一緒に帰る二人、静かなる想いは変化する

 六月、季節はそろそろ夏になろうとしていた。けれど、夏の前に梅雨がある。梅雨なんて夏前の前哨戦みたいなものだ。

 

 俺は図書室で本を読みながら白金先輩が来るのを待っていた。昼飯を早めに済ませて図書室の受付をする、今回も白金先輩と二人で受付となっている。今回もというより毎回、まるで仕組まれているかのようだが、気のせいではなさそうだ。

 

 先月の先輩とのデート以来、俺と先輩の距離は縮まったような気がした。初めて会った時よりも笑顔が増えている。特に俺と二人きりの時になると笑っていることが多い。

 

「お待たせ……椎名君」

「こんにちは先輩。俺もさっき来たばかりでしたから大丈夫ですよ」

「よかった。また……遅れちゃったかなって……思ったよ」

 

 本当は先に来ちまったけど、ここは気を遣って白金先輩に合わせよう。後輩は先輩に気を遣わせない、これは重要だ。それにしても先輩、大丈夫だろうか。なんか汗を掻いてるように見えるけど、どうしたんだ?

 

「先輩大丈夫ですか?暑そうに見えますけど……」

「暑そうに見えるかな?もしかして……私が急いでたの……わかるの?」

「それはわかりませんけど、顔から少し汗が出てましたから暑そうにしてたのかと思っただけです」

 

 先輩が急いで来てたってなると焦ってたのかもしれない。これからは迎えに来た方がいいのか?いや、そんなことしたら噂になるし先輩のファンに追っかけられるからやめておくか。

 

 俺と白金先輩は図書室の受付側の椅子に座り、受付の準備を始めた。誰かが来るまでの間は俺と先輩だけ、つまりは二人きりだ。何とも恥ずかしくなる雰囲気でもある。

 

 それはさておき、今日は誰が来るのか。まぁ誰でもいいんだけどな。そんなことを心の中で言っていると、白金先輩が話し掛けてきた。

 

 

▼▼▼▼

 

 

「ねぇ椎名君」

「どうしましたか先輩?」

「椎名君って……ピアノ弾くとき……どんな曲を弾いてるの?」

「そうですねぇ、アニソンとかサントラの曲とか、あとゲーソンや色んな曲を弾くことが多いですね。たまに弾きながら歌うことありますね」

 

 凄い、私は椎名君がここまで弾けることに驚いた。前にピアノを始めた理由を聞いたけど、色んな曲を弾いてるんだ。動画でも見たけど、椎名君は歌いながら弾いてる時がある。じゃあ最近は何を弾いてるんだろ……。

 

 私は気になった。椎名君がどんな曲を弾いているのか、どういう風に弾いてるのか、それを知りたくなった。この二ヶ月で椎名君のことを色々と知ることが出来た。けど、まだ足りない。椎名君といると安心する、そんな想いを堪能したいという気持ちが芽生えた。

 

「歌うこと……あるんだ。今度……聞かせてもらっても……いい?」

「投稿はしませんが、先輩の方に動画送りますよ」

「ありがとう。楽しみに……してるね」

 

 椎名君の歌声はどんな感じ何だろう。早く聞いてみたいな。私は彼がどんな想いでピアノを弾いているのか、どんな想いで歌っているのか、とても気になっていた。動画を見た時の椎名君は凄かった。あれだけ弾けるには相当の練習が必要だ。椎名君はどのくらい練習したんだろう。

 

 昼休みを終えて私と椎名君はそれぞれ教室に戻った。授業が終わり、放課後を迎える。玄関で靴を履き替えて門を出ようとした時、椎名君の姿が視界に入った。

 

 椎名君、一人なのかな?今日は一緒に帰ろうかな。ここは椎名君を驚かしてみよう。多分気づいてない筈だ。私は気づかれないように、音を消して近づいた。

 

「椎名君……」

「っ!?し、白金先輩ですか……。ビックリしましたよ」

「ごめんね。よかったら……一緒に帰らない?」

 

