期待せずに
電車に揺られ、本を読みながら目的地の駅へと向かう。それも燐子先輩とあこちゃんの二人と一緒にという。男俺一人なんだけど、大丈夫なんですかねぇ……。
水着は買って来たからまぁいい。念のため上着も持ってきておいた。この上着が何かに役立つのでは、と思ったのは気のせいだ。俺は隣に座っている二人を覗いた。とても楽しみにしている。そう、今回は配布アイテムが目的なんだ。
「りんりーん、海楽しみだね!」
「そうだね……あこちゃん」
これは黙っていた方がいいのか?正直言うと二人と話がしたいが、そうなるとNFOの話題くらいしかない。せめて他の話題があればいいのだが、こういうことなら、色んなことを話せるようにすればよかったな。
さて、いつまでこの状態を続けるか。駅に着くまで?それとも燐子先輩話し掛けられるまでか。話し掛けられたら中断するか。そんなことを思っていると、隣に座っている燐子先輩話し掛けられた。
「千景君、何の本読んでるの?」
「こ、これですか!?天体観測の本を読んでいます!」
「天体観測?チカ兄珍しいね」
嘘だ。俺が読んでいる本は恋愛小説だ。それも先輩後輩の本だ。誤魔化そうと天体観測なんて適当に言っちまった。大丈夫だろうか……。
しかし、今読んでる本、ポジション考えると俺と燐子先輩みたいだな。って何を考えてんだ俺は!こんなこと考えたら余計気まずくなるじゃねえか!考えちゃいけない!とりあえず、読むのここまでにするか。
俺は本を閉じて栞を挟み、鞄に仕舞った。一旦話すか。そうだ、そうしよう。せっかく海に来たんだから、ここで本を読むっていうのは場違いだよな。何を話そうか……。
――もういいや、アレにするか。
「今回の配布アイテム何ですが、どういった使い方にします?」
俺は配布アイテムの組み合わせや使い方等について話し合った。結局、ゲームの話になるのか。まぁ廃人同士なんだ、仕方ないか。
▼▼▼▼
出発から30分、目的地の駅に到着した。電車の中は涼しかったけど、外は暑い。夏だから暑いのは当たり前だよね。配布アイテムを取って、遊んで、家に帰りたいよ。でも、今日はあこちゃんと千景君がいるんだ。それに……。
「千景君のこと……もっと知りたいから。この時間が……大事だから……」
私は千景君に聞こえないように小言で言った。聞こえてないよね?千景君、隣にいるけど聞こえてないよね?あこちゃんには聞こえてるかもしれない。あこちゃんはたまに爆弾投下することがある。そこが怖い。
千景君をチラチラと見ていると、彼が私に話し掛けてきた。もしかしてバレたのかな!?千景君、気づいてないよね?大丈夫かな?どうか……どうかバレませんように!
「どうしたの……千景君……?」
「燐子先輩、俺のことチラチラ見てません?」
「み、見てないよ!」
「ホントにそうですか?視線を感じるのは気のせいか……」
千景君は顎に手を置きながら言った。よかった、バレてないみたい。視線を感じるって言ってたけど、その視線は私だ。どうしよう、このまま千景君のこと見てようかな?いや、やめておこう。見てたらバレるし、千景君に何を言われるかわからないから、ここでやめようかな。
「りんりん、どんな水着にしたの?」
「水着!?そ、それは……着いてからの……お楽しみだよ」
水着はお楽しみって言っちゃったけど、正直不安しかない。千景君、どんな反応するかな?私は千景君の反応が楽しみだ。あこちゃんはどんな水着にしたんだろ。まずは着いてからだね。
▼▼▼▼
陽射しを浴びながら、俺達は海に到着した。暑い、その一言に尽きるな。着替えたら海の家の前で合流するということを言い、俺達は更衣室へと向かった。
着替え終わり、俺は海の家で燐子先輩とあこちゃんを待った。それにしても暑いな。久しぶりに水着に着替えたが、大丈夫だろうか。黒のスイムショーツと黒のラッシュガード、黒一色の水着になったが、何も言われないよな?
