梅雨が終わろうとしているのに、外は未だに雨だ。しかも大雨という、何とも運が悪い。俺は今日も図書室の受付をしている。しているのはいいが、隣で白金先輩が眠そうにしていた。この人徹夜したな。
「先輩大丈夫ですか?眠そうですけど……」
「大丈夫だよ。昨日NFOで……周回しすぎただけ……だから」
「さすがにやり過ぎですよ!素材を集めたい気持ちはわかりますが、休憩はしてください!」
「ごめんなさい。そうだよね……椎名君の言う通り……だよね」
廃人って体壊しそうな所あるから怖いな。俺も前に徹夜したけど、母さんにすげぇ怒られたことがある。先輩が倒れたら洒落にならない。倒れないように気をつけてもらわないと、俺の身が持たない。
今は昼休みで、人は誰も来ていない。終わりまででいいから寝かせてあげよう。先輩には休んでもらわないと駄目だ。
「先輩、今は誰も来てませんから休んでていいですよ。俺が見張ってますから」
「いいの?今は受付……してるし、椎名君にも……悪いよ」
「俺は大丈夫です。先輩には寝てもらった方がいいですし、今日は練習あるんじゃないんですか?練習があるなら休憩はした方がいいですよ」
「……わかった。椎名君に……そこまで言われたら……休むことにするよ。少し寝るから、時間になったら……起こしてね?」
俺は頷いてわかりましたと言い、先輩はおやすみ、と言って目を瞑って眠りに就いた。昼休みが終わるまで二十分、少しだけだけどおやすみなさい、白金先輩……。
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私は椎名君に言われて眠りに就いた。少しだけだけど、椎名君の声がする。本の頁を捲る音がする。椎名君、隣にいるんだ。
「先輩ぐっすり眠ってる。よっぽど疲れてたんだな。ホントお疲れ様だよ」
椎名君は私のことを心配してくれてるんだよね?何となく皮肉が籠ってるような気がする。少しショックだなぁ。今回は自業自得だから仕方ない。
あれ、よく考えると私の寝顔、椎名君に見られてるよね?大丈夫かな?何か言われないかな?怖いけど、凄く不安だよ。
「それにしても先輩の顔って綺麗だな。ここまで綺麗だと、隣にいる俺は場違いかもしれないな」
そんなことないよ!椎名君は隣にいても全然問題ないから!むしろ側にいてほしいくらいだよ!私は何を言ってるの!?こんなこと椎名君の前では言えないよ。
私は眠りに就きながらも冷や汗が流れているのを感じた。雨が降っているせいか寒気がする。だ、大丈夫かな?くしゃみ出そうで怖いんだけど……。
その時、何かが肩に掛かった。これは……毛布?何で図書室に毛布が……もしかして椎名君が掛けてくれたのかな?掛けてくれたのなら嬉しい。暖かいし、そんなことをされると心臓が高鳴ってしまう、私はいい後輩を持ったよ。
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先輩が寒そうにしている、俺はそれに気づき、何故か置いてあった毛布を先輩の肩に掛けることにした。何で毛布があったんだ?もしかして先生が置いていったのか?まぁいいか。
「先輩に風邪を引かれると心臓に悪いな」
俺はそう言いながら先輩の頭を撫でた。何かこうしてると先輩、妹みたいだな。気づかれたらつい撫でたくなった、バレたらそう言っておくか。
撫でていると、先輩の体が倒れ始めた。危ない!このままだと机に頭をぶつける。俺は咄嗟のことに焦りを感じ、左腕を伸ばして白金先輩の頭がぶつかるのを防いだ。よかった、間に合った。
てか待て、これって腕枕になってないか?付き合ってもないのに腕枕ってハードル高すぎないか?このまま見られたらまずい。特に氷川先輩に見られたら説教待ったなしだ。
俺は白金先輩の風紀を乱すために隣にいるんじゃない。誰かが手を出さないように見張っているんだ。変態から守るっていうのもある。下心なんて一切ない。
「しょうがない、暫くこうしているか。時間になるまでの辛抱だ、耐えるしかないな」
今の俺の体勢は机にうつ伏せの状態で左腕を伸ばしている。しかも腕には先輩の頭が乗っかっている。何なんだよこの体勢は!?どうしてこうなった!?
よく見ると、先輩の耳が地味に赤くなっているのが見える。もしかして起きてるのか?さっき倒れそうになった時に起きちまったのか?俺は気になって先輩を起こさない程度の声で呼ぶことにした。
「せ、先輩?白金先輩?」
「……すぅ」
「よかった、起きてないか」
起きてないのはいいけど、匂いを嗅がれたのは気のせいか?本当だとしたら先輩が変態認定されちまう。さすがに喜びはしないが、くすぐったいな。
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今何時かな?私はそろそろ起きていい頃だと思い、目を開けることにした。あれ?目の前が真っ暗?どうなってるの?私は顔を上げて目を少しずつ開けた。
「あ、ちょうど起きた。おはよう……ございます……」
「お、おはよう。あれ?椎名君、なんで……うつ伏せになってるの?」
「こ、これですか?これには言えない事情があって……」
言えない事情?何だろう?私は椎名君に近づいて問い詰めることにした。しかし、問い詰めた結果、とんでもないことを聞いてしまった。
私が倒れそうになった時に椎名君は左腕を伸ばして私が頭を机にぶつけそうになった所を守ってくれたのだ。私はそれを聞いた瞬間、顔が真っ赤になった。
「ごめんね!本当にごめんね!腕痺れてるよね?」
「このくらい大丈夫ですよ。先輩が怪我をしていないのと比べれば大したことないですよ」
「で、でも……。痛いでしょ?」
椎名君は平気そうな顔をして笑っていた。そんな笑顔を見せられたらどうしていいかわからないよ。椎名君ってたまに無理をする、私を守ってくれるのは嬉しいけど、無茶はしないでほしい。
私が落ち込んでいると、椎名君は私の頭に手を置いた。このタイミングでやる!?それは私にとって追い討ちでしかないよ!?
「そんな顔をしないで下さい。俺は平気ですし、先輩が疲れ取れたのなら全然大丈夫です」
「椎名君、無理だけはしないでよね?」
「わかってますよ。無理はしないようにってことは気をつけてますから」
じゃあ鍵返して来ますね、と椎名君は職員室へと向かっていった。改めて思ったけど、椎名君って生意気な後輩だなと思う。これは私にとっては凄く得をしたなと思う。
さっき私は寝ている時、どさくさ紛れに椎名君の腕を嗅いだ。こんなことをするなんて、私は変態だ。気になっている後輩の匂いを嗅ぐって、バレたら引かれるかもしれない。
そう思いながら私は教室へ戻る。今日の練習はいい感じになるかもしれない。椎名君のおかげだ。
こんなシチュエーションは現実にはありません