 よし、作戦通りにいった。私は一緒に帰らないか、と直球で言った。椎名君は無言のままで、頬から冷や汗が流れていた。冷や汗が見えるほどなんて、焦ってるのかもしれない。ちょっとやり過ぎたかもしれない。

 

「どうして俺と帰りたいんですか?」

「それはまぁ……椎名君と一緒に……帰りたいからかな。理由はないよ」

「な、ないって…」

「駄目……かな……?」

「わかりました!わかりましたから泣きそうにならないで下さい!」

 

 私は椎名君に微笑みながらありがとう、と言った。そして気づかれないようにガッツポーズをした。やった、これで一緒に帰れる。本当に理由はない、私が単純に帰りたいと思っただけなんだ。何を話そうかな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 どうしてだ、どうしてこうなった。まさか白金先輩から一緒に帰ろうって言われるなんて、何を話したらいいんだ。今も俺と先輩は無言のままだ。こういうことになるのなら話題を考えればよかった。

 

 白金先輩の方を見ると耳が赤くなっているのが見える。綺麗な黒髪で隠れているけれど、今は耳が見える程に先輩の髪は少し乱れていた。先輩、俺を誘うのに緊張したんだな。

 

「あの……先輩」

「何!?ど、どうしたの……椎名君」

「最近、暑くなりましたね」

「そう……だね……」

 

 俺がそう言うと、また静かになった。気まずいしこうなってくるとどうしたらいいかわからなくなる。こうなったら――

 

 

――あの話題でいくしかない!

 

 

「そういえば先輩、NFOの方は調子どうですか?」

「順調だよ。どうしたの椎名君……何かあった?」

「ここまで話題なかったじゃないですか?それで、何か話せることないかなと思って、話したのですが……」

 

 あの話題、それはNFOだ。オンラインゲームなら話せることは多い。俺と白金先輩はやっているし、あこちゃんや母さんと話す時ならこの話題は出せる。困った時は趣味を出すに限る。

 

 俺と白金先輩は家に着くまでNFOの話をした。クエストでの打ち合わせをしたり、途中から本のことで話し合ったりと話題は尽きなかった。よかった、これで互い沈黙を続けるというのは避けられた。

 

 話をしていたら白金先輩の家の前に着いた。先輩の家ってこんなにでかいんだな。お嬢様である可能性が高い。気になるけど、聞かない方がいいかな。

 

「それじゃあ……私はこれで……」

「もう着きましたか、早いですね」

「そうだね。椎名君、今日はありがとうね」

「こちらこそ。じゃあ先輩、またNFOで会いましょう」

 

 そう言って俺と白金先輩はそれぞれの帰路に足を進めた。さぁ、帰ったらやることがいっぱいだ。先輩と約束した弾きながら歌う、これもあるしNFOでのクエスト、これだけだけど俺からしたら忙しい事だ。特にピアノは失敗しないように気をつけないといけないな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私は部屋に入り、鞄を置いた。そういえばそろそろ期末試験だ。椎名君って試験勉強大丈夫かな?まだ先のことだから今はいいかな。その時になったら聞いてみよう。

 

 椎名君の声は少し高めだ。そうすると歌ってる時は低い声とかも出してるかもしれない。早く歌声を聞きたいな。友希那さんなら聞きたがるかもしれない。いや、あの人のことだからそうなることは間違いないか。

 

 でも意外だった。まさか歌いながら弾いてたなんて、知った時はビックリした。私は椎名君のことを知ることが出来たと思うと、口許をニヤリとさせた。まずい、こんなところ母さん達には見せられない。彼に知られたらどんなことを言われるのかわからない。

 

 私は未だにわからなかった。椎名君のことを知りたいということは自覚してるけど、知ることが出来たってなると満足してしまう。どうしてなのかな?私はその想いを知りたいと最近になって思うようになった。

 

 

 

 

 

 

 




作者の中でのNFOはFF14みたいな物をイメージしてます
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