「あんまり見せたくないんだがなぁ……」
「何を見せたくないの?」
「何をって……あこちゃん!?いつから其処にいた!?」
「今来たところだよ!」
今来たのか。考え事をしていたせいか気づかなかったな。さてと、あとは燐子先輩か。あこちゃんの水着はセパレートのビキニか。随分攻めてるが、似合ってるから問題ないか。しかし、こうして見るとやっぱりロリだな。
「そ、そうか」
「あ、そうだ。ねえチカ兄、あこの水着どうかな?似合ってる?」
「さすが魔王様、お似合いですよ」
「そうだろうそうだろう!我の纏う神器に相応しかろう!」
要は嬉しいってことだよな。あこちゃんの呪文的なことはあまり分からないな。こういう時こそ燐子先輩が必要だよな。あとは燐子先輩だが、どんな水着なんだ?
あまり想像はしない方がいい。想像したら俺の身が持たない。燐子先輩はああ見えてスタイルがいい。男子達も卑しい視線で燐子先輩のことを見ていた。言っておくが、俺はあの人のことはそんな目で見ていない。
ラッシュガード付きの水着は念のために買ったんだ。何かあった時のため、それもあこちゃんや燐子先輩のためだ。あこちゃんはまだしも、燐子先輩は特に危ない。いろんな意味で!
「お、お待たせ……二人共……」
「大丈夫だよりんりん!そんなに待ってないから!」
「あこちゃんに同じくですよ、燐子……先……輩……」
燐子先輩が来たのはまだいい。だが、待て。攻めすぎじゃないのか?黒ワンピースの水着って、似合ってるからいいが、大丈夫なのか!?
白のガウンを羽織っているから胸元はガード出来てる。そう、燐子先輩は脱ぐと凄いんだ。俺は必死に目を逸らした。逸らしつつ、ラッシュガードを脱ぎ、彼女の肩に掛けた。
「千景……君……?」
「燐子先輩、絶対に離れないで下さいね!」
「へ!?う、うん」
「これはりんりんわかってなさそうだなぁ。やっぱり脱ぐと凄いは本当なんだねぇ」
ちょ、あこちゃん!それ言ったら気づくじゃん!意識しないようにしてたのに、余計意識しちまう。意識していると、顔が熱くなってきた。もう、燐子先輩の前で何してんだ俺は!
▼▼▼▼
やっぱり攻めすぎたかな?私はこれでも隠してるつもりだ。けど、周りの視線を感じる。そう思っていると、千景君がラッシュガードを脱いで私の肩に掛けてくれた。もしかして、隠してくれてるの?
「千景君、腹筋凄いんだね」
「い、言わないで下さいよ!俺、褒められるのの苦手なんですから」
「そうなんだ。ねえ、水着……どうかな?」
「……似合ってます」
千景君は褒められるのが苦手なんだ。前髪のことを褒めた時は大丈夫だったのに、腹筋のことは苦手、何か部位によって反応が違うのっていいかも。あと、似合ってるって言ってくれたけど、まだ足りないよ。
私は千景君にもう一声いいかな、と言った。似合ってるだけじゃ足りない。普段の私ならそれだけで充分なのに、今回はそれだけじゃ足りないと思っている。理由はわからないけど……。
「もう一声、いい?」
「もう一声!?何をですか!?」
「何をって……似合ってるだけじゃなくて、もう一つないかなって」
「もう一つですか?じゃ、じゃあこれでいいですか?」
私は千景君の目を見ながら待った。恥ずかしいけれど、もうちょっとだけ、もうちょっとだけ褒めてほしい。これでも私は今回のために頑張ったんだ。水着は何にしようかだけだけど、それでも私は彼に褒めてもらいたい。
「か、可愛いです」
「っ!?あ、ありがとう。千景君」
千景君は恥ずかしがりながら言った。彼のことを見ていると、よく頑張ったねって言いたくなる。あんまりやり過ぎると、千景君が照れ死しそうだ。私も人のこと言えないな。
可愛いって言われた私も恥ずかしい。千景君に可愛いって言われるのは全くなかったから、言われた時はは凄く嬉しかった。何だか、今日は頑張れそうだ。配布コードを貰って、海も楽しむ。
――今の私なら何でも出来そうだ。もう、何も怖くない!
こうして彼女は無意識にフラグを建てる