夏休みの終わる一週間前、俺はとんでもないミスをした。そのミスとは、俺にとって最悪の物であり、あの人に凄く申し訳ない物でもある。
「夏祭りに誘えなかったなんて、最悪だ。燐子先輩に何て言うか……」
そう、俺は夏祭りに誘えなかっんだ。燐子先輩と夏祭りに行く、凄く大事なことなのに、燐子先輩を誘えなかった。
俺は大丈夫だ、また来年誘えばいいんだ。そう自分に言い聞かせながら扇風機の前に座った。涼しい……そんなことを言ってる場合じゃないな。
「どうするか……ん?電話?誰だ……燐子先輩!?」
待て待てまじか!?タイミング悪すぎだろ!でも、ここで出ないっていう訳にはいかないし……。とりあえず電話に出て話をするか。
――もう、どうにでもなれ!
「……もしもし、どうしました燐子先輩」
「千景君、話があるんだけど……いいかな?」
「は、話ですか?」
何なんだ話って。俺の心は押し潰されそうになった。俺は燐子先輩の話を聞くことにした。頼む、夏祭りに誘えなかったことは言わないでくれよ。もし言われたら終わりだ。
話の内容は……案の定、祭りの誘いだった。それも夏祭りではなく、花火大会だ。どうしてこんなタイミングでその話をするんだ、先輩……。俺は燐子先輩の話を聞くのが怖くなった。いや、ここで怖れてどうする?そうなったら、燐子先輩に顔向け出来ないだろ。
「花火大会ですか。どうしてまた……」
「あこちゃんを誘おうって……思ったんだけど……今年は巴さんと一緒に行くって言って……それで千景君を誘おうかなって。あ、巴さんはあこちゃんのお姉さんだからね」
「俺をですか、どうして俺を誘うんですか?」
ちょっと待て、何でそんなことを聞いた?俺は何を聞こうとしている?それを聞くってことは……燐子先輩の誘いを断ろうとしているのと同じなんじゃないのか!?
「どうしてって……千景君と行きたいからだよ」
「俺と行きたいって、理由になってないですよ」
「理由なんて要らないよ。私は……千景君と行きたいから……誘ったの。だから……千景君が行くって言うまで……私は何度でも言うよ!」
燐子先輩が必死になりながら言った。その言葉は俺の心に痛い程伝わった。そんなことを言われたら、聞いた俺が馬鹿みたいじゃねえかよ。そんなことを言われたら、一緒に行くしかないじゃねえか。
涙が出そうになった。俺は燐子先輩にバレないように分かりました、行きます、と彼女に言った。ごめんなさい、先輩。貴女にあんなことを聞いて、こんな俺を誘ってくれて、ありがとうございます。
「ありがとう千景君……待ってるからね」
燐子先輩にそう言われ、俺は先輩との通話を終えた。その花火大会は明日やるとのことだった。スマホを机に置き、ベッドに背もたれた。涙を堪えていたが、限界だ。
「燐子先輩、本当に……ごめんなさい」
誘えなかった罪悪感、誘ってくれた感謝、どうして俺なのか、どうして誘ったのかという疑問、俺じゃなきゃ嫌だ。ズルいだろ、あんなの。ズルいだろ、あの言葉。
今は泣こう。いっぱい泣いて、明日の花火大会を先輩と楽しもう。俺は泣いた。今までの人生で一番泣いたかもしれない。あんなことを言われたんだ。そうなったら、泣くしかない。
▼▼▼▼
千景君との通話を終え、私は机にうつ伏せになった。千景君、何か泣いてたような気がする。気のせいかな?話をしてた時も暗かったし、気まずそうにしてたし、大丈夫かな?
「大丈夫だよね。千景君……来てくれるよね」
私は心配になった。千景君はさっきどうして誘ったのかを聞いた。もしかして、来ないってことなのかな?もしそうだったら、私はどうしたらいいの?
きっと千景君は来てくれる、私は彼を信じる。千景君は分かりました、行きますって言った。あの言葉を聞いて私は嬉しくなった。勇気を出して誘えたんだ。だから、明日は私が千景君をリードしないといけない。
そう思っていると、机から振動音が鳴った。電話かもしれない。画面を見ると、あこちゃんからだった。
「あこちゃん、どうしたの?」
「りんりん、チカ兄誘えた?」
「うん……誘えたよ」
「よかったー!あ、そうだ。友希那さんとリサ姉と紗夜さんからメール来てない?」
メール?私はあこちゃんに一旦切るねと言い、メールが来ているか確認した。あ、来てる。3件、友希那さんと今井さんと氷川さんだ。メールの内容は、頑張ってねだったり、応援してるよだったり、結果を楽しみにしてます、という内容だった。
これって私のことだよね?何だろ、嫌な予感がするんだけど……。私はあこちゃんに電話を掛け、メールのことを聞いた。
「あこちゃん、これって……」
「そのメールはね、りんりんとチカ兄のことだよ」
「やっぱり……」
「とりあえずあこからも言うね。りんりん、チカ兄とくっついてね!」
「あこちゃん、直球過ぎない!?」
じゃあ頑張ってねー、とあこちゃんは電話を切った。待って!?私まだ分かってないんだよ!?千景君は私の大切な後輩だけど……というかバレてるよね!?
私はまだ分かっていない。バレてるというよりも、逃げてるのかもしれない。千景君のことをどう見たらいいのか分からなくなって来ている。この4ヵ月間で彼のことを色々と知ることが出来た。
気になる、というのが最初だった。けど、途中から彼のことを目で追っていた。どう見たらいいのか分からなくなって、私はこの現実から逃げているのだ。
「ここまで来たら戻れないよね。千景君に何て言ったらいいんだろ」
けど言えない。彼との関係が崩れるかもしれない。私はそれが一番怖い。崩れることを怖れるのなら、言わなきゃいい。勇気が無いのなら後にしてしまえばいい。
でも、それじゃ駄目だよね。私はそう思いながら迷った。明日を待つ、今の私には待つことしか来なかった。
想いに気づく日は近い