図書委員の奏でる旋律と綴られし恋歌   作:ネム狼

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名前で呼んでも反応しないと意味がない


名前の呼び合いと通話という名の密会

 早くも7月は中間に入った。期末は燐子先輩に教わることなく乗り越えられた。しかし、その時の燐子先輩は少し機嫌が悪かった。あの人がそうなるなんて珍しい。何があったんだ……。

 

「先輩、何かあったんですか?」

「……千景君……呼び方違うよ」

 

 え!?先輩って呼んだだけなのに!?俺は今もこの人を名前で呼ぶのに躊躇している。恥ずかしいだけだ。なのに先輩は普通に呼んでいる。絶対恥ずかしそうにしてるだろ、顔赤いし隠せてないし、不器用過ぎるだろ。

 

 燐子先輩口元緩んでる、あとニヤケてる!先輩、しっかりしてくれよ……。NFOであこちゃんとやってるときもニヤケてるのか?だとしたらさすがに引くぞ……。

 

「はぁ、燐子先輩」

「何……千景君」

「やっと反応した。燐子先輩、名前で呼ばれるの嬉しそうですね?」

「う、うん。千景君に名前で呼ばれるの……嬉しいからさ。本当だよ?」

 

 燐子先輩は微笑んで言った。ごめんなさい先輩、その笑顔は眩しすぎです。俺には勿体無いので、あこちゃんに向けてやって下さい。

 

 しかし、こうして名前で呼び合ってるとなんかくすぐったいな。何なんだこれは?知ったら戻れないような気がする。いやいや、知るのはまだ早い。俺は燐子先輩が何故機嫌悪そうにしているのか、聞くことにした。

 

 理由はレアアイテムがドロップしない、という。うんその気持ちは凄く分かる。脳死周回しててドロップしなかったら水の泡になる。それはゲーマーにとって避けられない道だ。俺は本を読みながら思った。これはあれだな、燐子先輩の周回に付き合うか。

 

「ねえ千景君……今度周回に付き合って……くれるかな?」

「いいですよ、俺も最近新しいジョブを使い始めましたのでちょうど良かったです。あこちゃんも誘いましょ」

「うん。ありがとう千景君!」

 

 

――だから眩しいっちゅーに。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 千景君とあこちゃんを誘い、私はレアアイテムドロップに向けて周回を始めた。千景君の始めたジョブはソードマスターだ。カウンターを得意としたりクリティカル率が高かったりというとても強い能力を持っている。けど、防御は低く、その代わり回避は高いという上級者向けのジョブだそうだ。

 

 千景君はこれまでアタッカー、タンク、ヒーラー、バッファ―等、数種類のジョブを使ってきた。全部スキルマしてるし、レベルもカンスト済み、私と同じ廃人の一人だ。気になる人が廃人というところに親しみを感じる。まるで仲間みたいだ。

 

「りんりーん、こっちはOKだよー」

「燐子先輩、俺もいつでも行けますよ」

 

 二人とも準備が出来た、私は今から脳死周回を始める。ドロップさえすれば勝ちだ。頑張ろう!

 

 周回すること2時間、ボスを倒し続け、ようやくレアアイテムが手に入った。疲れた、これでやっとあの装備が作れる。私は千景君とあこちゃんにお礼を言った。あこちゃんは眠そうだ。お疲れ様、二人とも。

 

 あこちゃんはもう寝るね、と落ちた。私と千景君も落ち、今は二人だけで通話をしている。この時間は私にとって千景君と話せる貴重な時間だ。

 

「お疲れ様です先輩、まさか五個も必要だったなんて知らなかったですよ」

「千景君もお疲れ様、ごめんね……数を言ってなくて」

「いえいえ、ジョブの試しとしてはよかったので気にしてませんよ」

 

 千景君、ソードマスター使うの初めてのようだけど上手かったなぁ。本当に初心者なの?っていうくらいに上手かった。やっぱり廃人は実力が違う。

 

 千景君が廃人なのは元からか。私はヘッドホンを直し、ふぅ、と息を吐いた。部屋が寒いかな。部屋は真っ暗だし、私はこの暗い所がちょうどいい。千景君と通話していると図書室のように隣で話している風に感じる。

 

「ねぇ千景君」

「何ですか?」

「千景君の……好きなタイプって……何?」

「え!?」

 

 私は無意識に聞いた。しまった!私は何を聞こうとしてるの!?いくら千景君のことを知りたいとはいえ、これを聞くのはまずいかもしれない。最近の私はおかしい、千景君を名前で呼ぶようになって、勉強会の時に意識し合って、気まずくなって……。

 

「先輩、燐子先輩」

「な、何?千景君……」

「好きなタイプを言いますね。えっと……落ち着いてて、本が好きで、話しやすくて、静かな人が好き……です」

 

 千景君は好きなタイプの女性を言った。ん?それって……私のことなんじゃ?あ、あれ?おかしい、気のせいかな?聞き間違いだよね?

 

 私は千景君に聞こうとした。けど、千景君から返事はなかった。これは聞かないといけない。もう少し話がしたい。

 

 

――というか、そのタイプの人ここにいるよ千景君!

 

 

▼▼▼▼

 

 

 はぁ、俺何言ったんだろ。今言ったタイプってよく考えたら燐子先輩だよな?に、逃げるか?それとも質問に答えるか。何か聞かれそうだよな……。

 

「千景君……そのタイプの人って……どういう人?」

「それは言えません」

「言えないの?」

「はい。こればっかりは答えられないです。すみません燐子先輩」

 

 そうだ、これは知られたくない。知られたら戻れなくなるかもしれない。俺と燐子先輩の関係が変わってしまうのでは、と頭を過った。ごめんなさい燐子先輩、知られる訳にはいかないんだ。

 

 その後、燐子先輩との通話は終わった。短いようで長いような時間だった。明日から気まずくなりそうだな。多分、聞かれることはないだろう。燐子先輩にはちゃんと謝らないとな。

 

 髪止めゴムを外し、髪を下ろす。寝よう、この想いを鎮めたい。そうだ、俺は燐子先輩の後輩だ。だから、明日から普通に過ごそう。

 

 次の日、俺と燐子先輩は図書室で会った。ああ気まずい、だが話はしよう。せめて話はした方がいい。俺から切り出すことにした。まずは昨日のことを謝ろう。

 

「えっと燐子先輩、昨日はすみませんでした」

「私の方こそ……ごめんね。ちょっとまずい……かなって思って……」

「いいえ、先輩は悪くないです。悪いのは言わなかった俺ですから」

 

 そうだ、悪いのは俺だ。先輩は悪くない。けど、言う訳にはいかないんだ。今じゃないんだ、ここで言ってはいけない。だから先輩、もう少し待っててくれ。

 

 俺と燐子先輩は図書委員の活動をしつつ話をした。練習のこと、本のこと、NFOのこと、色々な話をした。大した会話じゃない。けど、俺にとっては大切な時間なんだ。俺と燐子先輩を結ぶ線でもあるんだから。

 

「それにしても燐子先輩、俺のこと名前で呼ぶの恥ずかしくないんですか?」

「もう慣れちゃったかな。千景君はどうなの?」

「俺は少しだけです。先輩を名前で呼ぶのってどうも恥ずかしくて……」

「少しずつで……いいよ。私が無理に……頼んじゃったからね。何かごめんね」

 

 いやいや謝る必要ないですよ、俺は燐子先輩にそう言った。俺も名前で呼べるようにしよう。頑張らなきゃだな。

 

 

 




話せる時は少しずつ迫っていく
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